〔1〕
才能ばかりの分際で 努力を否定し愚弄する
才能しかない分際で 凡人を嘲り罵倒する
才能が全てを支配して 努力は無意味と切り捨てる
そんな世界は正しいか? そんな在り方は正しいか?
たとえ努力を重ねたところで天ノ才には敵わない?
そんなのやらなきゃ分からないだろう!
“No Effort No Life.”
今こそ我ら叛逆のとき
才能ばかりの無能を叩きのめすとき
今こそ我ら逆転のとき
努力は必ず報われると信じるとき
「NO EFFORT NO LIFE」作詞作曲: ARGENT
〔2〕
「何故貴女がここにいるんですか———銀華さん!」
春生 銀華。師匠の実の娘であり、僕の約10歳年上の元姉だ。
「姉である私がここにいるのはおかしいかしら?」
「貴女から袂を分ったのでしょう!自分から僕と師匠との縁を切ったくせに......今更姉面するつもりなのですか!?」
「お、おい......レイ、どういうことなんだ......説明してくれないか?」
「......彼女は春生 銀華さん。春生 芳治師匠の実の娘で、僕の姉だった人です」
「そうね。今更アンタから姉呼ばわりされるのも気持ち悪い。アタシから総てを奪ったアンタなんかに......ね」
「......」
総てを奪った......か。そう言われても僕は何も言えない。
「アンタが父さんの弟子になったとき、最初は可愛い弟が出来たと思った。でも、アンタは父さんからの愛をアタシから奪い去った悪魔だった!父さんも父さんよ!見ず知らずの悪魔に愛を捧げるようなバカな人!アタシはアンタが現れてからアンタと世の中を恨んだわ。アタシを愛してくれない世界なんて要らない!アタシから総てを奪ったアンタが憎い!だから———ここで決着をつけてやる」
銀華さんは懐からサバイバルナイフを取り出し、僕に襲いかかった———!
「グッ......!」
「チッ......さすがに対策済みか......!」
僕は自衛用の警棒を抜き取って迎え撃つ。
「でも———2本目は想定外でしょう!」
「———ッ!?」
銀華さんは左手に2本目のサバイバルナイフを持ち、僕の腹部に———
「させるか!」
「......クソッ!悪魔の手先が!」
刹那、リゼがコンバットナイフで迎撃する。
「レイは悪魔なんかじゃない!レイはレイだ!お前がやっていることはただの逆恨みだ!」
「部外者が知ったような口を叩くなぁ!」
銀華さんがサバイバルナイフをしまう。
「今日のところはこれぐらいにしてあげる。けど、忘れないことね。アタシは常にアンタを葬り去ろうとしていることを」
そう言い去って、銀華さんはラビットハウスを出る。僕は過度の緊張から解放されたかの如くペタリと床に膝をついた。
「......レイ、話したくないだろうが、説明してくれないか?あの女との関係と、お前の過去を」
「レイちゃん......」
「お兄ちゃん......」
「......分かった」
......こんなこと、話したくなかったんだけどな。
「それは、僕が6歳の誕生日を迎えたときのことだった———」
そこは炎の世界だった。自分が日常を過ごしていた場所が、突然炎に包まれ、全てが焼き尽くされていた。そんなこと、誰が想像出来た?
『お父さん!お母さん!』
『ダメだ!近づくな!』
『でも......!』
全てが終わった頃には既に手遅れだった。
『......君の両親の遺体が見つかった』
『......ッ!そうですか......』
僕は両親の死を理解してしまった。父方及び母方の家並びに親戚は全員僕の引き取りを拒否、孤児院に預けられることになった。僕に残っていたのは将棋だけだった。僕はアマチュア竜皇戦に参加し、3度目の優勝を果たした。そのとき解説に出ていたのが、春生先生だった。
『すごいね君は。まだ6歳なのに強い人がたくさんいるアマチュア竜皇戦で3回も優勝してしまうなんて』
『......春生先生、お願いがあります』
『ん?何かな?』
『......僕を助けてくれませんか?このままだと、大好きな将棋が指せなくなってしまいます!』
僕は春生先生に自分の身に起こった出来事を全て説明した。
『ふむ......君のような才能のある子が環境のせいで潰れてしまうのは勿体無い......そうだ。玲くんが良ければだが、私の内弟子にならないかい?』
『内弟子......ですか?』
『そうだ。君を私の弟子にした上で、私の家に住まわせる。私には娘が1人いるが、すぐに仲良くなれるだろう』
『......それはありがたいのですが、本当に良いのですか?』
『私が君の才能を見込んだんだ。君に......私の弟子になってもらいたい』
『......はい!よろしくお願いします!師匠!』
こうして僕は、春生先生———師匠の内弟子となった。
『そうだ。私の家の中ではあるルールを設けよう。私のことは、将棋の指導中は師匠、それ以外では父と呼ぶこと』
この言葉が、あの人との因縁の始まりだった。
『ここが私の家だ。玲、緊張してるのかい?』
『そうですね......新しい家族という実感が湧きませんので......』
春生邸は立派な和風の屋敷だった。師匠を出迎えたのは和服を着た妙齢の女性と、セーラー服を着た若い女性だった。
『アナタ、おかえりなさい』
『父さんおかえり!その子は?』
『紹介しよう、今日から内弟子として引き取ることになった、伯方 玲くんだ。玲、自己紹介』
『はい、伯方 玲と申します。本日よりみなさまの家族になります。よろしくお願いします』
『よろしく!アタシ、弟が欲しかったんだー!アタシ銀華!銀華お姉ちゃんって呼んで!』
『私のことはお母さんって呼んでね』
『ありがとう!お母さん!銀華お姉ちゃん!』
最初の頃は上手くいっていた。しかし、僕がアマチュア竜皇戦優勝の権利を使って奨励会初段に合格してから、段々と春生家が歪になっていった。
『父さん!母さん!お姉ちゃん!僕、初段になれたよ!』
『さすが玲だ!玲は私の自慢の息子だ!』
『玲くんさすがね!』
『......』
『......?お姉ちゃん?』
『......ムカつく』
『......?何か言った?』
『......何も言ってないわ』
この頃からだっただろうか。春生家では僕の存在が大きくなり、反対に銀華さんの存在は薄れていってしまっていた。そして、僕が遂に三段に昇段したときに、それは起こった。
『父さん!母さん!銀華姉さん!遂に三段になれたよ!』
『『玲!おめでとう!』』
『......ふざけやがって』
『銀華姉さん?』
『玲、後でアタシの部屋に来なさい』
『......?うん』
僕は銀華さんの部屋を訪れた。そこで待っていたのは———
『銀華姉さん?来ましたよ———』
『———アンタなんか大嫌い!父さんの全てを奪うアンタが憎い!母さんの全てを奪うアンタが憎い!』
その言葉を受けた刹那、僕は殴り飛ばされる。
『アンタみたいな天才なんて大嫌い!どうせ陰でアタシみたいな凡人を嘲笑っているんでしょ!天才が凡人を分かった気でいるんじゃない!』
僕は何度も殴られる。その瞬間悟った。銀華姉さんは僕を最初から認めてなんていなかったということを。
『銀華姉さん!どうして僕を認めてくれないんですか!』
『アタシを姉と呼ぶな!アタシをこれ以上侵害するな!アンタなんか......アンタなんかぁぁぁぁぁ!』
『銀華!何してる!』
『父さんの裏切り者!こんな悪魔を連れてくるなんて!アタシの人生台無しだ!』
その後も銀華さんは暴れ続けた。それが鎮静化したのは2時間以上も後のことだった。その後、銀華さんが僕に対して口を開くことはなかった。あぁ、プロ入り後初めて負けた日には「いい気味ね!」と言って殴られたんだったか。そして、僕が竜皇挑戦を決めたその日、銀華さんは僕と父さんと母さんに絶縁状を叩きつけ、いなくなってしまった。
「———そこから、師匠が『今の環境を変えた方がお前のためになる』って言って、この街に戻って来たって訳」
「「「......」」」
「......つまらない話をしてしまったね。今コーヒーを持ってくる———」
「レイちゃん!」
その刹那、ココアが僕を抱きしめる。その瞳には涙を浮かべていた。
「......ココア?」
「なんでレイちゃんだけがそんな酷い目に遭わなくちゃいけないの?そんなのおかしいよ......神様は残酷すぎるよ......レイちゃんは普通を求めてただけなのに......どうして?どうしてなの?」
「ココアさん......」
「......レイちゃん。これから私たちとの間で守ってもらいたいことがあります!」
「えっ......?」
「1つ!辛いことや悲しいことがあったら私たちに話すこと!」
「う、うん......」
「2つ!悩みごとがあったら私たちに相談すること!」
「あっ、うん......」
「3つ———」
その言葉を紡ぐと同時に、僕を抱きしめる力が強くなる。
「もっともっと私たちを頼ること。レイちゃんは頑張り屋さんだけど、レイちゃんだって1人の人間なんだから、いつかは限界が来ちゃう。だから、その限界が来る前に私たちを頼ってよ......」
「......」
確かにその通りだ。僕は彼女たちに頼るのが怖かった。拒絶されるかもしれないと思っていた。でも———
「......分かった。絶対に守ると誓うよ」
「本当に守ってね!こういうときのレイちゃん信用出来ないんだから!」
「ウグッ......」
僕をよく理解しているようで......。
「もしもし、親父か?部下を何人か借りたいんだが。......レイの身辺警護を依頼したい。警戒対象は銀の長髪の小さな女だ。......あぁ、ありがとう」
リゼは何かを依頼していた。......暗殺だけはやめてね......?
「......そう言えば、ココアさんのお姉さんはいつ来るのでしょう?」
「「「......あっ」」」
僕を抱きしめ終わったココアが、チノのその言葉にそわそわし始めた。
「少しは落ち着けって」
「うーん、でも!」
「お姉さん、駅に着いた頃ですね」
「ココアの姉か、楽しみじゃのう」
「ティッピーが孫を待つおじいちゃんみたいな顔してるぞ!」
「あはは......」
「しみじみ」
そりゃあ、中身はおじいちゃんだからね......。それにしてもココアのお姉さんか......銀華さんみたいな人じゃないことを祈るが......。
「......」
「落ち着けって」
「気持ちは分かるけどさ」
「う......うん!」
「でも確かにお姉さん遅いですね。もうとっくに着いても良い頃です」
「ちゃんと地図書いたのに......もしかしたら迷ってるのかも!私探してくる!」
「おい!」
「ココアさん!」
「ちょっと、待つんじゃなかったの!?」
ココアはお姉さんを探すために店を出た。
「ココアが迷わなきゃ良いけどな」
「そうですね。でもこの街に来た頃はココアさんが道に迷ってばかりだったのに、少しは頼もしくなったような気がします」
「そうだな」
「多少は慣れただろうからね」
すると、リゼの携帯の着信音が鳴った。
「おっ、ココアからだ」
メールを見ると、うさぎの写真が添付されていた。
「おい!姉はどうした!?」
「でも可愛いです!」
「相変わらずだね......」
それから時間が経ち、チノがコーヒーを作ってた。
「帰って来ないな」
「はい」
その刹那、ラビットハウスのドアが開いた。
「いらっしゃいま......せ......」
サングラスとマスク姿のお客さまを見て困惑するリゼ。お客さまはチラチラと何かを探しているようだった。なんだこの客。
「お......お好きな席へどうぞ」
窓際の席に座って、メニューを見る。チノがお客さまに近付き———
「ご注文は?」
「じゃあオリジナルブレンドとココア特製厚切りトーストを」
「かしこまりました」
「ん?」
「ブレンドとトーストをお願いします」
「あ......あぁ」
「お、おっけー......」
すぐにコーヒーを淹れる僕と、トーストを切るリゼ。
「あの風貌......スパイか、あるいは運び屋か?」
「他の発想はないんですか......」
「芸能人とか花粉症とかあるじゃろ」
「まぁ、有名人は変装とかするよね。でもあれは......見た感じシュールだね」
ブレンドとトーストを持って行くチノ。
「お待たせしました」
「ありがとう」
ブレンドとトーストを差し出す。お客さまはキョロキョロ見て、マスクを下げてブレンドを一口啜る。
「うーん、美味しい!どれどれ、ココアが焼いたパンはどうかな?」
ん?ココアと言ったか?もしや彼女の関係者か?今度はトーストを手に取って匂いを嗅ぐ。そして、一口食べる。するとテーブルを強く叩いた。
「このパンもちもちが足りない!」
「「「お、お客さま!?」」」
その刹那、お客さまはバッグを開けた。中には白い粉が入ってた。
「白い粉!?」
「まさか......麻薬!?」
「やっぱり運び屋かー!?」
銃を取り出すリゼと警棒を取り出す僕。
「私が教えてあげる......!」
「な......何を......」
「本物の......!」
「本物の運び屋の怖さをか!?」
「覚醒剤で何をする気!?」
「本物のパンの味を、この小麦粉で!」
大量の粉を見せるお客さま。
「パ......パンの味......!?」
「小麦粉と言いつつ何かの暗号だな!お前は誰だ!怪しいやつ!」
銃口をモカに向けるリゼ。僕も警戒態勢を崩さない。
「その粉は何!? コカイン!? ヘロイン!?」
「私?そう......私は———」
サングラスとマスクを外してお客さまは言った———
「私です!」
「「「本当に誰ー!?」」」
お客さま!名を明かせ!
〔3〕
その後、お客さまは僕たちに自己紹介する。
「妹のココアがお世話になってます。姉のモカです」
「おー!」
「ココアさんのお姉さん」
「おー」
「こちらこそ」
「お世話をして......コホン、お世話になってます」
「イテッ!」
僕たちが一礼する。チノに乗ってたティッピーが落ちた。ココアが居ない理由をモカさんに教える。
「そっか......ココアは私を探しに行ったの。大丈夫だからラビットハウスで待っててって手紙に書いておいたのに」
「どこかですれ違ったのでしょうか?」
「相変わらずそそっかしいなあ」
「「「うんうん!」」」
同意するかのように僕たちが頷く。
「貴女リゼちゃんでしょ?そしてチノちゃんとティッピー。そして貴方が伯方名人ことレイくんね。話は聞いてるよ」
「そ、そうですか」
「どうも」
「ありがとうございます」
モカさんはなんだか雰囲気がココアと似てる人だな。
「こーんな分厚い手紙に写真も沢山送って貰ったの!」
その写真たちにはろくなものが無かった。
「あいつ、ろくなの送ってないな......」
「変なのばっかり......」
「みんな可愛い〜エヘヘ〜」
「「何処が!?」」
その後、ティッピーを撫でるモカさん。
「チノちゃん、中学生でお仕事なんて凄いね」
「マスターの孫として当然です!」
「可愛い!可愛い!」
次にモカさんは僕を見る。
「レイくんは写真や新聞で見る以上に可愛いね!」
「可愛いって言われても困ります......僕は男なので」
「それも立派な個性だよーほっぺスリスリー」
「うにゃー......」
モカさんは自分のほっぺと僕のほっぺをすり合わせる。......恥ずかしい。今度はリゼの頭を撫でる。
「リゼちゃんも可愛いね!」
「わ......私は高校生ですけど......」
「私から見たら可愛いの!」
撫でられ過ぎて、リゼの顔が真っ赤になった。
「あっ!真っ赤になるのも可愛いな!可愛い!可愛い!」
それでもまだリゼを撫でる。
「あのリゼさんがされるがままに!」
「嗚呼、可哀想なリゼ......」
「う......うぅぅぅぅぅ.....うおあぁぁぁぁぁ!」
痺れを切らせたリゼが逃げて、柱の後ろに隠れてこっちを見た。
「逃げられちゃった」
「こっち覗いてるね」
「まるで怯えるうさぎみたいです」
「うさぎならこっちにもいるようだね」
「あっ、モフモフしますか?」
チノはティッピーを差し出そうとする。しかしモカさんは、チノを優しく抱く。
「よしよし!」
「っ?」
「えっ?」
「あー、チノちゃんって本当にモフモフなんだね!あったかーい!」
あの表情......僕の妹が堕ちた......!モカさんは今度は僕に注目する。
「あの......モカさん?僕は男ですよ?モフモフしても意味無いですよ?」
「レイくん......それを決めるのは......私だー!」
「ほにゃー!?」
モカさんは問答無用で僕をモフる。
「嗚呼......触り心地も抱き心地も天国......レイくん、結婚しない?」
「それ結婚という名の抱き枕宣言ですよね!? お断りします!」
「ちぇー」
今度はまたリゼに目を向けた。
「ん?」
「っ!」
「隠れてないでおいでー!」
「ち......近寄るな!」
銃で脅すリゼ。しかし———
「リーゼちゃん!」
「脅しが効かない!?」
脅しの効果は無意味だった。抱き付かれたリゼはそのままモフモフされた。
「捕まえた〜!」
「わあぁぁぁぁぁ!」
モフモフされて恐怖を感じたリゼ。モカさんはノリノリでご機嫌のようだ。
「わー!満足満足!」
「だ......大丈夫ですか?リゼさん。」
「わ......私が......モフモフされるなんて......!」
「分かる......分かるよその気持ち......」
「おー!」
「モ......モカさんには休んでて貰った方が良いんじゃないのか?」
「そうですね。モカさん、良かったらココアさんの部屋で」
「大丈夫!ココアが帰って来るまでお店のお手伝いするよ!」
「いえ、お客さんにそんなこと......」
「そうですよ。モカさんはお客さまですので......」
「お姉ちゃんに任せなさーい!」
左手で右腕を掴み、右腕でガッツポーズする。モカさんからとてつもない輝きのオーラが放たれた。
「こ......これが......」
「頼れる姉オーラ......!」
「いつものココアさんが......」
「茶番のようだ......!」
「これが......真の姉......ということか......」
銀華さんとは大違いだ。その後、僕たちはモカさんと一緒にパン作りをする事になった。
「そろそろかな?」
するとオーブンが鳴った。
「おっ!出来たみたい!」
モカさんはオーブンからドリュールを出した。
「良い香り!小麦粉って本当に小麦粉だったのか」
「麻薬じゃなくてよかったよ」
「輝いてます!」
「ドリュールだよ」
「同じドリュールでも、いつものココアさんが塗った感じと違って見えます」
「ああ」
「そうだね......」
焼き上がったドリュールをホールに持って来た。
「さあ!召し上がれ!」
「「「いただきまーす!」」」
「わしも」
ドリュールを食べる僕たちとティッピー。
「モカさん......このパン......美味し過ぎて涙が......」
食べた瞬間、チノとリゼとティッピーが涙を流した。
「美味しい......これが真のドリュールということなのか......!」
「ありがとう!チノちゃん、リゼちゃん、レイくん!」
しばらく時間が経ち、ラビットハウスやって来たある人物。しかし———
「おっ、おかえり、ココア」
「モカさんずっと待ってます」
「遅刻だぞー」
「えっ!? もうバレてる!?」
それは変装がバレバレのココアだった。
「あっ、メールのウサギ、可愛いかったです」
そこにモカさんが目の前に立つ。
「ココア......その変装はダサい!」
「はっ!」
「さっき同じ光景見たぞ!」
「それ貴女が言います?」
戸惑ってるココア。しかしモカさんは嬉しそうにココアに近付く。
「久し振り。元気そうで良かった」
サングラスとマスクを外してココアの顔を見て嬉しくなる。ココアは着ていたコートを脱ぎ捨ててモカさんに抱き付く。
「お姉ちゃーん!」
「よしよし」
一年振りに会えた姉妹。ココアの頭を撫でるモカさん。......僕も、銀華さんとこうなる未来があったのだろうか?ココアは恥ずかしくなっていた。
「み......みんなの前で恥ずかしいよ!」
モカさんから離れてチノの頭に乗ってるティッピーを撫でる。
「私もここらじゃしっかり者の姉で通ってるんだから」
「しっかり者の......」
「姉!?」
「どこがだよ、言ってみろ」
前に出たココアが、左腕を掴んでガッツポーズする。
「お姉ちゃんに任せなさーい!って!ふん!」
褒められたがってるココアは小さくジャンプする。
「褒められたがってます」
「シッポ振る犬みたいだな」
「何してんの?」
「コホン。ココアも帰って来た所で、私から一つご報告があります」
「報告?」
「実は......数日間このラビットハウスに泊まらせて頂く事になってるんです!」
「ホント!?」
「予めマスターに許可は頂いてます」
「おっ!」
「わし聞いてない!」
きっとタカヒロさんには連絡済みだったんだろうな。マスター、心中お察しします。
「ムフッ!」
するとモカさんが「ビックリしただろう」と言ってるように小さくジャンプする。
「ビックリしただろうって顔してます」
「確かにココアと血の繋がりを感じる」
「やっぱりココアの姉なんだなぁ......」
「そうなんだ!お姉ちゃんゆっくりしていけるんだね!あっ、それじゃウェルカムドリンクを!」
その後、千夜とシャロを招き入れて紹介する。
「初めまして」
「あっ、こんにちは」
「こんにちは、千夜ちゃん、シャロちゃん。2人の事もココアの手紙にたくさん書いてあったよ」
「それってどんな!?」
「変な事書いてあったんじゃ......!」
「2人ともモフモフしたらとても気持ち良いんだーって!」
「モフ......?」
「嬉しい!」
ドン引きするシャロと嬉しそうに笑う千夜。
「みんなをどんな紹介したんだよココアは......」
そこにココアがカップを持って来た。
「あっ......お待たせ......あのね......これ......」
「ん?」
「ラテアートなんだけど......」
花のラテアートをモカさんに見せるココア。やはり前より上手くなってる。
「ココアが作ったの!? 凄い......お姉ちゃんサプライズ負けしちゃった......」
これにはモカさんも驚いた。
「これはココアさんの成長の証なんです」
「彼女が一生懸命練習した成果ですよ」
「そっか......お客さんのために練習したんだね。立派だよココア」
「エヘヘ」
褒められて笑うココア。しかしリゼが。
「ラテアートの練習してるか、日向ぼっこしているかのどっちかだもんな」
「デヘヘ」
「それもそうだね......」
これまでのことをバラしてしまう。しかし、ココアは笑ってた。
「ココア!?」
「デヘヘ......」
「デヘヘじゃないでしょ!」
こうしてモカさんは数日間、ラビットハウスに泊まる事になった。その夜、ココアの部屋に集まった僕たち。
「よーし!今日は夜更かしを許す!」
「やったぁ!聞いて欲しいお話がたくさんあるんだよ!ねっ?チノちゃん」
「私は別に......あっ、コーヒー淹れて来ます」
「僕も行くよ」
僕とチノはキッチンへ向かう。
「なんだか騒がしくなりそうだね」
「そうですね」
ココアの部屋へコーヒーを持って来た僕とチノ。
「お待たせしました」
「チノ、よく見て」
僕は口元に指を当てる。
「ん?......寝てる!?」
ココアとモカさんが添い寝していた。
「この姉妹、本当に仲良しだね」
チノはテーブルにコーヒーを置いて、布団を被せる。そーっと部屋から出ようとしたが、2人を見て、また出ようとしたが、布団に入り、3人一緒に寝る。僕は部屋のドアの前に立っていた。
「良い夢見てね」
僕は電気を消して、自分の部屋に戻って行く。
「......とりわけ、先の課題は銀華さんについてか......」
僕はどうしようも無い不安を抱え、眠りにつく。
伯方 玲の語られざる過去5
2016年9月、アマチュア竜皇戦優勝の実績と奨励会試験通過により、奨励会初段となる(師匠は春生 芳治)。
2017年6月、二段昇段。2018年6月、三段昇段。
レイの弟子になるのは誰?
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ココア
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チノ
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リゼ
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千夜
-
シャロ
-
その他
-
誰も取らない