幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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メインメンバーは一人と三体の固定、残りはサブメンバーみたいな感じ(セフィとか)


第六十九話

「おはようございます」

 

 朝。一階に降りると、朝食を作っていたコイナ――こないだ助けたマンドラゴラが挨拶と共にペコリと頭を下げた。その服装はメイド服である。なんでだ、どうしてこうなった。

 いやぁメイドさんが来てくれて助かるねじゃないんだようちの両親。流石に全部は体がなまっちゃうからちゃんと家事はするからねじゃなくてさ。まず村の一般家庭にメイドが来ることに疑問を、いや違う、そうじゃない。

 

「どうかしましたか? エミル様」

「いや、なんでもない」

「そうですか、それはよかった」

 

 そう言って柔らかく微笑むコイナを見て、まあもうどうでもいいかと溜息を吐いた。そんな俺の前にテキパキと朝食が運ばれる。いただきます、とそれを食べると、まあ分かっていたことだが美味いわけで。

 

「なんでこうなった」

「迷惑でしたか?」

「迷惑だったら追い出してる」

 

 そんなことを返しながら朝食を食べていると、スロウとシトリーも一階に降りてきた。もういい加減家が手狭になってきた気がする。シトリーはアリアのところと行ったり来たりしているからギリギリか。

 

「おはようございます、スロウ様、シトリー様」

「おふぁようございます」

「おはようございますだよぉ……」

 

 スロウはともかく、当初は恐縮していたシトリーもここ一週間程で慣れたのか、様付けを受け入れたらしい。特に気にすることなく、コイナの用意した山盛りの朝食を幸せそうにガツガツと食べている。

 

「いー加減慣れてもいーんじゃないです?」

 

 そんな姿をボーっと見ていたのをスロウが見付けると、そんなことを言いながらやれやれと肩を竦めていた。まあ確かにスロウの言う通り、こうやってコイナがメイドになってから一週間経っているわけで。シトリーが呼ばれ方に慣れたように、俺もこの日常をそろそろ慣れるべきだとは思うが。

 

「でもなぁ」

「何か至らないことがあったでしょうか?」

「いや、何も文句はないよ」

 

 公爵家の使用人達に鍛えられたんだから、ド庶民の俺は文句のつけようがない。短時間で身に付けられたのは流石上級モンスターというべきか。

 ともあれ。今現在こうしているのも、セフィに頼んで俺をコイナの後見人にするという届け出をギルドに出したからで。

 

「はぁ……」

「どーしたんですか?」

「あれ本当に通ったでいいのか?」

「それは、問題ないんじゃないかなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 書類を作り、ギルドに提出した時のやり取りを思い出す。俺の冒険者としての功績、公爵家の後ろ盾、それだけでは渋い顔をされたので、しょうがないと切った札。

 属性頂点と繋がりがある、という脅しなのかコネなのか分からないそれを出すと、まずギルドの審査官は怪訝な表情を浮かべた。次いで、口頭だけでは、と返された。そりゃそうだ。

 

「えっと。……なあ、どれがいいと思う?」

「一番面倒事の少ないのでしょうね」

「だよな。じゃあこれで」

 

 そう言って取り出したのが妖精姫の署名だ。まず間違いなく属性頂点の中で一番信頼出来る相手なので、この切り札を使うと決めた時に真っ先に署名を貰いに行った。案の定というか、彼女は快く署名をくれたので、よしこれで一安心となったわけだが。

 

「なぁにか、おもろぃことぉしとるやん?」

 

 そこに乱入してきたのが隠れ潜む百花。普段面倒くさいとか言って何もしないくせに何でこういう時だけ出しゃばってくるんだこいつは。そんなことを考えつつ、まあ一応話してみるかと事情を説明して、どうせめんどぉで終わらせるだろうと思いながらも署名を頼んで。

 

「えぇよ」

「は?」

 

 何故かさらさらと署名を用意してくれたことに目を丸くさせた。はいこれ、ときちんと署名されたそれを俺に渡しながら、ついでに、と眠たげな目を更に細めて隠れ潜む百花が笑う。

 

「剛腕の鍛冶師にぃも、聞いたらえぇやん?」

「珍しくまともなこと言うっスね」

 

 急なその爆弾発言に妖精姫も同意して、あれよあれよという間に剛腕の鍛冶師の工房にも向かうことになった。どうした、と聞かれたので事情を説明し、そういうわけだからと聞いてみる。俺達と妖精姫を眺めた剛腕の鍛冶師は、まあいいか、と肩を竦めた。

 

「隠れ潜む百花も署名したのに、オレがしねぇってのもな。お前もやったんだろ?」

「当然っスよ。この程度の手伝いは快く」

 

 ちなみに言い出しっぺの隠れ潜む百花は面倒だからと来なかった。あいつほんと。

 そんなわけで帝国の属性頂点三体から署名をもらった俺は王国に戻ってきた。ぶっちゃけこれだけでもまあ十分なんじゃと思い王都のギルドに向かおうと思っていたが、その前に公爵家へ戻った時に事件は起きた。

 

「あら、奇遇ね」

「お久しぶり、ってほどじゃないですねー」

「げ」

 

 そこにいたのは何故か傀儡人形と悲鳴彫刻家。どういうことだとセフィに視線を向けると、こちらも急な訪問だったので、と苦笑された。少なくとも彼女の差し金ではないという事は分かったが、じゃあ何で、と考え。

 そして考えるまでもない、という結論に至った。

 

「聞きましたよー。あのマンドラゴラちゃんと助けて、これから後見人の手続きするらしいですねー」

「中々に奇特なことをするのね」

 

 そう言って笑う悲鳴彫刻家と傀儡人形。そんな二体にほっとけ、と返すと、俺は不機嫌そうに言葉を紡いだ。

 それで、署名はくれるのか、と。

 

「あら、私達がそのために来たと、そう思っているのかしら?」

「アンゼリカ嬢は今いないんだから、それ絡みじゃないってことだろ。で、そうでもないのにわざわざここにいるってことは、俺に何かしらの用があるってことだ」

「おやおや、自意識過剰ですかー? アタシ達ってば属性頂点ですよー? 何の意味もなくふらついてたって文句は言われない立場ですしー。ま、今回はエミルさんの言う通りなんですけどねー」

 

 そう言ってキシシと笑う悲鳴彫刻家。そうしながらも、少なくとも自分は、と付け加えた。

 

「傀儡人形は違うってことか」

「一概にそうとも言えないわ。貴方の手助けをしてあげようというのも理由の一つだもの」

 

 そう言ってクスクスと笑った傀儡人形は、でも、と指を一本立てた。

 

「そうね、ちょっとしたお願いを代わりに聞いてもらってもいいかしら? 私の、ではないわ。アンゼリカのよ」

 

 嫌だ、と言いかけた口がそこで止まる。傀儡人形の頼みなんぞ嫌に決まっているが、アンゼリカ嬢が関係しているとなると。

 ちらりとセフィを見た。聞いていなかったようで、何かあったのですか、と傀儡人形に問い掛けていた。その表情は純粋にアンゼリカ嬢を心配しているもので、ここで俺が断っても、セフィが受けるであろうことは明白だ。

 

「分かったよ。アンゼリカ嬢の手助けなら、やってやる」

「ふふっ。ありがとう、未来の勇者さん」

「やめろ、虫酸が走る」

 

 俺の心底嫌そうな表情を見て満足したのか、傀儡人形は署名を用意して俺に渡した。それに続くように、悲鳴彫刻家もササッと署名を作り俺に渡す。お前の方はいいのか、なにかその代わりに、みたいなのは。

 そう思ってつい尋ねたが、悲鳴彫刻家はお気になさらずと言い放った。

 

「まあ、そう思うならまた何かに驚いてくださいねー。くらいですかね」

 

 それは無理だな。そう告げると、それは残念と笑う。こいつはこいつで何考えているか分からん。

 そんなことを思っていると、公爵家の使用人が何か連絡を受けて急に慌て出した。どうしたんだとセフィが事情を聞いていたが、彼女も同じように目を見開いている。一体どうした、そう思い尋ねようとした矢先。

 お邪魔するわよ、と脳筋――月の大聖女がやってきた。

 

「あら? 傀儡人形と悲鳴彫刻家? どうしたのかしら?」

「それはこっちのセリフですよー。公爵家に何の用です?」

「セフィーリアは大事な教え子よ、ここに遊びに来たっておかしくないわ。そっちと違ってね」

「ええ、そうね。でも、用事は違うでしょう?」

 

 傀儡人形はそう返し口角を上げる。分かっているとばかりのその態度を見て、月の大聖女は肩を竦めた。そうしながらも、そちらも同じ用事でしょうにと述べる。

 

「同じ用事?」

「そうよ、エミルくん。はいこれ」

 

 そう言って手渡されたのは署名。何か集めているらしいから、と言いながら、何の含みもなく月の大聖女はそれを俺に渡してきた。いや、助かるけど、いいのか?

 そんなことを思ったが、それを見透かすように、月の大聖女はいいのよ、と返す。

 

「このくらいはお安い御用よ。セフィーリアもあなた達のおかげで成長しているし」

「セフィのそれは俺達関係あるのか……?」

 

 直接的には聖女のバーサーカー気質が色濃く出ているだけではないのだろうか。そう思いはしたが、まあ藪蛇なので口を噤んだ。わざわざ署名を渡しに来てくれたのだから、ここは素直にありがたいと思おう。

 

「あははっ。うん、いいわね。わたくしの予想より、きっちり成長しているわ」

「そりゃどうも」

 

 そんな俺をじっと見た月の大聖女がそんなことを述べる。いつものように糸目を開いていたが、今回は目を逸らすことなく真っ直ぐ見たのもその一因なのかもしれない。

 ともあれ。これで属性頂点の署名がなんと六。後二枚でコンプリートになる所まで来てしまった。まあ属性頂点の最後の一体には出会ってないから絶対に無理だけど。

 そんなことを思いつつ、用事を終えたのか帰っていった傀儡人形や悲鳴彫刻家、ついでだから今日は泊まるとか言っていた月の大聖女から別れ、俺達は王都ヘと移動した。

 流石にギルドに直接《テレポート》は出来なかったので、徒歩で移動していると、おや、と声を掛けられる。そこにいたのは迷宮の管理者と竜のおっさん。おうどうした、という竜のおっさんの声を聞いて、ああそうだった、と俺はこないだのマンドラゴラの話の顛末を語った。

 

「おう、そりゃ良かった。んで、今からギルドに申請に行くってことか」

「成程、そのために属性頂点に署名を。それにしても、またすごい量の署名を集めたんだね」

 

 そう言って迷宮の管理者は笑う。普段から笑顔のパーツではあるが、それでも尚楽しそうなのは、何か変なことでも思い付いたからであろうか。何だかんだこいつも属性頂点、まとも寄りとはいえ、そうでない部分だってあるわけで。

 

「そんな身構えずとも。僕も署名をあげようかな、と思っただけですよ」

 

 そう言って迷宮の管理者も署名を作りはいと渡す。いやまあ、これ以上は大分持て余すような気もするけど、まあありがたいので貰っておこう。

 そんなことを思っていたら、隣の竜のおっさんも、そういうことなら儂のも持ってけと署名を用意してくれた。老舗の飛竜商会っていうのは確かに後ろ盾としては助かるし、これはちゃんとありがたい。

 そんなことを言いながらお礼を述べると、何故か迷宮の管理者が吹き出した。何だよ、俺何か変なこと言ったか?

 

「いえいえ。これだけの頂点の署名があれば十分だと思うのに、念には念を入れているんだな、とね」

「そりゃ、ある程度の後ろ盾があっても百パーセントじゃないだろうからな」

「そうか? そんだけあれば絶対問題ないと儂ぁ思うぞ」

 

 そう言って笑う竜のおっさん。迷宮の管理者もそうだし、おっさんもそうだけど、そうやって言ってくれると少し不安が和らいでくる。ありがとう、と述べると、じゃあ言ってくるとその場を後にした。

 取り出した妖精姫の署名以外の、そんな経緯のあったそれらを見て、まあ取っておいてもなんだしと纏めて提出することにした。竜のおっさんのはもう一つの後ろ盾として処理してくれればいいやと付け加えながらギルドにそれを出すと、ギルド職員は八枚の署名を見て怪訝な表情を浮かべる。そして、目を思い切り見開くとすいませんでしたとカウンターに頭がぶつかるくらいの勢いで謝られた。

 

「やっぱり出し過ぎたかもしれないわね、署名」

「そーかもしれないですね」

 

 そう言われても、まあ使わずに持っててもしょうがないだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで、一応審査の形は取りますが後見人の受理は確実です、とギルド職員に滅茶苦茶低姿勢で説明された。まあ公爵家の後ろ盾に七体の属性頂点と老舗の飛竜商会の会長の署名まであれば、そうもなるか。改めて考えると凄いな。

 ギシリ、と朝食を食べ終わった俺は椅子に体重をかける。天井を見ながら、ううむとその辺りについて考えを巡らせた。

 

「どーしました?」

「いや、改めて考えると、俺達の知り合いってやばいな、と」

「今更だよぉ……」

 

 まあシトリーの言う通り今更ではある。あるが、属性頂点との出会いはそんなことで片付けていいものではないかもしれないと思ったりもするわけで。

 

「それこそ今更じゃないですか? それに」

「それに、なんだよ」

「エミルって、そーゆーのを呼び寄せる体質みたいなのもあると思うんですよ」

 

 あるいは、『非の打ち所のない悪徳』の中に混じっているか。そう続けて、まあ気にしない方がいいですよとスロウは締めた。その流れで何をどうすると気にしないでいられるんだよお前。

 

「ですが」

 

 そんなことを思いながらスロウを睨もうとするタイミングで声。視線をそちらに向けると、コイナが俺達を見て嬉しそうに微笑んでいた。

 

「そのおかげで、私はこうして生きていられています」

「らしいですよ、エーミル」

「うるさい」

「そもそも、わたしもひょっとしたらそれで出会ったかもしれないですし、結構大事ですよ」

「は? 何言ってんだよ。そんなものが無くったって、俺はちゃんとお前と出会ってたよ」

「ふぇ!?」

 

 当たり前だろ、まったく。そんなことを思いつつ、何故か頬に手を当ていやんいやんとくねり始めたスロウを見ながら、何やってんだお前と溜息を吐いた。

 

「今日もエミル様とスロウ様は仲が良くて素晴らしいですね」

「あ、それで済ませちゃうんだぁ……」

 

 




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