幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第六十三話

「エミル君、勇者を打倒したって本当?」

「大嘘だよ。どっから来たその話」

 

 村のギルドでお姉さんが滅茶苦茶な嘘をのたまったので即座に訂正する。おっかしいなぁ、と首を傾げるお姉さんだが、普通に考えておかしいのはその噂だか何だかの方だろう。もしくはお姉さんの頭。

 

「え、でも結構今話題のトピックなんだけどな。駆け抜けるように中級へと昇格した新進気鋭の冒険者、ついに勇者より成果を上げる。って」

「それ本当に俺達か?」

「まあ明言はされてないけど、知ってる人にはエミル君だって分かるくらいではあるんじゃない?」

 

 現状そんなスピードで中級になったのエミル君くらいだし。そう言われてしまうとまあ確かにそうかもしれないと思わないでもないが。それにしたって尾ひれが付きまくっている。というか、そもそも事実無根だ。

 

「そうなの? じゃあ勇者と一緒に自称魔王級を討伐したってのも嘘?」

「自称魔王級はこないだより前で、そもそも一緒ってほど活躍してないし、その時いたのは属性頂点だ。勇者と討伐したのはそれが復活して上級くらいまで落ちたアンデッドだ」

 

 ここんとこお姉さんとその辺の会話をしてなかったからか、俺の依頼の履歴が若干曖昧になっていたせいもあるのだろう。そんなことを思いながら、帝国での話を改めて述べる。

 ふーん、と聞いていたお姉さんだったが、一通り聞いてウンウンと頷いてから言葉を続けた。

 

「別にそこまで間違ってないね」

「大間違いだっつってんだろ。俺はそこまで活躍してない」

「そんなことないでしょ? 中級冒険者がそこまでの経験をしている時点で大活躍だよ」

 

 ねえ、と横で書類の整理をしていたアリアに話を振る。振られた方は、さあどうでしょうか、と躱していた。

 

「わたしとしてはエミルが活躍するのはけっこー嬉しいですけどね」

 

 にょき、と芋虫がエントリーする。そうしながら、でも嘘や大げさはいただけませんねと続けた。言外にお姉さんの言っていたことを否定するような形となり、うっとお姉さんも引き下がる。

 

「まあ確かに本人が言っているならそうよね、ごめんなさい」

「いーですよ」

「何でお前が許すんだよ。この場合その立場俺だろうが」

「エミルのパーティーが話の中心なんですし、わたしもその一員ですからいーじゃないですか」

 

 そう言われると反論できない。まあ別に俺もそこまで許さないとか言うつもりもなかったので、スロウの言葉には素直に頷いた。

 そうしながら、それにしてもと言葉を続ける。一体全体、何がどうなってそんな噂話が広がっているのやら。

 それに答えるように、ああそれなら、とお姉さんが言葉を紡いだ。

 

「最近吟遊詩人の女の子がこの村に来てて、今一番ホットな話題だって広めてたんだよ」

「はた迷惑な」

「それにしても、そんな噂になるような存在なのかしらね」

 

 うげぇ、と苦い顔を浮かべる俺に対し、アリアが考えるように顎に手を当ててそう呟いた。まあ確かに、今までのことを考えると、急にそんな吟遊詩人に広められるような偉業を行った感じもしないのだが。

 そんな俺の考えは、お姉さんがいやいやいやと手をパタパタさせたことで霧散した。

 

「当事者のエミル君達は知らなかったのかもしれないけど、そもそも結構噂にはなってたんだよ? 最速聖女伝説とか」

 

 峠を暴走してそうな聖女だが、よくよく考えると聖女ってバーサーカーだしそんなのがいてもおかしくないな。などと余計なことを思わず考えてしまうのはまあ間違いなく現実逃避だろう。スロウのそれもそうだが、俺の騎士称号も似たような扱いになっているだとか、中級冒険者の昇格が早すぎるだとか、属性頂点との繋がりの多さがおかしいだとか。

 そういう部分を繋ぎ合わせていくと、新たな勇者が誕生するのではないか、などという噂が作られても不思議ではないとかなんとか。

 

「勘弁してくれよ……」

「あはは。でも、正直どうなの? 多分申請すれば上級には上がれるよ?」

「絶対に嫌だ」

 

 お姉さんの言葉に即答する。ただでさえ分不相応だって思ってるのに、これ以上の重圧なんぞ耐えきれるはずがない。世間では捻くれ者だのなんだのと言われているが、こういう時の感性はごく普通だ。そこまで逆張りクソ野郎ではないんだよ俺は。

 

「まあ、そこはエミル君の判断だからしょうがないね。んー、となるとどうしようかこれ」

「何かあったのか?」

 

 ううむ、と悩むお姉さんに声を掛ける。そうやって聞いちゃうと後には引けなくなるよ、と苦笑したお姉さんは、じゃあ話すけれど、と口を開いた。あ、やっぱり無し。そう言いかけたが、もう遅い。

 

「実は、マンドラゴラの討伐依頼が出てるのよ」

「マンドラゴラ!?」

 

 上級の植物モンスターである。何が問題かって使ってくる状態異常の数が半端ではないこと、地面から奇襲をかけてくることもあるので生息域では気が抜けないこと。

 そしてなにより、見た目が完全に人に擬態できるため、普通に人の社会に紛れ込んでいる可能性があること。

 

「それって相当やばいんじゃないですか?」

「まあ人の社会に紛れ込んで普通に生活している方はマンドレイクって呼ばれて討伐対象じゃないんだけどね。スロウちゃんとかアリアちゃん、シトリーちゃんとかと扱いは同じかな」

「犯罪者のマンドレイク、あるいは狂気を持ったマンドレイクはマンドラゴラと呼ばれて、討伐対象になる。まあこの辺は人も大して変わらないな」

「そーいやそんなこと習いましたっけ」

 

 ぽん、と手を叩きながらスロウがそんなことを述べる。お前そんなんだから天才聖女とか自慢げに言ってても信用されないんだぞ。そんな思いを視線に込めると、ぶーぶーと不満を零しながら、しかし言い返せないので引き下がっていた。

 

「で、そのマンドラゴラはどっちのだ?」

「狂気の方だね。野生の、モンスターとしてのマンドラゴラ。最近この辺にも見慣れない美少女の目撃情報があって、マンドラゴラが来てるんじゃないかって言われてる」

「やべーですね」

 

 この村にいる冒険者ではマンドラゴラに太刀打ちできない。ランク詐欺のおっさん連中もいるが、流石に実力なら上級冒険者だ、とまで言えるようなのはいないだろう。

 そこまで考えたタイミングで、お姉さんがこちらをじっと見ているのに気が付いた。

 

「なんだよ」

「私は知ってるんだ。実力なら上級冒険者だって言える人」

「……じゃあそいつに頼めば解決だな。俺は必要ないみたいだし」

「ねえ? エミル君?」

「だから俺は別に実力も足りてないっつってんだろ!」

「自称魔王級と戦って無事だったり、それがアンデッド化した上級モンスターと戦って勝ったりした時点で十分だよ。ねえお願い、このままだと、討伐が完了するまでに何かしらに被害が出ちゃう」

 

 被害が出る。それはつまり、この村の誰かが犠牲になるかもしれない、という意味だ。いやまあ俺のこと散々はみ出しもののクソガキ扱いした連中なんだから、思い入れがあるかと言えば答えは否。

 だけれども、じゃあ犠牲になっても何も思わないかと言われれば、それも否なわけで。

 

「エミルって、難儀な性格してるわね」

「ほっとけ」

「でもわたしはそーゆーエミルが大好きですよ」

「あーもう。というかお姉さん、俺達が被害者になるって可能性は考えてないのかよ」

「え?」

「え?」

 

 何言ってんだこいつみたいな目で見るのやめてもらえますか? 上級モンスターと戦った経験は数えるほどしかないんだぞ。普通に不安がるものだろうが。

 

「上級モンスターと戦って平然と勝って帰ってきてる時点で十分だと思うのよお姉さんとしては」

「だとしても」

「そもそも、マンドラゴラは状態異常が攻撃のメインでしょ? エミル君達状態異常効かないじゃない」

「……そうだけど」

「あんたの負けよ、エミル」

「信じてもらえてるですし、まあいーんじゃないですか?」

 

 いやまあ、行くのはさっきのやり取りで決めたけど、こう心配を微塵もされないとそれはそれでなんというか。信じてもらえるのは、悪い気はしないけど。でもだからといってそれが良いか悪いかと言えば、いやもう知らんどうでもいい。

 

「っだぁもう! 行きゃいいんだろ行きゃ!」

「うん、ありがとうエミル君」

 

 

 

 

 

 

「やあ、どうもどうも」

「ん?」

 

 依頼を受けてギルドを出た俺達に声が掛かる。何だ、とそちらを向くと、一人の少女が笑顔でひらひらと手を振っていた。年は俺達と同じか少し上くらい、腰まで届くくらいの青みがかった長い髪をゆるふわのみつあみで纏め、赤い瞳がくりくりと可愛らしい美少女である。

 勿論見たことがない。初対面だ。

 

「実はさっきの会話聞いちゃってましてねー。ちょっと同行させてもらえないかなと思っているんですよー」

「え、嫌だ」

「あらら即答。まあ嫌って言ってもついていくんですけどねー」

 

 そう言ってキシシと笑う謎の美少女。明らかに胡散臭い。そもそも、こんな田舎に突然現れた見覚えのない美少女とか、警戒しない方がおかしいわけで。

 そこまで考えて、ちょっと待った、と俺は動きを止めた。

 

「なあ、スロウ。確かお姉さん言ってたよな。最近この辺で見慣れない美少女の目撃情報があるって」

「言ってましたね。あれ?」

 

 ぱちくり、と眼の前の見慣れない美少女を見る。そうした後俺の顔を見て、こくりと頷いた。

 

「じゃあさっさと討伐しちゃいます?」

「そうだな」

「あら物騒。いやいや、アタシはマンドラゴラじゃないですよー」

 

 そう言って両手を上げる推定マンドラゴラ。が、まあ確かにこうやって会話が出来る時点で狂気のマンドラゴラではない感じはする。するが、それも踏まえての擬態の可能性はなきにしもあらずだ。

 

「うーむ。じゃあどうすると疑い晴れますかねー」

「素直に正体を吐けば良いんじゃないのか?」

「正体も何も。アタシはしがないフリーの吟遊詩人ですよー」

 

 そう言って傍らに置いてあったカバンから楽器を取り出す。ポロロン、とそれを引きながら、ついでにとカバンから取り出した魔道具のカメラで写真を撮った。

 

「最近いい記事になりそうな人がいたんで、ちょっと遠出をしてたんですよー。そしたら、何やら面白そうなことが始まろうとしてるじゃないですかー。ね?」

 

 そう言ってウィンクする自称吟遊詩人。ぶっちゃけ怪しさが増しただけである。まあ確かにマンドラゴラの可能性は少し減ったが、それでも正体不明なのは変わらないので胡散臭いままだ。

 それもこの胡散臭さはクロードに感じてたものとはまた違うタイプの、あまり信用してはいけないタイプのやつだ。

 

「うーん信用されない。これは困っちゃいましたねー」

「そもそも信用されようとしてないだろ、お前」

「そう思います? まあそうかもしれないですけどねー」

 

 そう言ってまたキシシと笑う自称吟遊詩人。まあいい、こんなのにかまっている暇はない。そう結論付け、行くぞスロウと横に声を掛けた。

 が、スロウは自称吟遊詩人を見たまま動かない。スロウ、ともう一度声を掛けると、我に返ったようでどうしたんですかとこちらを見た。

 

「いや、だからこんなの気にしないで行こうって言ったんだよ」

「あ、そうですね」

「……何か気になるのか、これ」

「これ扱いとか酷いですねー」

 

 何か自称吟遊詩人が言っているが無視。それでスロウだが、そんな俺の質問に何か言い淀んでいた。別に大したことじゃないんですけど、と前置きし、相変わらずの態度な自称吟遊詩人を指差した。

 

「何か変な気がするんですよ、この人……人?」

「やっぱりマンドラゴラか」

「おや話が振り出しに。ふむふむ、これは疑いを晴らさないといけない感じですねー」

 

 そう言って再度楽器を手にしてポロロンと鳴らす。どうでもいいけどお前吟遊詩人なのにそれしか出来ないのかよ。

 そんなツッコミを入れると、これは手厳しいと自称吟遊詩人が額に手を当てた。

 

「お恥ずかしいことに、アタシ吟遊詩人としては三流もいいとこで」

「じゃあ何で吟遊詩人やってるんですか?」

「そりゃ勿論、色々な人の驚いた顔を見たいからですよー」

「驚いた顔?」

「そうそう、誰かのびっくりした顔、響く悲鳴、それらをこうバチッと写真に収めて伝えるんですよー」

「おおよそ吟遊詩人とかけ離れた理由だな」

「そうですか? 結構天職だと思ってるんですけどねー」

 

 そう言って笑う自称吟遊詩人。うん、間違いなく自称であってるなこれ。吟遊詩人のフリした何かだこいつ。

 ともあれ。こいつがいると碌なことになりそうもないので、いいからさっさと帰れと手で追い払う。そんな俺を見て薄情ですねー、と笑った自称吟遊詩人は、でも、と言葉を続けた。

 

「アタシ、まだあなた達の驚いた顔を写真に撮ってないんですよねー」

「知るかよ」

「まあまあそう言わずに。別に今のところ無理矢理驚かそうとはしてないじゃないですかー」

「今のところってことは、そのうち無理矢理驚かすつもりなんだろ」

「そういう揚げ足取るのはなしで」

 

 キシシと自称吟遊詩人が笑う。そうしながら、まあ勝手についてくるの気にするよりは、手元においておいた方が気が楽だろうと言葉を続けた。それは確かにそうだろう。この調子だと何が何でも無理矢理ついてくる気だろうし、かといって力付くで追い払うのもそれはそれでちょっと、と思わないでもない。

 

「優しいですねー。やっぱりみんなそういうところが気に入ってるんでしょうかねー」

「別に優しいわけじゃない、面倒なだけだ」

 

 スロウもアリアもシトリーも、その辺は多分関係ないと思う。

 それはともかく、まあもうこれ以上話していても時間の無駄だ。ついてくるなら勝手についてくればいい。そう述べると、自称吟遊詩人は目をパチクリとさせて、そういうことなら遠慮なくと笑みを浮かべた。

 

「いや本当に、最近の噂通りの人ですねー」

「だから違うっての。……いや待った。最近の噂って、例のアレか。まさかお前」

「そうですよー。例の新しい勇者候補という話題を広めてる吟遊詩人たぁアタシのことです。どうです? 驚きましたー?」

「わたしは驚きましたけど、多分エミルはキレますよ」

「そうなんですかー。うーむ、そりゃ失敗ですねー。じゃあやっぱり正攻法で行かないと駄目ですねー」

「……碌でもねぇなこの自称吟遊詩人」

 

 まだマンドラゴラの討伐っていう厄介事が待っているのに。こんなところで疲れている場合じゃないのに。

 なんだかやたらと疲れた気がする。どうしてだろうか、この自称吟遊詩人と話していると、何だか凄く既視感のある疲れ方をするような。

 

「……とにかく、まずはシトリーと合流するぞ」

「はーい」

「そこのギルドで働いている美少女さんは連れてかないんですかー?」

「ギルドで再集合してから行くんだよ。本当はさっさと合流する予定だったのに、お前のせいで余計な時間食ったんだっての」

「あらら。それはすいませんねー」

 

 そんな、ちっとも悪いと思っていないような謝り方をする自称吟遊詩人を連れ、俺は溜息を吐きながらシトリーを迎えに家へと向かうのだった。

 

 

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