幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第九十一話

 それで、結局どういう依頼なんだ。そう俺が尋ねると、依頼書には書いてあっただろとバクスが笑った。

 書いてなかったよ、場所と詳しい内容は依頼者が直接みたいな感じだったよ。

 

「そうだったか、それは悪かった」

「(くいくい)」

「ん? まあこうなると俺達も休暇で見学ってのは体裁が悪くなるが」

 

 メリィのそれにバクスはどうしたものかと顎に手を当てる。いやもう別に気にするなよ。ここで魔王級の討伐を代わりにやってくれとか言われるんなら話は別だが。

 そんなことを告げると、バクスの方は何とも言えない表情になった。おいまさか本当に魔王級なのか? 思わず詰め寄ると、いや多分違うと思う、というかなり微妙な返答が来た。

 

「実はその辺の調査を依頼したいというのが本題でな」

「どーゆーことですか?」

「最近、この街の近辺に新しい主が出たって報告が来てネ」

 

 この人魚の港町の近辺の海にはそれなりに強力なモンスターも生息しており、それが近海の主として認識されていたらしい。基本的に縄張りに入ったり等こちらから何かをしない限り襲い掛かってくることはないため、街の住人はそれと共存のような形で過ごしていたのだとか。

 そこまで説明したヴェルは、だけれども、と難しい顔になった。

 

「その新しい主は違う。ほかのモンスターの縄張りを荒らすようなやつで、しかも凶暴。共存はまあ無理かなって判断するくらいにはネ」

「そういうわけで、その新しい主がどんな奴かを調べて、場合によっては討伐するっていうのが依頼内容だ」

「その話だけ聞くと、ほぼ討伐確定な気がしないでもないけれど」

「縄張り荒らしは問題だよぉ……」

 

 アリアとシトリーの言う通り、その新しい主とやらがこの海域を荒らし回っているのならば、討伐あるいは何かしらの方法で大人しくさせる以外に街を守る方法はない。そいつの影響のない場所に新しい街を作る、という方法もないことはないが、まあ現実的ではないだろう。

 モンスター同士の自然の摂理に反するかも知れないが、まあこちとら人なもので、こういう身勝手は多少入ってしまう。スロウ達モンスターはどうか知らないが。

 

「へ? 別にいーんじゃないですか? その新しい主も行動パターン的に力尽くでなったんでしょうし、こっちが力尽くでやっちゃってもただ同じ事するだけですからね」

「スロウほどじゃないけれど、あたしも同意見ね。まあ人の中で暮らしてたおかげで人寄りの側に立つようになったからかもしれないけれど」

「うんうんうん……」

 

 人外連中がそんなことを言ったので、じゃあまあいいかという結論になった。まあ属性頂点がひょっとしたら難色を示すかも、とバクスは苦笑していたが、まず間違いなく傀儡人形はしないと思う。というかその辺織り込み済みで静観してる節もある。むしろこの討伐を機に何か碌でもない事を考えていたり。

 いかんいかん、余計なことで思考を埋めていてもしょうがない。今はとりあえず目の前の討伐作戦についてだ。

 

「それで、新しい主の情報ってのは何も無いのか?」

「海域のモンスターで主になりそうなのはシーサーペントだ」

 

 上級モンスターで、海竜とも呼ばれるやつだ。縄張りを荒らす輩には容赦しない性質を持っているが、自ら別の縄張りを荒らし回るような奴ではない。元々の主ならともかく、新しい主もそれかと言われるとちょっと疑問だが。

 まあ異常個体の可能性もあるか。というかそうなるとほぼ確定で異常個体だな。いつもの流れとしても、なんて余計なことも考えてしまうが。

 

「聞いたぞ。あんたらはイレギュラーには慣れてるってな」

「好きで慣れたんじゃない」

 

 ジト目でそう述べると、メリィが苦笑しながらぺこりと頭を下げていた。いや別に気分を害したわけじゃないんで。そんな言葉を返したが、彼女はまったくもうとバクスの頭をぺしぺし叩いていた。

 

「仲いーんですね」

「ん? まあそりゃあな。こういう関係でもあるし」

 

 そう言うとバクスはぐいとメリィを抱き寄せた。びっくりとしていた彼女も、別段嫌がる様子もなくそのままバクスに抱かれている。

 そんな様子を見たスロウは、よし、と頷くと俺に抱き着いてきた。何でだ。

 

「わたしとエミルもそーゆー関係ですし」

「どういう関係だよ。というかそもそもいいのか? 向こう恋人二人いるぞ」

「はっ。確かに。アリアちゃんとシトリーちゃんもエミルの毒牙にかかったってことですもんね」

「何も確かにじゃない」

 

 後お前の中の俺そういう感じなの? 思わず真顔で問い掛けたが、スロウは、エミル自身に自覚があるかはともかく人外たらしなのは間違いないですしとか言い放った。向こうも冗談が一切ない口調である。何でだ。

 

「まあ、その辺はスロウに同意するわね」

「否定する部分はどこにもないよぉ……」

「何でだよ」

「そーゆーところもわたしは好きなんですけど、ライバルがポンポン増えるのは考えものですよね」

 

 何だかよく分からないうちに俺の評価が酷いことになっている気がする。そうは思ったがいかんせん自覚がないので何をどうすればいいの分からない。ただただ肩を落とし溜息を吐くばかりである。

 話が脱線した。というか何の話をしていたかすっかり忘れた。えっと、そうだ、新しい主についてだ。

 

「とりあえず、異常個体のシーサーペントかどうかを調べればいいんだな」

「そうなるな。船は――」

「(ふんす)」

 

 そこで言葉を止めたバクスは、ぐ、と拳を握っているメリィをみてやれやれと肩を竦めた。それじゃあ依頼をした意味がないだろう、と苦笑した。その横では同じように仕方ないと苦笑しているヴェルもいる。

 

「俺達が出してやる」

 

 

 

 

 

 

 そういえば船旅、というほどではないか、船に乗るのは初めてだ。教国も帝国も移動はテレポートや飛竜だったし、そもそも海を渡る機会自体がなかった。

 スロウもそれは当然同じで、初めての船におーと何やらはしゃいでいる。

 

「エミルエミル、結構揺れますよ!」

「そうだな」

「どーしたんです? 酔いました?」

「いや、そこまでじゃないが」

 

 気持ち悪くはなっていないが、船の揺れにはあまり慣れない。そんなことを思っていると、操舵室から出てきたバクスが笑っていた。何でも、人魚の街の船は揺れが少ないのに定評があるらしく、下手な船はこれの倍は揺れるらしい。まあ今回はその中間みたいなものだが、と言葉を続けたが。

 

「メリィがいるとはいえ、操縦は俺達だからな」

「メリィがいると、っていうのは?」

「人魚は波を見ることが出来る。船自体の出来もそうだが、そういうナビゲートも踏まえて揺れを少なくさせてるのさ」

「(こくこく)」

「何か操縦の私がボロクソ言われてる気がするんだけどネ!」

 

 ある程度ルートを固定したのか、会話に交ざってきたヴェルがぼやく。メリィはそんな彼女にそんなことはないと首を横に振り、ばっちりとばかりに親指を立てていた。そんなメリィのフォローを受け、ヴェルもそれならいいと機嫌を戻す。

 

「次の操縦はバクスがかわってよネ」

「ああ、任せろ」

「(くいくい)」

「メリィは今回はナビゲートに集中してくれ」

「(こくり)」

 

 そんな会話をしながら、それでそっちは大丈夫かとバクスは視線を俺達に向けた。今んとこ船旅を楽しんでいる連中ばっかりだから大丈夫だと思う。スロウを見て、アリアとシトリーを見て、まあ船酔いとかそういう状態になっていないのを確認してそう告げた。

 

「それで、目的地はもうすぐなの? 結構沖に来たけれど」

 

 アリアが周囲を見渡しながらそんなことを述べる。まあわざわざ依頼になるくらいだから、港町よりそう遠くない場所だろうとは思うが。もう既に人魚の港町は見えなくなっていた。確かにそろそろか、と考えてもおかしくはない。

 そうだな、とバクスがメリィを見る。こくりと頷いた彼女は、周囲を探るように両手を組み、目を閉じた。

 ぱちり、と目が開く。視線を海の一角に向けると、あっちだとその位置を指差した。

 

「よし、じゃあ向かうぞ。準備はいいな?」

「俺達は大丈夫だけど」

 

 船自体は大丈夫なのか? そんな問い掛けに、バクスはまあ気にするなという微妙な答えを返していた。そのまま操舵室に向かったバクスは、メリィが差した方向へと舵を切る。

 そうして暫く進むと、あからさまに潮の動きが変わった。これ以上進むと危ない、そんな警告を感じるようで。

 

「いや、でもこっちが縄張りに入ったからってことは、普通のシーサーペントなんじゃないのか?」

 

 渦潮を作りながらこちらに首を向けているモンスターが確認できたが、積極的に襲い掛かってくる気配がない。これ以上縄張りを犯すな、そういう警告をするかのように、シーサーペントが咆哮を上げた。

 

「(ふるふる)」

「ん?」

 

 メリィがそんなシーサーペントを見て首を傾げ、そして首を横に振った。どうしたんだとバクスが彼女に尋ねていたが、どうやらあのシーサーペントは主は主でも今問題になっている方ではなく、以前の主と呼ばれていた方らしい。

 

「どういうことだ?」

「どーもこーも。例の主はここにいないんでしょう」

 

 ひょい、と向こうを覗き込んだスロウがそんなことを述べる。確かに割と話通じそうなタイプですね、と呑気なことを言っていた。

 そんなスロウを見て、そして同じように視線をシーサーペントに動かしたアリアやシトリーを見て。向こうの動きが少し止まった。何やら怪訝な表情を浮かべているように見えたのは俺の気のせいだろうか。

 って、そうか。今のこいつら魔王級だった。上級モンスターの縄張りに魔王級が来るとか悪い冗談にもならない。事実向こうも何かしら察したのか、敵意を沈め、そして渦潮を少し弱まらせた。服従した、ってわけではないな。戦う気はない、というポーズか。

 

「まあでも、前の主が健在ってのはいい知らせだな。今問題になってる方を討伐すれば、自ずとこの主が統治して海が元に戻る」

 

 そう言いながら、じゃあ肝心の新しい主はどこにいったんだとバクスは首を傾げた。目撃情報がここだったとして、何故新しい主ではなく元の主がいたのか。情報が間違っていたのか、それとも。

 新しい主に、そう誘導されたか。

 

「だとすると、大分マズいネ」

 

 ヴェルが顔を顰めながら呟く。少なくともその新しい主は、そういう搦手を使う知能を持っているということになる。そうなると、ただの上級より警戒度は跳ね上がるわけで。

 

「ひょっとして……魔王級……?」

 

 そう心配そうに述べたシトリーのそれを否定するものは誰もいない。皆それが既に頭をよぎっていたからだ。だが、そうポンポンと魔王級が出てこられても流石に困る。

 そう思いはするものの、これまでのことを考えるとそうであってもおかしくない。この二年近くで戦った魔王級は二体、出会っただけならば三体だ。ペース的にはもう一体くらいと遭遇しても。

 

「なわけあるか」

「どーしたんですか?」

「なんでもない。とにかく、厄介なのが新しい主ってことは間違いない、でいいよな?」

「そうなるわね。それで、場所は分からないの?」

 

 視線をメリィに向ける。こくりと頷いた彼女は、全力で波を感じ取り、何かおかしな部分がないかを探った。そしてそれを見付けると目を見開く。ば、とバクスを見る。それで察した彼は、慌てて船の舵を切った。

 さっきまで自分達が来た方向にだ。

 

「街に向かった!?」

「おそらくな。くそっ」

「全速前進ネ!」

 

 船の魔道具エンジンが焼け付くほど動かす。当然揺れが凄いことになるが、流石にそんなことを構っていられない。落ちないように何かに掴まりながら、俺達は全速力で港町へと戻っていった。

 

「いたぞ! あれだ!」

 

 港町が見えてきた。そこにはさっきの主とは別の、巨大なシーサーペントが一体、港町を襲っているところであった。人魚なので海に投げ出されても多少は平気だろうが、なら街が壊されて大丈夫かと言えばそんなことはないわけで。

 

「先に行くわよ!」

 

 ば、と羽を広げたアリアがシーサーペントに飛んでいく。鱗粉を即座に爆発に変えると、その胴に強烈な一撃を加えた。が、それで倒せるかというとそういうわけでもなく。

 トリックモスとはいえ、魔王級認定されたアリアの一撃だぞ。属性相性があったとしても、あそこまでダメージが軽減されるとは考えにくい。ということは、つまり。

 

「休暇だとか言ってられん! 俺達も行くぞ!」

「勿論だネ!」

「(こくり)」

 

 船を港まで寄せると同時、バクス達も飛び出した。俺とスロウ、シトリーも同じように船から飛び出しシーサーペントに攻撃を加えた。成程、確かにこいつ普通の個体より強い。まあ近海の新しい主になるようなやつだから当然かも知れないが。

 

「バクス! こっちは俺達がやる、街の住人の避難を!」

「……大丈夫なのか?」

「嘗めんな。このくらいの異常事態もう慣れきってる」

「自慢、でいいのかネ?」

「(ぱちくり)」

 

 いいから行け、と三人を促す。了解と住人の方へと向かう三人を見ることなく、俺はシーサーペントに追撃を行った。街を破壊するために港に来ているおかげで、剣の届く範囲にいる。これなら。

 そう考えた矢先、シーサーペントが距離を離した。遠距離攻撃なら届くが、近距離は当たらない絶妙な位置に陣取る。そうした後、大口を開くと水流ブレスをこちらに向かってぶっ放してきた。

 

「きゃぅ……!」

「シトリー!? 大丈夫か!?」

 

 大剣で受け止めたシトリーがもろともぶっ飛ぶ。駆け出しとは言え魔王級、そんなシトリーをぶっ飛ばせるだけの威力を出せる時点で、やっぱりこいつはただものではない。

 とはいえ、当のシトリーはビシャビシャになったとそう大したダメージもなく立ち上がっているので何とも言えないが。

 

「そうでもないよぉ……。結構痛かったから、相当強いよぉ……」

 

 ほら、と食らった箇所を見せてくる。服が見事に吹き飛んで下着が丸見えになっていた。は、どうでもよく、左手の二の腕に穴が空いていた。疑似餌を着ている状態で貫通したとするならば、それはかなりの高威力ということになる。確かに相当だ。

 いや、空いてる部分がそこだけの時点でシトリーの防御の方が相当なのでは。よいしょ、とか言いながら再生してるし。

 

「エミル。シトリーちゃんにデレデレしてないで! あれはエミルが食らったらマズいんですからね」

「してねぇよ!」

 

 ツッコミを入れつつ、確かにスロウの言う通り、あの水流ブレスは俺が喰らえばひとたまりもないだろう。そんなことを思いつつ、鞘を振るい光の盾を生み出しながら回避をした。

 どうやら向こうも考えたのか、遠距離担当がアリアしかいないのを分かって距離を取っている節がある。そしてアリアの爆発や火炎は海に陣取っているせいもあり効きが悪い。

 このまま相手に有利な状況で戦われるとジリ貧である。そんなことを思っていたタイミングで、どこからか飛んできた矢がシーサーペントを貫いた。

 

「おまたせ。住民の避難は完了したネ」

 

 こっちの撃退に合流するよ、と弓を構えたヴェルが横に立つ。その後ろでは、彼女の能力を底上げするように支援呪文を唱えているメリィの姿が。

 

「いっけぇ!」

 

 矢を放つ。えぐるような貫通力を持ったそれはシーサーペントを確実に削っていった。そこだ、と出来た傷にアリアが鱗粉で爆撃を放つ。一気にダメージを与えられたシーサーペントは距離を取るのを止めると街ごとこちらを潰そうと波を生み出し。

 

「させるか!」

 

 俺とバクスが即座に飛び込んで切り裂いた。波を生み出すことも失敗したシーサーペントは滅茶苦茶に暴れるが、そんな攻撃を食らってやる義理もない。

 

「よし、これで――」

 

 これでトドメ。そう剣を構えたそのタイミングで。俺は妙なものに気が付いた。シーサーペントの頭上に何かいる。さっきまではいなかったはずの、黒い影。

 

「バクス」

「ああ。あれは、マズいな」

 

 人型をした何か。黒い甲冑に覆われているような体に、黒い翼。そんな存在が腕組みをしながらこちらを見下ろしていた。

 

「やれやれ。我が手下をこれ以上痛めつけないでもらおうか」

 

 黒い何かが声を発した。ふう、とボロボロのシーサーペントを見ながら息を吐いたそいつは、さて、とこちらに視線を移動させる。

 成程。問題なのはシーサーペントじゃなかったというわけか。本当の問題は、本物の魔王級は。

 

「それにしても……何だお前ら? 男一人に女侍らせたハーレムパーティーが二つだぁ? 当てつけのつもりか……? ムカつくな」

 

 何だか急に気の抜けるようなことを抜かした魔王級を見て、いや違うと頭を振った。

 

 




出会った魔王級
・影
・ヤマタノオロチ
・ラティ
・今回の
なので思ったよりは多くない……か?
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