幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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そろそろ百話なので、以前に前書きとかでも書いてたキャラの小ネタメモでも活動報告に投稿しようかなと思ったり

追記:書きました


第九十九話

 一人違うのがいるとしても、曲がりなりにも勇者級冒険者と魔王級モンスターの集まりだ。街の外に逃げられる直前に誘拐犯に追い付いた俺達は、連中を逃さないように取り囲んだ。

 子供を攫った理由として、魔王級の気配を魔力と勘違いしたのであろうとかイゼルブは言っていたが逆に言うとそのくらいには実力があるわけで。少なくともラミューと同じくらい、と考えればいいんだろうか。

 まあどちらにせよ、このメンバーの敵ではない。

 

「おい、イゼルブ」

「何だ? 手を出すなとでも言うつもりか?」

「別にお前がなにかするほどの相手じゃないだろ」

「相手の実力はどうでもいい。我にとってはこいつらを始末して獲物を取り戻すことのほうが重要だからな」

 

 それをやらせるわけにはいかないっつってんだよ。そう言いながら武器を構えた俺は、いいから見てろとイゼルブに述べた。当然というべきか、奴は知るかと一歩前に出る。

 そんなイゼルブの殺気に気付いたのだろう。誘拐犯は攫った子供達を盾にするようにしながら、こいつらがどうなってもいいのか、と喚き始めた。真正面から抵抗する気は端からないようである。まあそうなるよな。

 

「おい、イゼルブ」

「だから何なんだ? 大人しくしろとでも言う気か?」

「子供に危害を加えるなって話だ」

「ふん。流石に全滅はまずいだろうが、一人二人なら構わんだろう」

「構います!」

 

 そのまま問答無用で攻撃しようとしたイゼルブにラミューが割り込む。駄目です、と真っ直ぐにイゼルブを見ながら、攻撃を止めるように告げた。知るか、と攻撃をしようとしたイゼルブも、彼女の真剣さと迫力を見て溜息を吐くと手を下ろす。

 

「それで? ラミュー、貴様はどうする気だ?」

「子供を助けるのを最優先にしてください」

「それは願望だろう? 貴様が何をするのか、と聞いたんだぞ我は」

「私が代わりになります」

 

 迷うことなくそう言い放った。誘拐犯へと足を踏み出し、子供を解放してください、人質でも何でも自分がなりますと言葉を続ける。

 

「な、何でも?」

「ええ、何でも。この体を好きにしてくれて構いません」

 

 誘拐犯の問い掛けに即答したラミュー。それを聞いて、ごくりと誘拐犯が唾を飲み込む音が聞こえた。スタイルもいい美少女のシスターが、子供を解放する代わりに何でもしていいと交渉してきたのだ。この手の輩ならば邪な考えを抱くのもまあ当然と言えば当然なのだろう。

 

「おねえちゃん先生!」

 

 人質になっていた子供が叫んだ。今彼女がどういう事態かを察したのだろう。ダメ、行っちゃヤダ、と泣きそうになりながら、というか半分くらいは泣きながら暴れる。そんな子供達を鬱陶しく思ったのか、誘拐犯は大人しくしやがれと怒鳴りつけていた。

 勿論ラミューがキレる。子供になんてことを、と食って掛かった。その動きは誘拐犯の懐に潜り込んでしまうことに他ならず。

 

「おっと、大人しくしてもらおうか」

 

 ぐい、とその腕を掴まれたラミューはあっさりと誘拐犯に捕まってしまった。子供を離しなさい、とジタバタしているが、誘拐犯達はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら攫った子供を手元に置いたままだ。

 さて、どうするか。子供に加えてラミューまで人質に取られてしまうとこちらも動きにくい。最悪全員見殺しにしてスロウに復活させてもらうという手もあるが、流石にそこまで外道の所業をするには忍びないし、最後の手段的なものを即やるのにも抵抗がある。

 

「どーします?」

「どうするもこうするも」

 

 そうなると、とちらりとアリアを見る。まあそうよね、と虫の羽を出現させたアリアは、鱗粉を一気に周囲に撒き散らした。

 

「お前ら、妙な真似をするとこの人じ、ち、を」

 

 ぐふ、と誘拐犯が膝から崩れ落ちる。子供達やラミューも若干咳き込んでいるが、これは鱗粉が顔に掛かったからだろう。状態異常にはなっていないはずなのでその辺りは我慢して欲しい。

 

「流石に状態異常はコイナの方が上ね」

 

 マンドラゴラならば察知される前に昏倒させられている、と自身の成果を評価しながらアリアが肩を竦めた。そうしながら、麻痺している誘拐犯を手早く纏める。

 その間に、俺達は人質になっていた子供とラミューを助け出していた。大丈夫かと皆に声を掛けると、子供達は大丈夫だと返答が来る。

 

「でも、おねえちゃん先生が」

 

 ラミューが? 一体どうしたんだと視線を向けると、どこか苦しそうに項垂れていた。ひょっとして鱗粉を吸い過ぎたのだろうか。そんなことを思いながら声を掛けると、彼女はゆっくりと顔を上げる。

 その金の瞳の瞳孔が、どこか縦長に見えて。

 

「子供、達は……?」

「ああ、大丈夫だ。ちょっと鱗粉を吸ったかもしれないが、悪党やモンスターでもない限り状態異常には」

「それは、本当に……?」

 

 気のせいか息が荒い。やっぱり鱗粉を吸い過ぎたのか、とりあえずスロウに回復でもしてもらおうと声を掛けようとしたそのタイミングで、ラミューがゆっくりと立ち上がった。明らかに目が据わっている。間違いなく大丈夫じゃない。

 

「ラミューちゃん、ちょっと待ってください、回復を」

 

 スロウも気付いたのだろう。立ち上がってフラフラとしているラミューを見て声を掛けたが、当の本人は聞こえていないようで、そのままゆっくりと転がされている誘拐犯に歩いていく。

 

「っ! エミル! ラミューを止めなさい!」

 

 アリアが叫ぶ。何を、と聞くよりも早く、ラミューが誘拐犯の一人を片手で掴んで持ち上げた。いきなりのそれに思わず動きを止めた俺の眼の前で、誘拐犯の首をグシャリと捻り潰す。動かなくなった誘拐犯を投げ捨てると、ラミューは次の獲物とばかりに別の誘拐犯に目を向けた。

 

「おい、ラミュー、何を」

「私の大切な、子供を、傷付ける奴は……死んでもいいでしょう?」

「いや、まあ気持ちは分からんでもないが。一応こういうのは詰め所とかギルドに引き渡して」

「子供を酷い目に遭わせたのにですか!」

 

 グルル、と何かの唸り声が聞こえる。誘拐犯からこちらに目を向け、ゆっくりとこちらに足を踏み出す。ズシン、と足音がした気がした。

 ズルリ、とラミューの尻から尻尾が飛び出る。太いその尻尾で誘拐犯の死体を絡め取ると、その死体を口元に持っていき齧り付いた。

 

「こいつ……人間じゃ、ない?」

「人間? 私がいつ自分を人間だと言いました?」

 

 メキメキ、とラミューの姿が変わっていく。柔らかそうであった肌が、硬そうな鱗へと変化し、やがて目の前に現れたのは巨大なトカゲの化け物。見てくれは上級モンスターのサラマンダーだが、こいつはただの上級じゃない。

 これまでは完全に気配を消していたことからもその実力が窺える。つまりは。

 

「魔王級……てことは、ラミューが街にいた魔王級のモンスター……」

「ええ、そうです。……討伐しますか、私を」

 

 齧り付いていた死体を一呑みにすると、ラミューはジロリとこちらを睨み付けた。そうしながら、身が竦むような咆哮を放つ。

 

「待て、待った。俺は別にお前を討伐なんて」

「そこのイゼルブさんの仲間になる前に私を討伐する、と確かに聞きましたが?」

 

 言ったな。確かに言った。けど、それはあくまでイゼルブの仲間を増やさないようにするためであるし、そもそも話が通じる相手なら討伐する必要もない。今はこんな感じだが、少なくとも問答無用で暴れて襲い掛かるような相手ではないはずだ。

 今の状況だって理由はあるだろうし、なにより。

 

「子供が好きで、子供のために自分から人質になるようなやつを討伐するのはちょっと」

「……甘いのですね」

 

 今目の前で人を一人食ったのに。そんなことを言いながら、麻痺して動けなくなったまま怯える誘拐犯の一人を踏み潰した。潰れたその死体を掴み取ると、そのまま乱暴に齧り付く。ふう、と息を吐きながら、少し落ち着いたようにこちらを見た。

 

「見ての通り、私は人食いです。人を食べることを好んでいます。……そして私は子供が大好きです。その意味、分かってもらえますか?」

 

 それはつまり。イゼルブが言っていたように、食べるために子供を守っていたということなのか。城下町の子供を食らうために、魔王級の気配を子供に纏わりつかせて、位置を把握していたのか。

 

「エミル、どーします?」

「いや、どうするもこうするも」

 

 ラミューの言っていたことが本当ならば、どう考えても討伐対象だ。放っておけば間違いなく子供の犠牲者が出る。

 剣を構えた。スロウに子供を守ってもらうことを頼みながら、アリアとシトリーにも戦闘態勢を取ってもらう。

 そんな俺達に立ち塞がるように、傍観していたイゼルブが割り込んだ。

 

「今はお前に構っている余裕は」

「何を言うかと思えば。我はラミューを守ると約束しただろう。当然、貴様らからもだ」

「さっき誘拐犯から守らなかったじゃねえかよ」

「ええい黙れ!」

 

 こいつ本当に抜けてるな。そんなことを思いながら、しかし実力は本物なのは間違いなくて。

 魔王級二体を同時に相手取ることになった俺達は、それでも負けるわけにはいかないと武器を構えた。

 

 

 

 

 

 

「ダメぇぇぇぇ!」

 

 そんな戦闘開始直前に割り込んできたのは、先程スロウに守るように言っていた子供達だった。何を、と思わず動きを止めた俺達に対し、絶対にさせないとばかりにラミューの前に立つ。

 

「おねえちゃん先生をいじめないで!」

 

 そうして出てきた言葉がこれである。子供達は真剣で、その表情を見ても操られているようには見えない。純粋に、これまで一緒にいたラミューの味方をしているのだろう。

 とはいえ、眼の前のラミューは魔王級モンスターであり、人食いであり、しかも子供が好きだと言ってのけた奴だ。

 

「お姉ちゃん先生はそんなことしないもん!」

「いや、自分でそう言ったんだけど」

 

 子供の勢いに若干押される。そんな俺を見て、やれやれとアリアが肩を竦めていた。そんなこと言われてもしょうがないだろう。

 

「まあそうだけれど。どうするの? 子供達眠らせる?」

「絶対後で恨まれるやつだよぉ……」

 

 そうなんだよな。ここで子供達を眠らせて、それでラミューを討伐したとして。間違いなく子供達の心に傷が出来る。それはそれでまあ仕方ない、とも思うが、かといって積極的にやりたいかといえば勿論否なわけで。

 一応子供達が割り込んだことで戦闘は開始されず、ラミューは勿論イゼルブもこちらを攻撃する素振りがない。ならば、とりあえず話し合いくらいは出来るだろうか、と俺は向こうに声を掛けた。

 

「なあ、ラミュー」

「何でしょうか」

「今まで言ってた子供が好きってのは、そういう意味だったのか?」

「私は子供が好きです」

 

 そうだとも違うとも言わず、ラミューはそうとだけ述べた。まあさっきは普通に好物だって言った以上それ以外の意味はないと取るべきなのだろう。しかし、そうなると。

 傀儡人形がこいつを放っておいた理由が分からない。子供を食べる魔王級なんか、間違いなく即座に補足して討伐する対象にするだろう。

 それにここまで子供に慕われているのも気になる。いや、そうやって仲良くなって油断したところを食べるつもりだったのかもしれないが、だとしても。

 

「おねえちゃん先生」

「……どうしました?」

 

 そんなことを考えていると、子供達がサラマンダーの姿になったラミューに声を掛けていた。孤児院に帰ろう、と述べていた。

 

「……駄目ですよ。私はほら、化物ですから」

「かんけいないもん!」

「おねえちゃん先生はおねえちゃん先生だもん!」

「……困りましたね」

 

 あはは、と苦笑したラミューは。それならばと残っていた誘拐犯の一人を再びゴミクズのように叩き潰すと、ほら化物でしょう、と子供達に諭すように告げた。どこか自嘲するようなそれを聞いても、しかし子供達は首を横に振る。

 

「えっと、じゃあほら、私、こうやって人を食べますよ」

「だってそれわるものだったもん。おねえちゃん先生はいいひとだもん」

 

 潰した誘拐犯を再び食べたラミューだったが、だからどうしたと言わんばかりの子供に流石に押され気味なっている。というか眼の前で人が潰されて食われても平気な子供凄いな。いやまあ、そのくらいじゃなきゃいきなりシスターが化物になっても慕わないか。

 

「イゼルブ」

「何だ? 我は別にこの隙に貴様らを殺す、みたいな無粋な真似はせんぞ」

「いやそれはどうでもいいんだけど。お前これどうする気だ?」

「どうする、とは?」

「ラミューを勧誘しに来たんだろ? 無理そうだろこれ」

 

 そう言うと、イゼルブはふん、と鼻を鳴らした。そうしながら、だから貴様らは馬鹿なのだと肩を竦め、そのまま子供達のところへと歩いていく。何をする気だ、子供達に手を出さすならば、と剣を振りかぶろうとしたそのタイミングで、イゼルブはぽんとその頭に手を置いていた。

 

「なかなかいい度胸だな、小童共」

「あ、おじちゃん、さっきおねえちゃん先生まもってくれようとした人だよね? どうしたの?」

「おじ……。ごほん、『お兄さん』はな! 貴様達の味方をしてやろう」

 

 そう言うと再度こちらに向き直り、腕組みをして子供達の前に立つ。さあ掛かってくるがいい不届き者、とか言い出しやがった。

 

「どーします? これ絶対こっちが悪者ですよ?」

「いや、そうなんだけど。でも、人食いの子供好きは流石に放っておけんし」

「……でも、子供が好物って割には、あんなに目の前に獲物がいるのに食べないわね」

「やっぱり、違う意味なのかなぁ……」

 

 分からん。分からんが、少なくとも人食いで既に俺達の眼の前で三人殺害して食っているのは確かなんだ。誘拐犯ではあるが、流石にこれだけなら一発死罪ってほどではなかっただろうし、過剰なのは間違いない。

 とはいえ、現状じゃあ子供無視してイゼルブの相手しつつラミューを討伐、はかなりリスクが高い。いくら俺達が勇者級だとはいえ、無事に倒せる自信もない。ここにバクス達なりクロード達なりの別の勇者級がいればもう少し違う答えも出せたかもしれないが、ここにいるのは俺達だけだ。

 

「ラミューちゃん」

「……はい、なんでしょうか」

「そこの子供、食べますか?」

 

 そんなことを考えていた矢先、あ、そうだ、と何か思い付いたらしいスロウがラミューにそんな問い掛けをしていた。まあ、さっき言っていた通りならスロウのその質問は当然食べる一択なわけだが。

 

「食べませんよ。何で大切な子供を食べなくてはいけないのですか」

「んん?」

 

 さっき子供が好物って言っただろうに。そんなことを思い怪訝な表情を浮かべた俺を見て、イゼルブが面白そうに笑った。だからさっきも言っただろう、と口角を上げた。

 

「貴様らは馬鹿だな。では聞くが、鶏肉が好きな人間が飼っている愛玩鳥を食べるのか?」

「は? いや、普通は食べないだろ」

「え? そういうこと?」

 

 アリアが何かに気付いたように目を見開く。そうしながら、子供が好きってそういうことかと苦い顔を浮かべた。

 流石にそこまでくれば俺も分かる。ラミューの子供が好き、は両方の意味だ。そして城下町の子供達は愛でる方。だから被害は起きないと傀儡人形に判断されたのか。

 

「正確には少し違います。――私は子供が好物ですが、同時に愛らしい存在だと認識しています。だから、余程のことがない限り子供は食べません」

 

 そう言うとサラマンダーの手で子供の頭を優しく撫でた。どうしようもないほど余裕を失わない限り、自分が子供を食べることはない。そうはっきりと言い切った。

 

「まあ普通の人間は食べますが。ですがそれしか食料のない時代でもなし、こういう碌でもない悪人を時々嗜好品のように食べられれば概ね満足できます」

「食べないって選択肢はないんだな」

「人、美味しいですから」

 

 そう言って笑ったラミューは、さてではどうしましょうかと皆を見渡した。どうやらもう既に戦闘を行うような雰囲気になっていないと判断したらしい。イゼルブは、やるなら加勢するぞと彼女に笑みを浮かべている。

 しょうがない、と俺は溜息を吐いて剣を仕舞った。まあそうなるわよね、とアリアも戦闘態勢を解き、シトリーもそれに続く。スロウもエミルが決めたことなら、とあっさり引き下がった。

 

「なんだ、もう終わりか。おい小童共、お前達の勝ちだぞ」

「ほんとう!? おねえちゃん先生はもうだいじょうぶ!?」

「ああ。向こうの不届き者はこのお兄さんにひれ伏した」

 

 はっはっは、と無駄に勝ち誇るイゼルブ。いやお前関係ないだろと言いたいが、いかんせん全く関係ないということもないので強くは出れない。何より今ここで何を言っても負け惜しみになってしまう。

 

「さて、事件も解決したところであるし。帰るとするか」

「かえるって、こじいんに?」

「ああそうだ。当然ラミューも一緒だぞ」

「うん、ありがとうおじちゃん」

「お兄さんだ!」

 

 そうしているうちにイゼルブが話を纏め始めた。当然お前らも来るだろう、と言われればまあそりゃそうとしか言えないわけで。誘拐犯は全滅したが、一応報告はしなければならないし、何より魔王級ラミューのことについても伝えることが山盛りだ。

 

「これ、解決はしてないわよね」

「ああ、どうしたもんか」

「まあ今のところ被害はない、ってことでいーんじゃないですか?」

「誘拐犯死んでるよぉ……」

 

 スロウの呑気なそれを聞きながら、まあ被害がそれくらいで済んで良かったと思うべきなのか、と俺はガクリと肩を落とした。

 

 

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