幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第五十九話

 ツリーオークが五体。俺達それぞれ一体ずつだとしても一体余る。あそこで動かなくなっている連中で一体、という計算だったのならまあギリギリか。流石に一体ならあいつらでも倒せるだろう、まがりなりにも中級やってたんだろうし。

 まあそんなことを言っていても仕方がない。とりあえず適当にぶっ倒していく感じでいけばいいだろう。

 

「スロウ、支援頼む」

「りょーかいですよー」

 

 全員に支援を掛けたスロウは、それでどうしますかと俺に問う。自分も攻撃してもいいのかという質問だろうけど、まあその辺りは自己判断でいいと返す。剛腕の鍛冶師の武器もあるし、迷宮の管理者との修行もあるし。

 それを聞いたスロウは、よしと拳を握ると俺の隣に立った。言っておいてなんだが、大丈夫か?

 

「ふっふっふ。わたしのパワーアップをとくと見るといいですよ」

「……大丈夫か?」

「む。わたしの拳は光って唸りますからね!」

 

 本当に大丈夫か? そうは思ったが、ちぇすとー、という声と共にツリーオークを殴り飛ばすのを見てその考えは吹き飛んだ。スロウの格闘能力がいきなり跳ね上がったということは無いだろうから、この威力は流石剛腕の鍛冶師というやつか。

 なんでそうなるかといえば、殴ったスロウ自体が驚いているからな。

 

「お、おー」

「予想以上だったみたいだな」

「ふ、ふっふっふ。想像通りです」

「はいはい」

「流した!?」

 

 まあいいから、とりあえず今回はお前も攻撃要員として数えるぞ。そう述べると、スロウは任せてくださいと拳をブンブン回していた。

 よしじゃあ残り二体は。そう思って向こうを見ると、ツリーオークの一体が炎上しているところであった。まあ木属性のモンスターな上にウッドベアより木に近いんだから、アリア相手じゃそうなるよな。

 

「どうだアリア、その杖の、杖か? の様子は」

「想像以上に使いやすいわ。扇にしてもらったから、アリアンロッテ味も増してかなりいい感じよ」

 

 パチン、と扇を閉じ、それを口元に持っていく。クスリと笑うその仕草は、成程悪役令嬢アリアンロッテに重なるようで。

 

「今アリアちゃんにドキッとしましたか?」

「お前はどこを見てるんだよ。敵に集中しろ」

「その言葉、そっくりそのまま返しますからね! むー。アリアちゃんは可愛いですけど、わたしのほうがエミル大好きなんですから!」

「心配しなくても取らないわよ。それに……いや、これはそこのボンクラから直接聞いたほうがいいわね」

「誰がボンクラだ誰が」

「あんた以外に誰がいるのよ」

 

 やれやれ、と肩を竦めるアリア。そんなアリアを見て何か文句を言おうとしたが、そろそろ敵に集中しなさいと言われて押し黙った。それはそうかもしれんが、じゃあお前はどうなんだ。そんな思いを込めてアリアを睨むと、何を言ってるとばかりに鼻を鳴らされる。

 

「この杖のお陰で、あたしの鱗粉の操作は前より向上してるのよ。だから、ほら」

 

 バシ、と扇を開く。それと同時、燃えてなお動こうとしていたツリーオークの内部から炎が上がった。中と外、両方から燃やされたツリーオークは、文字通り木炭の塊へと変貌を遂げた。真っ黒になったツリーオークが一体地面に倒れ伏す。相性の問題もあるが、これ以上無い完勝である。

 同じ中級モンスター同士とはいえ、ツリーオークの方が強さとしては上とされている中でのこの結果だ。やっぱりもう上級モンスター相当になっているという話は本当なのかもしれない。

 ということは、と俺はシトリーを見る。新たに手に入れた大剣でツリーオークの攻撃を受けながら、三倍近い体躯の相手にびくともしていない姿を見てやっぱりと頷いた。

 

「どうか、したのぉ……?」

「いや、強くなってるな、ってな。そうやって攻撃受けてるのに喋れる余裕があるところとか」

「それは、この武器のおかげだよぉ……」

 

 そう言いながらツリーオークを押し戻す。そのまま大剣を構えると、えい、というぽやぽやした声とともに刃を大木の体に突き刺した。

 と、同時に背中がぱくりと割れ、アリジゴクの本体が現れる。顎で木の幹をガシリと掴み、同時に刺した剣を口で握りしめるような形となって。

 

「えぇい……!」

 

 そのまま咥えた大剣を振り抜いた。アリジゴクの顎の刃と大剣の刃の相乗効果で、ツリーオークが真っ二つになる。下半身だけになった部分はしばらくヨロヨロと歩いたが、そのまま前のめりに倒れて動かなくなった。

 が、流石は植物形モンスター。上半身はまだ動くようで、這いずりながらシトリーの疑似餌に向かって腕を振り上げている。

 まあそんなことは承知の上。何しろシトリーも虫と植物の混合モンスターだ、そういう耐久値や再生能力は自分も持ち合わせているので、同族相手に油断することもない。

 いつの間にか地面に潜んだアリジゴクが、這いずるツリーオークを捕捉していた。流砂のようになった地面で身動きを取れなくした後、飛び出したシトリーの本体で捕食する。本来ならばそういう流れだが、今回は咥えた大剣を突き刺し、そして再度振り抜いて叩き切っていた。

 

「食べやすいように、細かく刻むよぉ……」

 

 言っていることは大分アレだが、ともあれシトリーの斬撃で三枚おろしにされたツリーオークは、そのままアリジゴクの顎でバリバリと砕かれ、美味しくいただかれた。

 木炭にされた一体と、食われた一体。二体が倒され、これで残るは三体。

 

「どーします? 残りの二体はエミルが倒しますか?」

 

 せっかくなら武器の能力もっと使いたいだろうし、とスロウが述べる。相手は中級でも上の方なのでそんな軽く言える相手じゃないんだけどな、本来なら。そんなことを思いはしたが、スロウの俺を信じ切っている言葉を聞くとまあ俺ならやれるんだろうともなるわけで。

 

「大丈夫ですよ。エミルなら余裕です」

「そうかい。んじゃいっちょやりますか」

 

 それはそれとして、お前の担当の一体、倒しきれなかったらアリアかシトリーにトドメ刺してもらえよ。そう返すと、大丈夫ですよという返事が来た。こっちの大丈夫はちょっと怪しいが、まあスロウがそう言うんなら信じておくとしよう。

 

「さて、と」

 

 改めて、悪徳の剣を構える。そうしながら、鞘の方にも魔力を込め、武器の真価を引き出すように集中した。

 二体のツリーオークが動く。太い腕を振り下ろしこちらを押し潰さんとするが、その程度の攻撃ならば問題ない。単純な物理攻撃ならば最高峰を何度か見ている。最小限の動きで躱すと、悪徳の剣をそこに振り抜いた。

 

「流石剛腕の鍛冶師」

 

 太い枝で構成されたツリーオークの腕が、ほとんど抵抗なく切り裂けた。流石に刀身の長さの関係上真っ二つとはいかなかったが、それでもブラブラと千切れかけた腕を見たことでツリーオークも一歩下がる。

 いくら大剣とはいえその刀身より長いであろう幹を真っ二つにしたシトリーのことは気にしないことにした。多分武器の特性か何かだろう。

 ともあれ。千切れかけた腕をツタで繋ぎ合わせて再生させたツリーオークは、再度こちらに向き直り攻撃せんと腕を振り上げる。

 

「エミル、多分そっちのやつがこの五体のリーダー格ですね」

「ああ、ちょっと厄介ってことか」

 

 ということはもう一体はそれよりは少し弱い、と。ならば先にそれを始末した方がいいと判断した俺は、眼の前のツリーオークの隣の個体に向けて剣を振り上げる。迎撃しようと腕を振り上げたそれを切り裂きながら、本体である幹に一撃を。

 

「っと」

 

 ツタを伸ばし、まるでクモの巣のように、あるいは投網のようにこちらを捕まえようとして展開されたそれを躱し、俺は小さく息を吐いた。

 成程、少し弱いとはいえ、リーダー格とサブリーダーみたいな感じで二体同時行動をしてる感じか。他三体と比べるとこの二体は別って考えていいのかもしれないな。あるいは、その特性を発揮する前にアリアとシトリーに倒されたか。後者の場合俺が弱いって言われてるみたいで少し凹むが。

 

「相性でしょ。どうする? 手伝ってもいいけど」

「いらん」

 

 アリアにそう言って武器を構え直す。はいはい、と元々そこまで本気ではなかったらしいアリアは手をひらひらとさせながら下がり、スロウの観戦に行ってしまった。背後ではスロウがこっちも別に大丈夫ですからね、と騒いでいるのが聞こえる。

 そんな声を聞きながら、俺はもう一度鞘を握り直した。発動可能にしたまま使っていなかったそれを、今度はきちんと発動させる。スロウの支援ではない、込められた、別の能力を。

 ツリーオークがツタを固めて武器を作り出す。ブーメランのようなそれを投擲し、そしてもう一体はこちらに先程の投網を放ってきた。片方を避ける、片方を切り裂く。

 そうしても、ブーメランは再度俺の背後から迫りくるわけで。

 

「残念だったな」

 

 俺の背後のブーメランが弾かれた。鞘の効果によって生み出された光の盾が、戻ってきたブーメランを弾いたのだ。

 そう、仲間の能力を一部入れておける、というのは別にスロウに限ったことではない。ここにはスロウ以外にもアリアとシトリー、そして妖精姫の力が入り込んでいるのだ。俺の限界値もあって妖精姫の能力はほんの僅かも僅かで本来の彼女と比べると悲しくなるくらいなのだが、こうして展開すれば相手の攻撃を一度くらいは弾き返す盾になる。二度目は無理だろう、多分俺が持たない。

 ともあれ、そうして相手の攻撃を弾いた俺は、背後を気にすることなくツリーオークへと接敵。鞘に剣を一度収め、アリアの能力を起動。剣に炎をまとわせた斬撃をツリーオークに叩き込んだ。切り裂かれた部分が焼け焦げ、声にならない悲鳴が響く。返す刀で十字に切り裂き、一体を斬り伏せた。

 残るは一体。俺は鞘を投げつけながらシトリーの能力を起動させる。相手の攻撃は俺ではなく鞘の方へと誘導され、俺の前で隙を晒すことになった。

 

「これで、終わ――」

 

 ツリーオークを切り裂く。そのタイミングで、俺の体がガクリと揺れた。何がどうなった、と思いはしたが、それよりも今重要なのは眼の前の相手を倒すことだ。

 

「――終わりだ!」

 

 悪徳の剣が輝く。先程は枝の腕を真っ二つに出来なかったその斬撃は、今度は幹を切り裂いた。ギギィと木がへし折れるような悲鳴が辺りに響き、もう一体のツリーオークも動かなくなる。

 それと同時に、俺もべしゃりと地面に倒れ込んだ。

 

「エミル!? どーしたんですか!?」

「どうしたっていうか……」

 

 体に力が入らない。なんだこれ、と自分でも不思議に思っていると、こちらにやってきたアリアが呆れたように肩を竦めていた。そういえばあんたは魔法使わないから知らなかったんでしょうね、と呆れられた。

 

「魔力切れよ」

「魔力切れ?」

「そう、鞘の能力使うのに魔力を消費してたでしょう? あんたもそれなりに魔力持っているんでしょうけど、流石にその鞘を無闇矢鱈に連打出来るほどじゃなかったって話よ」

 

 成程。いやまあ確かに、劣化しているとはいえ上級モンスター並みのスロウやアリアやシトリーの能力を使いまくったり、ましてや属性頂点の能力を発動させたりが簡単に出来るはずもない。少し考えれば当たり前のことである。

 

「まあ、あんたのあの集中と比べればごくごく普通の倒れ方よ、安心しなさい」

「そうか……。いや待った、それはそれとして」

 

 シトリーはまあ魔力使わないだろうから置いておくとしても、スロウやアリアがそんな魔力が切れるだの減ってきただの聞いたこと無いんだが。そんな疑問をぶつけると、アリアはそりゃそうよと返答をした。

 

「あたしの場合、基本は鱗粉の操作くらいにしか使わないから使用魔力はほんの僅かよ。魔力が切れる前にあたしの鱗粉のほうが切れるくらい」

「あー、そういうことか。じゃあ、スロウは?」

「魔力切れとか言われてもピンときませんけど」

「おい」

 

 こいつ、今まであんだけ支援やら回復やらばかすか使ってて魔力が減るっていう感覚を味わってないのか。だとしたら、こいつの魔力一体どれだけあるんだ。そんなことを思いアリアを見ると、まあこいつは規格外だからとばかりに肩を竦められた。

 いつぞやに隠れ潜む百花が言っていた、属性頂点の後継っていう話が若干現実味を帯びているようで末恐ろしくなる。

 

「まあそれもこれもエミルへの愛の賜物ですよ」

「それで片付けていいわけないだろ」

「まあ、もういいんじゃないかしら」

「うんうんうん……」

 

 ドヤ顔でそう述べるスロウにツッコミを入れる俺、もうどうでもいいやと流すアリアとシトリー。そんな状態になりながら、俺達はツリーオークの討伐を完了して、いや待った。

 

「おいスロウ、お前のほうはどうだったんだ?」

「倒しましたよ。ほら」

 

 さあ見ろ、とばかりに殴って殴って殴りまくった結果へし折れたであろうツリーオークを指差す。支援や回復をガン積みしてひたすら殴った感のあるそれは、先程の底なし魔力を体現しているようでもあった。多分普通の聖女はもうちょっと違う戦い方するんだろう。

 そう一瞬思ったが、聖女とはバーサーカーであるという例のアレを思い出し、ついでに聖女の先輩であるセフィも結果として似たようなことになりそうだったので何だかもうどうでも良くなった。

 

 

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