幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第六十八話

「落ち着いたみたいだな」

 

 ベッドに寝かされているマンドラゴラを見ながら、俺はそう呟き息を吐いた。瀕死だった状態から恐らく安定した状態に戻ったであろうことを確認し、とりあえずは安堵する。

 が、竜のおっさんの言っていた言葉を思い出し、さてではどうするかと腕組みをした。

 

「この後の処遇、ですか」

「ああ。正直そんな細かいことまで考えてなくてな」

「では、一つお聞きしますけれど。エミルさんは、このマンドラゴラが再び人を襲うと明言した場合、どうされます? 討伐しますか?」

「そうだな……」

 

 まあ正直そういう可能性もそこそこある。野生のモンスターなのは間違いないし、マンドレイクになっていないということはまあそういうことなのだろうとも思う。

 とはいえ、じゃあ討伐するかと言われると。助けた意味は、とか何か変なことを考えそうで。

 

「分からん。だと駄目だよなぁ」

「そうですわね。ここはある程度きっちりと明言しておいた方がいいかと」

 

 セフィにそう言われ、俺は再度考える。ここは多分スロウやアリア、シトリーの意見を聞いてまとめるとかじゃない方がいいやつだ。俺が俺自身の意見として出さなくてはいけないやつだ。

 

「討伐はしない」

「何故でしょうか?」

「そこはまあ普通に討伐した方が冒険者としては正しいんだろうと思うが、俺は普通の冒険者じゃないし」

「あ、そこ認めちゃうんですね」

「お前が一番の原因なんだよ」

 

 口を挟んできたスロウを指でビシビシと突きながら、まあ俺も性格捻くれてるし、と取って付けたようにセフィに告げる。クスクスと笑いながら、そうですね、と彼女は同意していた。

 

「……まあ、モンスターがパーティーメンバーだからってのも多少はある。助けたのにそんなことするのは、とか思うのもある」

「ええ」

「でもまあ、一番はあれだ。なんとなく嫌だ」

「ふふっ」

 

 俺のその言葉を聞いてセフィは笑った。そうですね、と何だか凄く柔らかい笑みを浮かべられた。

 

「それでこそエミルさんですわ。ふふっ、本当に。そういうところ、本当に好ましいと思います」

「セフィちゃん先輩でもエミルはあげませんよ!」

「俺の意見を無視るな」

「セフィちゃん先輩がいいんですか!?」

「そういう意味じゃない」

 

 セフィとお前だったら俺はちゃんとお、うん、まあこの話はよそう。というかそもそも、何がどうなってそういうところなのかさっぱり分からないので、ぶっちゃけ褒められている気がしない。

 

「エミルさんが勇者になるというのなら、全力で支援をいたします、ということです」

「ならんならん。なりたくもない」

 

 あら残念、と口角を上げたセフィは、まあそう言うと思っていましたがと続ける。そうしながら、彼女はベッドの方へと視線を向けた。

 ん、と俺もつられてそこに目を向ける。いつの間にか目を覚ましていたらしいマンドラゴラが、恥ずかしそうにこちらを見ていた。

 

「何だ、目が覚めたんだな」

「は、はい。おかげさまで……ありがとうございます」

 

 こちらを見てそう言われたが、助けたのは俺じゃなくて公爵家の人達だ。ぶっちゃけ俺達がやったのはセフィに頼み込んだり材料を運んだりしただけである。だからお礼を言うのならばそっち、とセフィの方を指差した。

 が、セフィはセフィでゆっくりと首を横に振った。俺達が頼みに来なければやらなかったのだから、お礼を受け取るのはそっちだと言葉を紡いだ。

 

「ああっと、それで」

「話逸らしたわね」

 

 何だかそれが気恥ずかしくなって話題を振ろうとしたら、アリアにそんなツッコミを入れられた。うるさい、そうだよ、悪いか。とはいってもちゃんと聞きたいこともあったのだから問題ないだろう。

 そんなことを思いながら、俺は咳払いを一つして、マンドラゴラに話し掛けた。

 

「話、聞いてたのか?」

「えっと、はい。その、私を討伐するかどうか、というのを」

「じゃあ話は早いな。どうするんだ?」

「どうする、ですか?」

 

 ゆっくりと体を起こしたマンドラゴラは、俺の質問を聞いて首を傾げた。なにかおかしいことを言っただろうか、と俺もその反応に首を傾げる。討伐はまあしない方向に改めて決めたとして、後はこいつが人を襲うかどうかの確認をしようと思ったのだが。

 はぁ、とアリアが溜息を吐く。そうしながら、俺の言葉が足りなかったらしい部分の補足をマンドラゴラに行っていた。成程、と頷いたマンドラゴラは、そこで何かを考える仕草を取る。

 

「私は、もう既に人を襲っていますし、マンドレイクとして認識されることはないと思います」

「その辺はどうにかなるんじゃないのか?」

「後見人でも立てれば可能でしょう」

 

 俺の呟きにセフィが答える。成程ね、ちなみにその後見人って誰でもなれるんだろうか。そう思ったのでセフィに尋ねると、勿論誰でもというわけではないという返答が来た。

 

「冒険者であれば、ある程度の評価は必要でしょう。今回の場合、マンドラゴラでしょうから、やはり中級の上澄み、あるいは上級冒険者であることが望ましいと思います」

「エミルならなんとかなるんじゃないです?」

「エミルさんの場合、これまでの成果は大きいでしょうけれど、評価値という意味では少し足らないかもしれませんわ。……上級になってしまえば話は別ですが」

「流石に上級になれるほどじゃないぞ俺は」

 

 直近の戦闘で、眼の前のマンドラゴラに魅了食らってたくらいだ。知識をある程度手に入れても、やっぱり経験不足からくるミスは大きい。こんな状態で上級になってしまえば、それこそあっという間に屍の仲間入りだ。

 実力は申し分ない、とお姉さんもセフィも、それこそ妖精姫やらの属性頂点も言ってたが、ただ戦闘力だけで計れるのならば苦労はしない。悲鳴彫刻家にも言われたしな。

 

「となると、現状では一応申請はしても通るかは五分五分、といったところでしょう」

「まあ、それでもやらないよりかはマシか」

 

 セフィの言葉にそう答える。もし駄目だったらまた別の方法を考えよう。そんな意味合いの返答だったが、マンドラゴラは意外だったのか、目をパチクリとさせていた。

 

「あの、どうしてそこまでしてくれるんでしょうか」

「何でって言われても……死にたくないんだろ?」

「え、はい。出来ることなら、死にたくはないです」

 

 じゃあやってみるか、となるわけだ。とはいっても、まだ問題はあるけどな、人襲うか襲わないかとか。

 そんなことを思っていると、マンドラゴラはありがとうございますと頭を下げた。別にお礼を言われるようなことじゃない。ぶっちゃけた話、俺の自己満足みたいなもんだし。

 

「いえ、それでも、です。……あの、私に出来ることなら、なんでも」

「エミルはあげませんよ!」

 

 がぁ、と突如スロウが割って入った。ふしゃー、とまるで猫のように威嚇をしながら眼の前のマンドラゴラを睨み付けている。いやお前芋虫だろ。

 そんな脳内ツッコミを当然知らないスロウは、そのまま俺に思い切り抱き着いてきた。どうしたいきなり。

 

「何でこんな時だけ鈍感なんですか。いや普段もそこまでですけど、今は特別酷い!」

「何の話だ」

「恋の話ですよ! そこのマンドラゴラさん、かっこいいこと言うからエミルに惚れちゃったじゃないですか!」

「何言ってんだお前」

 

 そもそも別に格好いいことなんぞ言ってない。ただ単に後見人になれるか試しにやってみるかというだけである。絶対にやってみせる、とかそんな事も言ってないこれのどこが格好いいのか。

 

「そーゆーとこですよ! わたしなんかエミルに惚れ直しましたよ! 好き! 大好き!」

「わけ分からん」

 

 ぐいぐい抱き着いてくるスロウの頭を撫でながら、何がどうなってこうなっているのかと首を傾げる。助けを求めるようにアリアやシトリーを見たが、何とも言えない表情で首を横に振られた。何でだ。

 

「そもそも、あんたが素直になってないのが問題でしょ」

「いい加減、覚悟を決めたほうがいいと思うよぉ……」

 

 何の話だ何の。いや、何となく言いたいことは分かるが、別に俺は素直になっていないわけではない、はずだ。第一、覚悟を決めるも何も。

 

「じー」

「何だよ」

「ぶーぶー」

「だから何だよ」

「……まあいいです。今回はこれくらいにしておいてあげますからね」

 

 そう言って俺から離れるスロウ。そうしながら、グリンと視線を移動させると、マンドラゴラに向かってビシリと指を突き付けた。それはそれとして、と宣言をした。

 

「エミルはあげませんよ!」

「えっと、何の話ですか?」

「エミルに惚れたんじゃないですか?」

「え、確かに格好いいとは思いますし、命を救ってもらったので出来ることなら何でもしてあげようとは思いますけれど」

「惚れてるじゃないですかー!」

「その、貴女みたいな恋とは違うと思います」

「本当ですか?」

 

 じとー、とマンドラゴラを見詰めるスロウ。やめなさい、相手怖がってるだろう。そう言ってスロウを彼女から引き剥がしたが、スロウはぶーぶーと俺に文句を言っていた。そうしながら、エミルはモンスターたらしのケがあるから注意してくださいとお説教された。

 何言ってんだこいつ、と思いながら肩を竦めたが、何だか視線が皆俺に向いているような。

 

「まあ、確かにそうね」

「うんうんうん……。同意だよぉ……」

「それは私も思いますわ」

「あ、やっぱりそうなんですね」

 

 何でだ。

 

 

 

 

 

 

 話を戻そう。とりあえず後見人を用意するいう方向で話を進めるとして。後はマンドラゴラの、当事者の方だ。

 

「なあ、さっき何でもするって言ったな」

「は、はい」

「じゃあ」

「えっちなことするんですか!?」

「お前ちょっと黙ってて」

 

 今からちょっと大事な話するから、ボケとツッコミはいらないのよ。そんなことを視線で伝えると、はーいと素直に引き下がった。

 

「あ、えっちなことしたかったらいつでも言ってくださいね」

「やかましい」

 

 ちょっとこいつ預かってて、とアリアとシトリーにスロウを押し付けると、俺は改めてマンドラゴラに向き直る。そうしながら、さっきの続きを口にした。

 これから人を襲わないように出来るか、と。

 

「……それは」

「出来ないのか?」

「どうなんでしょうか……? 私、野生のマンドラゴラですので、それ以外の栄養補給を知らなくて」

 

 言われてみればそうか。人の世界に紛れているマンドレイクは、もう既に最初からそこにいる状態で、人を襲わないというのが根付いている。一方野生のマンドラゴラは、基本狂気状態であり、マンドラゴラ特有の能力は人を襲うことに全て使うように出来ている。

 そういう意味では野生なのにこうしているマンドラゴラが特異なのか。それとも、人の世に紛れ込む前の、野生のマンドレイクとも言うべき存在だったのか。

 まあその辺りはどっちでもいい。現状大切なのは、別にどうしても人を襲わないと我慢出来ないとかそういう本能的なものではなさそうなことだ。

 

「じゃあ、別の手段で栄養補給できるなら人は襲わない、と」

「それが主様の望みなら」

「まあ、その方が何の問題もなく村に置け――ちょっと待て、今なんつった」

「はい?」

「呼び方。俺のことなんて言った?」

「主様」

「なんでだよ」

「え? 命を助けてもらった以上、モンスターとしては仕える主だと」

「飛躍してる、滅茶苦茶飛躍してる」

「エミル、わたしも御主人様♡、とか言ったほうがいいです?」

「アリア、ちょっとそいつの口塞いでおいて」

 

 後ろでもがもが言ってる芋虫を無視しながら、俺はとりあえずその呼び方はやめてくれと頼んだ。ほんの少しだけ名残惜しそうな顔をしたが、それが望みならば、とマンドラゴラは了承し、呼び方が主様からエミル様になる。なあ様付けもやめない?

 

「でも、こればかりは……皆様に、命を救ってもらったのですし」

 

 そう言って、スロウ様、アリア様、シトリー様、セフィーリア様、と順に名前を呼びながら改めてお礼を述べマンドラゴラが頭を下げる。それを聞いて、俺達はどうしたものかと顔を見合わせ、セフィがまあそれならばいいのでは、と述べたので妥協することにした。

 ともあれ。とりあえず人を襲うことは別段問題なく止められそうということで、目下の問題は解消された。後は後見人になれるかどうかということだけだ。

 

「スロウ達みたいに簡単に行けばよかったんだけど」

「マンドラゴラは上級モンスターですから。そこはしょうがない部分もありますわ」

 

 ミミックロウラーは下級なので問題なし。トリックモスとトラップレシアは中級ではあったものの、公爵家所属の冒険者という部分で通せた。だが、流石にマンドラゴラはこれだけだと少し足りないわけか。確か現状だと五分五分だっけか。

 

「まあ、とはいえ。先程はああ言いましたが、公爵家の後押しと属性頂点の接点のある冒険者という肩書を加味すれば、申請が通る確率を八割から九割に押し上げることも可能です」

「前者はともかく、後者はあんまり使いたくねぇな……」

「ふふっ。ですが、それもエミルさん達の今までの冒険で得たかけがえのないものですから。使えるものは使うべきですわ」

 

 そう言って微笑むセフィを見て、まあ確かに言われてみればそうかと思う。何だかんだ、まだ二年も経っていないこの冒険者生活でとんでもないものを手に入れてしまったのだ、と改めて思い直し。

 

「そうだな。じゃあ、それでいくか」

「ええ。手続きいたしますわ」

 

 半ば吹っ切れたようにそう述べる俺に、セフィは微笑みを浮かべたままそう返した。

 

 

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