幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第八十二話

「おやおや、お久しぶりです」

「ああ」

「その様子ですと、私達を手伝ってくれるということでいいんでしょうか?」

「しょうがなくな」

 

 酒造工房へ向かうと、そこにいた胡散臭い男がこちらを振り向き笑顔を見せる。まあ多少のフィルターが掛かっているのは認めるが、何か企んでそうなオーラがプンプンする。とはいえ、リナさんの言う通り別段こいつは胡散臭いだけで悪い奴ではない、というのもまあ一応分かってはいるので、俺は溜息とともに怪しい男――クロードに返事をしていた。

 次いで、その近くにいたピンクブロンドの少女もこちらに気付きおや、と目を見開いている。こちらにポテポテと歩いてくると、笑顔で声を掛けてきた。

 

「久しぶりでござるな」

「久しぶり。アスカさんも変わりないようでなによりだ」

 

 相変わらずの口調に苦笑しながらそう返す。そうしながら、現状はどうなっているのかを二人に尋ねた。そうすると、おや、とクロードもアスカさんも首を傾げる。

 

「リナから聞いていないのかい?」

「醸造の魔道具が壊れて上級以上の酒が作れないって話は聞いたぞ」

「そこまでは聞いているんですね。なら話は早い。現状お手上げです」

「おい」

 

 駄目じゃねえか。いやまあ魔道具の修理はそりゃ専門家じゃないと無理だろうっていうのはそうなんだけど、だとしても他に何か出来ることがあったりとか。

 しないからお手上げなんだろうな、うん。

 

「じゃあ、手伝うことは別にない、と」

「修理自体には。エミルくんが魔道具に精通しているというのならば話は別ですが」

「してないな。じゃあ」

「失礼。その魔道具ですが、見せてもらうことは可能ですか?」

 

 手伝えることはなさそうだ。そう答えようとしたタイミングで、セフィが話に加わった。クロードはそれを聞いて勿論と醸造魔道具の場所まで案内する。せっかくなので、と俺達もそこに向かうことにした。

 目的地につくと、成程確かにこれは無理だと思われるような装置がででんと鎮座していた。その周囲にパーツが散らばっており、今現在復旧作業をしていると思われる人影が見える。

 その人物は、俺達が来たことに気付いたのか手を止め、どうしたんだいと振り向いた。そして、おや、と声を上げる。

 

「セフィーリア嬢、どうしたんですか?」

「フレデリク様」

「へ?」

 

 白衣の作業着を着て魔道具の修理でヨレヨレの青年を見て、セフィがそんなことを述べた。それを聞いて、俺達は思わず目を見開く。え? フレデリクって言った今?

 俺の記憶が確かならば、フレデリクという名前はこの街を治める家の血筋のちゃんとした貴族であり、でもってセフィの婚約者――今は候補だっけか――でもある男のはずだ。

 

「フレデリク様は魔道具技師でもあってね。その腕はこの街では右に出るものがいないとも言われたくらいです。なので、今回の事態にも協力をしてくれているのですが」

 

 クロードが苦笑しながらそんなことを述べる。いやまあ気持ちは分かる。けど、いかんせん俺の場合は知り合いに似たような人が、というか隣に同じようなお嬢様がいるのでこう、同意しにくいというか。

 

「いや、申し訳ない。貴女が来てくれると分かっていたのならばおもてなしの準備もしたのですが」

「いえ、こちらが急に訪ねてきたのですもの。それよりもフレデリク様、貴方が駆り出されているということは」

「ははは、その通り。大分面倒なことになっているね」

 

 そう言ってフレデリクさんは苦笑する。まあ見てごらんよ、と立ち上がって自身が修理していた場所へと俺達を案内してくれたので、遠慮なくとそこを覗き込む。うん、ぶっ壊れているということは分かるが、何がどう面倒なのかはさっぱり分からない。

 が、ただ一人。セフィはそれを見て成程、と頷いていた。え? 分かるの?

 

「ベルンシュタインは魔道具技師で成り上がった公爵家。ある程度の知識は私も持ち合わせていますわ」

 

 そういやそうだったっけか。俺の悪徳の剣もベルンシュタインの魔道具工房で作られた武器だったしな。

 

「それで、セフィちゃん先輩、何が分かったんですか?」

「この故障の原因は外部のもの。具体的に言うと、部品がいくつか抜き取られていますね」

「その通り。お陰で修理するには新しいパーツの発注からしないといけなくて、応急処置をしようにも基部パーツを盗られているから、これがもう大変なんですよ」

 

 たはは、と頭を掻きながら再度苦笑するフレデリクさん。一応規格の合うパーツは用意したから、と散らばっている部品の中から何個か取り出して魔道具に組み込んでいくが、その表情は晴れない。あくまで応急処置、と言っていたので、これで修理完了というわけにはいかないのだろう。

 

「そこで、部品を盗んだ犯人が見付かれば、パーツを取り戻して修理が可能になる、と私達は考えて」

 

 そんなフレデリクさんを見ながら、クロードが言葉を紡ぐ。修理自体は自分達はお手上げだが、それ以外の手伝いは、と考えたわけか。どういう風に犯人が部品を扱っているかは分からないが、とりあえず捕まえて残っていれば万々歳。

 

「そう思ってたんだけど、これがまた犯人の情報も手に入らなくて」

 

 リナさんがそう言って肩を竦める。ああ、外に出ていたのは情報集めのためか。そんなことを思いながらクロード達を見ると、そういうわけですと頬を掻いている。

 で? そういうわけだ、と言ってなんで俺達を見るんだ?

 

「自分達では現状お手上げなので」

「手伝いをお願いしたいのでござるよ」

 

 うん、知ってた。そう言うと思ってた。クロードとアスカさんを見ながら、困ったような表情を浮かべるリナさんを見ながら。

 

「いや、無理だろ。勇者級が見付けられないのに俺達みたいな中級冒険者が出来るわけないって」

 

 迷うこと無くそう答えた。最高峰の冒険者が出来ないことを、上級でもない俺達が出来るわけないって。

 が、向こうはそう思っていないようで。むしろ中級者ねぇ、みたいな表情でこちらを見ている。

 

「上級者試験を受けていないだけ、の間違いでござるな」

「いや、だから」

「まあそれは置いておいても、そちらの実力は十分あります。そしてこちらで情報が集めきれないということは、恐らく我々が勇者級パーティーだと知っていて、警戒していると見ていいでしょう」

 

 そうなると、むしろ中級詐欺であるそちらのほうが油断が誘える。そんなようなことを続けながら、クロードはこちらを見て、そして頭を下げた。現状犯人の手掛かりがない以上、打てる手は打っておきたい、と。

 

「エミル、どーします?」

「いや、どうするっつったって」

 

 いくら警戒していると言ったって、普通はそう簡単に勇者級から逃げおおせるようなものではない。ということは、少なくとも相手は上級の冒険者相当、それもかなりの手練と見るべきだ。

 そんな相手ともし戦闘になったら。

 

「連絡用の魔道具を渡しておくから、もしその時は、すぐに私達を呼んで。一直線に駆けつけるから」

 

 そう言ってリナさんが笑う。これでね、と背中の斧を取り出すと、ひゅん、と一振りした。文字通り一直線に来そうだなこの人。

 ともあれ。まあその辺りはちゃんとしてくれているらしいということを確認したので、もう後は他の面々のやる気次第である。そう思って皆を見ると、まあいいんじゃない、という返事と、エミルに任せるといういつも通りというかの声が掛かった。

 

「私はこちらでフレデリク様のお手伝いをしておきます」

「了解。んじゃ俺とスロウ、アリア、シトリーで犯人の痕跡探しをしてみますか」

 

 そうは言うが、まあ勇者級が見付からなかった以上多分俺達も碌な成果は得られないと思うから期待するな。そんなことを言いながら、俺達はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 まあ当然見付からないがな。そんな簡単に見付かれば苦労しない。初めての街を見て回るだけでも大変なのに、事件の調査とか出来るわけがないんだよ。

 

「まあでも、街を見て回って分かったこともありますね」

「まあな」

 

 スロウの言葉に頷く。視線をぐるりと動かすと、ペダルもない二輪車がススーっと移動していくのが見えた。

 

「珍しいものが走ってるわね」

 

 街のような舗装された場所だけでなく、ある程度荒れた道でも大丈夫なように調整されているらしいそれは、王国でも殆ど見ない自動二輪である。勿論魔道具だ。

 

「あれ、でもセフィちゃん先輩のところでも作ってますよね、あれ」

「まあそりゃそうだろう。城下町でも見たことあるしな」

 

 逆に言うとベルンシュタインの城下町以外ではあまり見ない。便利は便利だが、メンテナンスやらなんやらとかを考えると中々導入はし辛い。何より高い。

 そんなのが普通に走っているということがどういうことか。まあフレデリクさんがあんな感じな時点で予想は出来ていたが。

 

「魔道具の街、みたいだよぉ……」

 

 シトリーの言う通り、この街はいたるところに魔道具がある。というか魔道具が生活に根付いている。いや、別に王国が根付いていないというわけでもないし、家のランプとか水場とかそういうのは基本魔道具で賄っているのだが。なんというか、向いている方向が違うというか。

 

「これ、アイスが自動で出来るみたいだよぉ……」

 

 そういうやつである。王国では普通に手作りのものをここでは魔道具が作っていたり、店の精算も自動で行う魔道具が置いてあったり。

 極めつけが、人型魔道具がいるところだ。

 

「これ、ベルンシュタインより凄いんじゃないのか?」

「おや、あんた達王国からの旅人だね?」

 

 思わずそんな呟きをしてしまったところ、近くの店の人が聞いていたらしい。俺達にそんな声を掛けてきた。まあ嘘を吐く必要もないので素直にそうだと述べると、やっぱりか、と笑った。

 

「人型の魔道具、魔導人形は王国のベルンシュタイン公爵家との共同事業だよ」

「ああ、そうなのか」

「ここを治める領主様、アンブル家の魔道具は実用性はあっても大味でね、ベルンシュタイン公爵家の繊細さが無ければこんな凄いものは出来なかったのさ」

「大味って、その辺の魔道具もそうなんですか?」

 

 その辺の、とスロウが自動アイスクリーム機を指差す。まあそうさね、と苦笑した店の人は、まあ見ていくといいと魔道具のスイッチを押した。

 

「お、おおー、お?」

「ははは。旅人はやっぱりそういう反応になるね」

 

 機械からアイスが出てきた。出てきたが、こう、なんていうか、ぶっちゃけあんまり見た目の出来がよろしくない。

 味はきちんと保証するよ、と店の人はそのアイスを目を輝かせていたシトリーに渡す。旅人にサービスだ、と言うので、じゃあと俺達の分はアイスを購入した。ちなみに、なるほど、ちゃんと美味い。

 

「冷たくて、甘くて、美味しいよぉ……。見た目はちょっとだけどぉ……」

 

 シトリーも同じ評価らしい。その通り、と笑いながら述べた店の人は、まあこれはこれで名物になるからと続けた。まあ実際俺達も気になったくらいなので使い方としては正しいのかもしれない。

 ともあれ、そんな感じの話を聞いた俺達は、ついでにとばかりに今回の事件について尋ねてみた。まあクロード達が聞いているだろうけれど、と思いながら。

 案の定やっぱり既にその辺りは聞き取り済みらしく、役に立てそうにないね、と苦笑された。

 

「んー。でも、何か気になってることとかないです? ほんのちょびーっとのことでも、とゆーか全然関係ないことでもいいので」

「そう言われてもなぁ……あ、そういえば」

「何かあるのか?」

「いや、本当に全然関係ないことだよ? 最近野良犬だかカラスだかがゴミを漁ってるみたいなんだ」

 

 店の人曰く。ここ最近ゴミ捨て場が荒らされることが増えているらしい。野良犬か何か、とは言うものの、実際この辺にそんな野良犬は見当たらないのでまあカラスだろうとは思っているとのことだが。

 

「どう思う?」

「何とも言えないわね」

「怪しい、ですかね? んー」

「最近、っていうのは気になるよぉ……」

 

 一応その辺の話をクロード達にしたのかと聞くと、調査の邪魔になるかもしれないし、流石に関係ないだろうと思ったからしていない、と言われた。これは、ひょっとして進展があるんじゃないのか?

 情報ありがとうと告げ、よし、と一旦戻る。早かったですね、とこちらを見るクロード達に、さっき聞いたゴミ漁りの情報を伝えた。

 

「ゴミ漁り、ですか」

「どう思う?」

「確かに、最近の話というのは気になるでござるな」

「全く関係なさそうでもあるし、微妙なところね」

 

 ううむ、とクロード達も考え込む。とはいえ、せっかく犯人に繋がるかもしれない情報なんだ、やらないという選択肢はないはずだ。俺がそう述べると、三人もその通りだと頷いた。

 

「では、少しゴミ捨て場を調査してみますか」

「で、ござるな」

「エミル君達はどうするの?」

 

 よし、と行動を開始しようと動き出したクロード達だったが、リナさんが振り返りそう尋ねた。いや、ここまで来たんだし、手伝うって言ったし、俺達も同じように調査をするよ。

 

「了解。じゃあ私達は街の東側を調査するから、西側をお願いしてもいいかな?」

「ああ、分かった」

 

 リナさんの提案に頷き、じゃあ俺達も行きますかと向き直る。向き直り、街の西側のゴミ捨て場ってどこにあるんだと動きを止めた。

 

「そーいえば、わたし達まだ一通り街を巡っただけですしね」

「地図でも貰ってきましょうか」

「うんうんうん……」

 

 




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