幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第六十四話

 俺と三体、そして余計なおまけという面子になった俺達は、さてではどうするかと考え込む。目撃情報がある、という話ではあるが、では具体的にどこどこにいるとかそういう話ではないからだ。

 

「まあ、マンドラゴラはトラップレシアとは違って獲物は探すタイプですしねー」

 

 自称吟遊詩人がそう言って笑う。これは詰んだか、と茶化して述べるので、俺はそんな自称吟遊詩人を睨んだ。まあ確かに普段なら詰んだと言ってしまえる状況だが、今回は村の被害があるかないかの割と切実な問題だ。そう簡単に諦めるわけにはいかない。

 

「でもでも。別に村の人の事好きってわけじゃないんですよねー?」

「それがどうしたんだよ」

「いやー、すごいなと。やっぱり勇者ってそういう性格してるんですねー」

「別にそういうやつじゃない。誰かを救いたいとか、助けられるなら助けたいとか、そういう前向きな感じじゃないんだよ俺は」

「ほうほう。ではでは? どういう意味合いで?」

「……知ってるやつが死んだら寝覚め悪いだろ」

 

 ふん、と鼻を鳴らしながらそう告げると、次の瞬間自称吟遊詩人は大爆笑をした。なんだよ、何が面白いんだ。そんな意味を込めて再度睨みつけると、いやごめんなさいと笑いながらかつ悪びれることなく謝罪をする。

 

「間違いなく勇者の素質ありますよー。そういうのって、意外と言えないもんですしねー」

「んなわけないだろ」

「まあ、その辺はそこの不審者に同意するわ。勇者の素質のあるなしはともかく、あんたのそれって、普通この状況じゃ言えないもの」

「ほら、わたしとか極論エミル以外は死んじゃったらそれはそれで、とか思っちゃいますしね。まあ精々それでも身の回りくらいは助けるかってくらい」

「スロウちゃんの場合、《リザレクション》持ってるからじゃないかなぁ……」

 

 スロウのあっけらかんとした物言いにシトリーのツッコミが入る。まあそうかもしれませんね、と返したスロウは、そういうわけだからと俺を見た。何がどうなってそういうわけなのかさっぱり分からん。

 

「まあエミルさんがいい人だってことですよー」

「んなわけないだろ」

「まったまたー、謙遜しちゃって。アタシなんかは仲間、じゃないか、同僚とかその辺かな、なんか割とどうでもいいとか思っちゃいますしねー」

「それはお前が碌でもないだけだろ」

「そりゃまた手厳しい。まあ実際そいつら多分寿命以外じゃ死なないんで安心してるってのもあるかもしれませんねー」

 

 キシシと笑いながらそんなことをのたまう自称吟遊詩人。こいつの知り合いだか同僚だか知らんが、まあ多分碌でもない連中だろうということは想像に難くない。出来ることならば会いたくないなと俺は心の中で思う。

 そんな心中を知られたのか、自称吟遊詩人がこちらを見てそれはどうですかね、と笑う。案外もう出会ってたりして、なんて非常に不吉なことを言い出しやがった。

 

「お前みたいな碌でもないやつの知り合いはいない」

「そんなご無体な。アタシのその同僚の中には滅茶苦茶なお人好しもいるんですから、そう嫌わないであげてくださいよー」

 

 きっとその話聞いたら泣きますよ、とか続けた自称吟遊詩人は再度キシシと笑い、まあそれは後々の話題にしましょうかと締めた。後々も何も、お前の知り合いの話とか欠片も興味がない。

 

「そうですかー。じゃあ話を戻しましょうかねー」

「脱線させたのは誰だよ」

 

 少なくとも俺ではないしスロウやアリア、シトリーでもない。そんな意味を込めた視線を向けると、これは手厳しいと自称吟遊詩人が額とペシリと叩いた。

 そうしながら、それでマンドラゴラを見付ける方法はありましたかと続ける。あるかもなにも、それを考えようとしていたんだよそもそも。

 

「被害を極力少なくしたい、ですよねー」

 

 そんなツッコミを入れた俺に対し、自称吟遊詩人は笑みを戻すと指を一本立てた。こんなのはどうですか、と言いながら、俺達を順繰りに眺めて言葉を紡ぐ。

 

「被害が出たら即座に駆けつけて討伐する、これなら被害は最低限で済みますよー」

「被害が村の中ならな。そうじゃなかった場合、被害者が増えるだけだろ」

「おや意外。てっきり論外とか言うのかと」

 

 別に俺は聖人君子じゃないし、立派な勇者でもない。被害は無いほうがそりゃ良いが、それが確実な方法なら仕方ないと割り切るのもありだとは思う。死体が欠片も残っていないとかいうレベルじゃない限りは、マンドラゴラの被害者は恐らくスロウの《リザレクション》で蘇られるだろうという考えもあるし。

 

「まあ確かに、後々死体となって見付かったとかだと《リザレクション》が間に合わなくなった上にマンドラゴラもいない、なんてことになりかねないですしねー」

「ちょっとくらい腐ってるだけなら余裕でなんとかなりますよ」

「……それはちょっとアタシも予想外ですねー」

 

 スロウの蘇生範囲の広さに流石の自称吟遊詩人も引いたらしい。成程、とか言いながら、スロウを眺め、それはそれはと頷いている。

 

「隠れ潜む百花も後継にしたがるわけですねー」

「そんなことまで知ってんのか」

「そりゃ勿論。アタシは三流吟遊詩人なれど、驚く顔を見るためなら全力、そういうスタンスでやってますので」

「碌でもないな」

「ちょっと驚きましたー?」

「呆れたんだよ」

「あらら。そりゃ残念」

 

 

 

 

 

 

 話が進まない。とにかくマンドラゴラが本当にこの村の近くにいるのか、まずはそこに確信が持てるかどうかが分からないと動きようがない。

 

「でも、ギルドのお姉さんがそーゆー噂があるって言ってたんですし、いることは間違いないんじゃ?」

「そうね。見慣れない美少女、というのがこの不審者じゃなかったのなら、その可能性は高いわ」

 

 まあ、この自称吟遊詩人がお姉さんの言っていた最近噂をばら撒いている吟遊詩人の女の子だという裏付けは取れたし、見慣れない美少女の噂というのがこいつじゃないのも確認が取れた。すなわち、これとは別に何か見慣れない不審者が村の付近にいるのは間違いない。

 

「それが、本当にマンドラゴラかどうかは分からないんだよぉ……」

「そこなんだよなぁ」

「依頼が出てるし、その辺りを疑ったらきりがないのではないですかねー」

 

 自称吟遊詩人がそう述べるが、こういうのはある程度疑って考えたほうがいいものだ。楽観的に考えて被害が増えたは洒落にならない。

 そんな俺達に反論するように、自称吟遊詩人はふるふると首を横に振った。

 

「でも、ここで足踏みしてる間に被害が増える場合もありますよー?」

「それは、そうだな」

 

 何かこいつに真面目な意見を言われると腹立つが、確かに自称吟遊詩人の言う通りではある。まずはその謎の美少女とやらを探し出して、それがマンドラゴラじゃなかったら改めて方針を決めればいい。

 そう結論付け。そして一番最初に話題は戻った。それで結局その見慣れない美少女とやらはどこにいるのか、と。

 

「困っちゃいますねー」

 

 全然困っている様子もないように自称吟遊詩人が述べる。まあこいつの場合ただついてきているだけなので本当に困っていないのだろうが。

 そんなことを思っていると、失礼な、と言わんばかりに、というかそのままの文句を自称吟遊詩人が口にした。

 

「このまま何もなかったら取材が何の意味も成さなくなっちゃいますからねー。吟遊詩人としても割と切迫してますよー」

「ああそうかい」

 

 俺達とは別の意味で困っているのは分かったが、だからといってこちらの相談に参加できるわけではないというのも分かった。分かったんでとりあえずちょっとどっか行ってろ。

 そう述べると、自称吟遊詩人は再び失礼なと告げた。今この場では仲間じゃないですか、などと本当に思っているのかどうか分からない言葉を続けながら、半ば強引にこちらの相談に入り込んでくる。

 

「あ、ひょっとして何かいー感じのアイデアでもあるんですか?」

「あらら、ひょっとしてバレバレでしたかねー」

「……本当かよ」

「疑ってますねー。まあアタシの態度からしてそうなるのは当然ですけど」

 

 キシシと笑う自称吟遊詩人。そうしながら、ひょい、とスロウを指差して、次いでアリアを指差した。その二体がどうしたんだよ。まさか実力があるから囮でもやればいいとかいうんじゃないだろうな。

 

「それこそまさか。アタシは知ってますよー。アリアさん、ランダムで自動復活する自称魔王級がアンデッド化したやつの位置特定、してましたよねー」

「え? まあ、一応」

「そしてスロウさん。トラップレシアの群れをテイムした野党団の位置特定のため、ほぼ森全体を糸のセンサーで探ったことがありますよねー」

「そーいえばそんなことやりましたね」

 

 そこまで言うと、自称吟遊詩人は俺を見る。ここまで言えばもう分かるだろうと言わんばかりに、キシシと笑い俺の言葉を待った。

 つまりだ。お前はこう言いたいわけか。

 

「スロウとアリアで、村と周辺を探って怪しいのを探せってことか」

「ですです。どうですか? アタシってば博識ですよねー? 驚きましたー?」

「驚くと言うか、何でそんなことまで知ってるのかってちょっと怖いわね」

「アリアちゃんの方はこの間ですからギリギリだとしても、わたしのほうなんか結構前ですよ」

「それは勿論、アタシが吟遊詩人だから。でも残念、これでも驚いてくれませんでしたかー」

「ワタシは滅茶苦茶驚いてるよぉ……」

「おおっ、こりゃいい!」

 

 すかさずシトリーの顔をカメラに収める。出てきた写真を見てうんうんと頷いた自称吟遊詩人は、これはいい作品になる、と呟いていた。

 

「驚いた顔でも使って新しい記事作るのか?」

「そっちも魅力的ですけど、一番は氷像作りですねー」

「氷像?」

「ですです。あ、アタシ吟遊詩人よりも好きな趣味がありまして、驚いた顔の氷像を作るのが三度の飯より好きだったりするんですよー」

「碌でもねぇ趣味だな」

「あらら、こりゃ手厳しい。でもやってみると案外ハマるものですよー? どうです? エミルさんも一回氷像作りをしてみては」

「しない」

 

 そんなわけの分からない趣味を押し付けるな。いや、氷像作り自体は別にいいが、何で驚いた顔限定なんだよ。性癖捻じ曲がってるだろ。

 ともあれ。後半の話はともかく前半の意見は採用させてもらうとしよう。スロウとアリアに改めてその辺りを頼むと、了解と素直に応じてくれた。

 まずはスロウ。口から糸を吐き、小型の芋虫スロウを作り出すと、では早速と村の周囲にばら撒いた。村でそれをやると芋虫嫌いの連中から間違いなくクレームが飛んでくるので、村そのものは範囲から外してある。

 その代わり、とアリアを見やる。分かっているわよと空中に飛び上がったアリアは、そのまま村全体を覆うように鱗粉を散布した。普段はこれに状態異常を混ぜ込むのだが、今回は量が量な上に目的が違うので何も付与されていない。まあ多少村が粉っぽくなるがその辺りは諦めてもらおう。

 

「いやあ、凄いですねー。改めて目にすると、中々のものですよー。ふむふむ、こりゃ確かに上級モンスターの中でも相当のランクだって言われるわけです」

「なんだそれ、それも仕入れた情報か?」

「そうですねー。これは独自ルートなんですけど、属性頂点からそういう声が上がってるんですよー。最近だと妖精姫と剛腕の鍛冶師、あと傀儡人形が評価してましたねー」

「最初の二体は分かるが、何であのクソタコ女が?」

「学院での活躍をアンゼリカ様から聞いていたんじゃないですかねー」

 

 そういう意味では月の大聖女も評価してましたけれど、と自称吟遊詩人は続けるが、まあ、とどこか考え込むような仕草を取った。

 

「あいつの場合、最初からエミルさん達のファンみたいなもんなんで、当てにならないですねー」

「鳥肌立つようなこと言うな――ん?」

「どうしましたー?」

 

 今こいつ、月の大聖女のことあいつ呼ばわりしたか? いやまあ、吟遊詩人とか別に教会と何の関係もないし、何より全てに舐め腐った態度取ってそうな存在だから、とそこまで深く考えないようにした。

 

「あ、月の大聖女は知り合いなんですよー。だから結構気安いんです」

「一気に警戒度が跳ね上がったぞ」

「あらら。こりゃ藪蛇。でもあいつ、ああ見えて顔も広いし、善性高いし、妖精姫の次くらいには仲間にしておくと頼りになる相手ですよー。脳筋ですけど」

「そこが一番の問題なんだよ」

 

 俺の言葉がツボに入ったのか大笑いする自称吟遊詩人。しかしまあ、これで俺達のことにやたら詳しい理由がなんとなく分かった。情報源は月の大聖女ってことか。つまりはあいつが俺達を上級に、あるいはその先にしたいと考えていると見ていいだろう。

 本当に碌でもない。俺はただ普通に冒険者生活がしたいだけなのに。

 

「エミル。村にはそれらしき反応がないわ。人が慌てている様子もないし、今のところ被害はなさそうね」

「よし、ありがとうアリア。スロウ、そっちはどうだ?」

「んー。あ、何か変な反応あります。ミミックロウラーの群れの場所ですね」

「何でそんなところに」

「その辺はアリアちゃんのと違って詳しく分からないんで、行くしかないですけど」

 

 どうします? とスロウが尋ねるが、まあ怪しいのならば行くしか無い。アリアを地上に呼び戻し、確認しに行こうと皆に述べた。しょうがないので、自称吟遊詩人にも、だ。

 

「勿論行きますよー」

「一応言っとくが、自分の身は自分で守れよ?」

「その辺はご心配なく。アタシ、こう見えて強いんですよー」

 

 自信満々に胸を張る自称吟遊詩人を見ながら、俺は本当かよと溜息を吐いた。

 

 




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