幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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たまにいるギミック系ボス


第六十二話

 一気に元魔王級のアンデッドに肉薄する。剣を振り抜くと、どこからともなく現れたアンデッドの群れに斬撃を防がれた。骨自体は大した強度ではないが、量が多い。威力を殺され、そしてその間に向こうは斬撃の範囲から離れている。

 

「生きてた時より効率的に骨を使ってないか?」

「どうかしらね。防御特化になった、ってだけかもしれないわよ」

「どーなんですかね。……来ます!」

「任されたよぉ……!」

 

 大量の骨が波のように襲い掛かってくる。やっぱり生前より使い方が上手い。アンデッドになったことでその辺りの能力が強化されたんだろうか。だとすると、本体の強さは上級でも実力は変わらず自称魔王級なのかもしれない。

 そんなことを思っている間、シトリーが大剣と自身の疑似餌を盾にして迫りくる波から俺達を守ってくれていた。大丈夫か、と思わず声を掛けると、疑似餌を被ったままのシトリーが問題ないという返答をする。

 

「派手だけれど、ちゃんと防げるんだよぉ……」

「見た目ほどの威力はない、ってことかしら」

「そーっぽいですね。って、あ、向こうは大丈夫なんでしょうか」

「あ。そうだ、クロード!」

 

 慌てて振り向くが、向こうは向こうで余裕の表情で骨の波を防いでいた、まあ勇者級を心配とか、余計なお世話だったか。

 

「これ相手にこっちの心配出来るエミル君達も相当だよ」

「やっぱり中級なりたての強さじゃないでござるな」

 

 リナさんとアスカさんがそんなことを述べる。そう言われても、今のところこの攻撃を防いだのはシトリーの、仲間の評価であって俺の評価ではない。ついでいえばこいつらが強いのは分かりきっている。

 

「なら、エミルくんの強さを見せてもらいたいですね」

「うるせぇよ」

 

 クロードの胡散臭い笑みを背中に受けながら、引いた波をかいくぐるように俺は再び駆け出した。面攻撃が駄目なら点攻撃、とばかりに骨を重ねて腕にしたようなもの何本も生み出して俺を押し潰そうとするが、余裕のある攻撃は自分で、当たりそうならば鞘に魔力を込めシトリーの能力で軌道を逸らして躱した。前回調子に乗って魔力切れを起こしている経験は、どのくらいまでなら大丈夫かの指針としてきちんと生きている。まだいける。

 そうして再度肉薄。悪徳の剣を横薙ぎに振るった。マントとフードを被ったアンデッド、とはいうが、顔面が骨のようになった以外は生前とそう変わりがない。元々影のような体をしていたので、だからこそアンデッド化して蘇ることが容易かったのかもしれない。

 ともあれ、そのアンデッドの胴を切り裂いたのだが、あまり手応えがなかった。生きていた時のあいつは影のような部分もきちんと実体だったが、今のこいつはもう影部分はただの幻影なのかもしれない。

 そんな影から腕が伸びた。その腕は白骨。それに影のようなものがまとわりついている状態で、なんとなくこいつの今の身体の構造が理解できそうな。

 

「ちっ!」

 

 腕の一撃を剣で受け止めた。ギャリギャリと音が鳴るそれを弾くと、今度はこちらが距離を取る。

 

「エミル、大丈夫ですか?」

「ああ、こっちは問題ない」

「そう。じゃあ、次はあたしが攻撃させてもらうわよ!」

 

 扇を広げ、鱗粉を飛ばす。アリアのそれが元魔王級の影に巻き付くように舞うと、次の瞬間大爆発を起こした。炎はアンデッドの弱点の一つであるが、骨相手だと効果が薄い。なので、アリアは炎で燃やすのではなく爆発で吹き飛ばす方向に舵を取ったのだろう。

 事実、爆発により纏っていた影が薄れ、恐らく体を構成しているであろう骨が剥き出しになっている。その状態だと、ただのスケルトンとそう変わりがない。

 

「スロウ、今だ!」

「りょーかいです。前置き省略! 《ターン・アンデッド》!」

 

 骨の足元に魔法陣が生み出される。そして浄化の光が元魔王級を包み込み、光の柱が現れた。アンデッド特効のその一撃を受けた元魔王級は、そのまま光が消えるとともにゆっくりと消え失せた。

 なんだかえらくあっさりだったな。まあ、アンデッドになったことでスロウの破魔呪文がしっかりと刺さってしまったということもあるんだろうけど。

 

「単純に、実力も増しているんですよ」

 

 そう言ってクロードが笑う。そうしながら、しかし、とその表情を真剣なものに変えた。

 俺達よりも一歩前に出る。再び迫ってきた骨の塊を剣で切り砕くと、油断をしてはいけませんよと再び胡散臭い笑みを浮かべた。

 

「どういうことだ?」

「土地そのもののアンデッド化、といえばいいのかな。ちょっとやそっとの浄化では終わらないみたいだよ」

「うわぁ、めんどくさいですね――でござる」

 

 俺の呟きにリナさんが答える。その言葉を裏付けるように、マントとフードのアンデッドが再び湧き出してきた。成程、まあつまり、あれを何回か倒さなくてはいけない、ということか。

 

「理解が早いようでなによりです。さて、どうします?」

 

 言外に、こちらに代わるか、と問い掛けてきたクロードを見て、俺は苦々しい表情を浮かべた。まあ確かに能力が落ちたとはいえ強さは上級。それがどのくらいで終わるのか分からない量出てくる。そう考えると素直に勇者級に頼った方が正しい。実際メインは向こうでこちらはサブというのが当初の作戦だったのだから。

 だがしかし、と俺は視線をスロウ達に向ける。三体とも、どっちでもいいですよと言わんばかりの表情であった。というか、もう決まってるんだろうから迷うな、と視線が述べていた。

 

「やれるだけはやる」

「成程。では、こちらは引き続き露払いでもしましょう」

 

 そう言って手をヒラヒラさせたクロードは、リナさんやアスカさんと一緒にスノーラビットの群れの間引きや余計なアンデッドの掃討に回っていった。

 助かる、と絶対に口にしないことを頭で考えながら、よしでは、と再度剣を構える。一回で駄目なら二回。二回で駄目なら三回。

 お前がいなくなるまで、徹底的に倒し続けてやる。

 

 

 

 

 

 

 今度は負けない。そんな思いを持ちながら再度一足飛びで距離を詰めた俺は、元魔王級の体を袈裟斬りにした。影がその一撃で剥がれ、何かの骨で作られた本体が露出する、すぐさま刃を返し、その骨を一文字に切り抜いた。胴体が半分にされ、下半身部分だったであろう箇所が影を失った骨の塊になると、地面に落ちて砕け散る。

 それでも気にせんとばかりに俺を貫こうとしている元魔王級であったが、その頃には既にシトリーが思い切り大剣を振り上げていた。

 

「えい、やぁぁ……!」

 

 脳天に大剣が食い込む。ミシリと音を立てて欠けた頭蓋骨ごと上半身が地面に叩き付けられた。後は任せたとばかりにこちらを見るシトリーに頷き返すと、そのまま体勢を整えようとした相手の頭蓋骨を切り砕く。上半分の無くなった頭蓋骨は、そのまま倒れることなくガラガラと崩れた。

 

「不意打ち気味とは言え、あっさりと倒しましたね」

「やっぱり中級の実力ではないでござるな」

「そうだね。でも」

 

 後ろから聞こえるクロード達の声を受けつつ、俺とシトリーはその場から距離を取る。さっき言っていた通りだとすれば、こいつはまだ倒せてはいない。

 そんな考えを裏付けるように、マントとフードのアンデッドが再び湧き出した。強さは変わらず、だと思うが、しかし。

 

「ちょっとずつ弱ってますね」

「復活するたびに土地のアンデッド化が浄化されてるんでしょうね」

 

 スロウとアリアがそんなことを呟く。無限に湧いてくるようなものじゃなくて一安心だ。

 よしじゃあ次、とスロウに声を掛ける。まあそうなりますよね、と俺の声に頷いたスロウは両手を元魔王級に突き付けた。

 

「先手必勝! 《ターン・アンデッド》!」

 

 出てきたそばから浄化されていく元魔王級。魔法陣の部分から再度湧いてきて追加でもう一回。などということは流石になく別の場所で湧いたが、逃がしませんよ、とスロウがその場所にも破魔呪文をぶっ放していた。

 

「あの呪文、あの威力だと相当魔力使うと思うんだけど。底無しなのかな?」

「やばいですにぇでござるな」

「いつも言ってるけれど、もう無理に口調変えなくてもいいと思いますよ」

「何を言っているでござるか? 拙者は最初からこの口調でござるよ、うんうん」

 

 後ろはもう余裕である。違うか、元々余裕と言った方が正しい。自称魔王を打ち倒せるだけの実力を持っている勇者級にとって、上級に成り下がったこいつは別段苦戦する相手ではないのだ。

 そんなことを思っていると、クロードがそんなことはありませんよ、と声を掛けてきた。

 

「上級モンスターならば油断していても倒せる、なんて自惚れたことを言っていると、あっという間に骸の仲間入りです」

「の割には余裕そうなんだけどな」

「頼れる味方がいますから」

 

 そう言ってこちらを向いて笑うクロードを胡散臭いものでも見る目で見ながら、俺は再度アンデッドに集中することにした。スロウが破魔呪文でモグラ叩きをしているが、そうそう何度も通用するような相手ではないだろう。文字通り腐っても元魔王級、スロウのこれを防ぐ手としては。

 

「っ、アリアっ!」

「が、はっ」

 

俺達のど真ん中に湧いた元魔王級が、反応するよりも早くにアリアを貫いた。腹に盛大な穴が空いたアリアを放り投げると、ぐるりとこちらに視線を向ける。アリアは貫かれた付近から虫の節足が、背中から羽が見えている。擬態が解けかかっている証拠だ。

 だから。

 

「スロウ、回復任せた!」

「任されました!」

「シトリー! こっちで援護頼んだ!」

「頼まれたよぉ……!」

 

 スロウは全員に支援をしていた。だから致命傷にはなっていないはずだ。解けかかった擬態も不意打ちのダメージが思ったより大きかったからだろう。

 いや、待て。本当にそうか? あの悪役令嬢アリアンロッテを貫くアリアが、その程度で擬態を解くか?

 そもそも、あれは擬態が解けていたのか?

 

「シトリー」

「どうしたのぉ……?」

「あいつをここから引き離すように動くぞ」

「? 分かったんだよぉ……」

 

 それぞれ剣と大剣で攻撃を防ぎつつ、その場から離れるように距離を取る。元魔王級はそれに引っ掛かったのか、向こうを気にすることなくこちらに攻撃をし続けていた。

 よし、これなら。そう思った矢先、俺達の眼の前に骨の波が現れた。しまった、とそれを剣で切り裂いたが、既に相手は攻撃先を俺達から向こうのスロウとアリアに変更していたようで。

 ピタリと動きが止まった。振り向いた先にはスロウしかいなかったからだ。俺はそんなことは先刻承知。シトリーも、攻撃の最中向こうが気になって視線を向けていたので、どうなっているか知っている。そもそも、スロウが全力で回復すればあの程度の傷すぐさま治るのだ。それを知らないのはクロード以外の二人と、眼の前の敵だけ。

 

「話には聞いていましたが。流石、というか」

「聖女って本来、ああいうものなんでござるね……」

「おい」

 

 向こうでそんな言葉が聞こえてくるくらいには、スロウの聖女の能力は相当のものなのだろう。これで正体が芋虫で、うねうねしながら最近は村のその辺歩いているんだから、それを見たら一般人の常識は大層酷いことになるのだろう。俺はもう慣れたし、スロウならまあそんなもんかと思っているので問題ないが。

 ともあれ。負傷して息も絶え絶えだと思っていたであろう存在の姿がないことで、元魔王級の動きが一瞬止まった。

 そして、その動きは致命的な隙になる。

 

「よくもやってくれたわね……」

 

 空から声。先程と同じように、腹から虫の節足を出し、蛾の羽を顕にしているアリアが、憤怒の表情で元魔王級を見下ろしていた。その口元からはギチギチと音が鳴っており、こころなしか瞳も複眼気味である。

 うん、ブチギレてる。そしてその理由もきっと。

 

「よくも、アリアンロッテのドレスに、穴を開けてくれたわね!」

「体の心配しろよ」

「あはは……」

 

 いや知ってたけど。この三体の中で唯一普通に服を着ているのがアリアだ。だから服の、アリアンロッテのドレスにはこだわりがあるのは知っていた。冒険者だから汚れるのはまあ多少覚悟の上で、それでも大事にドレスを着ていた。

 それにあんな大穴開けられたら、まあそうなるだろうな、と。

 そんな俺のツッコミなどどこ吹く風。虫と人の混ざり物のような状態になったアリアが、手にした扇をアンデッドに向けると、火柱が上がりあっという間に中に閉じ込められた。おい中身骨だから効きにくいって。

 と言うこともなく。炎は骨ごとアンデッドを消し炭に変えた。ガラガラと音を立てることもなく、風に吹かれ粉になっていく。

 

「エミル」

「分かってる!」

 

 ドスの利いたアリアの声に、俺は即座に剣を振り抜いた。上空で鱗粉をばら撒き、それをセンサーにして次の復活地点を捉えたのだ。つまりは俺の眼の前。復活するのと同時に頭を切り飛ばされ、返す刀で唐竹割りにする。やはり何度も倒されて復活を繰り返しているおかげで、能力が相当弱っている。

 とはいえ、それで油断できるかと言えばそんなこともない。アリアの指揮と攻撃で位置を特定し、俺とシトリーで一気にとどめを刺す。上手く行けばそれで次に、駄目ならばそのまましばらく泥仕合だ。向こうもこちらの近くに湧くようになり、スロウの破魔呪文が封じられたので、その傾向は更に強くなる。

 斬る、燃やす、砕く、爆発させる。それらを行う間にも、俺やシトリーにはダメージが蓄積されていく。まあ、その都度スロウに回復はしてもらうので、表面上はほとんどダメージがない。シトリーに至ってはほぼノーダメージのような状態に見える。

 が。

 

「はぁ、はぁ……終わったか?」

「へぅ、へぅ……ど、うかなぁ……」

 

 体力は確実に削られるわけで。一体どれだけ倒しただろう。上空のアリアもそろそろ疲れが溜まっているようで、ふらふらと蛇行飛行になっている。ピンピンしているのはスロウくらいか。いや、そうでもないな。魔力はともかく体力は割と限界っぽいらしく、ぺたんと地面に座り込んでいた。

 時刻は夕方。そろそろ日が沈む頃だ。アンデッド相手に夜の戦闘は避けたいので、いい加減倒されてくれると助かるのだが。

 

「気配は消えてるね」

 

 バーサーカー、もとい、もう一人の聖女であるリナさんが、周囲の地面を斧で小突きながらそんなことを述べた。アンデッドの群れもいつの間にか引いている。周囲を見やると、スノーラビットもその数を適正値まで減らしていた。アスカさんが、そのスノーラビットを向こうに追い払っている。

 

「では、これで一件落着でござるか?」

「そうですね。リナが言うならば、まあ間違いないでしょう」

 

 一応念の為、とスロウにもう一度だけ地面を浄化してほしいとクロードが頼む。別にいいですけど、と立ち上がったスロウは、どうせならとリナさんを見た。

 

「セフィちゃん先輩のそのまた先輩の力も、見てみたいですね」

「ははは。確かに、今回のリナは斧振るっていただけでしたからね」

「うるっさい。でもまあ、後輩聖女にそう言われちゃ、やるしかないか」

 

 そう言ってリナさんが斧を構える。ちょっと待った、斧から破魔呪文とか支援とか回復とか打ち出すのかこの人。流石にバーサーカーが過ぎないか?

 

「そういうものでござるよ」

 

 うんうん、とアスカさんが頷いているので、まあこの面子にとってこれは当たり前なのだろう。人のこと言えないが、やっぱりこの勇者級も大分おかしい。

 そうしてスロウとリナさんとで土地を浄化し、元魔王が再び湧いてこないことを確認したことで、正真正銘討伐終了と相成った。

 

「疲れた」

「そうね、流石に今日はもう限界かも」

「疲れたんだよぉ……」

「お疲れ様です」

 

 ぐだぁ、とへたり込む俺とアリアとシトリー。ちょっとだけ余裕のありそうなスロウだが、へたり込むほどではないというだけでその表情から疲れ切っているのは見て取れた。

 そんな俺達を労ってくれたのだろう。帰りのテレポートはリナさんに任せることになった。生み出された魔法陣にヨロヨロと入っていく俺達を見ていたクロード達は、しかしどこか満足そうな表情を浮かべていた。

 

「どうですか? 少しは自信がついたのでは?」

 

 ギルドに戻って報告を終え、そのままソファーでぐったりとしている俺達に、クロードがそんな言葉を投げ掛ける。

 さあな、とそれにそっけなく返答した俺であったが、しかし、とどこか独り言のように呟いた。

 

「中級冒険者だって胸を張っても、いいかもな」

「そこは上級になろう、じゃないんですね」

 

 ははは、と笑うクロードに、当たり前だと俺は返す。そう簡単に考えは変わらないんだよ。と、口にはせずに、しかし本当にそうかと頭に過ぎりながら。

 いや、やっぱりそうだよな、と現状が最適解だと結論付けた。

 

 

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