〔1〕
僕は......幸せになるのが怖い。
「あと数日で年明けか......」
今年がもうすぐ終わる。次の年の僕に早速待っているのは玉将戦と棋帝戦の防衛戦だ。
「玉将戦の対局相手が広島九段で、棋帝戦の対局相手が
今期の玉将戦の挑戦者は広島 雅之九段。タイトル戦で唯一
『レイちゃん?いるー?』
「ん?ココア?入って良いよ」
突然ココアから声をかけられる。僕はココアを部屋に入れる。
「レイちゃん、来年からダブルタイトル戦だよね」
「そうだね......両対局者とも油断ならない相手だよ」
「特に広島九段はレイちゃんにとって因縁深い相手だよね......」
「......そうだね。否定はしない」
「......えいっ!」
「......えっ」
不意にココアから抱きしめられた。僕は突然のことに反応が遅れてしまった。ココアの心臓のざわめきがハッキリと伝わる。
「......もし、私が棋士だったら、レイちゃんの苦しみを理解出来るのかな?辛さを分かち合えるのかな?悲しみを背負えるのかな?」
「......」
「私はね?レイちゃんが幸せであってほしい。笑顔であってほしい。楽しんでいてほしい。今のレイちゃんは、将棋を楽しく指せているのかな?」
「......ッ!」
「......その顔は図星かな?えへへ......何でだろ......レイちゃんと笑い合うことが出来るだけで......私は......幸せなのに......グスッ」
いつの間にか、ココアは涙を流していた。それに釣られて僕も涙する。
「えへへ......お互いグショグショだね......」
「ココア......僕、大事なことを忘れていたよ」
「えっ?」
僕はココアを抱きしめ返す。
「ありがとうココア。ココアなりに励ましてくれたんだよね?届いたよ、その言葉」
「うん......うん......!」
僕は......幸せになるのが怖い。だけど、それ以上にみんなとの幸せを守りたい。
Side Cocoa
あれから私とレイちゃんは枯れるまで涙を流し合った。それから自分たちの行動の羞恥が勝ったのか、5分以上無言のままだ。
「「......」」
気まずい......衝動的にレイちゃんに対してあんなことしてしまったけれど、今思えばなんて恥ずかしいことをしてしまったんだ。
「ココア」
「えっ、あっうん」
レイちゃんが不意に口を開く。どうしちゃったんだ私。
「まずはありがとう。ココアのおかげで大切なことを思い出せた」
「......うん」
「それと、お願いがあるんだ」
「......何かな?」
何を言われるんだろう?
「これからも、そばで僕を見ていてほしい。僕が落ち込んでいたら、また励ましてほしい」
今度はもう少し普通の方法にしてほしいけれど、と続けたレイちゃんの言葉に、私の心はあったかくなった。あぁ、私のしたことは無駄じゃなかったんだ。
「お安いご用だよっ!お姉ちゃんに任せなさーい!」
「......それはちょっと違うかな」
あれー?
Side Out
〔2〕
ある冬の朝。外では雪が辺り一面積もっている。僕とココアは千夜と一緒にマーケットに来ていた。ココアは千夜に自分の香りについて聞いていた。
「うーん、パンって言うより小麦粉の匂いかしら?優しい匂いよ」
「それ......どっちにしてもパンだよね」
「私は?」
「千夜ちゃんはね、暖かくて包み込んでくれるようなわびさびを感じさせる匂いだよ」
「わびさび?」
「ちなみに僕は?」
「「女の子を惑わせる魅惑の匂い!」」
「は?」
言ってることが理解出来ないのだが。
「年末もこのマーケットは色んな物が売ってるね。おつかいで来たのに楽しくなっちゃう。チノちゃんも来れば良かったのに」
「クリスマスの時とは違った感じで楽しいわね」
「ちょっと?今のどういうこと?」
「お肉やフルーツの匂いでお腹が減って、ん?」
僕たちは、偶然買い食いしているリゼとシャロを見つけた。
「リゼちゃんが買い食いしてる!?」
「レイ!ココア!千夜!」
同時にリゼも僕たちを見つけた。2人はケーキを食べていた。すると千夜はシャロを見て冗談を言う。
「シャロちゃんが試食してる!?」
「ちゃんと買ったわよ!」
「けど良く2人とも気づいたよな、こんなに人が多いのに」
「お腹空いてたから」
「シャロちゃんはハーブの香りが漂ってるから」
「えっ?嘘?ヤダ!そんなに染み付いてる?」
自分の服を嗅ぐシャロ。
「冗談だから確認しなくて良いんだぞ?」
「リゼちゃんは硝煙の危険な香りがするから近付くとすぐ分かるよ」
「えぇ!?」
リゼもシャロと同様、自分の服を嗅ぐ。
「冗談だから確認しなくて良いんだよ?」
「リゼ、シャロ、ちなみに僕は?」
「「女子を惑わせる魅惑の匂い」」
「なんでさ」
ココアに千夜......「だから言ったでしょ?」みたいな顔やめろ。その後、僕たちは近くのベンチに座って各々の購入品を食べる。ココアと千夜はドーナツを買って食べてる。
「動いてるとお腹が減るから仕方ないよね」
「いつもじゃないからね......」
「普段はお仕事で忙しいけど、こうしてると私たち普通の高校生らしいわね」
「「確かに」」
「この街は空気も澄んで綺麗だね。良い匂いするし」
「それは手に持ってるドーナツの匂いでしょ?」
「そう言われれば慣れちゃって気にしてなかったわ」
「冬だから余計に空気が澄んでるな」
「皆で深呼吸してみようよ。はい吸って......吐いて......」
みんなで深呼吸する。
「ボーっとしてきた......」
「何か忘れてるような......」
「明日は日曜日かしら......?」
「社会に貢献する使命を抱いてたような気がする......」
完全に目的を忘れてしまったこの4人。嘘でしょ......?
「......バイトは?」
全員僕の声が届いてないのか、のほほんとしている。ハァ......。
「......ココア、リゼ、僕は先に行くからね」
「「いってらっしゃい......」」
僕は彼女たちを置いていくことにした。たまには良い教訓になるだろう。
「ただいま」
「おかえりなさい。ココアさんは?」
「しばらくしたら戻ってくるよ」
「?」
「ちなみにチノちゃん......僕ってどんな匂いする?」
「......女の子を堕とす最強の匂い......ですかね」
「ひぃん......」
僕はリアクションしづらいよ。今日、僕は本来非番だ。しかし今日は体を動かしたい気分なので、化粧と着替えを終わらせてホールに移動した。すると———
「レイ!なんで教えてくれなかったんだ!」
「僕は再三言ったよ?メールもした。無論電話も。そこまでやってもダメならば、気付かないリゼが悪い」
「......それは仕方ないか」
理解したのか、トボトボと裏に移動する。その後———
「レイちゃん!なんで教えて———」
「レイさんは再三言ったしメールも電話もしました。それでダメなら気付かないココアさんが悪いです」
「僕が言いたいこと全部取られたんだけど」
「妹なら兄の言いたいことぐらい分かります......!」
「兄じゃないです」
「ふえぇぇぇぇぇん!」
「......レイの制裁を喰らったか」
制服に着替えたリゼと入れ替わる形でココアが裏に移動する。そのときだった。
「「お邪魔しまーす!」」
マヤちゃんとメグちゃんが来店した。
「いらっしゃい。今日はどうしてここに?」
「宿題で調べ物あってさー」
「この喫茶店にインタビューで来たの」
2人が来た理由は職業レポートの宿題をするためであった。
「なるほどね。とりあえずその辺はチノちゃんとタカヒロさんに任せた方が良いね。チノちゃん、行っておいで」
「分かりましたお兄ちゃん!」
「兄じゃないです」
2回目だぞこれ。リゼと仕事をこなしていると、制服に着替えたココアがこっちに戻ってきた。
「ココア、チマメはどうした?」
「チノちゃんのお父さんにインタビュー中だよ」
「そうか、職業レポートか。中学の冬休みの宿題で出たなぁ。懐かしいな!」
「レイちゃんは職業レポートどうしたの?」
「僕はそのとき既にプロ棋士だったからね......書ける範囲で自分が関わった将棋界における事柄を書いて、後は師匠のことについて書いたよ」
「そうなんだ......社会人になってる場合、そんな感じのレポートになるんだねー」
「正直職に就いてるから免除される予定だったんだけど、プロ棋士であることを理由に特別扱いされるのが嫌だったんだよね......」
あくまで学校に通っている間は「ただの学生」だからね。
「そっかぁ......それで、リゼちゃんはお父さんに聞いたの?」
「私は軍人になるつもりは無い!けど......あの頃はやんちゃだった......」
「えっ?」
「花屋さんに行くなんて!」
「それ普通だよ!」
「可愛いじゃん」
裏から扉の音がする。どうやらマヤちゃんとメグちゃんのインタビューが終わったみたいだ。
「個人経営って大変なんだな」
「この辺競争が激しいみたいだね」
「おっ!インタビュー終わったみたいだな」
「甘兎庵とフルール・ド・ラパンもありますしね」
「その喫茶店にもインタビュー行ってみたいね」
「それならレイ、2人を連れて行ってやったらどうだ?」
「まぁ、今日は元々非番だからね。大丈夫だよ」
「えっ?良いの?」
「良かったー!レイお兄ちゃんなら安心だね!」
「偵察か......気を抜いたらやられるぞ!」
「「やられる!?」」
「リゼさんの冗談ですよ」
こうして僕たちは、最初に甘兎庵に訪れる。
「あら!チノちゃんのお友達の。サービスするわよ」
「2人は学校の宿題で千夜の所にインタビューに来たんだ」
「ずばり!ラビットハウスとは敵対関係なんですか?」
「張り合ってたのは昔で、今は違うんだ」
「良きライバルと思ってるわ」
「ほうほう」
「最近チノちゃんのお父さんがジャズやってたって聞いて、音楽も出来なきゃって気付かされたの。でも!楽器無いから歌います!」
どこからともなくカラオケセットが出てきた。
「すげー!」
「カラオケ居酒屋みたいー!」
「何だこれ......」
「でもさ、バイトしてると勉強とか大変じゃない?」
「両立するのって難しくないですか?」
「働くことも勉強の内さ」
「メリハリ付けてこなせば大抵何とかなるものよ」
「何か格好良く見えるな!メグ!」
「凄いんだね!マヤちゃん!」
キラキラする2人。それに対して———
「レイくん今度化学教えてね、ちょっとピンチなの......」
「......時間があったらどうにかするけど、無理ならココアに依頼するからね」
ガクガクする千夜。うん、頑張れとしか言いようがない。そして、僕たちが次に向かったのは、フルール・ド・ラパン。
「いらっしゃいませー」
「うさぎっぽさが負けてる!」
「ラビットハウス完敗だよー!」
ガクガク震えるマヤと目をキラキラしているメグ。
「しかもこのスカート丈!」
「何!?」
スカートを抑えるシャロ。
「大胆さも負けてるかな......」
「歌いだしても可笑しくない衣装だね」
「歌!?」
「そんなサービスあったっけ?」
「無いわよ!服よりもハーブティー気に入って欲しいな」
「それが一番だよねー」
「お店の決めポーズやってよ」
「無茶振り!?」
「ラビットハウスではこんな!」
左に僕、右にメグちゃん、真ん中にマヤちゃんで勝手にポーズを取る。あれ?何やってるんだ僕。
「レイやリゼ先輩でさえやっているというなら......」
僕やリゼもやってると思ってるシャロは、勇気を出してウィンクしてピースするポーズを取る。あれ?でもそういえば———
「これがサービス!」
「これ、僕やリゼは却下したはずなんだけど」
「ター......」
その事を聞いたシャロは絶句した。なんか......ごめんよ。
「職業インタビューなら、あっちに一応小説家さんもいるよ」
遠くのテーブルで青山先生がハーブティーを飲んでた。
「あの人小説家だったの?メグ行ってみよ!」
「うん!」
「今の職業インタビューだったの?」
「あーうん、一応そうなんだよね......」
2人は青山先生にインタビューする。
「是非、小説家さんになった経緯とやりがいを教えて下さい」
「私のような者でも参考になれば......」
「うんうん!」
「きっかけはある方に勧められて、やりがいは———」
「やりがいは?」
「やっぱり人を感動させられる時ですか?」
「そうですね......」
すると青山先生は突然、体を横にしてテーブルの下から店員さんの太もも辺りを覗く。
「店員さんを観察しても怪しまれません」
「人間観察ってやつですね」
「これただ覗いてね?」
間違いない。その後、フルール・ド・ラパンでハーブティーとクッキーを頂いた僕たち。
「棋士やってなかったら、お金すぐに尽きてただろうなぁ......」
アプリで預金残高を確認して戦慄した僕。
「和菓子とかハーブクッキーとか美味しかった!」
「色々話も聞けたしねー」
「じゃあそろそろ帰ろっか」
「もう帰るの?」
「他の喫茶店もインタビューしようよ」
「ダメです。遅くなったらチノちゃんが心配するよ?」
すると2人はコソコソと何かを話し合い———
「じゃあ!レイ兄のこと教えて!」
「将棋界のことも!」
......なるほど、そう来たか。
「いいでしょう。名人たるもの、将来の棋士の卵に棋界の仔細を教えずにどうするか!」
「そうこなくっちゃ!」
「うふふ」
これで勝ったと思うなよ?僕は近くの喫茶店でお茶をしながら、2人に将棋界と将棋棋士という職業を教えた。しばらく時間が経ち、僕たちはラビットハウスに戻った。
「リゼー帰ったよー」
「おっ!どうだった?」
「将来私達が、色んな意味でライバルになる可能性がある!」
「寝返る気か!?」
「まさかの裏切り宣言!?」
チノちゃんに近付くメグちゃんは、こっそり話す。
「私はね、チノちゃんが素敵なお兄さんお姉さん達と友達で良いなと思ったよ」
「お兄さんお姉さん......」
「将来あんな人達みたいになれるかなあ?」
「メグさんだけでもそのままでいて下さい。参考にするのはレイお兄ちゃんだけで良いです」
「兄じゃないです」
そこ、聞こえているぞ。
〔3〕
翌日のラビットハウスにて。
「行って来まーす!」
「「行ってきます」」
僕とココアとチノちゃんが買い物に出かける。
「見てー!雪が積もりまくりだよー!雪うさぎ作るよ!」
ココアが積もった雪で雪うさぎを作る。
「先に買い物に行っちゃいますよ?」
「完成!」
一瞬にして雪うさぎが出来上がった。
「あ、可愛いです」
「このくらいで見とれるとはまだまだ子どもだねえ」
そう言いながら雪だるまを作ろうとするココア。
「「どっちが......」」
「このまま新学期まで雪が残ってたらきっと学校で雪合戦だね。武者震いするなー。でも千夜ちゃんに球投げられたらと思うとゾッとしてきた」
「あの日の再来だね......」
するとチノちゃんは、ココアを見て何かに気付いた。
「ココアさん、ちょっと腰低くして下さい」
その言葉にココアはファイティングポーズを取る。
「構えろって意味じゃないです」
ココアを手招きするチノちゃん。
「ん?」
チノちゃんはココアの額に顔を当てる。すると———
「凄い熱!ココアさん......」
「本当に!? ......熱っ!」
なんとココアが風邪を引いてしまった。急いで僕たちはラビットハウスに戻る。ココアの看病をすることになってしまった。そこに千夜がお見舞いに来てくれた。
「ココアちゃん、お大事にね」
「お見舞いありがとね。色々持って来て貰っちゃって」
千夜が持って来たのは、桃缶とりんご、にんにくだった。
「「桃缶とりんごと、にんにく......?」」
「にんにくを首に巻くと風邪に効くんだよね」
「普通は焼いたネギじゃ......」
「そう!病魔が立ち去るのよね」
「にんにくで撃退するのはヴァンパイアだよ......」
「風邪って聞いたけど大丈夫か?」
そこにリゼが来た。手に持ってる皿の上にはうさぎりんごが3個あった。
「わー!リゼちゃんが剥いてくれたの?」
「刃物の扱いは任せろ。チノにリンゴうさぎにしろって言われたけど、これのどこがうさぎか分らなくて、こっちの方がうさぎっぽくないか?」
銃とヘルメットを被ったうさぎりんごを見せる。爪楊枝を銃に見立て、りんごの頭をヘルメットに見立たせてる。
「凄い!」
「彫刻かな?」
「可愛い!」
「普通のうさぎは銃構えません」
すると今度は、マヤとメグがお見舞いに来た。
「ココアー大丈夫?」
「ココアちゃん大丈夫?」
「2人ともありがとー。お姉ちゃんは大丈夫だよ。ちょっと熱があるだけ」
「早く良くなって雪だるま作ったり雪合戦しよう!」
「良いねー!」
「しばらくは安静です」
「風邪が完全に治るまでは無理だな」
「そうよ、ココアちゃんは今悪魔と戦ってるの」
「「病魔だよ(です)」」
「だからニンニク持ってるんだ」
「そうなの。十字架も持って来るんだった」
「十字架ならリゼのナイフの方が格好良いよ」
「君たちはクリスチャンか何かなのか?」
「あっはははは......ゴホッ!ゴホッ!」
笑い過ぎてココアが咳き込んだ。チノちゃんがココアによって体温を確認する。
「ココアさん!また熱出てるじゃないですか!ちゃんと寝ないとダメです」
「ゆっくり安静にして寝ろよ?みんな行くぞ」
「また来るわね」
「ちゃんと寝ろよー」
「ココアちゃんお大事にね」
「みんな、ごめんね」
リゼたちは部屋から出た。
「病人はちゃんと言うこと聞いて下さい」
「ごめんね、レイちゃん......チノちゃん......」
「大丈夫ですから」
「安静にしてなよ?」
その後、僕はお粥を持ってココアの部屋に入る。だがココアの様子がおかしい。
「リゼがお粥作って帰ったよ」
「レ......イ......」
なんとココアが苦しんでいた。大丈夫か......!?
「苦しいの!? 僕に出来る事だったら何でも言って!」
「レ......レ......」
「何だいココア!」
「冷製クリームパスタが食べたいな......」
「えっ?冷製?」
僕がココアの額に手を当てると———
「凄く熱いぞ!早く薬を———」
さっきより熱が上がっていた。薬を飲ませなければ———
「レイ!風邪薬が切れておるぞ!」
薬が......無くなっている......?
「なんだと!? 近くのお店はもう閉まっている......タカヒロさんは仕事中だ......どうする......?」
「家が近い千夜に貰いに行くのはどうじゃろう?」
「マスター、ナイスアイデアです!今から走って行けば1時間かからず帰れる!」
「だが外は雪が積もって危険じゃ......」
しかし......このままではココアが苦しむ状況は変わらない.......。
「......マスター、僕は行きます。チノちゃんには知らせないでください」
急いで千夜の家に向かうことに決めた。
「......」
僕は1人で夜の雪道の中を歩いていた。千夜から薬を貰いに行くためだ。
「たくさん降ってる......朝になったら雪かきしなくては......」
「たとえ男の人でも、夜道に1人で歩くのは危ないですよ?」
「マスター......恨みますよ......」
後ろからコートを着た防寒服姿のチノちゃんが歩いて来た。
「一緒に行きましょう?」
僕たちは千夜の家に向かう。
「おじいちゃんから『レイを頼む』って言われたんです」
「......ありがとう。こんな見た目だから頼りないように見えるだろうし......それに、チノちゃんの大切な姉があの状態で心配だからね」
照れて怒ったチノちゃんが僕をポカポカ叩く。
「お姉ちゃんじゃありません!ココアさんはココアさんです!」
「ふふっ、冗談だよ♪」
「でも......」
「ん?何?」
「ココアさんの匂いは、嫌いじゃありません」
そして僕たちは甘兎庵に着いた。電気はまだついてる。するとシャロの家から千夜が出て来た。
「「千夜(さん)!」」
「レイくんにチノちゃん!」
「あの!風邪のお薬があったら譲って頂けないでしょうか!? ココアさんのお薬切れてしまって......」
「良いわよ。いくつ?」
千夜が懐からいくつかの風邪薬を取り出した。
「応急用!?」
「持ち歩いてるんですか!?」
「......ちょっとね」
「まさか......シャロも!?」
「シャロさん風邪ですか?」
「ほら、早くお薬持ってココアちゃんのところに」
「......!」
風邪薬をチノちゃんに渡す。
「「ありがとう(ございます)!」」
そして僕たちは無事帰って来た。僕たちは薬を持ってココアの部屋に入った。
「ココア!薬貰って来たよ!」
「レイちゃん......?チノちゃん......?」
「大丈夫ですか?」
「少し落ち着いてきた......あれ?おでこどうしたの......?」
チノちゃんのおでこが赤くなってた。
「ああ、雪ではしゃいでスノボごっこしたら転んだんだね、危ないよ......」
「普通に転びました」
「チノちゃん、もし風邪移しちゃったら私が全力で看病するからね......」
「私はそんなに柔じゃないです。リゼさんに鍛えられたので」
翌朝、チノちゃんが風邪を引いてしまった。顔は真っ赤になっている。ココアはすっかり元気になってる。
「私の風邪は移らなかったけど、おたふく風邪になるなんて」
「何故か負けた気がします......」
「ちゃんと安静にしてなきゃダメだよ?今度はお姉ちゃんが看病するからね」
「1人で大丈夫です......熱もまだ微熱ですし......」
「病人はちゃんと言う事聞かなきゃダメだよ?」
「ほんとにね」
チノちゃんはそっぽ向くが、どこか嬉しそうな顔をしていた。それから時は経ち、翌日のラビットハウス。チノちゃんはすっかり元気になって仕事をしていた。
「おたふく風邪良くなったのか?」
「おはようございます、もう治りました」
「まさかまだ罹ってなかったとはなあ。おたふくって頬っぺがこーんななるんだよな」
ティッピーのほっぺを引っ張る。
「僕は孤児時代に罹ったね」
「レイお兄ちゃんにそんな過去が......」
「兄じゃ......もういいや」
「やった♪」
認めよう。チノちゃんは僕の妹だ。
「そう言えばココアは?」
「まだ起きてないみたいですね」
「僕が起こしてくるよ」
「私が行っても良いんですよ?」
「妹の世話になってるようじゃ、兄失格だからね」
僕はチノちゃんの頭を撫で、ココアを起こしに行く。
「よかったのか?」
「いいんです......お姉ちゃんのねぼすけ」
裏に入るとき、そんな声を聞いた気がした。ココアの部屋に入ると、彼女はまだ寝ていた。僕は鳴ってる目覚まし時計を切って起こす。
「ココア、開店の時間だよ。起きて」
「パンが焼けたらラッパで知らせてね......」
寝言を言ってるココア。
「風邪治って今日から一緒に働くんじゃなかったのかい?」
「あと20分......」
まだ寝言を言ってるココア。そこで僕は、顔をココアの耳に近付き囁いた———
「僕は幸せだよ、ココア」
「私も幸せ———」
すると、突然ココアが起きて僕の額とぶつかった。
「「あうっ!?」」
「何故目覚ましより小さな声で起きるのかなぁ!?」
「えー?どうしてかな?」
よほど痛いのか、互いに額を強くおさえる。こうしてラビットハウスにまた新しい日々が始まった。
「ちなみにレイちゃん、さっき何言ったの?」
「......もう覚えてない」
この世界の将棋界の事情12
第82期名人戦終了後の当時の報道
『伯方二冠、史上最速で名人に至る』
『伯方名人、最強を打ち破る』
『史上最年少名人誕生』
当時の世間の反応
『彼は正に神の子だ』
『将棋界に再び革命が起きた』
『棋神ここに現る』
レイの弟子になるのは誰?
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ココア
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チノ
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リゼ
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千夜
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シャロ
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その他
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誰も取らない