幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第五十二話

「結局制服着用のままなんですね」

 

 スロウがぶうぶう言いながらダンジョンを歩く。実践講義として訓練施設に入り、そこで実地訓練を行うのだが、その際にモンスターであることを明言した三体は、変わらず受講生として制服の着用が指示されている。

 いや普通に考えてモンスターなんだ、じゃあ脱いでいいよ、にはならんだろ。

 

「エミル、えっちな妄想してません?」

「なんでだよ」

「わたしの裸を想像した、とか」

「しとらん。というか、お前こないだからそんなんばっかりだけど、本当に考えてるのはお前の方じゃないのか?」

「む。まあ確かにエミルにえっちなことして欲しいなー、とか考えることはありますけど」

「あるんだぁ……」

「気にしたら負けよ」

 

 シトリーとアリアが何とも言えない表情を浮かべる。ちなみに俺も同じである。幼馴染のその言葉に何をどう反応すればいいというのだ。俺も、とか言えばいいのか。いいわけないだろ。

 まあ人に擬態してるけどモンスターだしな。そういうのもしょうがない、とか思ってやるべきか? それも違う気がする。

 

「まあもうなんでもいい。とにかく今は講義の方を優先するぞ」

「はーい」

 

 聞かなかったことにした。スロウも俺のそれに素直に頷くと、入る前に受けた講義の通り、罠の見分けを開始する。今回の授業は個人個人、というか受講時のパーティー単位で訓練室に移動して行う形だが、これが一通り終わるとダンジョンタイプの訓練施設でもう少し本格的な物をやる予定らしい。多分例の中級試験でやったやつと同じようなものだろう。

 

「罠はあの時無理矢理発動させて切り抜けたのよね」

「そんなに前じゃないのに……だいぶ前のような気がしてくるよぉ……」

 

 言われた通りの方法で罠を見付け、成程こうやるのか、と感心しながら実践をしている二体を見ながら、俺も同じように罠発見と解除を行っていた。

 

「そっちはどうだ? スロウ」

「だいじょーぶですよ」

 

 スロウも同じように罠の解除を行っている。流石というべきか、講義でのそれはきちんと自分達の糧になっているらしく、これなら今までの経験不足をある程度補えるという自信が湧いてくるものであった。

 次の実践講義はモンスターの識別と素材の剥ぎ取り。そしてその次がダンジョンのような特殊な場所での戦闘の注意、と順々に行うことで少しずつ経験も溜まっていく。

 

「思った以上に自信が付くな」

「中級冒険者になるなら受けておいて損はない、というのも頷けるわ」

 

 そんなこんなで一通り実践講義を終えた俺達は、その内容に大分満足していた。アリアが呟いたのはこの短期講座の噂というか評判についてで、これが件の『ポップでライトな昇級試験』である作戦の一環だという話だ。これまで存在していた短期講座より門戸を広げたり内容を充実させたりと、冒険者ギルドの努力が見て取れる。

 じゃあなんで試験アレだったんだ、と思わなくもないが。

 

「あ、でもこれ受けてあのダンジョンアタックなら丁度いいのかもしれないですね」

「あー」

 

 言われてみれば。今回の講義で身に付けたあれそれを使ってあの時のダンジョンアタックを行うと、確かに好成績が取れるだろう。周囲の仕掛けや答えに至る観察眼、強敵と出会った際の戦闘の避け方なども講義の中に入っていたので、例のオルトロスゴーレムと出会っても目標のアイテムが有ることを見抜いて、脱出することも問題なく出来るはずだ。

 まあつまり俺達は順序が逆だったわけだ。

 

「ったく。こういうのがあるなら、ギルドのお姉さんも言ってくれればよかったのに」

「まあ、あの人はあたし達なら昇給試験を受かるって確信してたからでしょうね」

「信頼、されてたんだと思うよぉ……」

 

 まあそれはそうなんだろうけど。経験不足の中級冒険者って結構危ない立場だったと思うんだけどな。実際こないだは危うく全滅しかけたんだし。

 

「あれは経験不足とはちょっと違う気がしますけどね」

 

 スロウが顎に手を当てながらそんなことを述べる。自称魔王級はともかく、最初のアンデッドは経験不足だろ。そんなことを反論しつつ、そういえばアンデッドの自然発生についてのお叱りを受けてないことに今更ながらに気付いた。

 

「原因があの自称魔王級のモンスターだったからでしょうね。何も無いのにやらかしたら次はきっちり制裁を食らうと思うわ」

「……気を付けないとな」

 

 そんな話をしていると、講義室に教師が入ってきた。実践講義もそろそろ佳境だ。訓練室の実践ではなく、ダンジョンタイプの訓練施設で行うより本物に近い実践。それを行うらしい。

 教師も一人ではなく、今回は数人いる。受講生を何個かのグループに分け、監督役の教師と共にダンジョンを進みながら実践を行う、というのがコンセプトらしい。パーティー単位で受講している者はバラバラにされることはなく、俺達も一纏めである。

 

「まあ、君達の場合はパーティーであるという以外の理由もあるがね」

 

 そう言って監督役の教師が苦笑する。まあ人に擬態してるだけのミミックロウラーとトリックモスとトラップレシアだからな。さもありなんといったところか。

 ともあれ。俺達パーティーと別の冒険者パーティーの二組ほど交ぜたこの班で模擬ダンジョンアタックを行うらしい。一応挨拶位はしとくか、と他の二組によろしくと述べると、片方は友好的に、片方は対抗心をむき出しに返された。どうやら前者は噂の聖女パーティーだからという理由で、後者は噂の聖女パーティーだからという理由らしい。理由一緒じゃないかとか言ってはいけない。まあ同じ理由でも真逆の反応になるってのはある意味仕方ないと言うべきか。

 では、と教師が俺達を前に出した。生徒が前でこれまでのことを思い出し、応用しながら進み、教師は後ろで採点や指導をする、という形で模擬ダンジョンアタックのスタートである。

 

「あ、どうしましょうか。全員に支援掛けときますか?」

 

 後ろを振り向きながらスロウが問い掛ける。教師は、出来る範囲ならば好きにしなさいと答えを返した。

 そういうことなら、とスロウは全員に支援を掛けた。文字通り全員である。教師も含めた計十一名まとめてだ。

 

「流石は聖女……」

 

 支援を受けた教師もその腕前に舌を巻いている。が、当事者は別段なんてこと無い様子でじゃあ行きますかと呑気な様子。まあ実際この程度スロウならば鼻歌交じりでやれるからな。

 

「聖女の力だけは一人前か」

 

 対抗心を燃やしていたパーティーの誰かが悔しそうにそう呟くのが聞こえた。むむ、と同じく聞こえていたスロウが文句を言おうとそちらに振り向いたのを、俺は待ったと制止させる。現状スロウの力しか見せてないので、その反応はある意味もっともだ。ついでに言うとアリアやシトリーも現状いつも通りに戦えないので、評価としては妥当とも言える。

 

「エミルはいつも通りいけるじゃないですか」

 

 ぶうぶうと文句を言うスロウを宥めながら、まあちゃんと見せてやれば文句はないだろうと言葉を続けた。中級冒険者としては経験不足、というのは自分自身でも分かっているので、そこを突かれると文句は言えない。

 が、それ以外の部分ならまあ、これから中級になるやつや中級なりたてと比べても劣ってはいないはずだ。

 モンスターの気配。ザザザっと現れたのは数体のサンドラット。成程、本当に中級の模擬試験になっているのか。そんなことを思いながら、俺は一足飛びで奴らに近付くと纏めて切り裂いた。ついこないだスノーラビットの群れと戦った時と比べても、この程度の敵には苦戦する理由がない。

 

「エミル。油断してるわよ」

「っと、悪い」

 

 悪徳がぽんと俺の肩を叩いたような気がした。アリアの言葉に我に返った俺は、そう述べると一歩下がる。そうだ、そういうので油断しないように、こういう場合に色々と考えられるようにこの講義を受けたのだ。教師の方をちらりと見ると、チームワークも流石の一言だなと呟いているのが見えて、ちょっと気恥ずかしくなった。

 そのまま教師が何かを操作するのが見える。サンドラットが追加で現れたのを見ると、モンスターの発生装置か何かを起動したのかもしれない。ということはこのモンスターは本物じゃない何かってことか。その辺りも中級試験のダンジョンと一緒だな。

 追加のサンドラットは残りの二パーティーが倒した。別段苦戦する様子もなかったので、やはり実力は確かなのだろう。

 

「そっちみたいに一撃、とはいかなかったけれどね」

 

 友好的な方のパーティーの一人がそう言って苦笑する。別にそこを気にする必要もないと思うんだけれど。そうは思ったが、もう片方、対抗心を燃やしている方は気に入らなかったのか俺を睨んでいたので見なかったことにした。

 そんなこともありながら、模擬ダンジョン攻略は進む。罠も中級試験の時と違い無理矢理起動させて進むなんて方法ではなく、きちんと見付けて避けたり解除したりして安全に攻略が出来た。

 そうして進んだ地下二階。やってきた階段が無くなるのを他二パーティーは驚いていたが、俺達は二度目なのでああやっぱりという反応だ。多分これ本当は中級試験の時に模擬ダンジョンでやったやつだ、となる方なんだろうな。

 地下二階も変わらず、同じように対処しながら先を進む。教師も別段口出しをしないということは、きちんと攻略出来ているのだろう。

 やはりと言うか、一階に戻る階段はボス部屋にしかないらしい。そういえばあの時は迷宮の管理者を疑ったな、とか思いながら、俺達の班はそのままボス部屋の扉を開ける。模擬ダンジョンというからには、恐らくこの先にいるのはオルトロスゴーレムだ。そして、そいつを倒さずとも脱出の方法を見つけ出すのが本来の試験。

 そこまで考えて。ということはこの模擬ダンジョンも迷宮の管理者が関わっている場所なんじゃ、という疑問が生まれた。

 

「ん?」

 

 俺達は仕掛けを知っているから、様子見しよう、ついでに教師に模擬ダンジョンのことについて聞こう。そんなことを思いながら教師に振り返った俺は、彼が怪訝な表情をしているのに気が付いた。視線は俺達ではなく、その向こう側。ダンジョンのボス部屋なので、ボスが居るであろう場所。

 それにつられるように教師からそこへと視線を動かした俺は、同じように表情を変える。

 

「なんだあれ?」

「黒い丸ですね。てっきりオルトロスのゴーレムがいると思ったんですけど」

 

 スロウも同じようなことを思ったのか、首を傾げていた。宙に浮いている黒い丸は、まるで影を球体にしたように真っ黒で。

 いや待て。そうだ、今回の講義で俺達は色々と知識も身に付けた。だから、今まで遭遇したことのないモンスターもある程度の特徴や、写真で認識は出来ている。だから、眼の前の影のような球体が何かも習っているわけで。

 

「シェイプシフター……?」

「上級に片足突っ込んでる中級の上澄みですよ? なんでこんな」

「いや、まあオルトロスゴーレムも似たようなものでしょ」

 

 確かにアリアの言う通り、中級冒険者の試験のボスとして倒せない相手を出してくるのならば別段変わりはない。オルトロスの本物であれば上級なので眼の前のシェイプシフターよりよっぽど脅威である。まあ迷宮の管理者が作ったやつなので実際はもう少し下だろうけれど。

 

「変化していない……? おかしいな」

 

 そんな俺達の耳にそんな声が届く。成程、シェイプシフターは姿を自在に変える魔物。シェイプシフターの模造品を何かしらの技術――まあ属性頂点の誰かがやったんだろうけれども――で作り出し、訓練モンスターとして用意していたのか。

 そして多分、教師の口ぶりからして本来はあれがオルトロスゴーレムにでもなって立ち塞がる予定だったのだろう。それが、何かの異常でデフォルトのまま出てきてしまった、と。

 きっと異常事態なのだろう。だが、俺達はそれを見ても慌てることなくさてどうしたものかと思考を巡らせていた。こう言っちゃなんだが、異常事態には慣れている。実際問題教師の方も異常ではあるが慌てるほどではないという感じだったからだ。

 一方の残り二パーティーである。友好的な方は俺達が慌てていないのを見て、流石と言いながら少しだけ安堵したような表情を浮かべていた。

 

「聖女パーティーがいるというのが心強いよ」

 

 そう言って笑う向こうのパーティーリーダー。俺達そんな頼りにされるほどのものでもないと思うんだけれど。まあそれが嫌だってわけでもないので、少し困ったように頭を掻いた。

 

「まあ、当初の予定は少し違うが、まあいいだろう」

 

 教師はどこかと連絡を取っていたが、強力なモンスターがボス、という条件は変わらないのでこのまま行くことにしたらしい。実践講義の再開を告げ、注意深く確認を怠るなとアドバイスもする。

 俺はそれを聞きながらちらりと階段を見る。成程、模擬ダンジョンの合格の鍵である宝石のある台座は既にそこにあった。これ、何も知らないと気付かないだろう。まあそのための模擬ダンジョンなんだろうけれど。

 さて。答えを既に知っている俺達は、じゃあそこに行くかといえば答えは否。こくりと皆で頷くと、シェイプシフターの前に立ち塞がった。

 

「君達は……ああ、そうか」

 

 教師が納得したように頷く。答えを知っている謎解きは別に面白くも何とも無い。なので、俺達は俺達で別の経験を貰おうという算段だ。

 

「一人で抜け駆けか!」

 

 そんなことを思っていた矢先、対抗心燃やしてた方のパーティーがこちらに割り込んだ。ああそうか、俺達がこれを倒して脱出するという選択肢を取ったから、これが正解だと、これを先に倒した方が実力が上になると勘違いしたのか。

 

「なあ」

「なんだ?」

「俺が言うのもなんだけど、もう少し周りを見た方がいいぞ」

「何を言って――え?」

「いやだから――ん?」

 

 そんなやり取りをしている最中、シェイプシフターが行動を始めた。影の球体がぐねぐねと粘土のように形を変え、そして四つの塊に分離する。そうなってからも変わらず影はぐねりと形を変えていき、そして。

 

「なっ」

「俺達!?」

 

 エミルと、スロウと、アリアと、シトリーを形作った。

 

「シェイプシフターは知っている中で最も強い存在、あるいは敵対者の中で最も強い存在に形を変える」

 

 これまでみたいに制御されているわけではない、そのままのシェイプシフターなら、そのまま特性を発揮するわけで。今回は恐らく後者。この中で最も強い存在――俺達のパーティーを模倣したのだろう。

 

「それで何でお前達になるんだよ!」

「何でって言われても。多分俺達のパーティーの方が強かったんだろ」

「ぐっ」

 

 俺が、とは言っていない。総合力としてなら、俺を除いてもスロウとアリアとシトリーで多分その辺のパーティーはオーバーキルだ。だから、こうなるのはまあ仕方ないというか。

 ふざけるな、とそれでも認められない一人が偽の俺達に突っ込んでいき、偽シトリーに受け止められて齧られついでに偽アリアにこんがり焼かれた。スロウが即座に回復したのでダメージ自体はないも同然だろう。プライドはズタボロだろうけど。

 

「さて、どうする?」

 

 下がってろ、と対抗心を燃やしていたパーティーを下がらせ、俺は三体に問い掛ける。ダンジョンをクリアするための答えはもう知っているので、こいつと戦う必要はないのだが。

 

「やりますよ」

「勿論、戦うわ」

「頑張るよぉ……」

 

 既にやる気満々だったらしい。俺が武器を構えるよりも早く、三体は一歩前に出て戦闘態勢を取っていた。

 それなら、と俺も同じように一歩前に出て武器を構える。

 

「あ、そういえば」

「どうしたんですか?」

「スロウはともかく、アリアとシトリーは大丈夫か? 制服のせいで大分制限されてるだろ?」

 

 さっきの一撃からすると、シェイプシフターの模倣した偽アリアと偽シトリーはいつもの戦い方が出来るみたいだけれど。そんな問い掛けをすると、なんだそんなことかとアリアは鼻を鳴らした。

 

「丁度いいハンデよ。アリアンロッテは逆境でも決して負けないってことを証明してやるわ」

 

 ボゥ、と掌に炎を生み出しながらアリアが笑う。どうやらこっちは全然問題ないみたいだが、はてさてもう一体の方は。

 

「……大丈夫だよぉ……」

「お?」

「ワタシ、足手まといにはなりたくないんだよぉ……」

 

 ぐ、と拳を握ると、シトリーは真っ直ぐ前を見た。そこにいるのは偽シトリー。トラップレシアの能力を制限されることなく使える自身の模倣。

 

「だから……負けないんだよぉ……!」

「そうか」

 

 なら、大丈夫だな。俺達は改めて頷き合うと、再度真っ直ぐに偽物を見た。

 

「さー来なさい! どっちが本物か教えてあげますよ!」

「お前だけなんかテンション違うんだよなぁ……」

 

 ぱっぱらぱーというか、何も考えてないというか。

 

 

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