幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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もっかい


第七十五話

 めでたしめでたし。

 最終的にレアを殺して終わらせたあの事件から少し後。アンゼリカ嬢のお茶会に誘われた俺達は、頼み事も終わったということでそう締めることにした。これで学院の問題も無くなったので、スロウとアリアの学院生活も終わりになる。スロウはともなく、アリアは少しだけ名残惜しそうであった。悪役令嬢そこまでやれなかったしな。

 

「それにしても」

 

 す、と紅茶を用意したメイドがスロウとアリア、そしてシトリーを見やる。身分を偽っていた、という話はまあ別にどうでもいいとして、と前置きをしながら、彼女は小さく溜息を吐いた。

 

「アリア様もスロウも、人間じゃなかったのね」

「ええ。幻滅したかしら?」

「いいえ。人じゃなくなったからといって嫌いになることもないですし」

「そう、ありがとう。別にもう身分も何も無いし、もっとくだけた感じでもいいわよ。あたしも素の状態で接するから」

「そう? じゃあ、そうさせてもらうわアリアさん」

 

 そんな会話をしながらメイドの少女は今度はスロウを見る。そうしながら、首元のチョーカーにそっと触れた。

 

「まだ痛みます? 首」

「別に、痕が残っているといっても僅かだし。……それよりも、よ」

「どーしました?」

「あの時糸を吐いたのはそういうことだったのよね?」

「そーですよ。わたしはミミックロウラー、芋虫ですから」

 

 でも聖女としての実力はちゃんとありますよ、そう言って胸を張るスロウを見た彼女は溜息を吐く。そんなことは承知の上だ、と言葉を紡いだ。

 

「首が落ちた上に埋葬されて傷んだ状態でも蘇生出来るんだから、そこは疑ってないわよ」

「まあ流石にちょっと腐りかけだったんで首に痕残っちゃいましたけどね」

「……念の為聞くけれど。私アンデッドじゃないのよね?」

「とーぜん。わたしがばっちり《リザレクション》で蘇生させましたよ」

 

 まあ普通腐った死体を蘇生させるのは不可能なんだけどな。いや、可能不可能でいうなら可能ではあるらしいんだけど、だからといって出来る奴がいるかと言えば、という話らしい。月の大聖女と妖精姫が少々呆れ気味に言っていた。傀儡人形は楽しげに見物してたけど。野次馬の悲鳴彫刻家は若干引いてたな、そういえば。

 まあそういうわけで。今こうしてスロウと話しているメイドは、元男爵令嬢のレアである。あの場で首を刎ねられた彼女は、そのままアンゼリカ嬢の宣言通り、事件の犯人として処理され、それ以上追求されることはしなかった。人とモンスターのハーフが起こした事件、ではなく、あくまで男爵令嬢が個人で起こしたものという体になったのだ。父親である男爵は首を落とされた娘を見て嘆き悲しんだが、家族に被害が行かないよう自身の首を差し出したと聞き、そうでしたかと受け止めていた。

 犯罪者として処刑されたとはいえ娘。せめて葬儀は、と男爵家によってレアの遺体は墓地へと埋葬された。公爵家の決定である。男爵をこれ以上責めることもなく、事件としてはこれで終わり。最初に述べたようにめでたしめでたし、というわけだ。

 で、ほとぼりが冷めたので埋葬してあったレアの遺体を掘り返して蘇生させて、アンゼリカ嬢のメイドとして雇用して今に至る。さらっと説明したが大分ヤバいなこの行動。やっていることはほぼネクロマンサーだ。

 

「だから、ちゃんと蘇生させたんで問題ないですってば」

「いや、分かってるけどさ」

 

 ぷんすかスロウが怒る。教国にいる属性頂点月の大聖女、帝国にいる属性頂点妖精姫、王国にいる属性頂点傀儡人形、おまけの悲鳴彫刻家の四体が立ち会った上での蘇生劇なので、文句を言える人間はこの世に存在しない。蘇生されたという部分は、である。色々やらかした犯罪者みたいなものであるレアを蘇生されることについてはそりゃ勿論クレームが山程出るわけで。

 まあ男爵令嬢レアは死んだ、という体になった。ここにいるのは属性頂点が拾ってきた人とモンスターのハーフである少女レアで、アンゼリカ嬢が雇ったメイドということになる。権力ってこういう時に使うんだな、と強引さに思わず遠くを見たくなった。

 そんな元男爵令嬢であるが、そのまま文句を言わずメイドとしての日々を過ごしているらしい。貴族令嬢だったのに、いいんだろうか。

 

「元々街で平民暮らしだったし、私としては公爵家のメイドになれたのならむしろ光栄って思うわ」

「そんなもんなのか」

 

 まあ本人が納得しているのならば良しとしよう。俺達が文句を言うこともでないだろうし。

 

「それはそれとして。ねえスロウ。あの時の「エミルを信じて」ってどういうことだったの? 蘇生は貴女がしたんだから、「わたしを信じて」じゃないの?」

「わたしの一番はエミルだからです」

 

 迷うこと無くそう述べた。まあそれで納得するかどうかは話が別なので、当然レアも何言ってんだこいつという表情になる。そんな彼女を見たスロウは、しょうがないですね、と顎に手を当てた。

 

「例えばあそこで頭部をグシャってやっちゃった場合、流石に蘇生が大変になっちゃうところだったんですよね」

「へ?」

「でも、エミルならしっかりスパッと首を刎ねてくれると信じてましたから」

「うん……?」

 

 割と適当な理由だが、まあ出来るだけ無事な状態のパーツが残っていた方が蘇生しやすいというのは本当なのだろう。腕の悪いやつならば、首を刎ねるのではなく頭部を斬り潰してしまう可能性があったというのもまあ嘘ではないはずだ。

 スロウが俺を信じてくれているというのは間違いないから、まあそれに応えられたってことで良しとしておこう。

 ともあれ。説明を聞いたことで、首ではなく自身の頭部、顔をペタペタと触りながら、レアは何とも言えない様子ではあるが納得したらしい。まあいいやと言っているので諦めたとも言う。

 

「ところで。今こうやって表に出てきたってことは、マンドレイクの能力は制御できてるってことでいいのか?」

「勿論よ。コイナさんに教わったから、次はもうあんなことは起きないわ」

 

 だから、と視線をアンゼリカ嬢の隣で紅茶を飲んでいた少女に向ける。改めて、申し訳ありませんでした、とレアはその少女――セフィに頭を下げた。

 

「気になさらないでください。あの件は私も修行がまだまだ足らなかったと実感する良い機会でしたから」

「ちょっと何言ってるか分からない」

 

 思わず呟いた。何がどうなって修行不足になるんだ。魅了されたことについてだろうか。もしそうなら、今回は俺が対象外だったから平気だっただけで、そうじゃなかったら間違いなく同じ状態になってレアに求婚していたから何の問題もない。いやその状態は大問題なんだけど、まあそういうことだ。

 

「それもありますが」

「あるのかよ」

「単純にレベルの不足を感じてしまい」

「なんでだよ。俺お前にボコされたんですけど!」

 

 アリアやシトリーがいてスロウの支援があったから何とかなったが、俺一人だとなすすべ無く叩きのめされて終わっていた。御冗談を、とセフィは笑うが、いや冗談でもなんでもなく本気だよ。

 

「それはエミルさんが無意識に手加減していたからでは?」

「ぶっちゃけもう一回殺すくらいの勢いで全力でしたが?」

 

 あらあら、と頬に手を当てながらそうセフィが述べるので、そんなわけあるかともう一度述べる。が、当の本人はそんな俺の言葉を信じていないようであった。

 

「剛腕の鍛冶師様の鞘も使わなかったではないですか」

「使う暇無かっただろ。そもそも使ってたからといってどうなるってもんでも」

「そうでしょうか? ……スロウさん、少々エミルさんをお借りしても?」

「へ? 何に使う気ですか?」

「勿論、勘違いを正そうと思いまして」

 

 

 

 

 

 

「だから! 勝てないって言ってんだろ!」

「エミルさん」

 

 アンゼリカ嬢の案内で訓練場へと移動した俺は、何がどうなってこうなったのか全く理解出来ないまま、再びセフィと戦うことになった。しかも今回は一対一である。タイマンである。無理。

 そんな俺の弱音を気にせず、セフィは俺を見て微笑んだ。そうしながら、では鞘を使ってみれば分かるはずですと俺の手にあるそれを指差す。

 

「そんなこと言ったって」

「エミルさんの悪徳は、一人では己に牙を剥く。しかし鞘がある限り、貴方は決して一人ではない。そうでしょう?」

「何か改めて言われると。そう、なのか?」

「そーですそーです。わたしの愛情もたーっぷり詰まってますよ」

「だそうですわよ、エミルさん。ちなみに、私の友情も、そこに」

 

 いやまあそりゃ分かってるけど。でもそれをどう使えば。

 そこまで考えて、ああそうかと思い直した。俺、この鞘を十全に使えたこと無いんだ、と。最初に使った時は魔力切れを起こしたから、それが俺の限界値だと判断してちょっとずつしか使わないようにしていた。

 けどそれじゃあ、いつまで経っても鞘は使えないままだ。だから、あの場面でも鞘を使うという選択肢が浮かんでこなかった。

 

「なんというか」

「どうされました?」

「毎回毎回自分が経験不足というか、そういうのに気付かされている気がする」

「ふふっ。ならば、それを補えば本当の実力が見えてきます」

「そいつも言うほどじゃない気がするが。まあいいや、じゃあちょっと特訓相手をしてくれるってことで、いいのか?」

「そのための場所ですので」

 

 なら遠慮なく。まずはスロウの力を引き出し、自身にバフを掛けた。以前とは違い、これがあれば、一人でもスロウを感じられる。

 一気に間合いを詰める。そうしながら、鞘からアリアの力を引き出し鱗粉をばら撒いた。魅了されていたセフィはこれでダメージを与えることが出来たが、しかし。まあアリアそのものじゃないということを踏まえても、やはり状態異常になっていないセフィには通用しないらしい。レイピアを回転させ、それで作り上げた渦で鱗粉を全て巻き取った。

 いや待って。凄く軽くやったけど今とんでもないことしたよな。

 

「さあ、ではこちらの番です」

「う、お、っとぉ!?」

 

 驚愕している暇もない。即座にシトリーの力を引き出し、当たったら死ぬ刺突を横にずらす。む、と表情を変えたセフィがあの時もぶっ放した一瞬で五撃の刺突を放ったが、同じくその全てが俺からずれていった。

 ひゅん、とレイピアを翻す。ほらご覧なさい、と言わんばかりに、セフィが口角を上げて俺を見た。

 

「いや、鞘の力は使ったけど、これだけならあの時と対して変わらないし。たまたま回避できたのが狙って回避できるようになっただけで、反撃の糸口はないままだぞ」

「ですが、余裕は生まれたのでは?」

「そりゃ、まあ」

 

 鞘の力があれば、必死で回避をせずとも、ある程度避けることに余裕が生まれるのは確かに分かった。そういう意味では、この余裕を反撃に使う思考に回せるということでもあるわけで。

 

「じゃあ、逆に」

 

 一歩踏み出す。そうしながら、悪徳の剣を刺突に構え、そして。

 

「っ!?」

 

 セフィの力を引き出し、同時に三発の突きを放った。本人であれば五発同時が可能なのだろうが、鞘の恩恵を享受するだけの俺ではこれが限度である。

 

「それでも相当のものですわ」

「さらっと受け流してよく言うぜ」

「自分の技ですので」

 

 そう言ってクスリと笑ったセフィは、何か掴めましたかと俺に問い掛けた。正直掴めたかといえば全然だが、鞘をもっと積極的に使った方がいいというのは良く分かった。あの時どうせ使っても一緒だ、などと思わずに、これで創意工夫をすべきだった。

 

「しかし何故私の技を? 他の誰かの力を引き出せばよろしかったのでは?」

「いや、それは」

 

 まあちょっとした意地のようなものだ。反撃するなら、どうせなら。そんな意味合いを込めて、セフィの力でセフィに対抗してみたくなった。あの時と比べて、それくらいの余裕は出来るようになったわけだ。

 とはいえ、俺の中では変わらずセフィに単体性能では勝てないと思っているわけで。彼女が俺を買い被っているというのはそのままである。

 

「成程。では、スロウさん」

「はーい」

「エミルさんの強さを、贔屓目無しに見るとどのようになります?」

「そうですね。エミルは何か弱気になってますけど、正直強さだけなら相当だと思いますよ。わたしの支援無しでも上級冒険者やれるくらいには」

「絶対贔屓目で見てるだろ」

「そんなことはないんじゃないかしら。あたしもその辺は同じ意見だし」

「うんうんうん……」

 

 スロウに続いて、アリアとシトリーもそんなことを述べる。いや、絶対仲間だからっていうボーナス込みだろお前ら。そんなことを思いながら三体を見たが、別にそんなことはないと全員意見を変えない。なら、とアンゼリカ嬢を見たが、微笑むだけで否定もしない。

 

「いい加減観念してくださいな。己の実力をきちんと把握するのも、冒険者に必要なことでしてよ」

「んなこと言われてもなぁ」

 

 上級冒険者。それになる気がさらさら無いのに、そんなことを自覚しろと言われても。そんなことを述べると、まあそれは確かに、とスロウ達も頷いた。アンゼリカ嬢もそれならば仕方ないですわね、と口角を上げている。

 

「それはそれでもったいないわね」

 

 レアがそんなことを言っていたが、別段上級冒険者にならないといけないような仕事をする気もないし、ましてや英雄や勇者なんぞまっぴらごめんなのだから、こればかりは。

 

「ではエミルさん。――仕事の依頼を、お願いしても?」

 

 そう結論付けたタイミングで、アンゼリカ嬢から声が掛かる。実は、これからしばらく教国へと行かなくてはならない。そう述べ、セフィも同行者だと続けた。

 

「上級冒険者に、英雄や勇者への道を選ぶというのでしたら、こういった頼みも色々と手続きが必要でしたが。中級冒険者ならば、護衛の依頼も手短で済みますわね」

「申し訳ありません、エミルさん」

 

 そう言って謝罪するセフィ。小回りがきく最大戦力が俺達である、と頼まれると、いやまあそりゃそうだろうなとも思ってしまうわけで。

 それはそれとして。何だかアンゼリカ嬢に凄く良いように使われた気がするのは気のせいじゃないだろう。まあ傀儡人形の弟子だ、この程度お茶の子さいさいか。

 

「はぁ……まあ、いいや」

 

 スロウ達は断らないだろうし、俺も別に友人の頼みなら出来るだけ聞いてやるくらいには思っているからな。

 

「ありがとうございます、エミルさん」

 

 そのタイミングで、アンゼリカ嬢がお礼を述べる。いやだから別に気にしなくても。

 

「いえ、こんなわたくしを友人と思ってくださることについて、ですわ」

「……別に、気にしなくても」

「あ、エミル照れてますね」

 

 うるさいよ。

 

 

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