幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第九十二話

「さて、どうやって始末してやろうか」

 

 腕組みをしたままの魔王級がそんなことを抜かす。そうしながら、ああそうだった、とシーサーペントの傷を回復していた。

 

「回復魔法!?」

「何を驚く。我くらいになればこの程度造作もない。まあ、回復役と前衛後衛を分けている人間どもに理解出来んかもしれんがな」

「そいつはどうも。まあそんな人間に倒される魔王級っていうのが現実だろうがな」

 

 バクスが軽口を叩き、ヴェルとメリィもコクリと頷く。が、その表情はどこか余裕のないように見えた。

 確かに目の前の魔王級は強い部類だろう。最初に出会ったあの魔王級の影に比べるとその実力の差は相当だ。だが、俺も加えて一応勇者級パーティーが二組いるのだから、流石に遅れを取るようなことはないだろう。何より俺にはスロウがいる。

 そんな、最後の部分以外をバクス達に伝えると、一瞬拍子抜けした顔をした後、表情が柔らかくなった。確かにそうだったな、と笑みを浮かべた。

 

「確かにな。特にそっちにはあの聖女もいるんだしな」

「こっちでも有名だよネ」

「(こくこく)」

「へ? わたしってそんなに有名なんですか」

 

 そりゃそうだ、と三人が笑う。ただでさえ色々と逸話があるのに、つい最近魔王級にまでなった芋虫聖女。一定の実力を持った冒険者で知らないものはいないほどだ。そんなことまで続けられ、スロウはほえー、とアホみたいな声を上げていた。

 まあとにかくスロウがいるだけで安定感が違うっていうことだな。普段から実感しているが、他人らの評価でそれを言われると、俺も自分のことのように少しだけ照れくさくなる。

 

「ふん」

 

 そんな俺達を見下ろしていた魔王級が鼻を鳴らす。成程な、とスロウに視線を向け、そして再度分と鼻で笑った。

 

「貴様のような小娘が要だと? まったく、人間というやつはこれだから」

 

 やれやれと肩を竦めた魔王級は拍子抜けしたとばかりに俺達に手をかざすとそこから魔法をぶっ放した。光球がそこかしこに連射され、周囲に着弾する。住民は避難させているから良かったが、巻き込まれたらひとたまりもないだろう。

 ちなみに俺としてはこの程度ならば問題ない。食らっても、という意味ではないが、避けられずに直撃して死ぬ、みたいなことにはならないくらいには余裕があった。

 

「その程度かよ、魔王級!」

「む」

 

 避けながら叫ぶ。ラティの銃撃のほうがもっと避けにくいし、セフィの一撃の方が死を覚悟した。こんな牽制なんかで倒せるほど俺は、勇者級は甘くないんだよ。

 跳び上がり、そして剣を振るった。向こうの振りかぶった腕で防がれ甲高い音が響いたが、こっちも相手もどうにかなった様子はない。

 今だ、と後方でヴェルが弓を構えていた。その横では俺と同じように間合いを詰めて剣を振るおうとしたバクスの姿も見える。

 

「いっけー……え?」

「よし、っとぉ!?」

「ふん、嘗めるな」

 

 放たれた矢は敵に当たる直前に魔法陣のようなもので受け止められ、反射した。戻ってくる矢をバクスが弾きながら着地、舌打ちする。成程、どうやら遠距離対策がされているみたいだな。

 

「その通り。貴様ら程度の魔法や武器など、我が障壁の前には無力よ」

「あらそう。じゃあ――試してあげるわ!」

「無駄なことを――何っ」

 

 アリアの鱗粉が魔王級の周囲を取り囲み、そして爆発させる。防御の魔法陣は発動こそしたようであるが、本人ではなく周りを吹き飛ばしたので反射は起動しなかったらしい。少し焦げた様子の魔王級は忌々しげにアリアを睨んでいた。

 

「貴様……我が体に傷を付けたな」

「それがどうしたのよ。言っておくけど、どうせあんたはそこのエミルに倒されるんだから、その程度の傷なんか誤差よ誤差」

 

 びし、と俺を指差しながら思い切り魔王級を挑発するアリア。いやまあ倒すつもりではあるけど、わざわざ変に挑発しなくてもいいだろうに。現にほら、魔王級がこちらを凄い勢いで睨みつけてるし。

 

「ああ、成程。お前はアレか、イチャイチャラブラブハーレム野郎か。さっきもそんな気がしたが、確定だな。――ぶち殺すぞテメェ!」

「何でそうなる!? っていうかアリア! お前こうなること見越してわざと」

 

 空中で見下ろしていた魔王級がこちらに降りてきた。そしてそのまま一気に距離を詰めて俺を切り裂かんとその腕を振り下ろす。

 

「くっ」

「させないよぉ……!」

 

 剣を構え防御体勢を取った俺の隣にシトリーが交じる。俺とシトリーの防御で一撃を完全に防がれた魔王級は、何だか更に顔を怒りに染めていた。

 

「我は貴様のようなやれやれ系ハーレム勇者が大嫌いだ」

「知るか! というか誰がやれれやれ系ハーレム勇者だ!」

「貴様以外に誰がいる。向こうのもまあ該当しそうではあるが、その気配が強いのは貴様の方だ」

 

 ギリギリと向こうの力が強くなる。現状は受け止めていられるが、このままだと均衡が崩れてしまいかねない。シトリー、と俺は名前を呼び、シトリーも了解と即座に俺の意図を汲み取って剣を地面に突き刺した。

 

「わけ解んないこと言ってないで、さっさと倒されろ」

「ふん、貴様のような奴には絶対に――む!?」

 

 足元が流砂になったことに気付いたのだろう、バランスを崩して力が緩まる。そこの隙をついて、俺は魔王級を押し戻した。次いで、そのまま反撃の斬撃を放つ。嘗めるな、と崩れた体勢からでもその攻撃に反応したが、流砂から飛び出てきたアリジゴクの顎に弾かれ、驚愕の表情を浮かべていた。

 斬、と魔王級を斬る。胴を袈裟切りされた魔王級は、しかしそこまで深刻なダメージでもないようで、俺達と距離取ると即座に回復を行っていた。

 

「回復されるのは厄介だな」

「貴様達が言えた義理か。そこの聖女とかいうのが支援と回復をしているからか、厄介だな」

 

 魔王級は視線を俺達からスロウに向けた。シトリーの回復、アリアへの支援、そして俺への支援と回復。慣れた手つきでそれらを行っているスロウは、確かに今現在のこのパーティの生命線だろう。そんなことは俺達も分かっている。だからスロウには決して手出しはさせない。

 

「その威勢がいつまで続くか……」

 

 くい、と魔王級が手を動かすのと同時、静観していたシーサーペントが動き出した。再びこちらを叩き潰さんと水流ブレスや巨体の叩き付けを行ってくる。

 

「とりあえずこっちは任せろ!」

「一旦そっちはよろしくネ!」

「(こくこく)」

 

 メリィの支援により強化された二人は、シーサーペントの攻撃を受け止め、矢で打ち抜く。そんな姿を一瞬だけ目で追った俺達は、了解とばかりに魔王級を見た。余計な邪魔者はいなくなったぞ、と笑う奴を見た。

 

「本当ならば我が手でハーレムパーティーを両方ともぶち殺すのだが、まあとりあえずはこちらからいこう」

「だからさっきから何言ってんのか分からねえよ」

「そーですそーです。まあ確かにエミルは人外たらしでハーレムパーティーの素質を持ってますけど、やれやれ系ではないですから」

「お前はお前で何言ってんだ」

「そうかしら……?」

「どうだろぅ……?」

 

 そっちはそっちで何を言ってるんだ。戦闘中なのにも拘らず、俺は思わずそんなツッコミを全力でしていた。

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して。何かよく分からないことをグダグダ言ってくる魔王級相手に剣を構える。魔王級も割と個人的な憎しみのこもったような視線を俺に向けてきていた。

 

「エミル」

「どうした?」

 

 俺の隣に来たアリアが俺を呼ぶ。何かあったのか、と問い掛けると、多分これからの戦闘では自分が殆ど役に立たないと述べた。

 

「さっきは周囲を吹き飛ばしたことでどうにかなったけど、搦め手は二度は通じないでしょうし。そうなると直接鱗粉を纏わり付けせて燃やすことになるけど」

「障壁で遠距離が跳ね返されるってやつか」

 

 コクリとアリアが頷く。魔法や遠距離武器ではない鱗粉がどういう扱いになるか分からないが、通用すると思って楽観的に使用するのは控えたほうがいいだろう。やるとしてもさっきのような使い方で、再度奇襲をかけるくらいか。

 そうなると、実質的な戦闘は俺とシトリーで担うことになる。いけるか、と視線をシトリーに向けると、がんばると拳を握っていた。

 

「相談は終わったか? さて、ではどれから殺そうか」

 

 言葉と同時に魔王級が呪文をぶっ放す。先程とは違う種類の呪文で、氷の竜巻を生み出したかのようなそれは、周囲の気温を奪いこちらの動きを鈍くさせる効果も持っていた。

 

「みんな! これくらいなら状態異常回復で!」

 

 スロウのそれで鈍くなった動きが戻る。ち、と魔王級の舌打ちが聞こえたが、そんなことを気にすることなく呪文を躱すと一気に肉薄した。向こうもそれは織り込み済みだったのか、俺の一撃を右手で受け止めるとそのまま蹴り飛ばす。盛大にふっ飛ばされた俺はゴロゴロと転がったが、途中で受け身を取って腹を押さえながら立ち上がった。

 

「エミル、すぐ回復しますね」

「助かる」

 

 これまでだと強過ぎる回復や支援はいざという時に致命的になる、とか言っていた場面だが、現状はこれがいざという時に他ならない。手を抜いた支援や回復をしてもらって負けました、は通用しない相手なのだ。だからスロウも遠慮なく支援をしてくれるし、回復もする。

 ついでに言うと向こうのパーティーも気にかけているようで、メリィの支援が足りているかどうか横目で確認もしていた。

 

「まあその辺りは大丈夫そうですけどね。シーサーペントももうすぐ倒せそうですから、もうちょっと時間稼げば戦力増えますよ」

「よく見てるな」

「回復役っていうのは、そういう視野が必要なんですよ」

 

 はい、じゃあ行ってらっしゃい、と送り出される。了解と再度魔王級へと距離を詰めると、下手に呪文を打たれないようにと細かい攻撃を繰り返した。最初は片手で、次第に両手で俺の攻撃を受けていた魔王級だったが、そこにシトリーも追加したことで少しだけ押される。

 

「嘗めるな!」

 

 が、そこで受け流すように俺とシトリーの攻撃を弾くと、即座に呪文を唱えてそれをぶっ放した。マズい、と咄嗟に鞘を構え光の盾を生み出したが、威力を殺しきれずに吹き飛ばされてしまう。シトリーも直撃していたようで、ボロ雑巾のようになって向こうへと吹き飛んでいった。

 

「アリアちゃん! 援護頼みます!」

「了解!」

「ちぃ」

 

 スロウの声が響く。どうやらアリアが再度魔王級の周囲を燃やしたようで、追撃のチャンスを潰された魔王級が舌打ちをしていた。その隙にスロウが再度俺に回復を行い、そして向こう、とシトリーを見やる。

 

「シトリーちゃん! 大丈夫ですか!?」

「大分痛いよぉ……」

 

 流石は魔王級になったトラップレシアというべきか。あの一撃が直撃してもどうやら無事らしい。スロウの回復で即座に戦線復帰出来るようになったシトリーは、再度ボロボロになった服を修復しながらてててとこちらに駆けてきた。

 

「しかし、この調子だとキリがないな」

「うんうんうん……」

 

 俺とシトリーだけでは決定打に欠ける。せめてもう一人くらい攻撃出来る相手がいないとダメージが上手い具合に与えられない。やっぱり、やつの反射防御の障壁のせいでアリアの攻撃が有効的に働かないのが痛いな。

 そう考えていた矢先。待たせた、とバクスとヴェル、メリィがこちらに合流してきた。シーサーペントを討伐し、こちらに合流しにきたらしい。

 

「とはいっても、私じゃこいつは役に立てないけどネ」

「俺がメイン、ヴェルとメリィでサポート。そんな感じで使ってくれ」

「(こくこく)」

「使ってくれって」

 

 ほら任せた、とか言われても。まあいい、じゃあとにかくバクスは俺達と一緒に攻撃に回ってくれ。そう指示し、今度は三人で一気に魔王級へと距離を詰めた。魔王級もバクス達が合流したのを見て舌打ちをしていたが、しかしそれがどうしたと言う態度を崩してはおらず。

 

「嘗めるなよ人間。貴様らのようなハーレムパーティーに倒されるような我ではない!」

「うるせえよ!」

 

 言っていることはおかしいが、腐っても魔王級。それもかなりの上位。真面目に戦わなくては倒されるのはこちらだ。さっきの二の舞にならないよう、魔法を放たれる隙を作らないように、俺、シトリー、バクスで交互に相手を攻め立てる。

 意外とこれが功を奏したのか、魔王級の表情に焦りが見えた。だからだろう、このままの調子で行けば、攻めきれる。そんなことを一瞬だが頭に浮かべてしまった。シトリーは分からないが、恐らくバクスも同じように思ったはずだ。

 

「はっ」

 

 ぼん、と眼の前で火球が爆発した。だが、それ自体は大したダメージにはならないが、俺とバクスの動きはそれで一瞬止まってしまった。そのことに気付いたシトリーが慌てて向こうに隙を与えないように攻撃を行うが、シトリーだけでは止まらない。魔王級はそのタイミングで呪文を唱えると、手を高く掲げ。

 

「え?」

「なっ」

 

 その呪文は、俺達に放たれなかった。生まれた魔法陣は俺達の後方、その声の方へ振り向いた時には、既に呪文は発動するところで。

 

「あ――」

 

 スロウの足元に火炎が生み出されるところで。今から走っても、間に合わない。

 そのタイミングで、とん、とスロウを魔法陣から押し出す手があった。動けなかった他の面々の中で、唯一動いている人物がいた。

 ああ、そういえば、スロウが言ってたっけな。回復役・支援役は広い視野が必要だって。

 だからか、なんて、そんなどうでもいいことが頭に浮かんでいた俺の視界に映るのは、一人の人魚の少女。

 

「メリィちゃん!」

 

 目を見開いているスロウの眼の前で小さく微笑んだメリィは。そのまま生み出された炎の渦に飲み込まれると。

 

「嘘だろ……」

「め、りぃ……」

 

 真っ黒な消し炭になって、どしゃりと地面に落ちた。

 

 




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