幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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ようやく一歩前に――前に進んだかこれ?


第九十七話

「なあ、お姉さん」

「ん? どうしたの? 何か急にあらたまっちゃって」

 

 スロウと出掛けた――あくまで出掛けた――日から少し。俺は一人でギルドにやってきて、お姉さんにそんな声を掛けていた。いきなりどうしたんだと目を瞬かせたお姉さんは、しかし俺の表情が思いの外真剣だったからだろう、アリアも、ギルドに他の客もいないことも確認して聞く姿勢にはいる。

 そんなお姉さんに、俺は息を吸い、吐くと言葉を紡いだ。

 

「こ、告白ってどうすればいいと思う?」

「…………んん?」

 

 俺の言った言葉が理解出来ない、とばかりに動きを止めたお姉さんは、しかし暫くして体に染み込んだのか、はたまた思っていた予想と違ったのか。

 がくり、とカウンターに突っ伏した。

 

「……はぁ」

「何だよ、その態度は」

「なるに決まってるでしょ。え? 何? 告白? さっさと「俺もスロウが好きだ」とか言ってくればそれで終わりでしょ」

「そんな簡単にいってたまるか」

「簡単も簡単でしょうが、エミル君が返事してないだけなんだから。言うのがあれなら、今度スロウちゃんがエミル大好きって言った時に頷くだけでも終わりよ」

「だから、そんな簡単にいかないんだよ」

 

 言えたら言ってる。割と真剣にそう俺が返したことを受け、お姉さんも溜息混じりであったが姿勢を元に戻した。そうしながら、でも何が問題なの、と問い掛けてくる。

 いや、何が問題かって言えば。

 

「別にスロウちゃんをそんな目で見たこと無かった、なんてことはないでしょ?」

「……まあ、そりゃあ」

 

 あいつのことをいつから意識してたか、と言われると、まあ確かに昨日今日じゃない。何だかんだ思い返すと結構前から気にはしていた。だが、スロウと同じくらいのタイミングかと言われると多分そうでもないだろう。

 そんなことをお姉さんに告げると、まあそんなところでしょうかね、と溜息を吐かれる。

 

「で? 最近そろそろ気持ちが溢れて限界になったとか、そういう感じ?」

「そういうのとはちょっと違う、と思う」

 

 思うが、まあ切っ掛けはこの間出掛けた時だ。何だかんだドタバタしていた状態から一歩離れて、そうして二人きりで出掛けてみたりなんかして。

 いい加減、自分をしっかり見ろ、そう思うようになったのだ。

 

「あら、捻くれ者にしては素直な」

「そうでもないさ。こう、いざ告白って思っても、何だかんだいや違うって自分にストップ掛けている感もあるし」

 

 スロウの気持ちを受け取る。それだけでいいはずなんだが、本当に俺はスロウが好きなのか、ただ流されているだけじゃないのか、そういう気持ちも同時に存在しているわけで。

 面倒くさいやつだと言われれば、まあその通りだと頷くしか無い。

 

「まあ、スロウちゃんは今まで通りの関係でも別にエミル君のこと嫌いにはならないだろうから、そのままでも別にって感じではあるでしょうね」

 

 言外に、問題は俺だけだ、とお姉さんは言う。確かにそうだ、ついこの間まで違うだのなんだのと言い訳して素直に自分の気持ちを向き合わなかった捻くれ者、問題なのはそいつだけだ。

 俺がそんなことを思い黙ってしまったのを見たお姉さんは、やれやれ、と肩を竦めた。そうしながら、じゃあこういうのはどうか、と指を一本立てる。

 

「プレゼントでもあげたらどう?」

「プレゼント?」

「そう。告白する、っていうかスロウちゃんの気持ちを受け止めるきっかけ用に、何か用意するの」

 

 アクセサリーとかどう? そう続けるお姉さんの言葉を聞きながら、成程、と俺は頷く。この情けない捻くれ者がいい加減一歩踏み出すために用意するもの。そう言われると、確かにそれが正解な気もしてきた。

 

「とはいっても、虫用のアクセサリーってなんかあるんだろうか」

「ああ、そっか。指輪とか、と思ったけどスロウちゃんの擬態状態ならともかく芋虫状態だと付けれないものね」

 

 割と定期的に芋虫と擬態を繰り返すスロウは、人間用のアクセサリーは合わない。そうなると虫でも人でも問題ないような物にするのが一番だが。そんな都合の良いものは正直オーダーメイドでもしてもらわないと存在しない。

 スロウの装備であるガントレットは、剛腕の鍛冶師がどちらでも装備可能に調整した特注品だ。展開前は人型なら腕輪、芋虫なら首輪みたいになる上に芋虫でも武装展開出来る優れもの。目指すならばそういう方向性だろうが、しかし。

 

「流石に剛腕の鍛冶師に頼むわけにはいかないよな」

「属性頂点に告白用アクセサリー注文しようとか考えるのは多分エミル君くらいだよ」

 

 あはは、とお姉さんが苦笑する。まあそうだよな、と思い直し、そうなるとギリギリ大丈夫そうなペンダントでも探すかと結論付けた。そのあたりが妥当かな、とお姉さんも同意する。

 

「あら、それなら私が剛腕の鍛冶師に頼んであげましょうか?」

 

 横合いから声。な、と思わずそちらに振り向くと、正直見慣れたくはないがここのところそこそこの頻度で会っているタコ女の姿があった。いつの間に、と呟くと、そんなに前ではないから安心して頂戴、という言葉が返ってくる。

 

「スロウちゃんへのアクセサリーを欲しがっている辺りよ。ね? ついさっきでしょう?」

「確かに最初からじゃないが、お前ならそれだけで察するだろうし変わらんだろ」

「あら、そう。でも、そうね、どういう風の吹き回しなのかは分からないから、聞きたいわ」

「絶対に言わん」

「そう。良く分かったわ」

 

 そう言って笑うタコ女。それで、とそんな傀儡人形をもう一度睨むと、何しにこんなところに来たと問い掛けた。

 

「そんな大した用事ではないわ。だから貴方のアクセサリー制作を優先して大丈夫よ」

「いらん」

 

 即答した俺の言うことなど聞いていないとばかりに、それならば、と一枚の紙にサラサラとアイデアを書き始めた。それを俺に手渡すと、傀儡人形は楽しそうに口角を上げる。

 

「それを剛腕の鍛冶師に渡して頂戴」

「だからいらんつってんだろ。それよりお前の用事は」

「まあ確かに、それを渡しに帝国に行くにはスロウの協力がいるものね。今の貴方では少し厳しいかしら」

 

 クスクスと笑った傀儡人形は、では、と表情を変えずにこちらを見た。この間の話は覚えているか、と俺に問い掛けた。

 この間の話というと、どれのことだ。そう俺が返すと、そうね、と傀儡人形が口元に手を当てる。

 

「魔王級が増えている、という話よ」

「ああ、そういえば言ってたな。……この辺にいるのか?」

「そうね。最近の増加している粗雑な魔王級とは違う、それなりの格の魔王級の気配が二つあるわ」

 

 タコ女が来てから聞き役に回っていたお姉さんが息を呑む気配を感じた。それはそうだろう、属性頂点がわざわざ話に来るような魔王級だ、間違いなく厄介ごとの種になる。

 そんな俺達を見て、安心して頂戴、と傀儡人形は微笑んだ。そのうちの一つは例のイゼルブだと言葉を続けた。

 

「安心できるかそれ? あの野郎がなんで」

「恐らく、もう一つの魔王級を仲間にしょうとしているのでしょう」

 

 そう言いながら、傀儡人形は一枚の書類を取り出す。勇者級の冒険者に対する依頼書、それをカウンターに置きながら、イゼルブに勧誘される前にその魔王級を対処して欲しい、と述べた。

 そしてその場所は。

 

「ベルンシュタイン公爵家の城下町!? あんな場所に魔王級が!?」

「今のところは被害は出ていないから安心して頂戴。ベルンシュタイン公爵の方にも話は通してあるから、その辺りは心配いらないわ」

「……ってことは、どこにいるかも分かってるんだよな?」

 

 俺のその問い掛けに、それは分からないわ、と傀儡人形は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「絶対分かってるはずなんだ」

 

 そのまま帰りやがった傀儡人形に文句を言いながら、でも言わないってことはとりあえずそこまで問題がないということもであるという結論は出していた。が、じゃあそれでいいかとはならないわけで。

 呼んできたスロウ、アリア、シトリーに事の経緯を話した後、俺はそうやって愚痴っていた。

 

「んー。でも魔王級がいるのに問題がないってゆーのもおかしな話ですよね?」

「ラティの時みたいに街の人には被害を与えないタイプってことかしら」

「それとも……行動起こす前に見付けられるから、ってこと、かなぁ……」

 

 むむむ、と三体も首を傾げる。そんな俺達を見ながら、お姉さんは本当に見付けていない可能性は無いんだ、と苦笑していた。

 そりゃそうだ。傀儡人形だぞ。といってもお姉さんには通じないだろうけど、少なくとも水属性の頂点が『公爵に話を通してあって』、『街に被害は出ていないから心配ないと断言』している時点で、街にいる魔王級がどんなものかは分かっていてしかるべきだ。というかそうでないとおかしい。

 それで、それを承知で、分かっていないとわざと言うのが傀儡人形という女だ。

 

「月の大聖女とか妖精姫なら絶対言ってくれるだろうに」

「そっちの頂点は信頼してるんだ」

「妖精姫はな。月の大聖女はまあ、こういう時は信用はするけどってところか」

 

 それでも最初の印象からすれば大分良くなった方である。というか他の頂点が碌でもないのしかいないので相対的に上になってきたとも言えるが。傀儡人形や隠れ潜む百花、悲鳴彫刻家とかの信頼度の下がワースト過ぎる可能性もある。

 ともあれ。現状こちらで正体が分からない以上、城下町へ行って情報収集をしなければならない。そう結論付けた俺達は、じゃあ早速と城下町へと《テレポート》で移動した。今回はいつものようにベルンシュタイン公爵家の城門前である。

 そうしていつものように公爵家の城へとお邪魔して、今回の話のいきさつを聞いた。どうやら傀儡人形は公爵にも心配いらないという情報しか与えていないようで、具体的にどこに、という話はこちらも不明だと言われた。セフィも当然同じ情報しか持っておらず、お役に立てずすいませんと頭を下げられる。

 

「いや、どっちかというと傀儡人形に文句を言う方だろこれ」

「街の住人を危険に晒すようなことは傀儡人形様はしないと思いますので」

 

 そうは言うものの、困った方ですとセフィは苦笑している。いいのかそれで、いやよくないから俺達がこうやって来ているわけなんだけど。まあいい、とにかく街にいる魔王級を見付けて、さっさと討伐しよう。

 

「そうは言うけど。実際問題、魔王級って街に潜めるものなの?」

 

 アリアがそんなことを述べる。まあ確かに、普通魔王級ってのは上級モンスターの更に先の強さを持ったモンスターであり、その危険さはちょっとした災害にも例えられるくらいにはヤバいやつだ。

 そんなのが街の中でひっそりしてられるか、と言われれば答えは否。あくまで普通は、の場合だが。

 

「ラティみたいなのとか、それこそお前らだって街に潜んだ魔王級だろ?」

「わたし達の場合、村に潜んだ魔王級ですけどね」

 

 そういう細かいツッコミはいらん。とにかく、普通じゃない魔王級だった場合、街の何処かでひっそりと暮らしている可能性だってなきにしもあらずだ。

 ただその場合、傀儡人形が討伐依頼をしている理由が分からん。ひっそり暮らしてるなら別に問題ないだろう。今はいいが暴れる可能性があるって言うことなのだろうか。だとしたらその場所を教えない理由がないし。

 

「とりあえず見付けてみれば分かるのか?」

「そーかもしれないですね」

 

 考えるより行動か。というわけで手掛かりも何も無い以上、街を虱潰しに探すしか無い。

 そう思った矢先、セフィがいえ、と言葉を紡いだ。

 

「手掛かりになるかどうかは分かりませんが。実は、誘拐未遂が最近数件起きています」

 

 セフィ曰く。街の子供が何人か攫われかけた事件があったらしい。幸いその場にいた人がその犯人らしきものに声を掛け子供は難を逃れたのだとか。

 

「その誘拐犯が魔王級ってことなのぉ……?」

「いえ、そうとは決まっていませんが、魔王級がいるという話が出た途端にこれですので、何かしらの関係はあるのでは、と」

「確かにな」

 

 じゃあとりあえずその誘拐未遂の事件を一旦追いかける方向で行くか。そう決めて、じゃあまずは、と思考を巡らせた。まあこういう時は目撃者に話を聞くのが早いな。

 そういうわけで、セフィにその辺りを問い掛ける。それでしたら、とセフィは地図を取り出した。孤児院に行けば話が聞けます、と地図の一角を指し示す。

 あれ、ここって。

 

「この間の孤児院ですね」

「だよな」

「あら、ご存知なのですか?」

「ちょっと迷子を届けたことがあってな」

 

 そうでしたか、とセフィが頷く。そうしながら、それならば話が早いと言葉を続けた。

 そこの孤児院にいるラミューという名のシスターが目撃者である。そう述べると、ついでなのでと公爵家の捜査証明書を書き始める。

 

「皆さんはもう勇者級ですので必要ないかもしれませんが、念の為に」

「ああ。ありがとう」

 

 そうして貰った証明書をポケットに仕舞い込むと、では早速と孤児院に向かった。勝手知ったる道だ、一度行ったのである程度場所の見当もつく。迷うことなく孤児院へと辿り着いた俺達は、あらこの間の、と驚くシスター達に声を掛けた。

 

「誘拐未遂の事件の調査をしてるんだけど、ラミューっていうシスターは」

「ラミューでしたら、ほら、あの娘ですよ」

 

 あの娘、と指し示されたのはこの間のシスターの美少女だ。確か子供が好きで、孤児院に働きにやってきたとかなんとかっていう人。

 ラミューさん、とシスターが彼女を呼ぶ。どうしましたか、とこちらにやってきたラミューに事情を説明したシスターは、代わりに子供達の相手をしに行ってしまった。

 

「――そういうわけなんだけど。話を聞かせてもらっても大丈夫か?」

「はい、私はかまいません。……子供を泣かせるような輩を、放っておくことなど出来ませんので」

 

 うん、うん? ちょっと待て、話を聞くだけって言ったんだけど、なんかこの娘捜査に協力って一緒についてくる気じゃないのか。そんなことを思わず考え口にすると、それが何か、と首を傾げられた。

 

「子供のために、一刻も早く事件を解決するべきでしょう」

「うん、まあ、そうだけど。……いや、ここだけの話、場合によっては魔王級と戦う可能性があってだな」

「魔王級……? 何故貴方達と戦う必要が?」

「何故って、ん?」

 

 なんか今の反応おかしくなかったか? ……いや、そうでもないか。予想以上にぶっとんだ娘だから俺もちょっとおかしくなってるのかもしれない。

 まあいい。今のところここにいる魔王級は被害を拡大させるようなやつではなさそうだし、ただの誘拐犯で終わっている間にさっさと討伐してしまおう。

 

「どーします? わたしはエミルに任せますけど」

「――おい、ラミューだっけか。もし何か戦闘になっても俺達は守らないが、それでもいいなら」

「勿論です。私のことは気になさらずに」

「……しょうがない。一旦連れていこう」

「あんたこういう時押しに弱いわよね」

「うんうんうん……」

 

 ほっとけ。しょうがないだろ。この調子だと放っておいたら勝手に一人で調査しそうな勢いだっただろ。こうなったのも俺達が火を点けたからみたいなものだし。

 そんなわけで。推定魔王級だと思われる誘拐犯を追いかけるメンバーに、シスターのラミューが加わることとなった。

 

「さあ皆さん。子供達のためにも、頑張りましょう!」

「やる気満々ですね」

「めんどくせぇ……」

 

 

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