幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第六十七話

「さてさて。それで、どうしますかー?」

 

 蚊の化け物である本体から人型の擬態へと戻った――変化したって言った方が正しいか――の悲鳴彫刻家は、瀕死のマンドラゴラを指差しながら再度俺達に問い掛けた。

 どうする、と言われても。俺達の目的はこいつの討伐である。が、さっきの話ぶりからするとこのマンドラゴラは野生の狂気を持っていた割には殺しは積極的にしていなかったらしい。まあ積極的に、ってことは結果的に死んでた被害者がいたんだろうけど。

 ちらり、と俺のパーティーメンバーを見る。結果的に殺人をしているという意味ではこいつらも同じで、シトリーにいたっては人食いもしている。そういう理由で許せないという結論を出すと、必然的にアリアとシトリーも討伐対象になるわけで。というかその下りはそれこそシトリーを仲間にする時にやったやつだ。

 まあ結果的な殺人なら俺もやってるしな。野盗団とか。

 

「スロウ」

「エミルの好きにすればいいと思いますよ」

「いいのか?」

「今のエミルは魅了されてるわけでもないですし。やっぱりエミルはエミルだなって」

「それ、褒められてるのか?」

「褒めてますよ。エミル、だーいすき」

 

 そう言って俺に抱き着いてくるスロウを押し戻しつつ、じゃあ他の二体はどうなんだと視線を向けた。アリアもシトリーも、別段そこに反対の意見はなさそうで、好きにすればいいとその表情が述べていた。

 

「さっきスロウにも聞いたけど、いいのか?」

「それこそあたしも討伐対象からあんたの仲間になった口だし。そこに文句言うほど野暮じゃないわよ」

「同じく、だよぉ……」

 

 そういうことなら遠慮なく。よし、と頷いた俺は、悲鳴彫刻家に視線を向けた。おやおやと笑っているあいつに、それでどうすればいいんだと問い掛ける。

 

「お優しいですねー」

「そういうんじゃない。別に、どうしてもここで死ななきゃならないような奴じゃなさそうだったからってだけだ」

「それが優しいっていうんですよー。勇者だって大半はそうはっきりと決断はしません」

 

 そう言って普段と違う微笑みを浮かべた悲鳴彫刻家は、しかしすぐにいつものキシシ笑いに表情を変え、じゃあお教えしましょうと指を立てた。

 

「簡単な話です。植物モンスターなので、植物用の栄養剤をあげればいいんですよー」

「それでいいのか?」

「はい。でもでも、注意点が一つ。その辺に売っている植物用栄養剤じゃ量も濃さも足りませんよー」

 

 村の雑貨屋で買えばいいのかと思った俺の出鼻をくじくように悲鳴彫刻家は言葉を続ける。勿論、効かないわけではない。そうは述べたが、回復させるのは無理なのだろうというのはその口ぶりから理解した。

 では、どうすればいいのか。まあ話はある意味簡単で、そういう専用の特注品を用意すればいい。

 

「とは言っても、まあ元々討伐対象だったモンスターを回復させるために特注栄養剤を用意してくれるような奇特な人間はそうそういないでしょうしねー。そこで」

「いや」

「んん? あれ? ひょっとして当てがある感じです? おやまあびっくり」

「完全な当てというわけでもないし。正直これ以上迷惑を掛けるのも申し訳ないとは思うんだが」

「セフィちゃん先輩ですね」

「まあ、ベルンシュタイン公爵家なら用意できるでしょうけど。セフィーリア様にまた迷惑が掛かるわね」

「でも、多分、セフィさんは受けてくれると思うよぉ……」

 

 だよなぁ。困った時のセフィ頼みは自分でも正直どうかと思っているのだが、現状他に何か方法が。

 

「……そういえば悲鳴彫刻家、お前さっき何か言いかけたな」

「おや耳ざとい。いやいや、アタシの方法より確実なものがあるなら、そっちを選ぶべきだとは思いますよー」

「いいから言ってくれ。場合によっちゃ採用する」

「隠れ潜む百花なら木属性頂点ですし、用立ててくれますよー、きっと」

「あの面倒臭がりがやるわけねぇだろ」

 

 間違いなく、めんどぉ、の一言で終わるやつだ。リベルト皇子経由ならワンチャン有るか無いかくらい。いやあの人きっと隠れ潜む百花にはだだ甘だろうから、無理だな。

 

「よくご存知で。あ、でもからかいで言ったわけじゃないんですよー、これでも。一番効果のある方法で思い付いてたやつですからねー」

「ああそうかい」

 

 どちらにせよ、ただでさえ碌でもない氷属性頂点と相対してて疲れてるのに、追加で碌でもない木属性頂点と相対したら気苦労でこっちが倒れてしまう。

 しょうがない、と俺は溜息を吐いた。また迷惑を掛けてしまって申し訳ないとは思うが、ここは一つベルンシュタイン公爵令嬢の助けを借りるとしよう。

 

 

 

 

 

 

「成程」

 

 そういうわけで、瀕死のマンドラゴラを担いでベルンシュタイン公爵家の城へと向かう。当然の如く不審がられるのかと思ったそれだったが、俺達であるというが確認されるとさらりと流された。それでいいのかと思わないでもないが、門番の兵士や城の使用人達からすると、まあいつものこと、で済ませるレベルらしい。解せぬ。

 ともあれ。連れてきたマンドラゴラを綺麗にした後ベッドに寝かせたセフィは、俺達の説明を聞いてふむふむと頷いていた。どうでもいいが説明聞く前にモンスターを湯浴みさせてベッドに寝かせるな公爵令嬢。

 

「あら、そこはエミルさん達ですもの。信用も信頼もしていますわ」

「それはそれで重い」

「そうでしょうか? 私は皆さんの人柄も実力も良く知っています。勝手かもしれませんが、貴方達の親友を自負するほどには」

「わたしもセフィちゃん先輩は親友だと思ってますよ」

「ふふっ、ありがとうございます、スロウさん」

 

 そう言われると何だか照れくさいし、俺だってセフィのことは親友と言っていいと思っている。が、思っているからこそ迷惑掛けまくっている現状を心苦しく思っているわけで。

 クスリと笑われた。なんだそんなことかとさらりと流された。

 

「可愛いものですわ、この程度の迷惑など。私の方こそ、もっと頼ってくれても構わないのに、と思っているほどですもの」

「それは、うん、ありがとう、セフィ」

「ええ。どういたしまして」

 

 それで、話の本題ですが、と寝かされているマンドラゴラを見る。流石にあの状態のまま放置するのもなんだったので、応急措置として村の雑貨屋にあった植物栄養剤をありったけ買ってぶち込んだが、当然のごとくそれで復活するわけでもなし。未だ瀕死のまま、ベッドに寝かされているマンドラゴラは動かない。

 

「もういっそ一回死んじゃってから復活させたほうが早いんじゃないかって思っちゃいますね」

「悲鳴彫刻家ですら出さなかった選択肢を出すな」

 

 いやまあそれが一番手っ取り早いのかもしれないけれども。とはいえこれだけ生命力の強い植物モンスターだ。村の栄養剤を与えなくても死ぬまでまだ時間がかかったかもしれないし、かといって燃やして殺してから復活はちょっとどうかと思うし。

 

「そもそも栄養不足は回復魔法でどうにかなるわけでもないでしょうから、恐らく復活させてもそこまで変わらないかと」

「あー、そーかもしんないですね」

 

 じゃあ無理か、とスロウが引き下がる。そういうわけで、そこのマンドラゴラを助けるための特注の栄養剤が必要だという部分に話を戻し、セフィにお伺いを立てた。

 

「結論から言うと、今すぐは無理です」

「まあ、そうだよな」

「勘違いをなさらないで欲しいのは、お父様、ベルンシュタイン公爵の許可が出ないとかそういう意味ではありませんわ。単純に、材料が足りないのです」

「瀕死のマンドラゴラですもの、そりゃそうよね」

「じゃあ、材料集めをすればいいのかなぁ……?」

 

 アリアとシトリーのその言葉に、ええそうですとセフィは頷いた。とはいえ、特注といっても通常の調合で作れるものをうんと濃くすればいいだろうということなので、ただ材料を大量に発注すればいいのだが。

 問題は、城下町でそれをすると普段遣いの植物栄養剤が枯渇してしまうこと。

 

「なので、王都まで行って発注の準備を整えなくてはいけません」

「王都なら大丈夫なのか?」

「王都で全てを、というわけではありません。王都と城下町の両方で賄えば影響も軽微で済むでしょうから」

「ああ、そういうことか」

 

 ですので、とセフィは俺達を見やる。注文書を作成するので、王都で受け取ってきてもらいたい。そう言葉を続けた彼女に、俺達はもちろんだと頷いた。

 

「あ、でも大丈夫か? 瀕死とはいえ、ここにマンドラゴラ置きっぱなしで」

「ご心配なく。マンドラゴラ一体ならば、私でも対処が可能ですわ」

「……マンドラゴラ、上級モンスターよね。セフィーリア様、また強くなってるのかしら……」

 

 やっぱり絶対見習いは嘘だろ。というか冒険者引退も嘘だろ。そうは思ったが、追い付くためですもの、と曇りのない瞳で告げられるとこちらとしてもどうしようもないわけで。

 やっぱり聖女ってバーサーカーなんだな。俺は改めてそう思った。

 

 

 

 

 

 

 王都にやってきた。注文書を商会に持っていったが、流石に量が量なので直接向こうに、と言われてしまい、飛竜港のある区画まで足を進める。その途中、見覚えのある眼鏡の青年の姿が見え、思わず声を掛けてしまった。

 

「迷宮の管理者じゃないか。こんなところで何やってんだ?」

 

 土属性頂点が街をぶらついているという光景は中々シュールだが、しかしよくよく考えると帝国でも妖精姫がその辺ぶらついていたのでまあそんなもんかと思うことにしよう。

 ともあれ。声を掛けられた方の迷宮の管理者が、それはこちらのセリフだよと笑いながらメガネのズレを直した。王都に何か用だったのかい、と彼は言葉を続けた。

 別段隠すことでもなし。マンドラゴラ用の栄養剤を作るための材料を用意しに来たと語ると、何が可笑しいのか迷宮の管理者は珍しく豪快に笑った。

 

「まったく、君達らしいと言うか。最近悲鳴彫刻家が尾ひれの付いた噂をばら撒いて遊んでいたと思ったけれども、案外噂も当てになるのかもしれませんね」

「いや止めてくれよあの馬鹿を」

「おや、その調子だと出会ったみたいだね。いや、そうしたいのは山々だけれども。いかんせんあいつは神出鬼没なんです。きちんと居場所を把握しているのは、それこそ傀儡人形くらいかな」

 

 あ、じゃあいいです。傀儡人形と悲鳴彫刻家、片方でも嫌なのに両方と同時に出会う可能性があるなんて嫌過ぎる。多分例の噂も俺達と出会って驚き顔を収集したことで一旦は収まるだろうし、もう知らんと放置するしかない。

 迷宮の管理者もそんな俺の思考を読んだのか、はははと笑いながらそういうわけだから諦めてくれと締めた。そうしながら、じゃあ話を戻そうと眼鏡をクイと指で上げる。

 

「実は今飛竜商会の老舗のところで手伝いをしていてね」

 

 相変わらず色々なところに紛れ込んでいるらしい。迷宮ってそういう意味なのか、と思わず考えてしまうくらいだ。ともあれ、今回の注文書を渡すのならば丁度いいと俺達をそこに案内してくれることになった。

 

「ところで、スロウ君。修業の成果は出せていますか?」

「ほえ? そーですね。結構役に立ってると思いますよ」

 

 新しい装備も手に入りましたし、とドヤ顔でブレスレットを掲げる。迷宮の管理者はそれを見ると、成程と微笑み満足したように頷いた。

 それだけでいいのか。そう思い尋ねると、はい勿論という答えが返ってくる。そうしながら、俺の鞘、スロウの腕輪、アリアの扇、シトリーのイヤリングを指差した。

 

「それ、剛腕の鍛冶師の作った装備だろう? それらを渡されているということは、少なくとも彼に認められているだけの強さはあるということだ。それならば、僕としては申し分ないよ」

「そんなもんかね」

「そんなものです。っと、さて、到着しましたよ」

 

 そうしているうちに件の場所に辿り着いた。そこに掲げてある看板を見て、あれ、と俺は首を傾げる。そういえば、これどこかで見たような。

 

「どこかも何も。フォーマルハウト公爵領に向かう時に乗せてもらった飛竜商会でしょ」

「あ、そうか。そうだよな、セフィのお使いで飛竜商会を使うならそりゃここか」

「勿論。だからこそ案内したんだよ」

 

 そう言って笑う迷宮の管理者。そうしながら、従業員に声を掛けて誰かを呼び出す。そんなやり取りを見ていると、奥から一人のおっさん、というか爺さんがこちらにやってきた。

 

「お、あの時の坊主共じゃないか」

「へ?」

「ああ、こっちじゃ会ってなかったな。ほれ、お前らを乗せていった竜だよ」

「ああ! あの時の竜のおっさん」

 

 俺の呼び方に周りの従業員がザワリとなる。あ、そりゃわざわざ迷宮の管理者が呼んできたんだからお偉いさんだよな。というか確かそもそも最初の時もそんなようなこと言ってたよな。

 

「はっはっは! 気にするな気にするな。そもそもおっさん呼ばわりがいいよな。こちとら普段から爺さんだの老人だのと呼ばれててかなわんのよ。儂ぁまだまだ現役だっての」

「年食ってからこの飛竜商会を作ったのだからしょうがないとはいえ、もう社長から会長になっているやつが何を言っているのやら」

 

 まったく、と苦笑する迷宮の管理者をジロリと見た竜のおっさんは、経営は任せても仕事はまだやってるからなと口角を上げながら返す。はいはい、と肩を竦めた迷宮の管理者は、それで、と話を戻すように俺達を見た。

 

「ああ、そうだった。おっさん、俺達ちょっと頼みがあって来たんだけど」

「おう、どうした。……ふむ、この注文書、あれか、マンドレイクの治療でもするのか?」

 

 まあ見る人が見ると分かるのだろう。竜のおっさんは即座に見抜き、そうだろうと視線で問い掛ける。その通りと頷いた俺は、まあ言っても大丈夫だろうと事情を述べた。悲鳴彫刻家の名前が出た時はピクリと眉を上げていたが、まあ迷宮の管理者と知り合いなんだし、そんなもんかと流す。

 

「ふむ。事情は分かった。注文書の量を用意するのも問題ないし、何なら儂が運んでもいい」

「そりゃ助かる」

「が、その前に一つ聞きたい。お前さんがた、そいつを助けてどうするつもりだ?」

 

 こいつも聞いたかもしれないがよ、と竜のおっさんは迷宮の管理者を指差す。が、指差された方は別に聞いてませんよとさらりと流した。

 

「ああ? 何だお前、聞かずに流したのか?」

「聞かなくてもいい、と思ったのさ。彼等なら、まあそんなもんだろうと思ってね」

「ううむ。儂はそこまで深く関わってないから、まだ分からんのだよなぁ」

 

 セフィーリアの嬢ちゃんが信頼してる相手だから、まあ疑いはしないが。そんなことを言いながら、まあいいと竜のおっさんは先程の質問の答えを問うた。マンドラゴラを助けて、どうするつもりだ、と。

 問われた俺は、しかし言葉に詰まった。どうするつもり、と言われても。ぶっちゃけどうするつもりもなかったからだ。流石に見逃して無罪放免にはしないつもりだが、しかしそうなると村に置いておく、が答えになる感じか。

 

「何も考えてないって顔だな。ただ助けたいから助けるか。それはそれで自分勝手だぞ」

「いや、まあ、それはそうなんだけど。……死にたくないって、助けてって言ってたしな」

 

 あれだけ必死で言われたら、まあ助けないと寝覚めが悪いというか。

 そんなことを頬を掻きながら述べると、竜のおっさんは軽く吹き出した。そうしながら、残りの面々にも視線を向ける。

 

「おう、嬢ちゃん達も似たようなもんか?」

「エミルがやりたいなら、わたしは反対しませんよ」

「あたしはそこまでではないけど。まあ、でもそこの馬鹿と似たような意見は持ってるわね」

「ワタシも、同じくだよぉ……」

 

 というか、似たような質問悲鳴彫刻家にもされたんだが、やっぱりこういうのって変わってるのか。そんなことを問い掛けると、竜のおっさんは滅茶苦茶苦い顔になった。迷宮の管理者は何が面白いのか腹を抱えて笑っていた。

 

「まあいい。よし、そういうことならしっかりと注文の品、届けてやる。おめぇら、手ぇ空いてる奴はちょっとこっち来い」

「はい、会長!」

 

 竜のおっさんの声に反応した飛竜が数体こっちに来る。取り回しが利きやすいように小型化しているが、荷物を運ぶ際には普段通りの大きさになるのだろう。

 

「ついでだ。お前さん方も儂が運んでってやるよ」

「え、でもいいのか?」

「はっはっは。荷物の残りにお前さん方乗せてもお釣りがくる。儂ぁ生涯現役だからな」

 

 そう言って愉快そうに笑う竜のおっさんのお言葉に甘えて、俺達は乗せてもらってベルンシュタイン公爵の城下町へと帰ることになった。

 それじゃあまた、という迷宮の管理者に手を振り、一気に上空に変わっていく景色を目に映す。テレポートとはまた違う、それでいてあっという間の久々な空の旅は、案外楽しくて。

 

「こういうのも、たまにはいいな」

「だろう?」

 

 俺の呟きに、竜のおっさんは豪快に笑った。

 

 

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