幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第四十九話

「しかし、意外だったっスね」

「なぁにが?」

「あんたが来たことっスよ」

「あぁ、そんなこと」

 

 自称魔王クラスのモンスターの前でも、妖精姫と隠れ潜む百花の様子は変わらない。まるでいつものように、ではなく、いつも通りなのだ。

 そんなある意味呑気な会話をしていた二体だが、隠れ潜む百花が妖精姫の質問に答えるように視線を謎の影へと向けた瞬間、空気が変わった気がした。

 

「リベルトの国に余計なもん湧いたみたいだから、潰そうと思って」

「面倒じゃないんスか?」

「ん~? めんどぉよぉ? でも、放置する方が、めんどぉ」

 

 空気が霧散し、そしてまた違う雰囲気が生まれる。妖精姫は呆れたように肩を竦め、はいはいそうっスか、などと言いながら同じように影に視線を向ける。

 

「まあ、あれを潰すっていう意見には同意するっスけど」

「でしょぉ?」

「あちきはもっと単純っスよ。こんなのが出て来る依頼を受けさせちゃった申し訳なさもそうスけど、何より」

 

 普段の妖精姫の、なんというかマスコットのような雰囲気は微塵も感じられない。眼の前の敵を押し潰さんとしたプレッシャーが、端から見ている俺にも伝わってくる。それはあの二体が来た時点でこちらに撤退したアリアやシトリー、クーヤも同じようで、いつもと違う彼女の様子に息を呑んでいた。

 

「あちきの仲間を傷付けたのが、許せねぇっス」

「たぁんじゅん。まぁ、でも、うちも少ぉし分かるわぁ」

 

 妖精姫よりは付き合いが浅いが、それでもまあ。そんなことを言いながら、隠れ潜む百花もその眠たげな目を影に向けるとぺろりと舌で唇を濡らした。

 ドンドンと強くなるプレッシャーを受け、先に動いたのは影の方だった。スケルトンを先程よりも大量に生み出して、まるで川の流れのごとく相手を押し潰さんと襲い掛からせる。

 が、その程度で倒されるならば属性頂点なんぞやってはいない。とばかりに、妖精姫も隠れ潜む百花も片手間でスケルトンの波を吹き飛ばした。気付くと妖精姫は両手に光の円盤を、隠れ潜む百花は背中からカマキリの鎌を出現させている。出現タイミングが全く分からなかったのは、今の俺が動けないからではない。多分万全の状態でも分からなかった。

 まあつまり、あの時の二体が戦っていた時も本気ではなかったというのが改めて理解できた。と、同時に、今この場で真面目に戦う属性頂点が見られるのかもしれないという期待が湧き上がった。

 相手は推定自称魔王。属性頂点が出張る相手なのかは分からないが、少なくとも上級冒険者の上澄み、英雄や勇者の相手であることは間違いない。

 

「は~あ」

「ちっ」

 

 そう思っていたのだが、スケルトンの波をふっ飛ばした隠れ潜む百花と妖精姫は先程とは違いどこかダルそうに頭を掻いていた。妖精姫に至っては舌打ちまでする始末。

 

「どーかしたんですか?」

 

 その態度が気になったのだろう。スロウが二体に声を掛けると、二体とも眼の前の影からあっさりと視線を外し、そしてげんなりしたように溜息を吐いた。

 

「今のであちきらを倒せると思って攻撃してきたんなら、拍子抜けもいいとこっスよ」

「自称魔王クラスだぁとしても、下の下やわぁ」

 

 この程度なら勇者や英雄なら何の被害もなく倒せるレベル。そんなことを述べながら、ちょっとでも本気で戦おうとした自分達が馬鹿だったと言わんばかりに肩の力を抜いている。それでも隠れ潜む百花が面倒だから帰るとか言い出さない程度には厄介な相手ではあるのだろうけれど。

 その態度を見たからなのか、影の雰囲気が明らかに変わった。ならば、と再度スケルトンを生み出し、そしてそれらが一纏めに組み上がっていく。

 

「へえ」

 

 そうして生まれた巨大な骨の怪物に、妖精姫が感心したような声を上げた。対する俺達は、明らかに上級モンスタークラスのアンデッドを見て冷や汗を垂らしている。あの影がこんな芸当も出来たとしたら、自分達が逃げる術はほぼなかったと見ていい。

 まあつまり詰んでいた。妖精姫と隠れ潜む百花が来てくれなかったら、俺も、スロウも、アリアも、シトリーも、クーヤも。

 

「うちらが来てるんだぁから、そぉいうのはめんどぉなだけよぉ」

 

 俺の考えを読んだらしい、隠れ潜む百花がこちらを見て笑っていた。起きなかったことを考えていても面倒なだけだ。言うのは簡単だが、それを実践出来るようなのは眼の前の木属性頂点くらいだろう。多分妖精姫も考えるぞ、もしものパターンとか。

 

「まあ心配いらないっスよ。これからエミルさんたちはこの程度なら倒せるように成長するんスから」

「……本当かよ」

 

 妖精姫が笑う。そんな彼女の笑みを見て思わず呟いた言葉に、勿論と返された。自信満々だったので、まあつまり正しいのだろう。

 だけれども、いけるのか? 俺達が、そのうち、こいつを?

 

「さっきは下の下、みたいな扱いしたっスけど、一応曲がりなりにもこの影は自称魔王級のモンスターっス。中級冒険者ならそもそも一撃当てることすら無理っスよ」

「ついでぇに言うと、あれに繋がる道を作るぅのも無理やねぇ」

 

 だから、安心していい、と妖精姫と隠れ潜む百花が笑う。何を安心していいのか分からないが、とりあえず戦力だけならばある程度自信を持っていい、という意味なのだろう。

 それ以外の部分、経験不足はどうにもならないが。今回だって少し片付けるだけで撤退していれば、アンデッドは間違いなく湧かなかったし、この自称魔王の影がここに来ることもなかったかもしれない。

 

「こいつが来なかったかはちょっと分かんないっスけどね。多分スノーラビットの大量発生もこいつの影響っスから」

「こっそりと色々やってたみたいやわぁ。めんどぉなのに」

 

 フォローされたのか、二体にそう言われた。まあ、そういう意味ならば遭遇したのが俺達で良かった、とも言える。恐らく俺達でなくとも理由的にこの二体は駆けつけただろうが、それまでに多少なりとも対抗出来たかどうかは未知数だからだ。

 そんな自惚れが頭をよぎり、いかんいかんと頭を振った。どっちみち対抗出来たなんて言えるほどの何かが出来たわけでもなし。少し認められた程度でそんな風に考えていては、次は間違いなく屍を晒す。

 それが俺ならいい方で、もし。

 

「エミル?」

「……どうした?」

「何か良からぬことを考えてたみたいだったから」

「別に、そんなことは」

「わたしは、エミルが死んじゃったら後追いますからね」

「追うな。蘇らせろ。《リザレクション》持ってんだろ」

「それくらいの覚悟を持って死んでくださいってことです」

「いや死なねぇよ!? 死なないために、もっと成長しないとなって思ってたんだよ」

「ならいいです」

「お前こそ。というかお前が一番死んだら駄目なんだぞ、分かってんのか?」

「分かってますよ。わたし、エミルのこと大好きですからね」

「理由が意味分からん」

「大好きな人を悲しませたくないってことです」

 

 そう言ってふふん、と胸を張るスロウの膝枕の上で、俺は再度意味分からんと零した。

 

 

 

 

 

 

 ともあれ。呑気に喋っていたが今は絶賛戦闘中。スケルトンが合体した巨大骸骨がこちらを押し潰さんと巨大な骨の剣を振り上げているところだ。

 が、妖精姫も隠れ潜む百花もそれについて焦る様子は見当たらない。とりあえず攻撃範囲から逃げるくらいはした方がいいんじゃないかとは思うのだけれど。

 

「エミルさんが動けないっスからね。回避は選択する理由がないっス」

「避けるのめんどぉやし」

 

 そう言って妖精姫は光の盾で骨の剣を受け止めた。正確には、ひょい、と投げた光の円盤が空中で巨大な骨の剣を弾き返した、と言うべきか。まあ隠れ潜む百花のカマキリの鎌を弾いたんだし、そのくらい出来て当然といえば当然か。

 そんなことを思っている眼の前で、今度は隠れ潜む百花のカマキリの鎌が弾かれた剣を砕いた。一撃で粉々になったことで、巨大骸骨の体勢がぐらりと崩れる。

 返す刀で二撃目。脳天にカマキリの鎌を叩き込まれた巨大骸骨は、そのまま真っ二つになった後砕け散った。そんな光景を思わずぽかんとした表情で見ていたが、あれが本体ではないことを思い出して視線を向こう側に向けた。

 が、影の方も一撃でどうにかされるとは思っていなかったのか、一瞬動きが止まっていた。即座に再度巨大骸骨を組み直したが、今度は妖精姫の円盤に撃ち抜かれて蜂の巣になる。

 

「馬鹿の一つ覚えっスか?」

「他にやることないんかねぇ」

 

 物量作戦の骸骨の波は無意味。ならばと組み上げた巨大骸骨は一撃。そのどちらも普通の冒険者にはどうにもならないほどの攻撃であったが、相手が悪過ぎたのだろう。自称魔王級モンスターとはいえ、属性頂点二体を相手取るほどの力は無い。

 それほどの存在なのだ。俺達が気軽に出会っていた、あの連中は。本来は、こういうものなのだ。

 

「何で、俺達属性頂点とこんなに関わってるんだろうな」

「何ででしょうね」

 

 思わずこぼれた疑問に、スロウも首を傾げてそう返す。アリアやシトリーはこっちが知りたいと言わんばかりだ。

 

「まあ、でも。あんたがそういう何かを持ってるんじゃないかとは思うわね。あたし達を仲間にしてるところとか」

「それはワタシも……同意見だよぉ……」

 

 失礼な。それじゃあ俺がまるで変なモンスターを引き寄せてるみたいじゃないか。属性頂点を変と称するのはまあ違うような気がしないでもないが、実際変なモンスター連中なんだからしょうがない。

 じゃあセフィとかはどうなんだ、と聞くと、あの人も大概変人だからという返答が来た。おい言われてるぞセフィーリア公爵令嬢。

 

「まあ実際、エミルさんは持ってると思うっスよ。月の大聖女の言ってた『非の打ち所のない悪徳』の中に、多分混じってるっスね」

「そうねぇ。うちもそれはなんとなぁく感じとるよぉ」

 

 それならば、と巨大骸骨を複数生み出した相手のそれを世間話でもするような気安さで粉々にしながら、妖精姫と隠れ潜む百花はこちらに向き直りそう述べた。おい、とどめを刺すのはやめていただけないでしょうか。

 そんな俺のツッコミというか懇願というかを流した二体は、いい加減飽きたとばかりに影を見た。それしか能が無いのならば、と二体は迎撃していた位置から一歩前に出た。

 

「そろそろ、ケリ付けるっスよ」

 

 妖精姫が間合いを詰める。それを見た影が掛かったとばかりにマントの中から影の手を伸ばし貫かんとするが、そのどれもが宙に浮いている光の円盤によって弾かれた。

 

「それが奥の手っスか? じゃあもういいっスよね」

 

 あの影の手は俺の腹に一撃で穴を開けたそれよりももっと強力なやつだった。端から見ている俺でも分かる。が、妖精姫は何も気にすることなく全て防ぎきった。あの様子だと本気を出して防いだという感じでもないだろう。

 ふん、と鼻を鳴らした妖精姫は、そのまま光の盾を生み出した右手で殴り付ける。盛大に吹っ飛んだ影が二・三度バウンドし、しかし体勢を整えんとしたその頃には。

 既に、隠れ潜む百花が眼の前にいた。

 

「いつもはめんどぉなんだけど」

 

 影が先程と同じようにマントから影の手を伸ばして眼の前の隠れ潜む百花を貫こうとするが、あろうことか彼女はそれを素手で掴み、そしてそのまま引き千切った。影が声にならない悲鳴を上げるが、隠れ潜む百花は気にせず別の腕も掴み、もぎ取る。握りつぶして塵になっていくそれを一瞥することもなく、隠れ潜む百花は後ろを見た。

 妖精姫はそんな彼女の視線を受けて、どうぞどうぞと手をヒラヒラさせる。もう既に奥の手を防いだことで理解したらしく、二体で戦う必要もないと判断したようだ。

 

「お前みたいなのがぁいると、リベルトが迷惑するんやわぁ」

 

 だから、と隠れ潜む百花はカマキリの鎌を振り上げた。ギシリ、とそれを見た影が即座に離脱しこの場から逃げようとしたが、遅い。

 逃げるのならば、間違いなくこの二体が現れた時点でするべきだったのだ。

 

「死ね」

 

 斬、とカマキリの鎌によって切り裂かれた影は、そのまま地面に倒れ伏した。ザラザラと塵になっていくそれを見て、残ったマントとフードを妖精姫がひょいと掴む。

 

「これを討伐の証としてもってくっスかね」

「そぉいうのはめんどぉだから、任せるわぁ」

 

 ふぁあ、とあくびをする隠れ潜む百花を見ながら苦笑した妖精姫は、お疲れ様っスとこちらに向き直った。いやむしろそれは俺達が言うセリフでは?

 

「別にこっちは大して疲れてないから大丈夫っスよ。さ、エミルさん、まだ動けないっスか?」

「……そうだな、ま」

「エミルはわたしが運びます」

 

 ぐねり、と芋虫に戻ったスロウがそのままノシノシと動き出す。膝枕されている状態から芋虫に戻ったので、俺はそのままスロウに乗っかっている。

 そんなスロウを見た妖精姫は、楽しそうに笑うと、じゃあよろしくお願いするっスとスロウに述べた。

 

「任せてください。エミルを乗せるのには慣れてますから」

 

 ふんす、と自慢気にそう述べたスロウは、そういうわけなので素直に乗せられてくださいと俺に告げた。いやまあ、ここまでされて無理をする必要もないからお言葉に甘えるけれども。

 

「……」

「どーしたんですか?」

「いや、別に」

 

 何だか妙に気恥ずかしい。今まではそんなこと無かったのに。そんなことを考えて、ああこれはそういうことだ、と理解した。

 スロウをちゃんと守れなかったから。なのにスロウに甘えている自分が情けないんだ。

 

「なわけあるか」

 

 アリアに引っ叩かれた。何でだよ、今の俺滅茶苦茶情けないぞ。

 

「何でよ。あんたはちゃんとあたし達を守ったでしょ。だからそんな落ち込むこともないし、気恥ずかしいのはきっと」

 

 そこまで言って表情を苦いものに変えたアリアは、シトリー言ってやって、とバトンを急に投げ渡していた。

 

「ワタシぃ……!? え、と、エミルくんは……スロウちゃんが好きだからだよぉ……」

「……いや、そんなのは今更だろ」

「鈍感。最悪」

「いきなりなんだよクーヤ」

 

 様子をうかがっていたクーヤがジト目で俺にそんなことを述べる。そんなこと言われたって、実際今更なんだから仕方ないだろう。スロウとは幼馴染で、ずっと一緒にいて、好きか嫌いかで言えば間違いなく。

 

「……だから、今更だろ」

 

 そっぽを向いた俺は、アリアやシトリーやクーヤが呆れたように溜息を吐くのが聞こえたが、表情がどんなものかは分からなかった。

 

「めんどぉな連中やわぁ」

「そういうあんたはどうなんスか。今回だってリベルト皇子のために来たんスよね」

「……ひぃみつ」

 

 

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