ご注文は名人ですか?   作:神近 舞

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今回でシリアス描写は一旦終了です。余程のことが無ければ無いでしょう。


第18羽 春生 銀華攻略完了(みっしょんこんぷりーと)

 

〔1〕

 

私を愛する天使たちよ そのままここにいてくれよ

私を害する悪魔たちよ ただちにここを去ってくれ

天使の悪魔の論争は 終わることを未だ知らないや

天使と悪魔の戦争は 醜く今を朽ち果てさせるんだ

 

やめてくれやめてくれやめてくれ

アナタたちの争いは見たくない

もういやだもういやだもういやだ

アナタたちが争うのがいやだ!

 

A & D(エンジェルズ・アンド・デビルズ)

私の願いを聞いてくれませんか?

A & D(エンジェルズ・アンド・デビルズ)

平和な世界、それだけが欲しい

 

「A&D」作詞作曲: ARGENT

 

 

 

 

 

〔2〕

 

 モカさんは昔を語った。それはココアの幼少期の頃だった。

 

『お揃い!ココアの宝物!』

 

 ココアはモカさんと同じ髪飾りを着けていた。

 

「ココアは昔から私の真似が大好きでした」

 

 モカさんは語りを続ける。

 

『2, 3, 5, ......』

 

 素数を数えるココア。

 

『お兄ちゃん、素数数えよ』

『うん』

 

 2人でパンを作る。生地を頑張ってこねる。

 

『そうそう上手!』

 

 そして立派なパンが出来上がった。2人は喜んだ。

 

『『はぁ......!』』

 

 六法全書を持ってるココアは、兄にお願いする。

 

『六法全書読んで!』

『えっ!?』

 

 腕まくりしてガッツポーズするモカさん。

 

『お姉ちゃんに任せなさーい!』

『おお!任せなさい!』

 

 「任せなさい」のポーズを真似したココア。そして今に戻る。僕とチノとモカさんはキッチンでパンを焼いてる。

 

「4兄弟の末っ子だから、色んな影響を受けちゃったみたい」

「成る程」

「偉大な人の下にいると、大きな影響を受けるものですよ」

 

 そんな話をしていると、キッチンの扉が開く音がした。

 

「いっちばーん!」

「おはようございます」

「おそようだぞ」

「残念ながらラストだよ」

 

 ココアは僕たちを見て、膝を付いた。

 

「がーん!」

「何ごと!?」

 

 そして手を床に付けてガッカリする。

 

「奪われる......妹も仕事も......プライドも......!」

「まだ寝ぼけてます」

「川柳みたいに言うのやめてもらえる?」

「おやおや?早起きも出来ないのにチノちゃんとレイくんの姉を名乗れるのかな?」

「なんで僕まで巻き込まれているんだ」

 

 意味が分からない。余裕でココアを挑発するモカさん。

 

「な、名乗れるもん!」

「ホント?」

「どっちがレイちゃんとチノちゃん好みのパンを焼けるか勝負だよ!お姉ちゃん!」

 

 綿棒を持ってモカさんに宣戦布告するココア。

 

「ココアが作れる程度のモチモチパンで私に挑む気?」

 

 綿棒と余裕を持ってるモカさん。

 

「何この状況」

「わ......私たちのために2人が......!」

「わしのために争わないで......!」

 

 マスター、それは違います。

 

「2kgの小麦粉から自由にパンを作る!それでどう?」

「望むところだよ!」

「2kg!?」

「ダメじゃ!」

「合計4kgとか絶対食べ切れないよねぇ!?」

 

 その後、大量にパンを作ったココアとモカさん。そして多くのパンを持っていつメンを誘った。バスケットには、ドリュールやフランスパンやサンドイッチなどが入ってた。

 

「それで......パンを作り過ぎちゃったからみんなでピクニック?」

「うん!」

 

 みんなで湖畔でピクニックすることとなった。

 

「お天気も良くて」

「気持ち良いなー」

「桜が美しいね......」

「それじゃあ、パン大食い大会始めるよー!」

「「雰囲気が台無し(だ)!」」

「ただし、この中にマスタード入りスコーンがありまーす!」

「んぐっ!?」

「「「「「「レイ(ちゃん)(くん)(お兄ちゃん)!?」」」」」」

 

 僕はマスタード入りスコーンを食べてしまった。......辛い。

 

「奇遇です!私もロシアンルーレットぼたもち持って来たの!」

「「えっ!?」」

「うふ」

「うふふ」

 

 意気投合した千夜とモカさんは互いに微笑んだ。

 

「最悪の意気投合だー!」

「あぁ......終わった......僕たちが......」

 

 そんな中、シャロはドリュールをバスケットに戻した。

 

「もう食べないのか?」

「お腹いっぱいなの?」

「美味しそうだけどすぐお肉が付く体質なので......」

「あぁー......そういうことか......」

 

 すると唐突にモカさんがシャロをモフモフし始めた。

 

「な......何を......!?」

「モフモフモフモフ!うん!もっとモフモフしてて良いと思うよ!」

「な......何ですか!? その判断基準......」

 

 しかしモカさんの笑顔を見ると、ドリュールを手に取って食べる。

 

「じゃあ......いただきます」

「うんうん!」

「シャロが堕ちた!?」

「いやー!私の友だちがドンドンお姉ちゃんの妹になっていくよー!」

「ココアは友人を妹として見ていたのかい?」

 

 みんなでパンを食べ終わった後、僕たちは湖畔の周りを歩く。

 

「お腹いっぱい!」

「腹ごなしにランニングするか」

「僕もやろうかな」

「それはちょっと......あっ、ボート乗り場があるわ」

 

 千夜は湖畔のボート乗り場を発見した。

 

「ボートって乗った事ないです」

「おー!気持ち良さそう!みんなで乗ろうよ!」

「それならくじ引きで4組に分かれて競争するってのは?」

「4組に分かれて......」

 

 何かを想像しているシャロ。何を想像しているんだろう?

 

「1位になったチームの人は何でも命令出来る事にしましょ!」 

「What!?」

「雰囲気壊すルール作るなー!」

 

 早速くじ引きをする。

 

「あっ、僕単独チームだ」

「「「「えっ......」」」」

「おやぁ?」

「うふふ♪」

 

 千夜、モカさん、何その意味深な笑顔。くじ引きの結果、リゼ&千夜チーム、モカさん&チノチーム、ココア&シャロチーム、そして僕単独チームに分かれた。

 

「一番最初に向こう岸の木にタッチした人が勝ちにしましょ」

「あれか。よーし!」

 

 千夜は岸にある桜の木を指した。

 

「悪いけど、みんな私の言うこと聞いてもらう事になるからね!」

「やる気満々です!」

「負けるつもりは無いよ」

「レディー・ゴー!」

 

 同時に僕とモカさんが猛スピードでボートを漕いだ。

 

「私に追い付いてごらーん!」

「置いていくよ!」

「わー!チノちゃんが連れ去られる!レイちゃんも待ってよー!」

 

 

 

 

 

 Side Ginka

 

 アタシはあの春生 芳治の娘でありながら、凡人として生まれてしまった。

 

『本当に貴女、春生先生の子なの?』

『春生先生の娘なら、これぐらい出来るはずだ!』

『本当は拾われた子どもなんじゃない?』

 

 嗚呼、うるさいな。天才の子が天才なんて誰が決めたんだよ。アタシの努力は認めてくれないのかよ。天才で生まれなかったことが間違いなのかよ。それでも———

 

『銀華は銀華らしく生きれば良い。銀華の努力を一番見ているのは父さんたちだからさ』

『銀華は決して間違ってなんかない。銀華は私たちの誇りよ』

 

 両親だけがアタシを認めてくれた。もう家族さえいればそれでいい。そんなときだった。あの悪魔が現れたのは———

 

『伯方 玲と申します。本日よりみなさまの家族になります』

 

 アイツはアタシと違って天才だった。父さんが見込んだ通り、どんどん活躍していく。その光はどんどん大きくなり、父さんと母さんが魅入られていく。......気に入らない。

 

『よろしくお願いします!銀華お姉ちゃん』

『銀華お姉ちゃん!これ教えてください!』

『銀華姉さん、大好きです!』

 

 凡才(アタシ)を慕う天才(アイツ)なんているものか!

 

『———アンタなんか大嫌い!父さんの全てを奪うアンタが憎い!母さんの全てを奪うアンタが憎い!』

『アンタみたいな天才なんて大嫌い!どうせ陰でアタシみたいな凡人を嘲笑っているんでしょ!天才が凡人を分かった気でいるんじゃない!』

『アタシを姉と呼ぶな!アタシをこれ以上侵害するな!アンタなんか......アンタなんかぁぁぁぁぁ!』

 

 結局あのとき、父さんと母さんはアイツの味方をした。アタシは絶望した。もうあの頃の父さんと母さんはいないのだと。

 

『......絶縁だ。アタシに愛をくれない存在なんて要らない』

 

 アイツがタイトル挑戦を決めたと同時に悪魔たち(アイツら)と絶縁した。アタシは求めた。アタシに愛をくれる天使たち(ファン)を。

 

『〜♪』

 

 アタシは音楽活動をしていた。自分の銀髪と銀華という本名にちなんで「ARGENT」と名付けた。そしたら段々とアタシに共感し、愛をくれる天使たちが増えるのを感じた。これが現実逃避だということはアタシが一番分かっている。しかし———

 

『ARGENT最高!ARGENT最高!』

『私たちの言葉に表せない感情をカタチにしてくれる』

『ARGENTは正しく歌姫だ』

 

 天使たちの愛の言葉に溺れていくのを感じる。アタシが求めていたのはこれだ。アタシの努力を認めてくれる人たち。アタシの人生を肯定してくれる人たち。アタシを正しく理解してくれる人たち。

 

「だからこそ......アンタとの決着をつける」

 

 アタシはアイツ()が乗っているボート目がけて手榴弾を投げた。

 

 Side Out

 

 

 

 

 

「風が心地良い......」

 

 僕はボートを猛スピードで漕いでいた。

 

「このまま1番に———って!?」

 

 刹那、前方から何かが飛んできた。

 

「あの形状、グレネードか!」

 

 僕は瞬時にグレネードを警棒で弾き、湖に飛び移る。その刹那、グレネードが爆発を起こし、僕の乗っていたボートが破壊される。

 

「「「「「「レイ(ちゃん)(くん)(お兄ちゃん)!?」」」」」」

「僕は無事だ!誰か乗せてくれないか!?」

「「レイ(ちゃん)!こっちに!」」

 

 何とか近くにあったココア&シャロチームのボートに乗り移った僕。

 

「レイちゃん!大丈夫!?」

「あぁ......なんとか無事だよ」

「良かった......本当に良かった......」

 

 シャロは僕を抱きしめ、涙を流していた。

 

「そう簡単に僕がくたばるものか。だけど......問題はこの後だな......」

 

 この後に起こるだろう嫌な予感を抱いていると、ココアの切なげな言葉を聞いた。

 

「お姉ちゃんがあんなに遠く......私、また負けちゃうのかな?」

 

 モカさん&チノチームが遠ざかって行く。

 

「「ココア?」」

「あのね......私......お姉ちゃんに一度も勝てた事がないんだ......」

「ココア......!」

「私......悔しさのあまり家出を考えた事もあるんだ......」

 

 そこまで深刻な事が......!?

 

「妹だから勝てなくてもしょうがないのかな?ババぬ———」

「らしくないわ!」

 

 突然ココアに強くビンタしたシャロ。ボートに流されたティッピーが這い上がった。

 

「なら、姉より勝る妹になりなさい!立つのよ!ココア!」

「立ったら危ないよ!」

「チノちゃんにそんな情けない姿を見られても良いの!?」

「あっ!私......目が覚めたよ......!」

「はっ!......もう良いから、後は私に任せなさ———」

 

 シャロがコーヒーを飲もうとしたとき、ココアが取り上げた。

 

「これは私がケリをつける事だよー!」

「「ココアが飲むのー!?」」

 

 コーヒーを全部飲み干すココア。そして本気を出してオールを全速力で漕ぐ。スピードがぐんぐん上がっていく。

 

「いやー!」

「シャロー!」

 

 飛ばされそうになるシャロ。それを頑張って固定する僕。

 

「私はこの戦いで、お姉ちゃんを超える!」

 

 そして遂に、モカさん&チノチームを抜いた。

 

「あ!」

「ぬ......抜いた!ココア!」

「凄いぞ!」

「シャロちゃんありが———」

 

 喜んだその刹那、1艘のボートがありえない速さでココア&シャロチームを追い抜いて、岸の桜の木をタッチした。

 

「「「えー!」」」

 

 タッチしたのは、リゼ・千夜チームだった。色々なこともあったが、こうしてボート競争が終了した。体力を使い果たしたのか、バテてる千夜。

 

「優勝はリゼちゃん千夜ちゃんチームね!」

「千夜の火事場の馬鹿力凄かったよ!」

「最後にブーストかかるなんて......」

「そこまでして叶えたいお願いがあったのかな?」

「あの......私をモフモフして下さい!」

「「「「「えー!?」」」」」

「お安い御用!」

 

 千夜をモフモフするモカさん。

 

「千夜ちゃんまで取られちゃったよ!」

「あはは......」

「放せ!放せよ!」

「「「「......!」」」」

「「「......?」」」

 

 騒いでいる女性の声。そこには、リゼの部下の男たちに拘束されている銀華さんの姿があった。

 

「やはり、あのグレネードは銀華さんの仕業でしたか」

「......ふん。どうせ私は負けたんだ。好きにしろ」

 

 どうするべきか悩んでいると、ふいにモカさんが口を開く。

 

「もしかして......貴女、ARGENTさんですか?」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

「......そうだが、それがどうした」

 

 歌声に何か既視感を覚えていたと思ったら、ARGENTって銀華さんだったのか!?

 

「私、大ファンなんです!『NO EFFORT NO LIFE』とか『A&D』とか好きすぎて何度もリピートしているんです!まさかこんな可愛い子がARGENTさんだったなんて......!」

「「可愛い子!?」」

 

 銀華さん......僕の10歳ぐらい年上の人ですよ......?

 

「あはー!モフモフ〜!」

「ちょ......やめ......!」

「お姉ちゃんって呼んで〜ARGENTちゃーん」

「ちゃん付けするな......!」

 

 銀華さんをモフモフしているモカさん。......なんだ、この状況。すると、なんだか銀華さんの目がトロンとしてきて———

 

「......貴女、名前は?」

「私?モカだよ!」

「モカお姉さまって呼んで良いかしら!」

「「「えー!?」」」

「銀華さん!?」

 

 あの銀華さんが......絆された......!?

 

「銀華ちゃんって言うんだね!私がお姉ちゃんだよ!」

「モカお姉さま!」

「銀華ちゃん!」

「モカお姉さまッ!」

「銀華ちゃんッ!」

「あははははは!」

「うふふふふふ!」

 

 ぎ、銀華さん......?どうしてモカさんと手を取り合って踊っているのですか......?

 

「......玲」

「な、何ですか」

「正直言ってアンタのことはまだ嫌い。でも」

 

 銀華さんはモカさんに顔を向ける。

 

「モカお姉さまが好いているアンタは好き。だから、モカお姉さまの期待だけは裏切らないでちょうだい」

 

 そう言って、銀華さんは去っていった。

 

「......レイ、追わなくて良いのか?」

「......良いんだよ。だって———」

 

 あんな晴れやかな表情の銀華さん、初めて見たから。帰り道、落ち込んでるココア。

 

「あーあ、やっぱりお姉ちゃんには敵わないな」

「モカさんには弱点が無さそうです」

「そうかな?」

「そうだよ」

「そんな顔しないで。帰りにスーパー寄って行こうよ。ココアの好きな物なんでも作ってあげるよ」

「なんでも!じゃあお姉ちゃん特製のハンバーグが食べたい!」

「お姉ちゃんに任せなさーい!」

 

 嬉しくなったココア。しかし———

 

「はっ!私、先に帰る!」

 

 何かを思ったココアは走って帰る。

 

「ココア?」

「どうしたの?」

「ココアさん!待って下さーい!ココアさーん!」

 

 ココアを追い掛けるチノ。

 

「あっ......」

「......」

 

 モカさんの背中がなんだか悲しげだった。その夜、ココアの部屋に集まった僕とココアとチノとモカさん。

 

「そうだ!4人でお風呂入ろうか!」

「良いですね!」

「僕、男なんですけど」

「わーい!私洗いっこした———はっ!ひ......1人で入る!」

 

 1人でお風呂に向かうココア。

 

「ココアさんが1人でお風呂......珍しい......」

「ココア......」

「......」

 

 銀華さんの次はモカさんか......。

 

 

 

 

 

〔3〕

 

 翌朝、モカさんはココアの部屋に入ろうとしたが———

 

「お姉ちゃん入っちゃダメ!」

「チノちゃんのお友達だよね......私も一緒に......」

「ダメなの!いい?入っちゃダメ!」

 

 入っちゃダメと言ったココアがドアを閉めた。モカさんは泣き崩れた。

 

「うぅ......」

「あはは......」

「ど......どうした!?」

「妹の姉離れが深刻に......」

「深刻なのは姉の方だなー。ココアは何か忙しいみたいだから、私とレイが街を案内するよ、甘兎庵に行こう」

「そうだね。モカさん、行きましょう?」

「う......うん......」

 

 甘兎庵に向かう僕たち。しかしモカさんは違和感を抱いた。

 

「リゼちゃん、エスコートしてくれると言う割にはちょっと距離が......」

 

 何故かリゼがモカさんから1m程離れながら歩いてた。

 

「うっ!モ、モフモフ対策で......」

「あー......」

「まあ、リゼちゃんの後ろ姿も可愛いから良しとしましょ」

 

 徐々にリゼに近付くモカさん。リゼは危機感を察した。

 

「や......やっぱり後ろはダメだ!というか近付くなー!」

 

 全速力で逃げて案内放棄するリゼ。僕とモカさんを置いていくな!

 

「案内放棄!?」

「あのときのトラウマが抜け切れてないんだなぁ。うにゃ?」

 

 横を見ると、モカさんが僕をじっーと見ていた。

 

「あの......モカさん?どうかしました?」

「レイくん、基本的には可愛いっていう印象を受けるんだけど......カッコ良さも内包されてて総合的に綺麗、っていう印象ね」

「は、はぁ......ありがとうございます」

 

 モカさんは僕を褒めてくる。急にどうしたんだろうか?

 

「私、レイくんのこと、本気で好きになっちゃったかも。だから———」

「だから......?」

「モフモフさせろー!」

「うにゃー!?」

 

 そんなことだろうと思ったわ!僕は全速力で甘兎庵に向けて逃げ出す。

 

「ハァ......ハァ......」

 

 僕は甘兎庵に到着した。千夜は当然として、先に逃げたリゼやシャロもいた。

 

「誰か助けてー!」

「「レイ!?」」

 

 僕はリゼと同様にシャロに抱きつく。

 

「いらっしゃーい」

「お前も逃げて来たのか!?」

「ど、どうしたのよ!?」

「尊厳が......僕の尊厳がモフられる......!」

 

 するとその刹那———

 

「リーゼちゃん、レーイくん、みーつけた!デュフフフフフ〜!」

 

 モカさんが現れた!徐々にモカさんが近付く。

 

「ひー!」

「あわわわわわ......!」

 

 恐怖のあまり、完全に怯える僕とリゼ。

 

「......!なっ!」

 

 勇気を出して僕とリゼを守るシャロ。カッコいいぞシャロ!

 

「逃げると追い詰めたくなっちゃうぞ〜!」

「やめてくれえぇぇぇぇぇ!」

「その気持ち分かります!」

「「「分かるなー!」」」

「千夜ちゃん!その制服イケてる!」

「本当ですか?シャロちゃんの働いてる喫茶店の制服もミニスカで可愛いんですよ!」

 

 その刹那、あんこがシャロに飛び付いた。

 

「あんこ......離れるんだ」

 

 僕は眼光でシャロからあんこを離した。

 

「行ってみたいなー。ねえシャロちゃん」

「ん?」

「私もまだまだミニスカで働けるかな?どう思う?」

 

 モカさんの胸部を見てシャロが怯えた。

 

「やめましょう......トラウマになる子も居るんですよ......」

「トラウマ?」

「あっ......」

 

 その後、千夜とシャロがモカさんの事情を訊く事に。

 

「ココアが冷たい?」

「そうなの......何かよそよそしくて......」

「あの、それは———」

「「シャロ!」」

「ん、あっ、いえ、なんでも......」

「ん?」

「モカさん、おもてなしのアイスココアです」

「冷え冷え......今のあの子にそっくり......」

 

 冷えたアイスココアを持って、気分が暗くなったモカさん。おいこら千夜......。

 

「空気読みなさいよ!」

「モカさんの今の状況考えてよ!」

「暑いから冷たい物が良いかと思って」

「だったら冷えた緑茶か麦茶でも出せばよかったよね!?」

 

 時は流れ翌朝。目が覚めると、何故か僕の部屋で一緒に寝ていたモカさんに気づいた。

 

「うにゃー!?」

「おはよーレイくん。お姉ちゃんのカラダ、気持ち良かった?」

「変な表現しないでください!」

「だってぇ......こうでもしないと寂しいから......」

「あっ......」

 

 そう、今日は遂にモカさんが実家に帰る日。モカさんは部屋に戻った後でケースに荷物を入れる。すると数枚の写真を見た。それは、ココアとの思い出の写真だった。ケースを閉めて、悲しく階段を降りるモカさん。するとその刹那———

 

「ウェルカムカモ〜ン!」

 

 うさぎの着ぐるみを被ったココアが突然現れた。

 

「な......何?」

 

 突然ココアがモカさんの手を掴んで連れて行く。

 

「こっちへ」

 

 ホールへ入らせるココア。

 

「入れ」

 

 今度は銃をモカに向けた。

 

「これが木組みの街の......」

 

 もうダメだ、と思っただろうモカさん。しかしココアが銃を上に向けて紙吹雪を放った。それと同時にみんながクラッカーを鳴らした。

 

「サプライズパーティの!」

「始まりだよー!」

「え?」

 

 テーブルには、ナポリタンやサンドイッチやケーキやフランスパン等の豪華なごちそうが並んでた。タカヒロさんが全員分のコーヒーを淹れて、僕が次々と料理を運ぶ。状況が分からないモカさんに説明する。

 

「モカさんが元気無いから」

「さよならパーティをみんなでやろうってココアが計画したんです」

「モカさんにサプライズでってことで計画したんですよ」

「え?」

「ココアじゃないよ!この街のマスコットキャラ着ぐみんだぴょーん!」

 

 するとモカさんは怒ってココアに抱き付いた。

 

「ココアー!元気無いのはあんたのせいでしょ!」

 

 強く抱き締めるモカさん。痛がるココア。

 

「ギブギブ!」

「マヤでーす!この銃、私が買ったんだよ!」

「メグです!この被り物、私が選んだの!」

「そうなんだ!うーん、メグちゃん、マヤちゃん!良いセンスだ!」

「やったー!モカ姉って呼んで良い?」

「モカお姉ちゃーん!」

 

 マヤちゃんとメグちゃんを抱きしめるモカさん。

 

「順調に甘え上手な妹に育っているようだね!」

「急にあの2人の将来が心配になってきました」

「僕もそう思う」

「ココア!この子たちも私へのプレゼントかな?」

「違うよー!もう!お姉ちゃんは見境が無さ過ぎ!」

「うん?聞き捨てならないなあ!」

「あの......喧嘩は......」

「あのくらいなら兄貴と何時もやってるよ!」

「じゃあ心配無いね!」

 

 軽い痴話喧嘩するココアとモカさん。

 

「あのくらい......姉妹なら普通......兄妹なら普通......成る程。そんなものなんですね」

「あれ?なんか嫌な予感がするぞ?」

「お兄ちゃん、今度私と一緒にお風呂に入ってください」

「僕はチノをそんなえっちな子に育てた覚えはありません」

 

 なんてことを言い出すんだこの妹は。

 

「面倒臭くなったらCQCでねじ伏せれば完璧だね!」

「な......成る程」

「それマヤちゃん家だけだと思うよ」

「もう!えへへん!実は今日はなんと!」

「ん?」

「お姉ちゃんが大ファンの青山ブルーマウンテン先生に来てもらいました!」

 

 ココアがドアを開くと、青山先生が立っていた。

 

「ど......どうも」

「あ......あなたは公園の!?」

 

 どうやらお互いに面識があったらしい。

 

「ココアさんのお姉さんだったんですね」

「本当に作者様だったなんて......!こ......これにサインを!」

 

 モカさんは何処からか麺棒を出した。

 

「「その麺棒一体何処から!?」」

「はい」

 

 麺棒にサインする青山先生。しかし———

 

「あっ!失敗してしまいました」

「字がでかい!」

 

 麺棒にサインを書いたが、字が大き過ぎた。

 

「ありがとう!大切にします!」

 

 モカさんはサイン入りの麺棒を嬉しく受け取る。

 

「さあみんな、料理が冷めない内に」

「たくさん食べて盛り上げましょう!」

「「「「「「「「はーい!いただきまーす!」」」」」」」」

 

 パーティが始まって料理を食べる。僕は玉将戦第五局の検分作業があったから途中で抜けたが、集合写真にはみんなの笑顔があった。何故か窓に銀華さんの姿もあったが。僕はいつものように特急電車に乗る。そこには———

 

「......玲」

「......銀華さん」

 

 銀華さんの姿があった。

 

「......前も言ったけど、やっぱりアンタのことはまだ嫌い。でも......」

「......はい?」

「......絶縁だけは、撤回しても良いかもね」

「......!」

 

 その言葉に、思わず涙を流す。

 

「な、なんでアンタが泣いてるのよ!」

「だ、だってぇ......」

「......まぁ、父さん母さんにはこっ酷く怒られるだろうけれど......」

「......はぃ」

「本当に大切なことに、気付けたから」

「......はぃ」

「だからこそ、玲。今の友だちを大切にするのよ?彼女たちは真にアンタを愛してくれる存在なんだから」

「......はい!」

 

 モカさんはもう二度と修復出来ないと思われた姉弟の関係さえも直してしまった。

 

「......銀華さん」

「......何かしら?」

「......いつか、銀華姉さんと呼べる日が来るのを待ってます」

「......フン、生意気なんだから」

 

 モカさん、貴女は僕たちの魔法使いだ。本当に......ありがとう。

 

「......それにしても、モカお姉さまはどうして私がARGENTだって分かったのかしら?普段歌う際は20cmぐらいのシークレットブーツ履いてるのに」

「......声で分かったんじゃないですか?」

 

 銀華さん......いくら身長が低い(140cm)からって......。その後の玉将戦第五局は僕が勝利し、4勝1敗で防衛。玉将5期目に突入した。




伯方 玲の語られざる過去6
2018年10月1日、三段リーグ参入。2018年3月、18局全勝で四段昇段。
2019年4月1日、史上最年少となる9歳8ヶ月にて四段プロデビュー。

レイの弟子になるのは誰?

  • ココア
  • チノ
  • リゼ
  • 千夜
  • シャロ
  • その他
  • 誰も取らない
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