幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第五十六話

「でだ。実際どういう相談なんだ?」

「いやさっきエミルさんの問いに大丈夫だって言ってたっスよね!? 適当ぶっこいてたんスか!?」

「いや、てめぇの依頼だろ? まあ大丈夫じゃねぇかなってな。実際問題はないんだろ?」

「そうスけど……もうちょっと考えてから発言して欲しいっス」

「悪ぃ悪ぃ」

 

 そう言うと、剛腕の鍛冶師はこちらにも謝罪する。そうした後、改めて説明を頼むと妖精姫に述べた。

 

「こほん。……その前に、エミルさん、人を斬ったことはあるっスか?」

「あるぞ」

 

 シトリーを仲間にした時、野盗団の親分をぶった切った。結果としてぶった切ったことになった部下もいたとは思うが、まあしっかりと斬ったのはこいつくらいだろうか。

 そんな俺の答えを聞いた妖精姫は、それなら問題はないだろうと頷いた。

 

「つまり、何かしら人を討伐するってことか?」

「別に討伐する必要はないっスけど、人と戦うことにはなるかもしれないっス」

「ん? なんだ妖精姫、また人のゴタゴタに首突っ込んでんのか」

 

 属性頂点の割に、と剛腕の鍛冶師が笑うが、妖精姫はあんたもこっちのこと言えないだろうがとジト目になった。

 まあ確かに属性頂点は人の世に関わってはいるものの、ここまでガッツリ首を突っ込んでいるのはそうそう見ない。教会に所属してる月の大聖女くらいだろうか。傀儡人形と迷宮の管理者はベクトルが違うが気まぐれで行動しているのに近いしな。隠れ潜む百花は論外だ。

 

「まあその辺はあれっスね。均衡を保つのには人の世にいるのが一番手っ取り早いってのがあるっス」

 

 世界の警告であるアンデッド発生。モンスター同士での発生を人が防ぎ、人の起こす発生は上位存在が防ぐ。そんな流れが気付くと出来ているこの世界では、基本的にモンスターでも上級の上澄みは人に協力的だ。英雄や勇者に倒されるようなのは自称魔王級のようにそこから外れて害をなすものに限られる。

 そんな中での最上級の属性頂点なのだから、まあ人を助けるのはそりゃそうだにもなる。

 が、妖精姫はどっちかというと、そういう前提とは別に人が好きだからこっち側にいるんじゃないかとも思うわけで。

 

「そう言われるとちょっと照れるっスけど、まあそうっスね。あ、でもあちきも人なら皆好きってわけじゃないっス。お世話になった人達や友人、守りたい人のために動くっていう割と自分勝手な奴っスから」

 

 その範囲が相当広いんだろうな、と思ったがまあその辺りを指摘するのは野暮だろう。

 話が逸れた。妖精姫の依頼は人のゴタゴタに関わることらしいが、それでやっぱり断るということになるかどうかといえば。

 

「それで、何をやればいいんだ?」

「受けてくれるんスか?」

「別に断る理由はないしな」

「結構あったような気もするんスけど……。いいんスか? 場合によっちゃ人の討伐っスよ?」

「まあ、そこら辺は経験もあるし、なにより」

 

 ほれ、と俺の横にいる面々を指差す。ミミックロウラーとトリックモスとトラップレシアだ。人をぶっ殺すことに躊躇いが、ないこともないだろうけど、多分普通よりはない。

 だから問題ないと結論付けて、俺は妖精姫に話の続きを促した。

 

「むー。まあ確かに別に知りもしない上に妖精姫さんが悪者認定するような人間相手に躊躇とかないですけど」

「そうね、それは同感だわ」

「食べないからどっちでもいいよぉ……」

 

 横から文句なのか何なのか分からないのが飛んできたが、まあ反対しているわけではないので置いておく。

 

「あはは。じゃあ、話を進めるっスよ」

 

 妖精姫曰く。帝都のマスターからある冒険者パーティーにまつわる事件についての相談を受けた。そのとある中級者パーティーは、下級冒険者のサポートとして依頼を受け、そして予想外のモンスターの襲撃を受け大ダメージを負ったらしい。

 

「それって何か問題なんですか?」

「それ自体は問題ないっス。いや、予想外のモンスターは冒険者にとっては問題かもしれないっスけど」

 

 問題は、その襲撃で下級冒険者が全員行方不明になったことだ。死亡ではなく、行方不明。加えると、そのパーティーは何も痕跡が残っていない。

 

「どういうことだ? その下級冒険者が罠だったとか、そういうことか?」

「そうっスね。その可能性もありうるっス」

「……疑似餌、ってことぉ……?」

「いや、その下級冒険者は全員きちんと登録された冒険者ではあったっスけど……登録された書類と、被害に遭ったパーティーの出会った面々の特徴がほとんど一致していなかったっス」

 

 なんだそりゃ。じゃあそのパーティーは偽物だったってことじゃないか。そんなことを述べると、そう考えるのが妥当なのだが、と妖精姫は難しい顔をする。

 

「何か違うのか? さっきもその可能性があるみたいな言い回しだったけど」

「いや、実は、被害に遭ったパーティーも脛に傷持った連中だったんスよ」

 

 曰く。いい人ぶって下級パーティーを難関クエストに誘い、騒ぎに乗じて追い剥ぎ、場合によっては身も心もボロボロになった冒険者を娼館に売り払おうとするなど、普通に考えれば資格剥奪でお縄になるような輩である。

 ならなかった理由は至極単純、バックについているのがそこそこの規模の貴族だったこと。というか、パーティーリーダーがそこの貴族のボンボンだったのだとか。

 

「証拠はない、と握り潰されてたらしく、ギルドマスターも厳重注意までしか出来なかったって悔しそうに言ってたっス」

「あ、じゃあついでにそいつもぶち殺しましょう」

「おういいな、そういう即断即決はオレぁ好きだぜ」

「よくないっス! いやそいつをどうにかするのも確かにやりたいとこなんスけど。今回そいつは被害者なんスよ」

 

 はぁ、と溜息を吐いている妖精姫だが、俺はその言葉に疑問を覚えた。確かに話を聞く限り損害を受けたのはその貴族のパーティーだろう。だが、どうにも被害者と言えるような気がしないのだ。

 

「なあ、妖精姫」

「なんスか?」

「そいつら、本当に被害者なのか?」

「と、言われても。そのパーティーメンバーも結構なダメージを受けてたってギルドマスターは言ってたっスよ。メンバーも一人下級冒険者と同じで行方不明になってるとか……あ、でも」

「どーしたんですか?」

「そういえば、行方不明になったのは新参のメンバーだって言ってたような……例の悪さをしていた連中じゃない……?」

「怪しいわね」

 

 妖精姫の呟きにアリアがそう返す。俺はそれも同意見だ。件の冒険者パーティーに入った新参者と誘われた下級冒険者だけが行方不明。脛に傷持つ連中は多少なりとも怪我を負っているがそれだけ。

 ……これ、二つの事件がたまたま同時に起きているんじゃないだろうな。

 

「下級冒険者の偽造と、行方不明は別問題ってことですか?」

「もしくは、偽造を見抜いた例の連中がわざと誘って、行方不明に見せかけて、とかな」

「結構考えるじゃねぇか」

「成程、その可能性もあるっスね」

 

 まあ考えていてもきりがない。普通にその下級冒険者の方が犯人で、たまたま脛に傷持ったやつが被害者に選ばれた可能性も当然あるしな。

 

「とりあえず、行ってみるか」

 

 俺のその意見に反対するものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 というわけで、工房を後にして帝都のギルドへと向かう。顔見知りになっているマスターに話を聞くと、大体妖精姫から聞いたものと同じことが返ってきた。なので、工房で思い付いた意見を追加で述べる。

 

「成程ね」

 

 一理ある、とマスターは顎に手を当て考えた。小さく溜息を吐きながら、件の下級冒険者のことだけれど、と書類を取り出した。

 

「どうやら、登録時に複数で回し使いする用にしていたらしい」

「なんでまた」

「詳しい事情は分からないけど、まあ大方冒険者登録に反対された連中が替え玉なりなんなりででっち上げた書類、ってところだろう」

「そんなん通しちゃったんスか?」

「面目ない。が、これ結構あるんだよ、替え玉で作った使い回し用の登録証」

 

 調べると結構出てくるものらしい。マスターが溜息を吐きながら、下級の試験くらい頑張れば受かるんだからやればいいのに、とぼやいた。まあ確かに、俺も村のギルドに併設されている場所である程度勉強したからすんなり合格したが、そういう講義も受けずにただ冒険者になりたいというだけで登録しようとする連中だと、案外高い壁なのかもしれない。

 そういう連中をふるい落とすためのものなのだから当たり前か。無闇矢鱈と冒険者になって、ポンポンと死なれては困るしな。

 

「ということは、その下級冒険者達も使い物にならなかった可能性が」

「ああ、十分にある」

 

 大した依頼も受けられない下級冒険者もどきと、脛に傷持つ中級冒険者。その二つが出会うとどうなるか。

 予想が合っているのならば、今回の加害者は例の中級冒険者だ。そして被害者は下級冒険者もどき。ついでにいらない新参者も一緒に、って感じか。

 

「なあ、マスター。その新参者はどんな奴だったんだ?」

「そうだな。真面目なやつだったよ。彼女の言うことを聞いていれば更生出来るんじゃないかって思わせるようなね。こっちもそれを期待していた」

 

 彼女、ってことは、まあ多分予想通りだな。妖精姫に視線を向けると、コクリと頷き調べてくるっスとカフェを出ていく。何か分かったのか、というマスターの言葉に、そっちもなんとなく予想がついているんじゃないのかと返した。

 

「……行方不明の下級冒険者は全員女性だ。多分、そうなんだろうな」

 

 重い溜息を吐くマスターを見ながら、でかい組織だとそれはそれで大変なんだろうと俺は思う。ギルドマスターなのかカフェのマスターなのかはまあ置いておいて。どっちみち更に上がいるだろうから、マスターと言っても中間管理職だろうし。

 

「まあ責任者であることは変わりないからなぁ。こういう事が起きると、色々と後始末が大変なんだよ、やれやれ……」

「そー思うんなら、事前に防いどいた方が良かったんじゃないですか?」

「いや全くその通り……。なんだけど、お偉い貴族の息子だからね。場合によっちゃこっちのクビが飛んでしまう場合もあるから、そう簡単にはいかないのさ」

「面倒な話ね」

「本当だよ……。さて、それで、君達はこの件に協力してくれるってことでいいのかい?」

「ああ、そのつもりだけど。何をすればいい?」

「そうだね。少々危険だが、一番手っ取り早いのは、囮かな」

 

 王国ならともかく、帝国では俺達の素性はそこまで知られていない。一見すると中級冒険者になってそれほど経っていない未熟者、とされても仕方ない状況ではある。

 それを逆手に取って、件の貴族の冒険者の次のターゲットになってしまおうという作戦だ。他に被害が行かないので、確かにこれが一番手っ取り早い。

 問題は、向こうの冒険者、ないし何かしらの奥の手よりもこちらが強くなければならないことだ。向こうの悪事を暴いても、撃退出来ずに負けてしまえば結局被害者の仲間入りするだけである。

 

「自称魔王級とぶつかって、援軍が来るまで無事でいた。まあそれだけで実力詐欺にはなるだろうから、丁度いいと思うけどね」

 

 勿論いい意味で。そう付け加えながらマスターは笑う。何より妖精姫がその辺りを見越して援軍として寄越したのだから、まず間違いない。そう言葉を続けた彼は、そういうわけだから頼んでいいだろうかと締めた。

 

「わたしはエミル次第ですけど。まあ別にいーんじゃないかなとは思いますよ」

「そうね。何より、あたし自身でぶっ飛ばしたいとも思うし」

「ワタシもそれでいいと思うよぉ……」

「じゃあ決まりだ。けど、本当に囮になれるのか?」

 

 そうマスターに尋ねると、まあその辺りは心配いらないだろうと返された。

 

「今回の事件のことを考えると、恐らく若い少女が集まっているパーティーを狙いにするだろう。君達のところは、まあ見た目ならかなりの美少女揃いだからね。下手な女性だけのパーティーよりも狙い目だと考えるんじゃないかな」

 

 中身は虫だけどな。マスターの言わなかったことを心中で付け加えつつ、俺はそれなら大丈夫かと彼に返した。そうしながら、そうなると、と言葉を紡ぐ。

 

「俺は向こうにとっちゃ厄介な邪魔者ってわけだ」

「そうなるだろうね。多分、がっつりと狙われるよ」

「丁度いいさ。こいつの使い勝手を試したかったところだしな」

 

 そう言って俺は腰の剣を軽く叩く。こちらに来る前に強化してもらった悪徳の剣。その刀身が、鞘の中で軽く光ったような気がした。

 

「わたしたちも武器の出番が来そうですね」

「来るといいけれど。どうかしらね」

「そこはどっちでもいいよぉ……」

 

 そんな俺と同じように、各々の武器の収納状態となったアクセサリーもキラリと光っていた。

 

「さて、じゃあ早速」

 

 ギルドの方に行って、囮になってみますかね。

 

 

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