幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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ポロリもあるよ


第七十四話

 咄嗟に首を横にずらした。風切音が鳴り、俺の顔面があった場所にレイピアが突き刺さる。間違いなく当たったら死んでいた。一撃必殺である。ふざけんな。

 

「殺す気か!?」

「あら、エミルさんはその程度では死なないでしょう?」

「どういう信頼だよ」

「よしんば死んだとしても、スロウさんがいる限り大丈夫でしょうし」

「どういう信頼だよ!」

「そーですよ! エミルを殺すのは流石のセフィちゃん先輩でも許しませんからね!」

 

 スロウがそんなことを付け加える。うん、怒ってくれているのは分かるし、本当に俺を死なせたくないのも分かる。分かるが、相手がセフィなのでぷんすか怒る程度で済ませかねない気がしないでもないのがなんとも。

 

「っとぉ!」

 

 再度避ける。レイピア、と銘打ってはいるが、その実セフィのそれは刺突剣のごついやつだ。その証拠に、俺の悪徳の剣とぶつかってもびくともしない。そんなもんの突きが物凄いスピードで繰り出されるのだ。当たったら死ぬ。というか、かすっても大分ヤバい。

 

「うおぉぉぉ!?」

「流石はエミルさん、私の攻撃などものともしませんか」

「必死だよバカヤロー!」

 

 本当に上級冒険者に行くべきなのは俺達じゃなくてセフィじゃないのか? そんなことを思いながら、何とか攻撃を避けつつ、しかしこのままでは確実にジリ貧になることを考え歯噛みした。何より、場所が狭い。

 

「アリア、シトリー、コイナ! アンゼリカ嬢とレアを頼めるか!?」

「ええ、いいわよ」

「大丈夫だよぉ……」

「お任せください」

 

 三者三様の返事を聞き、よしと俺は頷く。そうしながら、スロウと相棒の名を呼んだ。既に承知の上なのか、即座に俺の横へとやってきたスロウに視線だけで合図を送ると、了解とばかりにこいつも頷く。

 

「よし、じゃあ行くぞ」

「りょーかいです」

「何を――」

 

 セフィが何かを起こす前に、俺は思い切り彼女を蹴り飛ばした。この程度ではびくともしないことを承知の上で、俺はそのまま彼女を窓から外へと飛び出させる。ガシャンと盛大にガラスが割れる音がしたが、まあその辺りは必要経費だろう。

 そしてやっぱりと言うべきか窓ガラスと激突した挙げ句外に吹き飛ばされたセフィは、何事もなかったかのように立ち上がりパンパンとホコリを払っていた。流石は聖女、流石はバーサーカー。

 

「あの時のセフィに今のセフィを見せたらどう思うかな」

「喜ぶんじゃないです? 成長できたって」

 

 ポツリと呟いた軽口にスロウがそう返す。まあそうだな。俺達の眼の前にはウッドベアに叩き潰されていた聖女見習いはもういない。ウッドベアを素手で叩き潰すような自称見習いのやべーやつがいるのみだ。

 

「スロウさんがサポートに回っているということは……手加減などしている余裕はない、ということですわね」

「こっちとしては手加減して欲しい、というかしてくれないと負けそうなんだけど」

「御冗談を」

 

 す、と腰を落とすと、一気にこちらに肉薄してきた。危ない、と俺の本能が警鐘を鳴らしていたので全力で横に飛び退ると、ズガガガという物凄い音とともに俺の立っていた背後の壁に五つの刺突跡が出来る。ちょっと待て、今このお嬢様一瞬で五連の突きぶっ放したぞ。それも頭と四肢。間違いなく殺す気である。

 

「やはり、この程度では倒せませんか」

「ねえセフィの中で俺の強さどうなってんの? 無理だよ? 勝てないよ?」

「あら。現に今の突きを避けたではありませんか」

「たまたまだよ。次は綺麗に穴が開く」

「成程。では」

 

 ぐにゃり、とレイピアがしなる。ねえその刺突剣そんなしなるような代物じゃないよね、どういう剣捌きをすると出来るんだよその動き。

 そんな俺のツッコミをする暇など与えてはくれない。ムチのように曲線を描いた刺突という矛盾したようなそれが俺へと迫る。一撃、二撃、それまではよかったが、それ以上は流石に無理があるわけで。

 

「ぐぅ……!」

「エミル!」

 

 左肩がえぐられた。服ごと肉が斬り飛ばされ、鮮血が舞う。滅茶苦茶痛い、と思う間もなくスロウが即座に回復をしたので、表面上は服だけ切り裂かれたように見えただろう。

 いや盛大に血飛沫出たけどね。

 

「いや、無理だろこれ」

「おやエミルさん。どうされたのです?」

「どうしたもこうしたも」

 

 ひゅん、とレイピアを振って血糊を飛ばしたセフィに俺は悪態を吐きながら、さてどうしたものかと思考を巡らせた。現状セフィを無力化するには俺一人だと荷が重い。スロウがいても同様だ。かといって、アリアやシトリーを呼んでフルメンバーで戦おうにも、向こうのアンゼリカ嬢やレアが狂気の生徒達に襲われる可能性がなきにしもあらず。コイナだけでなんとかしてもらおうとも考えたが、上級モンスターとは言えこの量の人間を戦わずに無力化するのは流石に。

 

「いや、待った」

 

 コイナ、と教室に声を掛ける。どうされましたかとこちらに顔を出した彼女に向かい、ちょっと頼みがあるが出来るかと問い掛けた。

 

「エミル様の頼みであれば、出来ることならなんなりと」

「じゃあ遠慮なく。お前の力で、この状態異常を中和って出来ないのか?」

「難しいですね」

「即答!?」

「今回の異常は暴走状態であることが大きいので、これを抑えるとなると」

「お前でも無理なのか……」

 

 まあそもそもそれが出来ればセフィやアンゼリカ嬢が状態異常になってないもんな。ダメ元であったがそれも無理となると、やはりセフィは俺だけでどうにかしないといけないわけか。くそう、と舌打ちを一つし、俺は再度目の前のバーサーカーを睨み付けた。

 

「エミルさん。まさか手加減をしているのですか?」

「馬鹿言え。本気でボコされてるんだよ」

 

 ぶっちゃけ殺さずに無効化を、なんて甘っちょろい考えはとっくに捨てている。最悪もう一回ぶっ殺してスロウに蘇生してもらうくらいの感覚で戦闘をしていた。そうでもしないとこっちが屍になる。

 剣を構え直し、一気に間合いを詰める。さっきまでは後手後手に回っていたが、今度はこちらの番だ。そんなことを思いながら剣を振るったが、その一撃はレイピアによって止められた。さっきも思ったが、どういう理屈だ、普通折れるぞ。

 

「あら、レイピアというものは、意外と頑丈なのですわよ」

 

 す、と剣を引き俺の体勢を崩したセフィは、そのまま回し蹴りで俺を吹き飛ばす。ゴロゴロと転がった俺は、肺から無理矢理空気を抜かれたことで咳き込んだ。

 

「エミル。ひょっとして今セフィちゃん先輩のパンツ見ました?」

「んな余裕あるわけ無いだろ!」

 

 ちらっと見えたけど、それを気にしていたらとどめを刺されて終わりである。ヨロヨロと立ち上がりながら、スロウに回復をしてもらい息を吐いた。

 いやほんと何がどうなるとここまで強くなるんだよ。あれか? 月の大聖女に鍛えてもらったりとかしてるのか? 

 してそうだな。嬉々としてセフィを修行させる月の大聖女の姿が思い浮かび、俺は寒気を感じながら頭を振って散らした。

 

「あ、そうだ」

 

 そのタイミングでスロウが声を上げる。そうです、その手がありました、とポンと手を叩くと俺を見た。何がどうその手があったなのかさっぱり分からんが、とにかく現状を打破する方法があるならちょっとやってみてくれ。

 そう述べると、分かりましたと頷いたスロウは窓の向こう、教室の中にいる面々に声を掛ける。部屋を飛び出してこっち来れますか、と。

 

「あ、そうか」

「そーですそーです。流石に状態異常でゾンビみたいになってても、窓を飛び出してまでは来ないでしょうから」

 

 スロウの言葉に分かったという返事が来る。アンゼリカ嬢はコイナが、そしてレアはアリアが抱き留めて窓からこちらへと飛び出した。何事もなく着地したことで、アンゼリカ嬢はともかくレアが目を丸くする。

 

「あ、アリア様? これはどういう?」

「女は秘密があったほうが美しくてよ」

 

 扇で口元を隠しながらそう述べたアリアは、それで、と視線をレアからこちらに向けると視線で問い掛ける。合流したのは良いが、何をさせる気だ、と。

 

「セフィをぶっ倒す」

「あんたねぇ。何? 一人じゃセフィーリア様を倒せないってこと? ……倒せなさそうね」

 

 最初こそ呆れたような声を上げたアリアであったが、向こうで殺る気満々のセフィを見て考えを変えたらしい。成程、と頷くと、扇を構えて俺の横に立つ。

 

「全員でかからないと駄目なレベルなのぉ……?」

 

 その横ではメイド服姿のシトリーがオロオロしながら戦闘態勢を取っている。いや、まあ現状俺一人だと決め手がないというか、ひたすらボコされるというか。そういうわけなので手助けが欲しいという感じなわけで。ぶっちゃけ相性という意味ではアリアやシトリーの方がセフィと戦いやすい。真正面からぶつかり合うことしか出来ない俺では、彼女との相性はどうにもならない。

 

「あんたの鞘は?」

「……あ」

 

 そう言えば忘れていた。が、いかんせんそのレベルで余裕がないというのも事実なわけで。そもそも仲間の劣化能力を使えたところで、多少はマシかも知れないがジリ貧には変わりない。

 

「とにかく、援護よろしく」

「はいはい」

「任されたよぉ……」

 

 俺とシトリーが前に出て、アリアが後方、スロウは援護。俺達のいつもの戦闘パターンで何とかセフィを無力化する。

 そう考えていた矢先。即座に間合いを詰めたセフィがシトリーを串刺しにしていた。

 

「シトリー!? いやでも疑似餌が、って」

「メイド服着てるから脱出が出来なかったんだよぉ……」

 

 大剣で防御をする暇もなく、そのまま早贄になったシトリーが剣の一振りで放り投げられる。ごろごろべちゃ、と壁に激突したシトリーは、お腹に穴が空いたよぉとべそをかいていた。とりあえず命に別状はないらしい、さすが生命力に定評のある植物と虫の混合モンスターだ。

 

「とか言ってる場合じゃ」

 

 スウェーで斬撃を躱す。基本攻撃が刺突のお陰で、防御はしにくいが回避するだけならなんとかなるような気がする。気がするだけではあるが、実際何とかなっているのでそういうことにしておこう。

 ともあれ。相手の攻撃を躱しておけば、俺一人でなくなったことで反撃のチャンスが生まれる。

 

「これは……っ」

「申し訳ありません、セフィーリア様。いきます!」

 

 ばら撒かれた鱗粉が爆発した。俺もすぐそこにいるので影響は免れないが、直撃しているセフィよりはダメージが少ない。加えるなら、支援と回復でそれもどうにでもなる。

 爆発の衝撃でゴロゴロと転がるセフィに追撃すべく、俺は一足飛びに間合いを詰めた。が、既にその状態でも受け身を取って反撃の態勢に入っているわけで。俺の攻撃は止められない。このままで確実にカウンターを食らう。

 このままでは、だ。

 

「シトリー!」

「わかってるよぉ……!」

「しまっ――」

 

 セフィの足場が流砂に変わる。アリジゴクのそれにより、彼女の体勢は思い切り崩れる。それでも反撃せんとレイピアを構えたが、そうはさせないと流砂から飛び出してきたシトリーの顎により剣が弾かれた。

 

「悪いなセフィ。ちょっと眠っててもらうぞ!」

「かはっ……!」

 

 悪徳の剣を振り抜く。こういうとき不殺の武器に変わってくれるのは実に便利である。とはいっても金属の塊なので、普通に考えると公爵令嬢をそれで思い切りぶっ叩くことになるわけで。冒険者や野盗ならともかく、一般的なお嬢様はまあ死ぬ。特殊な訓練を受けているセフィだからこそ目を回して気絶する程度で済んでいるのだ。

 そうはいっても悪徳の剣の場合、本当に殺したくない場合は一般的なお嬢様をぶん殴っても気絶で済むような威力にしてくれそうだが。

 話がずれた。ともあれ、俺の渾身の一撃を叩き込んだおかげで、セフィもようやく沈黙することになった。正直ここまで身の危険を感じたのはこの間の自称魔王級以来な気がする。

 気絶したセフィを適当な場所に寝かせ、これで一件落着。というわけには全然ならない。窓の向こう、教室の中には狂気に陥った生徒達がまだひしめき合っているのだ。

 

「アンゼリカ嬢。一応聞くけど、思考はまだ回っているか?」

「ええ。大丈夫ですわ。レア嬢への好意はあれど、それはそれとして切り離すことは出来ましてよ」

「なら良かった。それで、これからどうすればいい?」

 

 状態異常の暴走をしているのはそこのレアだ。まず伝えて、暴走を制御させて、というのが流れになるのか? しかし、伝えたからと言ってそう簡単に制御が出来るのか。

 

「それは、レア嬢次第でしょう」

「私? 私が一体何の」

「この状況の犯人は、貴女。マンドレイクと人のハーフである、貴女の状態異常能力が暴走しているのが原因ですわ」

「……は? 何を言って」

 

 まあそりゃそうだろう。突然モンスターと人のハーフです、とか言われてもはいそうですかと信じることなんか出来ない。

 が、状況が状況である。アンゼリカ嬢も真剣そのもの、信じざるを得ない。ゆっくりとその事実を受け止め、しかし。

 

「わ、私がそうだとして、暴走? これ、私がやったの……!?」

「ええ。マンドレイクの魅了と混乱、無意識にそれらが入り混じって発してしまったのでしょう。そして恐らくその引き金は」

 

 運命の相手。そうアンゼリカ嬢が述べると、ビクリとレアが反応した。どうやら思い当たる節があるらしい。

 

「あー。だからエミルは対象外だったんですね」

「どういうことだ?」

「エミルはわたしの運命の相手ですから」

「……訳分からん」

 

 とにかくレアは俺以外の周囲全員にそれらをばら撒き、好意を少しでも持っている相手は運命の相手だと魅了状態にさせ、そうでない相手は混乱状態が色濃く出て彼女をいじめる悪役へと変貌する。そういう感じだったのだろう。

 まあそれはいい。問題はこれが制御出来るかどうかだ。

 

「それなのですが」

 

 アンゼリカ嬢がこちらを見る。まあ普通に考えて、貴族子女にここまで盛大に状態異常を掛けてしまった以上、極刑は免れません。そう述べて、え、と小さく声を上げたレアに視線を移動させた。

 

「わ、私……でも、知らなくて」

「ええ、そうでしょう。しかし、実際これだけの被害者が出ている以上。王国の双翼であるベルンシュタインとフォーマルハウト両公爵家の令嬢が魅了される事態になった以上、お咎め無しにはなりません」

「そ、れは」

 

 よろめく。彼女も分かったのだろう。自身の起こした暴走が、どういう意味を持つのかを。どうすれば償えるのかを。

 

「まあ、元はと言えば貴女が人とマンドレイクのハーフであることを伝えなかった両親に責があるのでしょうが……母親はすでに亡くなっておられますからね」

 

 ここまで秘匿していたとなると、恐らく父親である男爵も彼女がモンスターとのハーフであったことを知らない可能性が高い。となると、責任を負うべきはどうしても当事者となる。

 

「せめてもの慈悲、と言うべきでしょうか。アンゼリカ・フォン・フォーマルハウトの名において。この場で犯人たる男爵令嬢レアの首を刎ね、それで終わりとしましょう」

「く、首、を……?」

 

 そこまで言うと俺を見る。え? 俺がやるの? 俺がレアの首を刎ねるの?

 そんなことを思いはしたが、今この場で可能なのは確かに俺一人。そして、多分何がしたいかも大体分かる。分かるが。

 

「エミル」

 

 スロウが俺を呼ぶ。その瞳は真っ直ぐ俺を見ていて、だから俺は。

 

「あーもう…………悪く思うなよ」

「え……」

 

 剣を抜き放つ。不殺ではなく、相手を殺すために、俺はゆっくりと剣を構える。

 

「レアちゃん」

「す、スロウ……私は」

「大丈夫です。エミルを信じてください」

 

 レアが縋るようにスロウを見たが、スロウは一言、そう述べるのみ。しかし、それが彼女に伝わったのか、あるいはもう逃げ道はないと諦めたのか。ゆっくりと頷くと、レアは俺を見た。

 

「なあ、アンゼリカ嬢」

「はい」

「首を刎ねれば、暴走も収まるんだな?」

「自分自身が状態異常に掛かったことで確認しました」

 

 成程、そりゃたのもしい。そんな悪態をつきながら、俺は視線をレアに向けた。その瞳は、俺を真っ直ぐに見詰めている。

 

「本当に、いいんだな?」

「スロウが信じて、って言ったから」

 

 迷いなくレアはそう述べる。分かった、と俺は剣を振り被り。

 斬、と彼女の首を刎ねた。胴と首とが泣き別れ、首は地面にぽとりと落ちる。ゆっくりと体も崩折れ、そのまま地面に倒れ伏した。

 

「男爵令嬢レアは、これで死にました。事態もじきに沈静化するでしょう」

 

 ふう、とアンゼリカ嬢が息を吐く。地面の死体を一瞥し、後で回収させましょうと何事もなかったかのように述べていた。

 

「そーいえば」

「ん?」

「結局わたしの正体、知らないまま死んじゃいましたね、レアちゃん」

「……そうだな」

 

 それがどうしたというのか。なんてことないように、世間話でもするかのようにそう述べるスロウは、動かなくなった新しい友人を見下ろしながら、あーあ、と呟いた。

 

 




ポロリ(首)
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