話の都合上、不快な表現が含まれています、ご了承ください
「……はっ! な、何だこれは!?」
「何だも何も。捕まえたんだから縛られてて当然だろ」
「き、貴様……! ……何でへたり込んでるんだ?」
「うるせぇよ」
ツリーオークも無事討伐したので、改めてふん縛った連中をよっこらせと運び出す。死んでる貴族の男は死体を拘束してからスロウに《リザレクション》を掛けてもらった。蘇生した貴族の男がギャーギャーうるさいが無視の方向で。こちとら魔力切れで動くのだるいんだ。
まあ自分のせいだけどな。スロウのアホみたいな魔力量とかを基準にしていたからか、自分自身の魔力の使い方をよく理解していなかった。中級冒険者の講座を受けたのにも拘らず、こういう基本的な部分で経験不足からくる失敗してしまうとやっぱりまだまだ未熟だと少し凹む。
まあそれはそれとして。証拠の録音も手に入れたし、壊れはしたが魔物を操るオルゴールと人を麻痺させる香入れも押収した。これらがあればこいつらのやっていた悪事は流石に実家の侯爵家でもかばえないだろう。権力で潰そうにもこれらを持って告発するのは光属性の頂点、妖精姫だ。そんなものは通用しないし、なら武力で無理矢理、なんてことも出来はしない。向こうにとっては詰みだ。
「まあそういうわけだから、諦めてお縄につくんだな」
「くっ、ふざけるな! 俺がそんな簡単に捕まるとでも!?」
「いやもうどうしようもないだろ? 妖精姫相手にどう立ち向かうんだよ」
「属性頂点とはいっても所詮モンスター、あのオルゴールで」
「だからぶっ壊れたって言ってんだろ。大体、妖精姫の作った薬で無効化された程度のものが本体に効くはず無いだろうに」
「そもそも、こんな簡単に壊れる時点で、剛腕の鍛冶師さんが作ったって話も怪しいですよね」
「まあ偽物でしょうね」
「そんなはずはない! あれは正真正銘剛腕の鍛冶師の魔道具だ!」
まあ本人がそう言うんならそういうことにしておこう。その場合、使いこなせなかった情けない奴ということになるんだけど。
ともあれ。もう打つ手のないこいつらは大人しく捕まるしかないわけなんだが、そこんとこどうなんだろう。お仲間のプリーストと魔術師はもう諦めたのか大人しくしているみたいだが。
「ぐっ。いいのかお前達! ここで俺を捕まえたら、後で後悔するぞ。侯爵家を敵に回すのと同じだからな」
「だから」
「妖精姫の依頼だから? お前達自身は妖精姫と関わりのない平民だろう? 体の良い鉄砲玉にされただけの冒険者が、後ろ盾を手に入れたと思って威張り散らすとは滑稽だな」
そう言って笑う貴族の男を見て、成程確かに一理ある、と俺は思う。妖精姫の依頼を受けた冒険者という肩書はあれど、向こうからすればこれ一回こっきりの関係だと思われても不思議ではない。
鞘の、仲間の能力を使うといって妖精姫の能力を出現させた時、こいつ死んでたしな。
「妖精姫さんはわたしたちの友達ですよ」
「口ではなんとでも言える。でまかせだろう」
「まあ、そうね。普通はそうなるわよね」
「うん、そうなるよねぇ……」
はぁ、とアリアが溜息を吐き、シトリーがたははと苦笑する。とはいえ、別にこいつに納得して貰う必要はないので、傲慢な態度のままだろうが向こうに突き出せばそれで終わりだ。
どのみち何を言っても証拠がないのでこの場で納得させるのは無理だろう。それは皆分かっているのか、実は俺達が帝国の冒険者ではなく、王国の、ベルンシュタイン公爵家所属だということも出さなかった。
「よし、じゃあ《テレポート》でさっさと戻りますよー」
魔法陣を生み出し、現れた光に下手人をポイポイと投げ込む。そうした後、俺達もその魔法陣へと踏み込んだ。そうして移動した先は、ギルドの一角。突然ふん縛られた貴族の男とその仲間が現れたマスターは目を見開いていたが、次いでやってきた俺達を見てああそういうことかと胸を撫で下ろしていた。
「その様子だと、作戦は成功したみたいだね」
「ああ」
録音した魔道具をマスターに渡す。そうしながら、妖精姫はどうしているのかと問い掛けた。彼女なら、とマスターが口にするよりも早く、ドタドタという音と共に扉が開き、ちっこい少女が部屋に飛び込んできた。
「《テレポート》の気配がしたんできたんスけど、やっぱり」
「よう、妖精姫。捕まえたぞ」
マスターの部屋の椅子に座りながら手を軽く上げる。そんな俺を見た妖精姫はホッと胸を撫で下ろし、しかし座ったままの姿を見て怪訝な表情に変えた。
「エミルさん、どうしたんスか? なんか体調があまり良くなさそうっスけど」
「あー、いや。ちょっとした魔力切れだ。気にしないでくれ」
「魔力切れ? 何でまた……剛腕の鍛冶師の鞘のせいっスか」
ははは、と笑って誤魔化す。これは鞘が悪いというより俺の経験不足のせいだ。魔力が切れる前にやめれば、あるいは鞘の能力をほどほどで抑えておけばならなかった失態である。なので、そう気にすることじゃないと妖精姫には述べた。
「まあ、確かにエミルさんは魔法とか使うタイプじゃなかったっスから、そうなるのも仕方ないのかもしれないっスけど。剛腕の鍛冶師にはある程度でストップさせる調整させといたほうがいいか」
「そこまでしなくていい。俺の問題だし」
若干過保護な妖精姫の提案を断りながら、そんなことよりこいつらだと貴族の男とその仲間を指差した。妖精姫もそうだったと視線を俺達からそちらに向け、そして真っ直ぐに奴らを見やる。
「反省する気は、ないっスか」
「ぐっ……うるさい! 俺は平民とは違うんだぞ! あいつらをどうしたって勝手だろうが!」
「冒険者はみな冒険者、違わないっス。まあ確かに、あんたらが陥れた中に冒険者としての手続きサボった人達とかもいたっスけど、でも、だからといってあんなことをやっていい理由にはならないっス」
はぁ、と妖精姫が溜息を吐く。今回の被害者を助けに行った過程で、前回の被害者も芋づる式に引っ張り出せたらしい。そんなことを告げながら、勿論それでそちらの罪が軽くなるわけではないと続けた。
「最初の被害者の方は結構辱められてたっスからね。あんたらがさらった冒険者を売っぱらった違法の娼館はぶっ潰したっスけど、それで被害者の心の傷が癒えるわけじゃないっス」
「な、どうしてあそこが」
「あんたらのパーティーメンバーだった娘とは顔見知りだったっスからね。これでもあちきは光属性、そこから追跡させてもらったっス。……もっと早く、気付いてやれればよかった」
そう言って妖精姫が目を伏せる。最悪一歩手前で助け出されたとはいえ、その心に負った傷は如何ほどだろうか。
そんな妖精姫の横に立ったマスターは、書類をペラペラと捲りながら、今回の証拠と照らし合わせる。そうしながら、静かに言葉を紡いだ。
「冒険者への暴行、女性冒険者を違法娼館へ売却。この二つだけでも資格剥奪と重罪なのは間違いない。余罪も色々ありそうだし、まあさっきまでの態度からして反省の余地無し。一生牢屋から出られないと思っていいだろう」
「なっ、ふ、ふざけ――」
「ふざけてなどいないよ。お前達はそれだけのことをしたんだ。死罪にならないだけ温情だと思ったほうがいい」
「冒険者には冒険者のルールが有る。けど、あんたらのそれは冒険者とか以前に人としてのルールを逸脱してるっス。モンスターのあちきが言うのもなんスけど、まあその辺は調停者としても人の世にどっぷり浸かってるんで勘弁して欲しいっス」
ギルドマスターと属性頂点。それらが有罪だと沙汰を下した。これで間違いなく冒険者としては終わりだろう。罪の方も、まあ侯爵家の権力でどうにかしようにも相手は妖精姫、属性頂点だ。温厚でお人好しだが、だからこそこういう時には決して自分を曲げないだろう。向こうとしても下手に逆らって物理的に潰されるよりはとかげの尻尾切りのようにこの男を見捨てた方がずっと軽症だろうしな。
そうしているうちに警察も到着。向こうの牢へとしょっぴかれていった。とりあえずはこれで一件落着といったところだろうか。被害者の方は、俺達ではどうにもならないからな。
「マスター、しばらく彼女達を預からせてもらっていいっスか?」
「……ああ。その方が傷が癒えるのも早くなるかもしれないしな」
下手人は引っ立てられていったが、何がどうなったかの調書は終わっていないわけで。ギルドマスター立会のもと、その辺りを俺達は話し書類に纏めてもらっていた。
「しかし、成程な」
書類を作りながらマスターは呟く。上手く行っていたので、前回も前々回も恐らく同じ手口だったのだろう。麻痺の香炉で人間は動けなくさせ、女冒険者は辱める、男冒険者は魔物操作のオルゴールで呼び寄せたモンスターで暴行し金品や装備を奪い取る。証拠は貴族の権力で握り潰す。一回目で味を占め、二回目で確信し、自分は捕まらないと調子に乗って三回目を行ったわけだ。
まさかその三回目の相手が、麻痺の香炉はモンスターなので通用せず、魔物操作のオルゴールは妖精姫の薬で耐性持ち、だとは夢にも思うまい。
「ついでに、格下だと思ってた相手が数段格上だった、というのもだね」
「自分ではその辺分からないんだが」
「ははは。君達の強さはもう中級の上澄みを超えているよ。上級冒険者になっても恥ずかしくないくらいにはね。いやはや、これでまだ一年経つか経たないかの新人冒険者だとは」
そう言いながらマスターが笑う。そんなことを言われても、俺の中では正直ピンとこない。ついさっきだって自分の限界を分からず魔力切れを起こしたくらいだ。
「まあその辺は別に問題ないんじゃないですか? エミルはもう十分強いですし」
「そう言われても、上級冒険者になるかどうかは話が別だろ」
「別に上級になれ、なんて言われてないでしょ? そんなこと言っちゃって、実はちょっと期待してたり?」
「なわけあるか。……いやまあ、お前らの強さは上級モンスターなのかもしれんが、俺はそこまでだろ」
「そう、かなぁ……」
シトリーはそう言って首を傾げるし、スロウとアリアも同じように納得していない顔をしている。が、そこら辺を俺は違えるつもりはない。どれだけ言ったところで、俺はまだ中級冒険者であり、そもそもそれですら分不相応だと思っているくらいだからだ。
「本当っスか?」
「何だよ妖精姫まで」
「いや、エミルさんの強さに自信がないのは分かったんスけど、でも流石に中級冒険者が分不相応ってのは嘘っスよね?」
「いや、嘘じゃないぞ。……まあ、下級やってるのも違うかな、とは思うけど」
だとしても、まだ新人とも言えるような奴がこんなところにいるのは間違っているんじゃないかという気持ちが消えないのは確かだ。
「んー。エミルさんって、普段はそうでもないのに、時々すごく自信無くなる時あるっスよね」
「そう言われても自分では分からん」
というか、俺が自信持てるのはスロウに認められた時くらいだ。いや違う、今の無し。
そんな俺の中の葛藤を知ってか知らずか、マスターはそれなら少し自信を持ってもらおうかと顎に手を当て笑みを浮かべていた。
「実は、教国の上級冒険者パーティーが依頼のパートナーを探していてね」
「ん? 何で教国の上級冒険者が帝国に?」
妖精姫も初耳だったのか、マスターのその言葉を聞いて首を傾げている。対するマスターもまあちょっとワケアリで、と苦笑していた。
なんでも、帝国の上級冒険者の上澄み、所謂勇者や英雄と呼ばれる連中は現在別の依頼を行っているので、王国と帝国の二つに並ぶ大国の一つ、教国で暇している上級冒険者が応援にやってきたのだとか。
「ちょっと待った。じゃあその上級冒険者も勇者英雄級ってことか?」
「まあ、そうなるね」
「その辺と一緒にとか無理に決まってるだろ」
実力が天と地ほども違う連中の足手まといにしかならない依頼なんぞ御免被る。そんなことをマスターに述べると、そんなことはないだろうと返された。
「さっきも言った通り、君達の強さは上級冒険者と遜色ない。一緒に依頼を受ければ、向こうもそう言ってくれるはずさ」
「それが、自信を持ってもらうってことか……。いや無理だって」
そもそも、帝国の依頼だろ。だったら帝国の実力のある中級なり何なりに頼んだほうがいい。そうは思ったが、マスターは苦笑しながら実はもう一つの理由があると述べる。
依頼内容というのが、自称魔王級の痕跡の確認、だ。そしてその自称魔王級というのが。
「あの時君達が戦ったやつのことさ」
「妖精姫と隠れ潜む百花が倒したやつのことか? 死んでないってことはないんだろ」
「勿論。もしそうだったらもっと早く緊急依頼が出ているよ」
だったら何故、と問い掛けると、マスターは表情を真剣なものに変え、実は、と言葉を紡いだ。
曰く。あの時と同じようなスノーラビットの大量発生が再び起きている。前回のこともあり、中級冒険者をホイホイと向かわせることも出来ないので、上級冒険者、出来れば勇者級にそこの確認をお願いしたのだとか。
「最近自称魔王級の事件が少し増えてね。確定しているところに帝国の勇者級を向かわせているんだけど、不確定の、それも確率の低い場所には人員が割けない」
「それで、他国の勇者級に応援を頼んだ、と」
「別に、そういうことならあちきがサポート行くっスよ」
「妖精姫様には、今回の被害者のケアを頼んでいるからね。それに、属性頂点の感覚としても、そこには自称魔王級の気配はないだろう?」
「まあ、この間のこともあるんでセンサー広げてるっスからね。湧いてたら気付くっスけど」
ううむ、と妖精姫が顎に手を当て考える。まあそういうからには本当に自称魔王級ほどの大物は出てこないと見ていいんだろう。それに、教国の上級冒険者、勇者級までいるとなると、実際心配するような事は起きないのかもしれない。
しかしそうなると、ますます俺達が行く意味がない。いや、だからこそ、俺に自身を持たせる依頼として選んだのか。
「だとしても。なんでそこまで俺達を気にかけるんだ?」
「妖精姫様の友人だからというのが一つ。将来有望だと感じたのがもう一つ、かな」
そう言ってマスターは笑う。その辺り、君の故郷でも言われているんじゃないか、そう続けられ、村のギルドでいつも俺に構うお姉さんの顔を思い出した。
「……勇者級と仕事したって土産話でも、お姉さんに持って帰るか」
「そーしましょうそーしましょう」
「何だお前、意外と乗り気だな」
「エミルの強さをしっかり見せるチャンスですからね」
そう言って拳を握るスロウ。いや、相手は勇者級だぞ、そうそう出番なんかあるわけないだろ。
そんな俺のツッコミは、あらそうかしらと言うアリアの言葉で掻き消された。マスターの持っていた教国の上級冒険者、勇者級のメンバーを見ながら、アリアがどこか面白そうに口角を上げている。
「ほら、ここ。見覚えない?」
そう言って指差したメンバーの名前、そしてそこに載っていた顔写真。それを見て、俺は思わず目を見開いた。
「クロード!?」
「え? でも、あの人、あの時は確か、中級の上澄みに近いって……」
「まあ、嘘だったんでしょうね。……よくよく考えると、そうじゃなきゃ、片腕折れたまま属性頂点の護衛をするなんて芸当出来るはずないもの」
「じゃあ、あの時はやっぱり手加減されてたのか」
まあそうだろうなとは思っていたが、改めてその事実を突きつけられると何だか無性にムカついてくる。今度こそちゃんと一撃ぶち込んでやる、という思いが沸々と湧き上がってきた。
「マスター」
「お、決めたかい?」
「ああ。受けるぜ、その依頼」