そういうわけで。まあアリアとシトリーにとっちゃどういうわけだと言われても仕方ない状況の中、俺は再び剛腕の鍛冶師の工房へと集まっていた。
「おう、来たな。そこの二体にゃ話はしたか?」
「一応」
「一応じゃまずいだろ。武器の試作させるんだぞ、きちんと説明しておけ」
やれやれ、と剛腕の鍛冶師が溜息を吐く。そうしながら、じゃあ改めて、と言葉を紡いだ。俺の剣を鍛える、いや、強化するための条件の一つとして、試作武器の試用に付き合ってもらう要員として呼ばれたことを告げ、無理にとは言わんと締めた。
「やらないとエミルの武器は強化されないんでしょ?」
「ん? まあやりたくないなら無理にとは言わねぇよ」
「え、っと……? いいのぉ……?」
シトリーの言葉に、剛腕の鍛冶師はおうよと返す。そこに含みはなく、本当に断ったならその時はその時という感じであった。
「まあ、ぶっちゃけると強化自体は無償でやっても構わん。碌でもねぇ奴だが、あいつらの信頼を手に入れてる時点で資格は満たしてるようなもんだし、妖精姫のダチなら尚更だ」
「信頼されてるんだな、妖精姫」
「ん? そりゃなぁ。属性頂点で多分あいつくらいだぞ、どこを取ってもまともなの。ほかは多少まともでも何かしらぶっ飛んだところがあるからなぁ」
迷宮の管理者とかもそうだ。と言われると、まあ確かに妖精姫よりはぶっ飛んでいる寄りだなと納得する。他の面子はまともな割合が少ないので論外だ。
「あ、じゃあ剛腕の鍛治師さんもぶっ飛んでる側ですか?」
「おい」
「がはははっ! いいぞ、そういう歯に衣着せねぇ物言いは好きだ。まあ自分で言うのもなんだが、オレだってぶっ飛んでるさ。こうしてわざわざ工房作ってるのもそうだし、気に入ったからてめぇらに武器を作ってやるなんて気まぐれもそうだ」
「強化の条件、というのは建前なのね」
「まあな。で、どうする? オレとしちゃどっちでもいいぞ」
どうする、と言われても。そこまで来ていらないなんて選択肢を取る必要性もない。そういうことなら遠慮なくいただくことにしよう。そう俺は結論付け、他の面々に意見を求めた。
まあスロウは言わずもがな、こういう時はエミルが言うならで同意一択。アリアとシトリーも、別段断る理由もないので頷いていた。
「よし、じゃあ早速」
そう言うと剛腕の鍛冶師は奥に来いと俺達を案内した。工房の職人を何人か引き連れた彼に従ってそこに進むと、大小様々な武器が並んでいる部屋に辿り着く。
へぇ、と感嘆の声を漏らしつつそれを眺めていた俺であったが、そのどれもが微妙に未完成であるような気がして眉を顰めた。
「おうエミル。お前中々いい目をしてるな」
「いや、なんとなくそんな気がしただけで」
「合ってるぞ。こいつは全部未調整だ。各々に合うように調整して初めて完成する魔道具武器達ってところだ」
そう言いながら、剛腕の鍛冶師は連れてきた職人をぐるりと眺めた。そうしながら、じゃあこいつらに合う武器を提案してみろと言い放つ。
「親方、聖女にはやっぱり杖なんじゃ」
「ほう、杖か。どうだスロウ?」
職人の一人が用意したそれをスロウに手渡す。ふみ、と渡されたそれをブンブン振っていたスロウだったが、しばらくするとむむむと表情が難しいものになった。
「杖ってどう使えばいいんでしょうか」
「ぶっ。はははは!」
「何笑ってんですか。そもそもわたしの知ってる一番立派な聖女の先輩は武器レイピアなんですよ。杖なんか使いません」
「がはははっ、そりゃそうだろうな。聖女なんて名前が付いてるが、実際は支援だけじゃなく戦闘も出来るバーサーカーだしな。聖女の理解が足りねぇぞ」
笑いながら杖を渡した職人に告げる。いや、でもその杖戦闘用ですよね、という職人の反論に、そうだなその通りと剛腕の鍛冶師は返した。
「が、てめぇはそこら辺はおまけ程度に考えてただろ。そこが理解が足りねぇっつぅ所以だ。まあ結果として合ってればそれでもいいけどな」
そう言って再度笑った剛腕の鍛冶師は、次はミスるなよと職人を頭をポンポン叩いた。よし次、と視線を別の職人に向ける。次の対象はアリア、さてどうすると問い掛けた。
「えっと…………いや、やっぱり杖では?」
「ほう。じゃあどの杖だ?」
「…………これです」
そう言って職人が選んだのはコンパクトな杖。ダガー程度の大きさで、柄の先に羽飾りが付いていた。
「悪くないわね」
渡されたそれを手で弄ぶ。性能としてはどうやら申し分ないらしく、アリアとしては割と気に入ったらしい。が、完全に、というわけではなさそうで。
「剛腕の鍛冶師様」
「おう、なんだ?」
「これ、形状を変えることは可能かしら?」
「お安い御用だ。ついでに、魔物の本体を出しても問題なく装備出来るように整えてやれるぞ」
「では、それでお願いするわ。形状は、扇で」
「任せろ」
ひょい、と杖を受け取った剛腕の鍛冶師が工房にある鍛冶台へと向かう。そうした後、仮面が左右に別れ、それぞれ緑と黒の炎を纏った狼の頭へと変貌した。同時に、あらわになった獣人の顔部分に赤い炎が纏われる。
「ケルベルス……!?」
「おう、言ってなかったか? 獣人なのは本体でいると工房が狭くなるからでな。まあちょっとした擬態ってところだ」
そう言って正面の狼と浮いている左右の狼が同時に笑う。そうしながら、鍛冶道具を持った剛腕の鍛冶師は左右の頭と道具を使い、あっという間に形状を扇にし、調整を終えた。
成程、名に違わぬ実力だ。そんな当たり前のことを思いながら、俺はアリア用になったその杖を渡されるのを眺めていた。これなら、俺の剣も。
「おう、心配するな。てめぇの剣の強化もさっさと終わらせてやるからよ」
「さて、まあそれは後回しでだ。スロウ、何かいいものあったか?」
「あ、じゃあこれで」
シトリーの前に、スロウの武器を自分で選ばせることにした剛腕の鍛冶師は、あいつが選んだそれを見て一瞬目を見開いた。そうした後、がはははと笑う。
スロウが選んだ武器は、拳に付けるガントレットと具足の格闘用セットであった。
「おまえそれで支援もする気か?」
「別に支援はいつも道具使ってないですしね。単純に習ったことが出来る武器がいいなーって思っただけです」
「そうかいそうかい。よし、なら、せっかくだから」
スロウから受け取ったそれを剛腕の鍛冶師が調整する。調整後は一つの腕輪となったそれを見て、スロウはなんじゃこりゃと目を瞬かせていた。
「てめぇに限ったことじゃないが、擬態と本体が似ても似つかねぇだろ。そんなやつに人型のガントレット装備させても無意味だからな。そいつは芋虫用に調整した」
「ほえー」
剛腕の鍛冶師の言葉を聞きながら腕輪をはめる。そのまま、彼の言う通りに展開をするよう念じたらしいスロウは、手足に装備が生まれたことで目を見開いた。
「いーですねこれ! 殴る蹴るがはかどりますよ!」
「だろうな。で、だ。腕輪に変化させてから本体に戻ってみろ」
「へ? ――お、おおー!」
ぐねぐねと聖女から芋虫に戻る。その過程で腕についていた腕輪が芋虫の首輪へと形状を変えた。この間の学院の制服とは違い、装備していても何の問題もなく本体に戻れるらしい。さっきも思ったが改めて、流石は属性頂点、と言うべきか。
「驚くのはまだ早ぇぞ。その状態で武器を展開してみろ」
「え? ……見てくださいエミル!」
「見てるよ、メタル芋虫」
「言い方ぁ!」
芋虫状態のスロウがメタル化した。正確にはガントレットのような鎧を芋虫が纏ったというべきか。
確かに聖女としての戦闘は擬態した人型の特訓のみ。芋虫状態だと支援しか出来ない。そういう弱みを、と言っていいのか分からないものをカバーする装備としては間違いなく一級品だ。
「これ丸まって体当りしたらダメージ出ますよきっと」
「そうだな、ダンゴムシ」
「酷くないですか!?」
そんなこと言われても、現状のメタル芋虫も若干そのけがあるのに、丸まって体当たりなんかしようものなら間違いなくそれになる。
ぶーぶー文句言うスロウを流しながら、それならアリアも似たような感じなのかと俺は剛腕の鍛冶師に尋ねた。そりゃそうだ、と彼は述べたが、まあ、と言葉を続ける。
「そっちは、基本出番はねぇだろ」
「まあ、そうね。あたし、人前で本体になることはまずないから」
悪役令嬢アリアンロッテを貫くこいつは、他二体と違ってトリックモスそのものになることがほとんどない。そういう意味ではスロウみたいに虫状態で展開する武器形状は文字通りおまけみたいなものだろう。
ともあれ。これでスロウとアリアの武器は決まった。残るは一体。
「さて、どうだ? このシトリーの武器は何がいい?」
剛腕の鍛冶師が職人達に尋ねる。疑似餌で擬態した見た目はポヤポヤしている巨乳の美少女なので、はっきり言って何の武器が似合うかと言われても困るだろう。パーティーの役割がタンクと近距離と言われると余計に困惑するレベルである。
そりゃそうだろう。普通そういう役割は、もっと重装備の戦士とかが担う役目である。が、いかんせんシトリーは鎧なんぞ全く装備していない。今と同じ、ブラウスと胸の下辺りをベルトで止めたブレザー、短めのプリーツスカートとタイツという戦闘嘗めてんのかという服装で敵の攻撃を受け止めるので、普通の人間は脳がバグるだろう。実際は疑似餌を被る擬態自体が鎧みたいなものであり、本体のトラップレシアも耐久力と再生力がかなりのものなので余裕なだけなのだが。
「これ、とか?」
「いや、これか?」
職人達も困っている。が、一応タンク役ということで盾をメインに選んでいるのがほとんどだった。剛腕の鍛冶師も、まあそうなるだろうな、といった様子で職人の選んだ装備を眺めている。
「どうだ? ピンと来るか?」
「ふぇ!? ど……どうかなぁ……?」
渡された盾を構えたりしてみるが、何ともしっくり来ている様子がない。盾を装備するということは、もう片方に武器を装備するということで、どうやらその別々の武器を構えるというのが微妙そうであった。
かといって、じゃあ盾オンリーでいいのかといえば、そういうわけでもなさそうで。
「シトリーちゃんだけ武器無しってのも、なんか違いますよね」
「擬態モンスターにも装備出来る武器って貴重だもの。戦力強化には丁度いいわ」
そうは言っても、とスロウもアリアも難しい顔である。傍から見ていてもシトリーに合いそうな武器が選ばれていないのは明らかであった。じゃあ俺達ならピッタリの武器が選べるかと言えば答えは否なわけで。正直何が正解か分からない。
そんなことを何回か繰り返しているうちに、職人も選択肢がなくなったらしい。並んでいる武器を眺めるばかりで、次はこれ、が出なくなった。盾とセットの武器で選べる者が多分なくなったのだろう。
「なんだてめぇら。終わりか?」
「タンク役に合う武器はほぼ全部選びましたよ……」
「そうか? じゃあ、聞くか」
こういうのはどうだ、と剛腕の鍛冶師が持ち出したのは巨大な両手剣。刀身が幅広く、真正面に突き立てるとちょっとした盾になるほどの大きさだ。
流石にそれは、と職人の一人が述べる。あんな少女が扱えるものじゃない。そんなような意味合いを込めていたのだろうそれは、いやしかし、という別の職人の声で弾かれた。
「ここにあった盾は全部軽々持っていたし」
「ひょっとしたら……」
残りの職人も剛腕の鍛冶師がえらんだそれを見て目から鱗だとばかりに同意していく。そんな職人達を見た剛腕の鍛冶師は、おいおい、と苦笑した。
「オレが選んだから同意したってんじゃねぇだろうな?」
「流石、とは思いましたが、親方が間違っていると思ったならちゃんと言いますよ」
「そんならいいが」
まあ、それが出来る連中を選んだつもりだしな。そう続け、剛腕の鍛冶師は選んだ両手剣をシトリーに手渡した。恐る恐るそれを受け取ったシトリーは、それを構え、眼前に構え直して盾にして。
「あ……しっくりくる気が……するよぉ……」
「よし、じゃあ試しにこれでいってみるか」
シトリーから両手剣を返してもらった剛腕の鍛冶師は、そのまま調整を行い、スロウやアリアの時と同じように本体のモンスター状態でも装備できるアクセサリーに変化させる。
シトリーの場合はイヤリング。他二体と違って、シトリーの場合疑似餌を着込む擬態方法なためか、本体でも武器は両手剣のままらしい。
「っと。とりあえず武器の調整はこんなところか」
「試作って言ってたけど、結局これ俺達に新しい武器を提供しただけじゃないのか?」
「いいんだよ。試作品の試用ってことにしとけ。まあ、もしそれで気に病む必要があるんなら」
そうだな、と剛腕の鍛冶師が何かを考え込む。
そのタイミングで、奥の部屋に入ってくる職人がいた。どうやら剛腕の鍛冶師にお客らしい。門前払いしないということは、ある程度のお偉いさんか、あるいは知り合い。
「剛腕の鍛冶師。例の件でちょっと手伝って欲しいことがあるっス。って、あれ?」
通せ、という彼の言葉でやってきたその客は、ちんちくりんのサイドポニーの少女。だが、見た目によらず強大な力を持っている属性頂点で。
「妖精姫?」
「エミルさん達じゃないっスか。なんでこんなところに?」
「お、丁度いいや。なあエミル。報酬の代わりにちょいと手伝ってくれねぇか?」
「……剛腕の鍛冶師。いきなり巻き込むのはどうかと思うっスよ」
「いや、まあ……そうだな。説明もなしに頼むのは駄目だな」
妖精姫にジト目で責められた剛腕の鍛冶師が悪かったと頭を下げた。どうやらこの火属性頂点、根が単純なだけで割とまとも寄りらしい。こういう時月の大聖女や傀儡人形だと押し通すからな。
とはいえ。悪い忘れてくれと述べた剛腕の鍛冶師を見ていると、まあ流石にここで分かった忘れるという選択肢を取れないわけで。
「エミルのそーゆーところ、わたし好きですよ」
「言ってろ。なあ、剛腕の鍛冶師、妖精姫。俺達で良ければ手伝うぞ」
「いいんスか? 場合によっちゃ危険が伴うっスよ?」
「自称魔王級と戦えってんなら断るが、そうじゃないだろ?」
「当たり前だ。そんなんてめぇらに頼むわけねぇだろ」
「強さで言うなら、多分中級モンスターレベルだとは思うっスけど……」
「なら、問題ないわね」
「大丈夫だよぉ……」
そう述べる俺達を見て、妖精姫は少し迷った素振りを見せたが、分かりましたと頷いた。現状一番頼りになる冒険者だから、と付け加えられると何ともむず痒い。
「属性頂点だから英雄や勇者の知り合いくらいいるだろ?」
「強い、と頼りになる、はまた別物っス」
だから、信頼している。そう真っ直ぐに言われてしまうと、俺達としてもほんの少し照れくさくなってしまう。
「まあ、妖精姫がこんだけ言ってるんだ。オレとしても、てめぇらを信用するさ」
剛腕の鍛冶師もそう言って笑った。こちらも何も含むところのない真っ直ぐさで、こちらの照れが更に増える。
「……で、何をすればいいんだ?」
「エミル、照れてますね」
「うるさい。お前だって照れくさくなってるだろ」
「まあ、ちょっぴり」
「勿論だよぉ……」
「そうね」
だったら茶化すな。そうは思ったが、アリアとシトリーに自分達は茶化してないと言われぐうの音も出なかった。