幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第五十一話

 短期講座三日目。シトリーも段々慣れてきたのかイッパイイッパイにはならなくなってきたその辺り。昼食を終えた俺達は昼休みに中庭でも散歩するかと足を向けた。せっかく学院に来ているのだから、そういう散策もついでにしたい、というわけである。

 制服を着ているので短期講座の生徒でも何か言われることもなく、年齢的にも通常の学院の生徒に近しい俺達は中庭を散歩しても絡まれることはない。まあ学院の生徒は皆貴族、みたいな場所でもないから当然と言えば当然なんだけど。

 

「でも、ある程度貴族の人達には気を使え、みたいな不文律はありそうね」

「まあそこら辺はな、しょうがないんじゃないのか?」

「めんどーですね」

 

 スロウの言葉にシトリーもウンウンと頷いている。まあそれについては俺も同意見だが、口にするのはどうかと思うぞ。俺達だってある意味貴族の恩恵を受けているからこそここにいるわけだし。

 

「むー。成程、言われてみれば」

 

 俺のその言葉に頷いたスロウは、じゃあちょっと気を付けますと意見を変えた。そうしろそうしろ、と言葉を返した俺だったが、しかし次の瞬間のこいつの行動で思わず動きを止めてしまう。

 

「あ、セフィちゃん先輩とアンゼリカさん」

「お前気を付けるって言ったばっかじゃねぇか」

 

 おーい、と手を振りながら王国の双翼である公爵令嬢に話しに行く馬鹿。

 いやまあ仕方ないと思うよ? セフィも公爵令嬢としての比率を上げてからは積極的に学院に通っているらしいから、だからこその短期講座の提案だったと思うし。アンゼリカ嬢なんかは言わずもがなだ。だからいるのは、見かけるのは仕方ない。

 でもな。躊躇うことなく突っ込んでいくのは違うだろ。いや向こうもスロウを見付けて手を振り返しているからもうしょうがないんだけど。

 

「ふふっ、こういう場所で出会うと何だか不思議な感じがしますね」

「そーですか? わたしはどこで会ってもセフィちゃん先輩がいると嬉しいですよ」

「私もスロウさんと出会うのはいつも嬉しいですわ」

 

 そしていつも通りに会話をし始めるセフィとスロウ。いいのか? 学院でセフィちゃん先輩呼びは大丈夫なのか? いやまあ先輩って付けているからいいのか?

 

「落ち着きなさい。別にセフィーリア様が気にしてなければ周りは何も言わないわよ」

「それも、そうか」

 

 公爵令嬢がそれを許している以上、周りが口を挟むのは野暮というものだ。はぁ、と溜息を吐くと、俺も同じように向こうへと足を踏み出した。アリアとシトリーも同様である。

 

「お久しぶりですわね、スロウさん」

「はい、お久しぶりですアンゼリカさん」

「ええ。そして、エミルさん達も」

 

 俺達がそこに追い付いたタイミングで、アンゼリカ嬢がスロウと挨拶を交わし、そして俺達を見る。まあ元々巻き込まれるつもりでいたから、別段気にすることなく久しぶりだとアンゼリカ嬢に返した。

 

「お久しぶりです、アンゼリカ様」

「お久しぶりですだよぉ……」

「アリアさんとシトリーさんも、息災で何よりですわ」

 

 それに、と視線を俺に向けたアンゼリカ嬢は、聞きましたよ、と口元に手を当てクスクス笑う。聞いたって何をだ。そう思ったが、どうやらお見合いでのクロードとの決闘という名の模擬戦と、この間の自称魔王級との戦いの件についてらしい。

 

「相変わらず、スロウさんのためにならば無茶をするのですね」

「誤解だ。俺は別に、スロウのために無茶したわけじゃない。そもそも、決闘の時そうなるよう持ってったのはそっちのところのタコ女のせいだろ」

「あら、師匠のやることに弟子は口を挟みませんのよ」

 

 そう言って再度クスクス笑うアンゼリカ嬢を見て、俺は溜息を吐きながら肩を落とす。その横では、セフィも同じように笑っていた。

 

「アンゼリカ嬢はともかく、セフィまでそっち側かよ」

「こればかりはしょうがありません。それで、どうですか、短期講座の調子は」

「ん? ああ、おかげさまで、これが終われば中級冒険者をちゃんと名乗っても良さそうくらいにはなったかな」

「エミルさんが名乗れないとなると、中級冒険者を名乗る壁が巨大になってしまいますわ」

「そう言われてもなぁ」

 

 はぁ、と溜息を吐きながら頭を掻いていたそのタイミングで横合いから声が掛かる。何だ、と視線を動かすと、どうやらセフィ達の知り合いらしい女生徒がよろしいでしょうかと頭を下げていた。

 

「どうかしましたか?」

「あの、セフィーリア様とアンゼリカ様はこちらの短期講座の方とはどういうご関係で……」

 

 どうやら周囲の疑問を代表して聞きに来たのだろう。辺りを見ると二人の答えを聞き逃さんとばかりに皆こちらに集中している。

 対するアンゼリカ嬢は、セフィーリアさんの関係で知り合ったお友達ですと流した。まあつまりセフィの答え次第だという方向に持っていった。実際アンゼリカ嬢との関係はセフィのそれと比べるとそれほど深くはない。なので、彼女の話は至極もっともである。

 

「こちらは、私の最も信頼する冒険者の方々です」

 

 そしてセフィは迷うことなくそう言い切った。そして、と付け加えるように、こちらが本命とばかりに口を開いた。

 

「大切な、親友ですわ」

「セフィちゃん先輩、好き!」

「私もです、スロウさん」

 

 がばぁ、とスロウがセフィに抱き着く。な、と驚愕する女生徒に対し、セフィはそれが当たり前のように受け止めている。いやまあスロウのやることだし、セフィも慣れてるからな。

 そうやって抱き着いてきたスロウを撫でながら、ちなみに、とこちらはおまけのように言葉を紡いだ。

 

「この方はスロウ。月の大聖女様も認めた例の聖女です」

「え!? あ、あの聖女様ですか!?」

 

 どの聖女だよ、とツッコミを入れるほど野暮ではない。というか、聖女は割と難しい冒険者の職ではあるが、そんな滅茶苦茶貴重というほどでもないだろうに。実際セフィも自称見習いなだけで実質ちゃんとした聖女だったし。月の大聖女、あの脳筋が認めた、というのが珍しいというのならばまあ仕方ないのかもしれないが。

 

「あら、エミルさん、知らなかったのですか?」

「何をだ?」

「スロウさんの聖女としての実力は、教会でも上から数えた方が早いということを」

「……マジか」

 

 いやまあ、回復と支援と破魔呪文をフルコンプしているという時点でその予想も出来ないことはなかったけれども。だとしても、そこまでか。

 ああ、でもそうか。《リザレクション》を使える時点で大概なのか。

 

「ということは、この方達があの聖女御一行……」

 

 何かに気付いたように視線をスロウから俺達に動かす。目を見開き、実在したんですね、と呟いている。俺達何かおかしな噂立ってないか、それ。

 

「別に何もありませんわ。中級冒険者に上がった最短記録を塗り替えた、とか、属性頂点の恩恵を多数受けている、とか。その程度です」

「大分何かあるよなそれ!?」

 

 アンゼリカ嬢の補足に思い切りツッコミを入れた。いやまあよくよく考えれば前者はそりゃそうかとも思うけれど。でも後者は違うだろう。恩恵らしい恩恵を受けたのは妖精姫くらいだぞ。次点で迷宮の管理者。

 

「ではエミルさん、知り合っている属性頂点を教えて下さいますか?」

「え? 月の大聖女、傀儡人形、迷宮の管理者、妖精姫、隠れ潜む百花の五体だけど」

 

 ざわ、と周囲が騒がしくなる。半分以上の属性頂点から恩恵を、とかいう声が聞こえてくるが、実際問題恩恵くれそうなのはこの中でも一握りだぞ。

 

「あら、そうでしょうか? 月の大聖女様はエミルさんを気に入っていますし」

師匠(せんせい)――傀儡人形様も、喜んで力を貸してくれると思いますわ」

「何だかんだ隠れ潜む百花さんも「めんどぉ」とか言いながら助けてくれそうだったりしますよね」

「何でスロウも一緒になって外堀埋めるんだよ。そこは違うだろ、否定しろよ!」

 

 公爵令嬢二人と噂の聖女の後押しによって、俺達は五体の属性頂点の恩恵を受けた新進気鋭の冒険者パーティーとして後々伝説になるとかなんとか色々わけの分からない背びれ尾ひれが付くことになった。

 勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなな騒ぎもあったが、それ以外は概ね問題なく日々は過ぎ、講義も座学の試験は全員合格出来た。これで一応ある程度の知識は身に付けた、ということになるのだろう。

 

「残りは実践になるんだろうけど」

「何やるんですかね。ダンジョン潜るとかでしょうか」

 

 ううむ、と俺とスロウは揃って考えるが、ここで考えていてもまあ仕方がないと流した。それでいいのか、とアリアが少々呆れていたが、こいつ自体も別段心配している様子は見当たらない。

 

「心配はしてるわよ? スロウはともかく、あたしやシトリーは色々制限される可能性があるもの」

「ワタシは特に、ほとんど何も出来ないんだよぉ……」

 

 やれやれと肩を竦めるアリアに対し、シトリーはぺしょぺしょである。ああそうか、スロウと比べると、こいつら二体は種族の特性で、モンスターとしての能力で色々担っている部分が多い。特にシトリーは自分で言っていたようにほぼ全てモンスターの能力だ。

 

「アリアはいいのか? 鱗粉無しでも」

「一応魔法は使えるわよ。アリアンロッテには遠く及ばないからあまり使いたくはないけど」

 

 あくまで基準はそこか。というか悪役令嬢アリアンロッテは主人公に立ち塞がる壁として魔法の威力も最上級という設定なんだから、それと比べればしょうがない気もするが。

 実際どうなんだ? アリアンロッテよりは弱いけど、みたいな基準がおかしい感じなのか?

 

「一応程度よ。確実に戦力は落ちるから、その辺りは覚悟しておきなさい」

 

 アリアがその辺りの判断を誤ることはないだろうから、とりあえずいつものような戦い方は出来ないと見ていいだろう。それでもって、シトリーはほぼ戦力外、と。

 中々に厳しいな。

 

「捕食は出来ないけど……壁役くらいなら、こなせるよぉ……」

 

 ぺしょぺしょ状態ではあるものの、シトリーはそう述べ頑張ると拳を握った。その心意気は嬉しいが、壁としてだけに使うのはちょっと心が痛むというか、周囲の視線が痛いというか。

 

「あー。確かに結構見られてますもんね」

 

 概ね問題なく、とは言ったが、短期講座を受けている冒険者が俺達を見る目は確実に変わった。学院の生徒のちょっとした有名人を見かけたというようなそれとは違い、冒険者達は明確に対抗心を剥き出しにしている。流石に全員ではなく一部ではあるものの、そういう視線を受けているとこちらも行動に色々気を付けなければいけなくなるわけで。

 

「評判落としてやろうって考え持つ奴がいるってこと? 考え過ぎじゃないの?」

「いやまあ、考え過ぎならそれでもいいけど」

 

 それでも、もし何かあって俺達の評判が悪くなったら、そんな俺達を信頼していると、親友だと言い切ったセフィの立場も悪くなりかねない。少なくとも直近であるこの短期講座中くらいは、そういうことがないように気を付けたいのだ。

 

「確かにそうね。セフィーリア様の評判に直結しかねない今は少し気を付けた方がいいのかも」

「じゃあ、壁以外でも役立つよう頑張るよぉ……」

 

 その話を聞いて、ぺしょぺしょ状態から回復したシトリーがふんすと拳を握る。気合を入れるのはいいけど、それで無茶したら元も子もないからな。

 そんな話をしていると、教師が講義室へと入ってきた。今日からは実践講座を始めるという説明を行い、場所はこの学院の地下にある訓練施設だと続ける。

 

「モンスターも訓練用に管理されたものなので、安心して欲しい」

 

 あくまで講義だから、ということか。まあ中級冒険者になっている、あるいはこれからなるであろう才能の面々には物足りないかもしれないが。教師のそんな軽い調子で述べた言葉にその通りだと言わんばかりに他の冒険者達は頷いていた。

 ともあれ。皆はそのまま教師に連れられて訓練施設に向かう。その途中、一応念の為だが、とこちらに振り向いた。

 

「使役モンスターがいる場合、申し出てくれ。訓練用のそれと間違わないように手続きを行わないといけないからな」

 

 その言葉に他の冒険者達はそんなものはない、と返した。魔物使いはそこまで人気のある職ではないので、中級を目指すような能力を持った冒険者は選ばないのだろう。

 そんなことを思いながら、じゃあ、と俺は教師に申し出る。

 

「エミル受講生。君は魔物使いだったのかね?」

「まあ、自分でもそんな感じ全くしてないんだけど、一応」

 

 ちなみに、公爵家から貰った騎士の称号の方も持て余している。が、魔物使いはそれ以上にそういやそうだったくらいの感じが出ている。

 その原因なんぞ一目瞭然なのだが。

 

「分かった。では、使役モンスターを教えてもらおう」

「えっと。ミミックロウラーと、トリックモスと、トラップレシアの三体、かな」

「何故自信なさげに? まあいい、それらはどこに」

「あ、はい、ミミックロウラーです」

「トリックモスよ」

「トラップレシアだよぉ……」

 

 スロウとアリアとシトリーが前に出る。そんな三体を見た教師は暫し動きを止め、そして怪訝な表情を浮かべた。

 そのまま視線を俺に戻す。ふざけているわけではない、という俺の顔を見て、教師は何とも言えない表情を浮かべた。

 

「もう一度聞いておこう。エミル受講生の使役モンスターは、そこのスロウ受講生、アリア受講生、シトリー受講生の三人だと言うんだな?」

「えっと、そうだ。いや、そうです」

 

 他の冒険者達もいつの間にか動きを止め、こちらを絶句したように眺めていた。そういえばそうだった。ここのところ全然気にされてなかったから完全に忘れていたが。

 

「どう見ても、人だが……?」

 

 そういやこいつら、完璧な擬態だった。

 

「どうします? 制服着てると擬態も解けないですし」

「ワタシもだよぉ……」

「そうなると、あたしかぁ……」

 

 どうやって納得させようかと相談している三体、何を言っているんだお前はという顔の教師。同じように信じられないものを見る目の冒険者達。

 

「というか、その辺聞いてないんですか?」

「……へ? あ、ああそうか。ちょっと待ってくれ、確認を取る」

 

 そう言って魔道具でどこかに連絡を取る教師。胡散臭い目の冒険者達。いっそ訓練施設のセンサーに引っ掛かってみるかとか言い出す三体。

 すまなかった。と教師に謝罪されるまで、俺はこの空気の中一人心を無にして立っていることしか出来なかった。

 

 

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