幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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エミルはスロウがいるから状態異常は問題なしという風潮


第六十五話

 なんだかんだありつつ向かった先、以前ミミックロウラーの群れのいたその場所で。

 

「た、助けてくださいー!」

 

 一人の少女が虫にたかられて悲鳴を上げていた。青みがかった髪は背中くらいまで伸びていて、涙目になっているその瞳は赤くくりくりとしている可愛らしい美少女である。

 が、問題はそこではない。

 

「あらら、そうきましたかー」

 

 そう。ゆるふわ三つ編みにしているのとロングのストレートの違いはあれど、眼の前の少女と自称吟遊詩人が同じ顔だったのである。思わず自称吟遊詩人を見たが、別段変わった様子もなく、ただただ眼前の美少女を眺めている。

 

「おい、自称吟遊詩人」

「なんですかー?」

「は、はいぃ!」

「ん?」

 

 声を掛けたら両方から返事が来た。どういうことだ、と向こうの美少女に視線を向けると、その前に虫を追い払ってくださいという懇願が来る。まあ確かにこのままだと話が出来ないか。そう思った俺は、美少女にたかっている虫、まあ言わずもがなミミックロウラーをどうにかせんと一歩踏み出した。

 が、その一歩でビクリと反応した芋虫が逃げていく。それで逃げるくらいなら最初から俺達が来た時点で逃げろよ。そうは思ったが、まあ所詮芋虫だしそんなもんかと思い直した。

 

「今わたしのこと馬鹿にしました?」

「してねぇよ。お前は他の芋虫とは違うだろ」

 

 ずずいとこちらに寄ってくるスロウを押し返しながら、さてでは、と視線を元に戻す。見詰める先は、一緒にここに来た自称吟遊詩人と、さっき助けを求めていた美少女の二人。

 否、二人ではないのかもしれない。どちらかは一体の可能性が高まった。

 

「ど、どうしましたか? 私が何か?」

 

 俺の視線にビクリと反応する美少女。そういやさっき吟遊詩人という単語に反応してたな。それで、ここにいる自称吟遊詩人と同じ顔。ということは。

 

「おやおや。ひょっとして今アタシ疑われてますかー?」

「そりゃそうだろ。怪しさでいったら間違いなくお前の方が怪しい」

「何とも悲しい答え。涙ちょちょぎれちゃいますよー」

 

 そう言いながら鳴き真似をする自称吟遊詩人。そんな怪しさ満点の奴から、俺はもう一人の方に視線を向けた。ビクリと反応した美少女は、恐る恐るといった様子でこちらに声を掛ける。それで、一体何の用でしょうか、と。

 

「何の用って」

「吟遊詩人って声を掛けましたよね?」

「掛けたけど。……お前、吟遊詩人なのか?」

「え? あ、はい。少し前からこの森の近くの村で、活動をさせてもらっています」

 

 楽器はさっきの虫に取られてしまったんですけど、と美少女は苦笑する。そうしながら、何かに気付いたようにそれだと証明できないですよねと慌てだした。

 俺はそんな吟遊詩人を宥め、さてどうしたもんかとスロウ達を見る。何がどうなっているのか、これは俺一人では判断出来ないと思ったからだ。

 

「どっちもぶちのめせば良くないですか?」

「よくねぇよ。はい次アリア」

「確かに怪しいのはあたし達と行動を共にしてる方だけれど。けど、それも違う気がするのよね」

「そこが重要なんだけどな。シトリーはどうだ?」

「え? っと……。どっちも嘘を吐いている気はする、かなぁ……」

 

 どういうことだと尋ねると、向こうは向こうで何かを隠しているような気がする、と述べ、でもこっちはこっちで本当のことを言っていないと思うと続ける。まあ早い話がどっちも怪しいという結論である。ちょっとそれっぽい感じを出していたが、結局出した答えは分からないで共通であった。

 

「アタシとしては、向こうを退治するのをオススメしますよー」

「ひぃ……!」

 

 ひょこ、とこちらに割り込んで向こうだと言い出す自称吟遊詩人。それを受け、あっちの吟遊詩人の美少女が悲鳴を上げた。ピク、と自称吟遊詩人が何かに反応するように美少女の方を向き、そして即座に視線を戻す。

 そこに浮かんでいたのは、何だか知らないが何故か落胆だった。

 

「やっぱこっちが問題な気がしてきたな」

「そんなご無体な。アタシは人畜無害、かどうかはさて置き、善良な吟遊詩人ですよー」

「そこをさて置く時点で善良じゃねぇよ」

「どーします? どっちもやっちゃいます?」

「何でお前はお前で両方を勧めるんだよ」

「どっちも怪しいならどっちもやれば早いじゃないですか」

「お前なぁ……」

 

 はぁ、と溜息を吐きながら向こうの美少女を見る。退治されるんですか、とビクビクしているその姿は、なんというか見ていて気の毒になってくる。まあ、吟遊詩人としてこの村にやってきたら虫にたかられ商売道具を取られた挙げ句、突然やってきた冒険者に退治されるとなったらそうなるもやむなしか。

 そうなるとやっぱり、退治するのは向こうよりこっちのような気もしてくるが。

 

「むー」

「何だよスロウ」

「ひょっとしてエミル。向こうの女の子に惚れたんですか?」

「何でだよ」

「だって、そこの吟遊詩人の女の子には優しいじゃないですか。わたしの扱いはぞんざいなのに」

「いやお前の扱いはいつもこんな感じだろ。でもってあっちも別に優しくしているつもりは」

「修羅場ですねー。これはいい感じにネタになりそう。驚きとしてはイマイチなのが難点ですかねー」

 

 いつの間にか俺の横にいた自称吟遊詩人がカメラで俺達を撮りながらそんなことをのたまっていた。こいつやっぱり善良でも人畜無害でもないだろ。

 そんな思いを込めて睨みつけると、おお怖い怖いと一歩下がった。そうしながら、ところで、と言葉を紡ぐ。

 

「結論出ましたかー?」

「お前はぶちのめしたほうがいい、とは思うぞ」

「おやまあ。いいんですかー? そんなこと言っちゃってー」

「どういう意味よ」

 

 キシシ、と笑う自称吟遊詩人にアリアが問い掛ける。その質問に答えるように、決まっていると両手を広げた。

 

「アタシより先に倒すべき敵がいると思うんですけどねー」

「アリア。もうこいつの話を聞いても無駄だろ」

「そう、かしら? いやまあ確かにさっきから煙に巻かれてる気はするけれど」

「おい自称吟遊詩人。いや、偽吟遊詩人」

「グレード下がりましたねー。何とも悲しい」

 

 うるさい、と言わんばかりに、俺は剣を抜き放つ。もうこれは決まりだろ。こいつは吟遊詩人なんかじゃない。間違いなく何かしら面倒くさいモンスターの類だ。そう結論付け、剣の切っ先を偽吟遊詩人に向けた。

 

「エミルくん……!? 何だか結論早くないかなぁ……?」

「そうか? 現状どっちが怪しいのかって言えば間違いなくこっちだろ」

「性急な判断は思考を鈍らせますよー」

 

 剣を向けられているのに尚も挑発するような言動はやめない偽吟遊詩人。それを聞いて、もうこれは確定だろうと息を吐いた。

 そんな俺をスロウが止める。ちょっと待った、と剣を持っている手を掴んだ。

 

「エミル、ちょっとこれは確かに向こうの偽吟遊詩人さんの言う通りですよ」

「あらもう偽物確定」

「そうね。確かにそこの偽吟遊詩人が怪しいのは分かるけど、そっちの自称吟遊詩人だって怪しいのは変わらないもの」

「うんうんうん……」

 

 スロウに続き、アリアとシトリーにも止められる。そうは言っても、怪しさの度合いでいったら間違いなくこっちに偽物の方だろ。

 それを三体に告げると、それはそれなんだけどと揃って言われた。何だよ、じゃあ何が問題だって言うんだよ。

 

「何が問題って、何か向こうの自称吟遊詩人の方を変に庇っているように見えるというか」

「そーですそーです。何ですか? 惚れたんですか? 駄目ですよ! エミルのこと大好きなのはわたしですよ!」

「いや別にそんなことはないし、それはまあ知ってるけど」

 

 そんなことを言いながら、俺も何かおかしいのだろうかと首を傾げた。向こうの自称吟遊詩人の美少女の方を見て、なあ、と声を掛ける。

 

「は、はい。どうしました?」

「俺って今何か変に見えるか?」

「え? い、いえ。別にそんなことはないと思いますけど」

「だよなぁ」

「な、な、な!」

 

 うんうん、と頷いた俺の横で、スロウが驚愕の表情を浮かべている。何だ、何でお前がそんな顔してるんだ?

 

「なんでですか! わたしの意見より! そこのぽっと出美少女を優先しちゃうとか!」

「いや別に優先したわけじゃ」

「してるじゃないですか! ――やっぱりエミルも、人間の女の子の方がいいんですか? わたしみたいなモンスターじゃ、駄目なんですか?」

「そんな――」

「うん、いい悲鳴と驚き顔。これは素晴らしい彫刻が出来ますねー。っと、悲鳴は悲鳴で堪能しましたが、そんな態度取っちゃ駄目ですよー」

「うるせぇよ! だから何がどう」

「はいお口チャック」

 

 ぴ、と偽吟遊詩人が指を一本立てるのと同時、俺の口元が凍りついた。息は出来るが、喋ることが出来なくなった俺は、一体何をしやがったと偽吟遊詩人を睨み付ける。

 が、偽吟遊詩人はどこ吹く風で、ふむふむと俺達を見渡してから、これはしょうがないですねなどと言いながらキシシと笑った。

 その言葉と同時、俺の口元の氷が消え去る。

 

「ぷはっ。お前、何しやがった!?」

「何も何も。ちょっと頭冷やしてもらおうかと思いましてねー」

 

 そう言いながら頭を掻いた偽吟遊詩人は、そのまま俺達から少しだけ距離を取った。そうしながら、持っていた道具を邪魔にならないように遠くにどける。

 

「せっかくの写真とかが駄目になっちゃうのは悲しいですからねー。さて。エミルさんはアタシが怪しいと思っている」

「当たり前だろ」

「他の皆さんも、まあ怪しいというのは同意、で良かったですかー?」

「え? まあ」

「そうね、一応?」

「うーん……」

「ありゃ、乗り気でない? じゃあもうエミルさんだけでもいいですよー」

「何がだ?」

 

 そう問い掛けると、偽吟遊詩人は再びキシシと笑う。決まっているじゃないかと両手を広げる。

 

「退治したいならどうぞー」

「は?」

「エミルさんは、アタシがマンドラゴラだって思ってるんですよねー? ならどうぞ、かかってきてくださいよー」

「……言ったな」

 

 その言葉はもう自白も同意である。自分は人間ではないと言ったも同然だ。

 それならもう遠慮はいらない。一足飛びで偽吟遊詩人に間合いを詰めると、俺は抜き放っていた剣を思い切り振り抜いて。

 

「はい残念でしたー」

「なっ!?」

 

 ギシリ、と動きが止まる。いつの間にか、地面から伸びていた氷が俺の剣を思い切り掴んで縫い留めていた。

 慌てて鞘の能力でアリアを引き出し剣に炎を纏わせると、氷を溶かして再度一撃を叩き込む。

 

「剛腕の鍛冶師の作ったのは流石の能力ですねー。でも、今のエミルさんじゃ、まあ駄目でしょうねー」

 

 突如生み出された氷の盾でその一撃が防がれた。炎を纏っているにも拘らず、斬撃を受けてもびくともしないその盾を見て舌打ちした俺は、なら全力だと一旦距離を取った。

 その拍子に、展開についていけていないらしい自称吟遊詩人の美少女が目に入る。

 

「あ、っと。大丈夫か?」

「え、あ、はい。大丈夫です」

「なら良かった。ちょっと危ないから、離れててくれ」

「は、はい」

「むー! むー! むー!」

 

 何だか後ろが騒がしいが、そんなことを気にしている暇が無い。俺は意識を集中させ、真っ直ぐに眼の前の偽吟遊詩人を睨み付けた。

 

「おやおや。ちょっとこれはまずいんじゃないですかねー」

「今更そんなこと言ってももう遅い」

「そうじゃなくて。エミルさん、あまりにも術中に嵌り過ぎじゃないですかって意味なんですよー」

「何を訳の分からないことを言ってるんだ」

「これを訳の分からないことって済ましちゃうのがもうアウト。そもそも、アタシ、さっきから何を使って戦ってるんですかねー?」

「ごちゃごちゃうるさいな。いいから……っ!?」

 

 全力の集中で一気に斬りかかろうと足を踏み出したそれが、動かない。思わず足元を見ると、偽吟遊詩人から伸びた氷が俺の足を根本から凍らせていた。動かそうとしても、ピクリとも動かない。ただ不思議なことに、動けないようにすることだけに特化しているのか、冷たさは微塵も感じなかった。

 

「思い切りの良さは買いますが、無茶は駄目ですよー。ま、でも確かにこういうところは月の大聖女が好みそうですけど。決めたら一直線、捻くれてるようで人情家。うわー、勇者ー」

 

 やんややんやと騒ぎ立てる偽吟遊詩人を睨み付けながら、俺はどうにかしてこの足元の氷を溶かそうと鞘に力を込める。が、それよりも早く、氷のツタが鞘を奪い取り偽吟遊詩人の手元へと移動させた。

 

「あ、駄目ですよー。今鞘の力で氷溶かそうとしましたねー。あなたがやるのはそうじゃないですよー」

「くっ、返せ! いや、その前にこの氷を」

「はいそこ。そう、氷なんです。あなたが討伐しに来たのはなんでしたっけー?」

 

 なんだも何も、討伐対象はマンドラゴラで、お前がそのマンドラゴラ――

 

「……ん?」

「お、気付きましたー?」

「お前、何でマンドラゴラなのに氷属性の攻撃をしてんだ?」

「はてさて。何ででしょうねー?」

「勘違いだからですよ! てゆーかエミル! 何かおかしーですよ!」

 

 おかしいと言われても。まあ確かにちょっと頭に血が上っていた感じは否めないが、だとしてもそれ意外は別段。

 そんなことを思っていると、スロウがつかつかとやってきて、そして思い切り俺を引っ叩いた。

 

「いってぇ」

「目は覚めましたか?」

「いやだから、別に俺は」

「むー! むー!」

 

 ベシベシと追加で引っ叩かれる俺。痛い、ひたすら痛い。そして何でスロウがそんな不機嫌なのか良く分からない。

 

「スロウさーん? エミルさんのそれはそういう物理的なのじゃ治らないと思うので、状態異常回復をした方がいいと思いますよー?」

「むー! むー! むー!」

「聞いてないですねー。ま、こういうのは犬も食わないって言いますし、ここは素直に静観しますかー」

 

 ベシベシからペチペチになった後、何故かこちらに思い切り抱き着いてきたスロウを抱き留めながら、偽吟遊詩人の良く分からないアドバイスを聞きながら。

 

「何がどうしたんだ……?」

 

 俺は訳が分からず、途方に暮れた。

 

 

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