幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第八十三話

 地図だけを貰うつもりだったが、せっかくだからとフレデリクさんが案内してくれることになった。そんなわけで次の調査は俺達とセフィが戻ってきてフレデリクさんも追加である。

 

「フレデリクさんは修理は良かったのか?」

「応急処置自体は一応終わっているからね。とはいえ、現状あれを稼働させるのはちょっとおすすめしないかな」

 

 壊れて崩壊して完全に駄目になる。あくまで組み込んだパーツはそういう状態から復帰させるためのものであり、正式に修理完了となるには盗まれたパーツを取り戻すなり、新しいパーツを発注製造させるなりなんなりしなくてはならない。まあそういうことらしい。

 

「でも、ぶっちゃけパーツが無事に戻ってくる保証もないですよね」

「ははは、その通りだね。うーん、まあそうなることも見越して発注自体は既に済ませてあるから、大丈夫ですよ」

「へ? じゃあ別に取り戻す必要はないってことですか?」

「そうでもないだろ。あればそれだけ修理は早くなるし」

「それもそーですね」

 

 俺の言葉にスロウも納得し、フレデリクさんもそこには同意した。まあとはいえ、と彼が苦笑しつつ、正直半ば諦めてはいるよと言葉を続けた。

 

「やはり、何かの材料にした、と?」

「うん、そうだね、セフィーリア嬢の言う通り。僕もその可能性が高いと睨んでいる」

 

 そう言って表情を少しだけ真剣なものに変えたフレデリクさんは、しかしすぐに表情を戻すと、だからちょっとクロードさん達には悪いことをしてしまったと頭を掻いた。

 いや、流石に向こうもその可能性を持たずに捜査しているわけじゃないだろうし、そうだったとしてもやっぱりかで済ませると思うんだけど。そんなことを考えていると、他の面々も同じだったようでフレデリクさんにそう述べていた。

 

「だとしても。勇者級にこんな仕事を押し付けているのは申し訳なくてね。あ、いや、君達なら大丈夫だと言っているわけじゃないんですよ?」

「言わなくても分かってるって。俺達だってまあ、好きで捜査に参加してるんだしな、フレデリクさんは気にしないでくれ」

「捻くれ者のお人好し」

「うるさいよ」

 

 アリアの呟きにそう返し、そろそろ現場だろうかと話を変える、というか戻す。そうだね、とフレデリクさんは答え、もう暫く歩いていくと、聞くまでもなく一目でそうと分かる場所が視界に飛び込んできた。

 が、フレデリクさんはそこを素通りする。

 

「あれ? ゴミ捨て場ってここじゃないんですか?」

「うん、そうだけど、ここは粗大ごみ置き場で、カラスが荒らしそうなゴミ捨て場はもう少し先の」

 

 ほらあそこ、と少し離れた場所を指差す。なるほど、あっちは確かに生活のゴミを捨てる場所といった感じで、看板に火木風が収集日だと書かれている。今日は土曜日、既に収集は終わっているようで、一部の分別から外れたものと袋が破れたものだけが残っている状態だ。

 

「この破れた袋のやつがカラスが荒らしたってやつか」

「多分、そうじゃないかなぁ……」

 

 近付くと、家庭用のゴミが散乱しているのが目に入り、思わず顔を顰める。生ゴミが入っていないのが不幸中の幸いというやつか。そんなことを思いながら、他の破れた袋も確認していった。

 

「ん?」

「どーしたんですか?」

「いや、本当に大したことじゃないんだが」

 

 予想していたより臭いが少ない。もっとこう、荒らされて収集されないゴミ袋が何日も残ってるとなると、腐った生ゴミが散乱していて酷い臭いが。とか考えていたのに、生ゴミらしきものは見当たらない。

 そのことを伝えると、成程確かにとは言うものの、しかしまあ本当に大したことじゃないなと皆流した。

 

「いえ、待ってください」

 

 そんな中、セフィが言葉を紡ぐ。確かにそれはおかしい、と述べる。

 ゴミ捨て場を眺め、もう一度周囲を調べ。そして俺の言ったことが確かであることを確認する。

 

「カラスが本当に荒らしたのならば、むしろ生ゴミが多くなるべきでは?」

 

 セフィの言葉に、フレデリクさんも少し考え込む。とは言っても、お菓子のゴミとかにもカラスは反応するからね、とやんわり否定するように述べてから、しかし、と破れた袋を覗き込んだ。

 

「お菓子や食べ物の袋が入っているものを狙った感じでもなさそうですね」

 

 どちらかと言うと、そういうタイプではないゴミを狙って破っている節さえある。俺達も同じように破れた袋を改めて調べてみると、そんなような結果になった。零れているのは何かの欠片。破損して壊れた玩具か何かで、粗大ごみにするほどではないものはこちらに、といった体で捨てられた物だ。

 まあ間違いなく、カラスが食うものではないだろう。が、だからなんだとしか言えない。

 

「んー」

「どうした?」

 

 そんな中、スロウが何やら難しい顔をしている。何か思い付いたのか、と聞いてはみるものの、まあこいつ頭良いけど基本馬鹿だからあまり参考にならないだろうとか呑気に考えていた。

 

「いや、これってひょっとしてなんですけど。何かのパーツを漁ってません?」

「ん?」

 

 どういうことだ、と今度は俺が首を傾げる番だ。何かのパーツって何だよ。そんなことを問い掛けると、何かは何かですという滅茶苦茶ふわっとした返答が来た。だから何かって何だよ。

 

「何かは何かなんですってば。わたしそーゆーのは専門外なんですから、分からないんですよ。セフィちゃん先輩ならどーです?」

「どう、と言われると」

 

 話を振られたセフィも苦笑する。が、スロウのその意見自体には何か思うところがあったようで、破れた袋をもう一度確認し始めた。ゴミに違和感があるとはセフィも言っていたので、スロウの意見も参考に出来ると判断したのだろう。

 

「フレデリク様」

 

 あれも、これも。それぞれの袋の玩具の残骸を確認しながら、セフィはフレデリクさんを呼び寄せる。そうして近付いた彼も、セフィの言いたいことが分かったのか怪訝な表情を浮かべた。

 

「成程。しかし、そうなると」

「ええ。恐らく」

 

 二人が視線を動かす。その先にあるのは粗大ごみ置き場。カラスが漁っている場所とは無縁だとして素通りした場所だ。だが、そこに何があるというのだろうか。まさか盗んだパーツをそこに捨てていったとか言わないよな。

 

「セフィちゃん先輩達、そっち見てどーしたんですか? まさかそこにパーツが落ちてるとか言わないですよね」

「お前と同じこと考えてるとか、ちょっと凹むな」

「何でですか、そこは同じこと考えてるスロウ凄い、好き、でしょう!?」

「まあ、あれは放っておいて。セフィーリア様、フレデリク様、何を向こうに見付けたのですか?」

「いえ、見付けた、というわけではありませんわ」

「そうだね。多分、これから見付けにいく、が正しいかな」

「どういうことなんだよぉ……?」

 

 シトリーの疑問に、二人は口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 というわけで粗大ごみ置き場である。カラスが何かを漁るならば圧倒的に向いていない場所だ。そこで、俺達はがさごそと何かを探していた。

 やっていることを考えると、こちらがゴミ漁りの犯人だと思われかねない。というか、実際問題通行人に何やってんだこいつらみたいな目で見られた。説明と、その場にフレデリクさんがいたことで事なきを得たが。

 

「それで、本当に手掛かりがあるのかこれ?」

「どーなんですかね。まあセフィちゃん先輩のアイデアなんで大丈夫だとは思いますけど」

 

 スロウの言葉に、まあそれは確かにと納得する。ついでに言うとフレデリクさんも同じ考えだということも踏まえてだ。

 しかし、そうなると反対側を調査しているクロード達にも俺達の意見を伝えた方が良いのではないだろうか。ふとそのことを思い出したので、皆に述べると確かにと頷かれた。

 では早速、と渡された通信魔道具を起動する。

 

『どうしたの? 犯人と遭遇した?』

 

 そうして聞こえてくるのはリナさんの声。何か既にこっちに突っ込んできそうな気配を声だけで感じるので、俺は慌てて違うそうじゃなくてと返した。そうしながら、クロード達はゴミ捨て場で何か違和感みたいなものを見付けなかったかと問うた。

 

『違和感ですか? そうですね……金属などの光り物が狙われているので、やはりカラスの仕業だと思って良さそうだというところでしょうか』

「ん?」

 

 思わずセフィ達を見る。その可能性もあったか、という顔をしていたので、どうやら完全にそこは抜け落ちていたらしい。

 ともあれ。まあそれはそれとして、こっちはこっちで生まれた疑問をクロード達に述べた。これはカラスの仕業ではなく、何かの部品を調達しているのではないか、と。

 

『成程。そう言われると怪しく見えてくるでござるな』

 

 怪しい言葉遣いでそれは怪しいと向こうで頷いているであろうアスカさんの言葉を聞きつつ、そういうわけだから調査を粗大ごみ置き場にまで拡大した、と告げると、了解という声が返ってくる。

 

『そういうことなら、こっちもその辺りを調べてみるわね。情報共有ありがとう』

 

 そうして通信を終えると、さて、と俺達は再度粗大ごみ置き場を眺めた。そうはいっても、ここで一体何を探せばいいのだろうか。何かしらの魔道具のゴミが盗まれていたとしても、さっきまでのゴミ捨て場と違いここだと分からないのではないか。

 

「確かにそうだね。でも、逆に言えば盗まれていればここに魔道具はない」

 

 フレデリクさんの言葉に、成程と頷く。その辺りはここに住んでいない俺達には分からないが、魔道具のゴミがどれだけあるかをざっと調べれば、普段との違いが分かるはず。幸いここにはフレデリクさんが、街のことを把握している人がいるので大丈夫だ。

 

「そー思って見てみると、確かに魔道具の粗大ごみが少ない気がしますね」

 

 よっこらせ、とゴミを登りながらスロウがそんなことを言う。どうでもいいが、いやよくないがスカートでそんな登り方するな、パンツ見えるぞ。

 

「エミルになら見られてもへーきですよ。むしろ見てください」

「何でだよ。変態かお前は」

「大好きなエミルになら身も心も捧げようという乙女心になんということを!?」

「別の捧げ方をしてくれ。あ、いや違う、今のなし」

「えっへへー。りょーかいです。じゃあ別の捧げ方にしますね」

 

 とう、と俺に飛び着いてくるスロウ。危ないな、いやこの程度の高さから落ちた程度では何ともないだろうというのは分かるんだけど、でもついそう思ってしまう。

 そんな俺の心配など露知らず。スロウは俺を抱きしめたまま離さない。えっへへ、と笑いながら、俺の耳元で言葉を紡いでくる。

 

「わたし、エミルにならえっちなこと、何されてもいーんですよ」

「……分かった、分かったから離れろ」

「えー。しないんですか、えっちなこと」

「何で今ここでそんなことせにゃならんのだ。調査中だぞ調査中」

「そーですね。そういうのは終わってからゆっくりと、ですね」

「せんわ」

 

 ぶーぶーと文句を言うスロウを引き剥がした俺だったが、そこで思い出してああそうだと向き直る。

 

「どーしました? 気が変わったとか?」

「何でだよ! そうじゃなくて、お前芋虫の糸なりなんなりで全体の調査できるんじゃないのか?」

「おお」

 

 ぽん、と手を叩いたスロウは、じゃあ早速と糸を吐いた。しゅるしゅると粗大ごみ置き場を縦横無尽に伸びていく糸を見ながら、どうだスロウと声を掛ける。そのまま暫く糸を手繰りながら顎に手を当てていたスロウは、ふむふむと頷き皆に向き直った。

 

「調査自体はできましたけど、糸に目は付いてないんで正確じゃないですよ?」

「頼んだの俺だしな、それでも大丈夫だ」

「じゃあ。魔道具っぽい反応は確かに少なめ? みたいな感じでしたね」

 

 とはいえ、その少なめが普段と違うのかどうなのかが分からないと何とも言えない。フレデリクさんにスロウの調査を判定してもらおうと視線を向けると、ううむ、と考え込まれた。

 

「魔道具自体はそう頻繁に捨てられるものではないからね。とはいえ、普通のゴミ捨て場と違って粗大ごみ置き場は西側でも二箇所しかないから、この少なさは確かに気になる」

 

 そういう意味では最初に選んだゴミ捨て場がここなのはラッキーだったかもしれない。そんなことを思いつつ、じゃあもう一つの粗大ごみ置き場も行ってみようと足を進める。

 西側とはいえ、まあそれなりの距離のあるもう一方の粗大ごみ置き場にやってくると、先程と同じようにスロウの糸で探ってもらうことにした。結果としては、向こうとそう大差ない量の魔道具が捨てられている、だ。

 

「二箇所ともこれだと、僕たちの仮説が真実味を帯びてくるね」

「というと、やっぱり犯人が魔道具のゴミを漁っているってことか?」

「恐らくは」

 

 俺の問い掛けにフレデリクさんはそう返す。しかし分からない。ゴミを漁るのと、醸造魔道具のパーツを盗むのとがどう繋がるのか。何か作っているのだとしても、わざわざゴミを漁らなくても、最初にやったようにちゃんとした魔道具のパーツを盗めば。

 

「いえ、逆ではないでしょうか」

「へ?」

「あ! 粗大ごみの魔道具を漁るのに限界が来たとか、残りのパーツをゴミからでは補えなくなったとか?」

 

 セフィの言葉に、アリアがそういうことかと声を上げる。フレデリクさんはそれを受け恐らくね、と頷いた。

 

「ただ、どちらにせよ。犯人は醸造の魔道具からパーツを盗んだ時点で何かしらを完成させたと見ていいはず。……はぁ、これはパーツは発注製造待ちかな」

 

 たはは、とフレデリクさんが苦笑する中、俺達はそれを聞いて表情を変えた。まあつまり、推定上級冒険者クラスの犯人が作っていた何かは、既に完成している?

 

「これは、ちょっとマズいかもしんないですね」

「まあ、犯人が何を作っていたか、によるけれど」

「危ない機械じゃなきゃ、いいんだけどぉ……」

 

 シトリーの言葉に頷きつつも、まあどうせ色々な意味で碌なものじゃないんだろうな、と俺は小さく溜息を吐いた。

 

 




割とガバガバ推理なのは見逃してください
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