幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第八十八話

 合流場所に向かうための《テレポート》をスロウに出してもらいながら、俺はげんなりした表情を崩さなかった。

 

「だいじょーぶですよ。エミルなら」

「お前がそう言うんならまあ大丈夫なんだろうけど」

 

 スロウの言葉に頷きながらも、それでも完全に不安が消えたわけではない。依頼の場所で待っている王国の勇者級がどんな奴なのか。目下の心配はそれだからだ。

 戦力的な問題はまあ、別段気にしていない。スロウがいない分回復や支援を気にしないといけないとは思うが、補って余りある攻撃力があるからだ。

 

「とゆーか。何か勘違いしてるみたいですけど」

「ん?」

「わたし、ついていきますよ」

「は?」

 

 いやお前がいたら普段組まないパーティーメンバーって前提が崩壊するだろ。いやスロウを入れても残りがこいつらなら一応正しいのかもしれないが、しかしそれならさっきの時点でスロウを入れていることになってないといけないわけで。

 そんなことを考えている俺に向かい、別に戦闘に参加するわけじゃないですよとスロウは述べた。じゃあ何でついてくるんだよ。

 

「わたしがエミルと一緒にいたいから」

「……ああ、そうかい」

「む。エミルはわたしと一緒にいたくないんですか?」

「別にそんなことは一言も言ってねえよ。大体今こうやって勇者級になろうとしてるのだって」

 

 思わず漏れそうになった言葉を飲み込んだ。いや、別に言ってもいいとは思うが、しかしこのタイミングでそれを言うのはどうにも気恥ずかしいというか。

 何でもない、とスロウに言い放つ。が、スロウは満面の笑みで俺に抱き着いてきた。何でだよ、離れろ。

 

「嫌です。エミルったらもー。大好きですよ」

「ああそうかい。分かったから離れろって」

「どーせ依頼になったら離れるんですから、今はいーじゃないですか」

「そういう問題じゃない。っていうか、《テレポート》出しっぱなしじゃないか、こんなところでモタモタしてたら駄目だろ」

 

 ついでに周囲の視線がどうにも気になる。いや、ほぼ全員がまた始まったみたいな生暖かいやつなので恥ずかしいわけではないが。いや違う、十分恥ずかしい。ついでにラティが目をキラキラさせているのが鬱陶しい。

 ぐい、とスロウを離した。そうしながら、残りの面々にお前らはついてくるのかと問い掛ける。属性頂点達は当然というか、ここで結果を待つと述べた。

 

「別に今更ピンチになった時の護衛がいるようなこともないでしょ?」

「うんうんうん……」

「吉報をお待ちしていますわ」

 

 アリアとシトリー、そしてセフィはそんな感じで、スロウみたいについてくることはないらしい。こいつらがそんなんだから、別にスロウも待っててくれてもいいんだぞ。そんなことを思いながら視線を向けると、嫌だと全力で拒否をした。職員の人も、まあついていくだけならば別に問題ないだろうと苦笑している。その表情はなんというか誤解している顔だ。別に俺とスロウは付き合っていないからな。

 

「ほらほら、出しっぱなしだとそろそろ向こうも心配するでしょうし、行きますよ」

「誰のせいだと思って、あ、こら引っ張るな」

 

 ぐい、とスロウに手を握られ、俺はそのまま《テレポート》の光の中に入っていく。それに続くように、クーヤ、コイナ、ラティも光へと飛び込んでいった。

 そうして出た場所は当然だが以前来たこともある街。目的地はここから少し離れた山岳地帯だという話なので、そこに向かって討伐をすれば試験依頼は完了だ。まあその前に試験官、と言っていいのか分からないが、王国の勇者級と合流しなければいけないわけだが。

 とりあえず行くか、と街のギルドに向かう。そこで待っているという話なので、ギルドの扉を開き、カウンターでこれこれこういうわけだと説明をした。

 ああそれなら、と受付の人が向こうのテーブルを差す。視線をそこに向けると、三人組が楽しげに笑っているのが目に入った。

 

「お」

 

 そんな俺の視線に気付いたらしい。三人組の一人、黒髪の男がこちらを見てやっと来たかと口角を上げた。その言葉に反応するように、残りの二人もこちらに視線を向ける。

 黒髪の男は多分クロードくらいの年齢だろうか、キリッとした眉をした中々の色男である。エミルの方が格好いいですよ、とか言ってるスロウの言葉は聞かなかったことにした。

 残りの二人組はどちらも女性。だが、なんというか中々に特徴的だ。

 まず片方の女性、まあ見た目的に年齢は俺達より少し上くらいだろうか。赤を基調としたローブとフード付きのマントを着ている、狐色の髪をウルフカットにした、パチリとした瞳の美少女だ。が、一番の特徴はそこではなく、耳。人間の耳のある場所より少し上に、恐らく狼のものであろう獣耳が生えていた。良く見ると笑みを浮かべている口元から牙も除いている。

 そしてもう一人。年齢はやはり俺達と同じくらいに見える、ふんわりとした長髪のウェーブで、前髪が片方が少し目にかかるくらいの長さの、タレ目で少しぼんやりしていそうな瞳の美少女。だがしかし、一番の特徴はそんなところではなく、下半身だ。思い切り魚だった。

 

「人狼と人魚……?」

 

 亜人である。モンスターではなく、人と毛色の違う種族の一つとして分類される面々である。コボルトとかもそうだが、扱いは人と同じで野盗化とか、あるいは禁忌を犯すとかでもしない限り討伐対象にはならない。

 とはいえ、やはり職特性の違いもあり、基本それぞれの種族同士で暮らしていて、そうそう人の暮らしている場所で見かけることも多くない。そう思っていたんだが。

 

「王国の勇者って亜人だったんですね」

「俺は人族だけどな」

 

 ほえー、と呟いたスロウに黒髪の男がそう返す。そう言いながら、大体人のことは言えないだろうと俺の方に視線を向けた。

 

「あんたが噂のモンスターを侍らせた勇者級、エミルだな」

「侍らせてねぇよ!」

「その反論は説得力ないよネ?」

 

 ケラケラと人狼の少女が笑う。その横では、こくこくと人魚の少女も頷いていた。

 

「というか、そもそも俺はまだ勇者級じゃない。あんたらから合格を貰いに来たんだからな」

「……?」

 

 あれ? というように人魚の少女が首を傾げる。くいくいと黒髪の男の袖を引っ張ると、何か言いたげに彼を見ていた。

 そうだな、とそんな人魚の少女に頷いた黒髪の男は、少し尋ねるが、と俺を指差した。

 

「聞いた話じゃあまり勇者級になるのに乗り気じゃないって話だったが」

「理由があるんだよ。別にいいだろ、やる気がある方が」

「それはそうだな」

 

 そう言って黒髪の男が笑った。よしじゃあ、と気を取り直してと俺達を見た。

 

「バクスだ。王国の勇者級で、今回の試験官を務めさせてもらう」

「ヴェルだヨ。それで、こっちの娘がメリィ」

 

 人狼の少女、ヴェルの言葉にこくこくと頷く人魚の少女メリィ。それに続いて俺達も簡単な挨拶を済ませると、じゃあ早速討伐に行こうと三人に述べた。

 そんな、思った以上にやる気な俺を見て、バクスが思わず目を見開いていた。だから別にいいだろ、全然乗り気じゃないやつよりかはよっぽどマシのはずなんだから。

 

 

 

 

 

 

 じゃあ早速出発しよう、とバクス達は席を立つ。そうしてオルトロスがいるという山岳地帯へと歩みを進めることになった。

 その道中。俺は出発の当初から気になっていたことがとうとう口から出てしまった。

 

「人魚って歩けるんだ……」

「……?」

 

 ペチペチと陸上移動する人魚を見て思わず零したそれに、メリィが反応してこちらを見た。こてん、と首を傾げて、そして何かを考えるような仕草を取る。そのまま視線を足、というか尾びれというかに向け、ぱちくりと目を瞬かせていた。そうした後、こちらを見てコクリと頷く。

 

「ははは、まあそうなるよな。特にあんたらみたいな冒険者を駆け上がってきたようなやつらは」

「べつにそこまで年変わらない気がするけど」

 

 そう俺が言うと、冒険者になって即座に中級に成るような離れ業はやってないとバクスが笑った。

 

「でもまあ、勇者級になるってことは何かしらそういう才能みたいなのがあるのは間違いないかもネ」

「(こくこく)」

 

 振り返ってそんなことを述べるヴェルと頷くメリィ。それはつまり、そっちにもそういう才能があったってことでいいんだよな。そう尋ねると、まあね、と返された。そう言いながら、とはいえと言葉を続ける。

 

「どちらかと言うと目標があったから進んでたらいつの間にか、って言ったほうが早いな」

「目標?」

「そっちほど大層なもんじゃないけどな。ほら、俺の横にいる二人、どっちも亜人だろ?」

 

 どうしても人族の多い場所だと奇異の目で見られることが多い。だから、そんな視線を跳ね返せるように。そういう思いで突き進んだ結果が今の勇者級なのだとか。

 そんな話を聞いて、スロウはほえー、と間抜けな声を上げていた。そのまま俺の隣に立ち、でもそれならエミルも負けてないですよね、と笑う。

 

「いや俺の方はそんな大層な理由はないぞ。そもそも勇者級になるのだって」

「だって?」

「……仲間が魔王級駆け出しになった以上、勇者級の資格がないとパーティーを組めないからだしな」

「そこは、スロウと一緒にいるため、とか言ってくださいよ」

 

 ぶうぶう、と文句を言うスロウを見ながら、メリィが目を瞬かせ、そして目を見開き頬に手を当てる。くい、とバクスに視線を向けると、くいくいと彼の袖を引っ張っていた。

 

「ああ、そうだな。成程、そういう関係だったか」

「そーゆー関係です」

「違う。ただの幼馴染だ」

「別に照れることないと思うけどネ」

 

 ケラケラとヴェルが笑いながら、そっとバクスに近付く。そうしながら彼を手を取り、その腕と自身の腕を絡ませた。それに合わせるように、メリィもバクスの腕を取ってその腕を絡める。

 

「だってほら、私達もそういう関係だしネ」

「(こくこく)」

 

 そう言って笑みを強くするヴェルに同意だとメリィも頷く。両腕を挟まれたバクスは、しょうがないなと言わんばかりに苦笑していた。

 まあつまりそういうわけか。好きな女のために突き進んだ結果勇者級になったと、そういうわけなのか。成程それなら確かに俺も負けてない――

 いかんいかんと頭を振った。今物凄いことを考えたような気がした。いや別に好きか嫌いかで言えば間違いなく好きではあるが、それとこれとは話が別で。

 

「いいわねいいわね。ねえバクス、亜人と人族だけど、その辺りはどうなの?」

「関係ないさ」

「うんうん、そうよね。ラティの好物がここにも♪ ――ちなみに、エミル? そっちはどう? スロウはミミックロウラーだけど」

「何の話だ何の。こいつが芋虫だから何だってんだよ」

「そうよねそうよね♪」

 

 ラティが鬱陶しい。ついでに抱き着いてくるスロウも面倒くさい。あのさ、討伐に来てるんだぞ。依頼の真っ最中なんだぞ、分かってるのか。

 縋るように視線をクーヤとコイナに向けたが、なんというかラティの希釈したような視線を向けられたので味方がいないと絶望した。

 

「クーヤ、姉様、幸福、優先」

「スロウの幸せと今のやり取り関係ないだろ」

「それは少し違うのでは……?」

「コイナまでそういうことを――」

 

 ピリ、と空気が変わった。周囲を確認し、奇襲を掛けてくるような何かがいないことを即座に確認。バクス達も同じようにしていることから、どうやら俺の気のせいではないらしい。

 

「討伐、目標、警戒」

「縄張りに入ったようですね」

「もう、今いいところだったのに」

 

 クーヤ、コイナ、ラティも戦闘態勢に入る。スロウはいつもの癖で支援を掛けようとして危ない危ないと止めていた。

 

「そーいえば。バクスさん達はどーするんです?」

「現状は後方で待機かな。もしあの面々が負けるようなら割って入るけど」

「じゃあ、出番はなさそうですね」

「お、仲間の強さに自信ありだネ」

「そりゃもちろん、エミルですから」

「(ぱちくり)」

 

 なんか後ろでそんな会話が繰り広げられているが、とりあえず放置。今の戦力で負けることはないだろうとは思うが、かといって油断するわけにもいかない。何より普段と違う面々だ、いつも通りが出来ない。普段とは違う戦い方を考えなくては。

 

「エミル様、来ます!」

 

 コイナの声でそちらを見る。二頭の巨大な狼、オルトロスがこちらに向かって駆けてくるところであった。以前ゴーレムのやつと戦った時と大体同じ大きさだろうか。そんなことを考えながら、さっさと片付けると剣を構え。

 

「増援」

「ん?」

 

 クーヤが即座に反転、別方向に鎌を投げた。ガキン、と音を立てなにか別の影が吹き飛んでいく。その影は受け身を取ると、あまりダメージを負っている様子もなくこちらに再度向かってきていた。

 

「二体!?」

「違うわよエミル」

 

 言いながらラティが銃をぶっぱなす。牽制射撃だったのか、その銃弾から逃げるようにバックステップしたもう一つの影は、こちらを取り囲むようにゆっくりと距離を詰めていた。

 三体。合計六つの犬の頭がこちらを睨む。ちらりと視線を向けると、スロウ達はこの包囲網の外にいるらしい。そして、現状こちらを援護する気はないというのを理解しているのか、やつらの敵意は俺達だけに向けられている。

 

「エミル! 行けますか!?」

「心配すんなスロウ。行けるよ」

 

 スロウにそう返し、行くぞと剣を構える。スロウの支援はなくとも、スロウが見ていてくれれば俺は。

 

「そうそう。そういうのだーいすき」

「何がだ」

「向こうの三人も気になるけど、やっぱりエミルとスロウがいいわよね、ってこと」

「黙ってろ短剣」

「何がって聞いたのそっちのくせに」

 

 ぶうたれながら銃を構える。オルトロスの一体に連射すると、もう一体にも銃口を向けた。

 流石に上級というべきか。ラティの一撃で倒せるわけではなかったらしい一体が吠える。とはいえダメージはしっかり入っているので、追撃で一気に攻め倒そうと一足飛びで距離を詰めた。

 

 

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