ご注文は名人ですか?   作:神近 舞

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毎日投稿しないって言ったはずなのに......。


第21羽 名人は特攻し無慈悲な一手は放たれる

 

〔1〕

 

 名人戦第四局。挑戦者加藤 甘彦(かとう あまひこ)九段の先手番の今対局。現在僕の3勝であり、名人防衛に王手がかかっている。後が無い加藤九段は居飛車穴熊でガチガチの防御陣を構築したが———

 

「......ッ!」

「......」

 

 僕は全ての攻撃体勢を整えて特攻。たちまち穴熊は崩壊し、後が無い状況になっている。僕の防御陣も崩れてはいるものの、致命的な状況では無いため、いくらでもリカバリーが効く。......これで終わりだ。

 

「......負けました」

「ありがとうございました」

 

 加藤九段はこれ以上挽回の見込み無しと判断し投了。これで今期の名人戦は4勝0敗で僕の防衛。名人3期目に突入した。インタビュー後、加藤九段と話す機会があった。

 

「お疲れ様です加藤九段。良い名人戦でした」

「あぁ......そうだね......若い将棋は分からないよ......」

「僕の場合はAIとの研究と、後は実戦ですかね......」

「そのAI研究が出来ないから分からないんだよ......」

「あはは......後は......まぁ......」

 

 友人の存在が大きいからだろうか。

 

「叡帝戦も順調みたいだな」

「はい、現在2勝1敗です」

「早けりゃ次で叡帝奪取か......そうなると伯方は五冠か」

「冠数多いと忙しいのであまり考えたくないですね......」

「名人様は贅沢な悩みをお持ちのようで」

「あはは......」

 

 目指すは八冠独占と永世八冠だからなぁ、偉大な師匠(七冠独占・永世七冠)を持つと自ずと目標も高くなるものだ。

 

 

 

 

 

〔2〕

 

 Side Chino

 

 ある夏のある日、私は甘兎庵に来ていた。私はお茶を飲んでる。

 

「美味しい」

「良かった。新しい緑茶『エメラルドの涙』好評ね。おばあちゃんも気に入ってくれたのよ」

「おばあちゃん......千夜さん。私たち、それぞれの喫茶店の跡継ぎになるんですよね」

「そうね」

「ラビットハウスと甘兎庵はライバルで深い因縁があったみたいですが———」

「えっ?」

「それは私たちの世代には関係ないですよね?お互い頑張りましょう」

「深い......因縁?」

「あれ......?」

 

 あったんじゃ......ないんですか......?

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 甘兎庵からラビットハウスに帰って来たチノは、カウンター席にふせていた。

 

「チノちゃん凹んでる......」

「そんなにショックだったのか......」

「あはは......」

「因縁を持ってると思っていたのはきっとおじいちゃんだけです」

「なぬ!」

「そうなのかもしれない......」

「向こうからはガン無視だったって事か」

「おじいちゃん!」

「勘違いだったか......」

「可哀想!」

「......心中お察しします」

 

 僕はティッピーの方に向かって言った。

 

「レイ!憐れむな!」

 

 何を言っても無駄です、マスター。そこで僕とココアとリゼはフルール・ド・ラパンに来て、シャロに事情を説明した。

 

「と言う訳で本当に因縁があったのか調べたいと思います!」

「何でうちに......仕事中なんだけど......」

「仕事中にごめんねシャロ。でも———」

「千夜の幼馴染として何か知ってたら教えてくれないか?」

「天国のおじいちゃんが泣いているよ!」

「そう言われても......」

「誤魔化す気だね?シャロちゃん」

「ん?」

「レイちゃんとリゼちゃんを連れてきたのは尋問上手そうだからだよ!」

「「尋問!?」」

「えー!」

 

 尋問を想像するシャロ。椅子に座ってる軍服姿のリゼがムチを持ち、羽織袴姿の僕が扇子をシャロの顎に突きつける。シャロは椅子に座らされてロープで縛られてる。

 

『さあ、情報を吐いて楽になろうか』

『うう......』

 

 僕が顎に当てている扇子を徐々に上げる。

 

『そうしたらこの美味しそうなメロンパン、私とレイが食べさせてやろう』

 

 メロンパンをシャロの顔に当てるリゼ。

 

『ああー!』

 

 尋問されても嬉しそうな表情をするシャロ。なんか見えてしまった。

 

「これは......尋問なのか......?」

「か......覚悟は出来てます!さあレイ、リゼ先輩、尋問して下さい!」

「どういうことだよ」

「えっ......な......何だか分からないが......どんと来い!」

「はい!」

「じゃ......じゃあ何か心当たりは無いか?」

「えーと......そんな記憶があるような無いような......やっぱり何も分かりません」

「そうかぁ......それじゃあどうしようも無いね......」

 

 ガッカリする僕とリゼ。その刹那、

 

「......!こうなったら頭を打って思い出します!」

 

 シャロが手に持ってるトレーで自分の頭を何回も叩く。

 

「シャロ!そこまでしなくても!」

「やりすぎだよ!」

 

 何回も叩き過ぎて気絶してしまった。

 

「「シャロ!」」

「シャロちゃん!」

 

 シャロはそのまま仁王立ちして気絶してしまった。

 

「はぁー.......」

「どうしよう......この状況......」

「あのー」

「青山さん!」

「青山先生......」

 

 青山先生が話しかけて来た。

 

「私、昔のマスターを知ってますから聞いていただければ」

「シャロの努力が無駄に!」

「いや、シャロも頑張ってたからね!?」

「マスターはおヒゲが素敵で、淹れてくれたコーヒーは創作意欲をかきたてました」

 

 青山先生は一体何の話をしているんだ。

 

「中でも『コーヒーあんみつ』はとても独創的で」

 

 コーヒーあんみつ......?何か鍵になりそうな単語だな。

 

「そんなメニューもあったんだ!」

「成る程、幻のメニューか」

「私も食べてみたかったな!」

「では、あの美味しさを文字で表現しましょう」

「自分の仕事して!」

「ほんとだよ」

 

 Side Sharo

 

 何かを......思い出しそうな気がする......それは幼い頃に遡る。私と千夜はラビットハウスに偵察に行こうとするが、私は怖がっていた。

 

『ラビットハウスに偵察に行くわよ』

『ヤダ!怖いよ!』

『おばあちゃんのお手伝いしないと』

『だって鬼ジジイがいるって聞いたよ』

『大丈夫』

 

 千夜が私の頭を撫でる。

 

『千夜......』

『うちのおばあちゃんだって鬼ババアよ』

『意味分かんないよ!』

 

 余計私が怖がる。そしてラビットハウスに来店してメニューを見る。

 

『これってメニュー......?』

『ブルーマウンテン、キリマンジャロ?魔法の呪文みたい』

 

 メニューを見て私たちは何故か怯えてた。

 

『凄く強そうなメニュー......!』

『おばあちゃん負けちゃう!帰ってなんとかしなくちゃ!凄いメニューを考えるわよー!』

『わー!』

 

 千夜は私を引っ張ってラビットハウスから出た。回想終了。つまり......あの子が変なメニューを作る切欠になったのは......私!?

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 フルール・ド・ラパンから出て、ラビットハウスに帰る道中。

 

「『コーヒーあんみつ』は美味しそうだけど、結局何も分からなかったね」

「何か鍵になりそうなんだけれどね......」

「因縁と言えばうちの親父も戦友の話をよくしてたな」

「戦友?」

「リゼのお父さまの?」

「あぁ。ライバル関係から任務を切欠に無二の友人になったらしい」

「へえー」

「今は引退してバーテンダーやってるらしいけど」

 

 ......それってまさかタカヒロさんのことじゃ......。

 

「バーテンダー!チノちゃんのお父さんみたいだね」

「そうだな。最初は仲が悪い方が後々上手くいくのかもしれないな」

「......そうだね」

 

 ......確定だな。

 

「私も最初はリゼちゃんに銃を向けられたな」

「あの日のゴタゴタした物音ってソレのこと......?」

「殺したいほど憎かったなんてこれからもっと仲良くなれそう」

「こ......殺す気は無かったぞ!」

「ホントかな?」

「当たり前だろ!」

「さすがに殺る気だったら危なすぎるよ......」

「リゼちゃんとは今は親友だもんね」

「今はってなんだよ!前からだろ......」

「......!」

「えっ?何て?」

「何でもない!急ぐぞ!チノが待ってる!」

「あー!待って!」

「置いて行かないでよー!」

 

 その頃、ラビットハウスではチノが掃除をしていた。そこに僕たちが帰って来た。

 

「おかえりなさい」

「ただいまー!」

「ティッピーを何処かで見ませんでしたか?」

「ん?」

「まさか......おじいさんの因縁を晴らそうと特攻を!?」

 

 ......マスターならやりかねない。

 

「そうかも......あ......いやいやあり得ません。うさぎですから」

「ん?」

 

 そこに、鉢巻を巻いて、旗を背負ってるティッピーが現れた。

 

「戦が始まる!いざ!」

「やろうとしてた!」

「待て待て待て待て待て待て!」

 

 ティッピーから熱いオーラが出てる。

 

「ティッピー本気だね!」

「心無しか毛が逆立って見える!」

「よーし!その覚悟に敬意を払って私も手伝うね!」

 

 鉢巻を巻くココア。

 

「手伝うな!」

「やめて下さい!仕事して下さい!」

「準備オッケー!」

「あぁ......」

「リゼちゃん!特攻の基本を教えて!」

「戦死する事が前提だからオススメは出来ないな」

「どりゃあぁぁぁぁぁ!」

「ティッピー!」

「だから待てー!」

 

 甘兎庵に特攻を始めるティッピー。みんなも後を追いかける。そして甘兎庵に到着した。

 

「ババアを出せ!ババア!」

「何処からか声が!」

「ティッピー!落ち着いて!」

 

 そこに千夜が木刀を持って挑んで来た。

 

「何だか分からないけど相手になるわ!そいや!」

 

 ティッピーと千夜の対決。だがしかしチノがティッピーを抑えて勝負終了。

 

「ティッピーそこまでです。お騒がせしました、お仕事の最中に」

「あら、もうおしまい?」

「もう!ティッピー、仲良くしなくちゃダメだよ」

「ねぇ、千夜は知ってる?昔、ラビットハウスでは『コーヒーあんみつ』を出してたってことを」

「えっ?」

「そうなんですか?」

「チノちゃん裏メニューがあるの黙ってたね?」

「何の話です?」

「『コーヒーあんみつ』のように、ティッピーと甘兎庵も仲良くできるよ」

「『コーヒーあんみつ』なら、昔うちでも出してたみたい」

「えっ!」

「ほう」

「ラビットハウスとコラボしてたって聞いた事があるわ」

「「「「コラボ!?」」」」

 

 しばらくして、千夜がお品書きを持って来た。

 

「お待たせー。はいこれ」

 

 お品書きをチノが受け取る。

 

「この中に『コーヒーあんみつ』が」

「宣伝のためにラビットハウスと甘兎庵、お互いのお店で出したんですって」

「へえー」

「特製のあんこが美味しいって評判になって」

「あっ......もしかして......」

「おじいちゃんはそれが気に入らなかったのかも」

「まさか、コーヒーが注目されなくて拗ねたのか?」

「自分のコーヒーに相当な拘りを持っていましたから」

「......それは落ち込むなぁ......」

「辛かったんですね」

「大人げない......」

「あはは......」

 

 するとティッピーが落ちて、あんこに掴まれてた。

 

「でも『コーヒーようかん』を出した時は、コーヒーが美味しいって評判になっておばあちゃんが拗ねたみたい」

「どっちもどっちだ!」

「しょうもない......」

 

 あんこに押さえ付けられたティッピー。

 

「あー!どいて!」

「私からは楽しそうに見えたなー」

「深刻な因縁じゃなかったんですね」

「ココアちゃんとレイくんに感謝ね」

「ん?」

「えっ?何で?」

「だって私たちが出会ってなかったらラビットハウスさんとこうしてお友だちになれなかったもの」

「ん?」

 

 すると千夜は、チノに小指を向けた。

 

「約束」

「えっ」

「私達お互いの店の立派な看板娘になりましょうね」

「あっ......はい!」

 

 2人は指切りをして約束を交わした。そして僕たちはラビットハウスに戻って来た。

 

「千夜って甘兎庵を大きくするのが夢だったよな」

「女社長だって。格好良いな」

「大人の女......!」

「ん?どうしたの?チノ?」

「私......街中の喫茶店をフランチャイズ化します!」

「千夜に影響された!」

「色々とマズいって!」

「頑張れ!チノちゃん!じゃあまずはメニュー名を改める所から始めようね!」

「はい!」

「待て待て待て待て待て待て!」

 

 メニュー表を書き加えようとしてる。

 

「えっと......漆黒の」

「ダークネス」

「暗黒卿......黒炭の如き」

「一番暗き時......ダーケストアワー」

「「「やめろー!」」」

 

 僕とリゼとティッピーは2人に説教した。

 

 

 

 

 

〔3〕

 

 数日後のある日、チノは甘兎庵の制服を着て接客をしていた。中学校の宿題の職業体験をしている。......何故か僕も付き添いだ。あのときのように僕はまた女装をするハメになった。

 

「いらっしゃいませ♪」

『キャー!お姉さまー!』

 

 ......泣きたい。

 

「いらっしゃいませ......」

 

 チノは来店したお客さまを席に案内する。

 

「こちらへどうぞ。め......メニューです」

 

 だが緊張してるようだった。そこに千夜が相談する。

 

「着物って動きにくいかしら?」

「何かしっくりこなくて......はっ!」

 

 するとあんこに目を向けたチノは、あんこを頭に乗せる。するとチノがやる気になった。

 

「これで1,000のお客さんもさばけます」

「しっくりってそっち?」

「あんこはティッピーの代わりってこと......?」

「お願いしまーす」

「はい!ただいま!ご注文承ります」

 

 明らかに本気モードに入ったチノ。

 

「「「ありがとうございました」」」

 

 お客さまを見送った。

 

「チノちゃん、レイくん、お疲れ様」

「僕、チノの付き添いだったはずなんだけど......?なんでまた女装させられてんの......?」

「私の趣味よ♪」

「返せよ、僕の意思」

 

 僕は君たちの遊び道具じゃない。

 

「それにしても私に近いサイズの着物なんてあったんですね」

「昔、友達のために作ったんだけど着て貰う機会がなくて。でもラビットハウスの跡継ぎさんがうちで働いてくれるなんて、こんな嬉しい事は無いわ」

 

 もしかしてシャロのことだろうか。

 

「千夜さん......私も千夜さんに色々教えてもらえて嬉しいです!」

「うちとの誤解も解けたし、本当に夢みたい。私......私......」

 

 すると千夜が、嬉しそうにその場に崩れた。

 

「幸せぇ〜!」

「「千夜(さん)!」」

 

 Side Rize

 

 レイとチノがいないラビットハウス。私がポットを拭いて、ココアがティッピーをモフモフしている。

 

「チノは今頃甘兎庵で働いているのか。......千夜のことだから、レイも女装させて働かせてそうだな」

「千夜ちゃんに影響されて......こんな事になってなきゃ良いけど......」

『今日から緑茶派だよ。コーヒーなんて泥水さ』

『今日から抹茶派です。コーヒー派に宣戦布告です』

『甘兎庵看板三姉妹!』

『『爆☆誕!』』

 

 ココアは甘兎庵に寝返ったレイとチノを想像してしまった。

 

「ヴェアァァァァァ!レイちゃんとチノちゃん取られるー!」

 

 叫びながらティッピーと一緒に倒れたココアはそのまま気絶した。ティッピーは泡を出しながら気絶した。

 

「ただの中学の職業体験だろ。たった3日間だけだし。ったく......」

 

 横を見ると、マヤがテーブルを拭いていた。マヤの職業体験はラビットハウスだった。

 

「マヤは、こんな変わり映えのしない仕事場で良かったのか?」

 

 するとマヤは嬉しそうにクルクル回る。

 

「ここ、慣れてるから楽なんだー」

「甘い!」

「ん?」

「大切な授業の一環だろ!厳しく行くぞ!」

「本当はね......リゼとココアとレイ兄、3人と仕事してるチノが羨ましくて、私が代わりをしたかったの」

 

 ティッピーを頭に乗せて純粋な言葉を言ったマヤ。

 

「マヤちゃーん!厳しくしちゃダメ!」

 

 泣いてるココアがマヤに抱き付く。

 

「いや、厳しくしなきゃダメだ!」

「へっ!」

 

 小悪魔のような笑みを浮かべるマヤ。まったく......。

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 Side Sharo

 

 フルール・ド・ラパンでは、メグちゃんが職業体験をしに来てた。フルールの制服を着てる。

 

「メ......メグちゃん、どうしてうちに来ちゃったの?」

「えへへ。この制服で働いているシャロさんがキラキラして見えたから」

 

 ピュア!そう思っていると、何か視線を感じた。

 

「期待の新人さんですねー」

 

 テーブルの下から青山さんが覗いてた。

 

「守らなきゃ!」

「何からですか?」

「ん?」

 

 青山さん!貴女からよ!

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 その頃甘兎庵では、僕とチノが千夜のお祖母さまと対面してた。

 

「ふーんそうかい。あんたが伯方名人で......あんたがあいつの孫かい」

「お願いします」

「は......はい!」

「厳しく行かせてもらうよ」

「「はい!」」

「間違えてコーヒー淹れたら、ただじゃおかないからね」

「「はいッ!」」

 

 ......チノ、緊張してそうだな。

 

「チノちゃん、レイくん」

「「ん?」」

「食い逃げだ!発砲許可!頭を狙え!」

「何してんの?」

 

 突然、銃を構えながらリゼのモノマネをした。チノは怯えた。

 

「リゼちゃんのモノマネだったんだけど、緊張を解そうと思って......逆効果だったかしら?」

「これ、千夜」

「あっ!じゃあ次はココアちゃんのモノマネやりまーす!」

「千夜!」

「仕事そっちのけな所が既にそれっぽいです」

「なんか......本当にすいません」

 

 僕は千夜のお祖母さまに謝罪する。お祖母さまに注意されてもそっちのけな千夜は、ガッツポーズしてココアのモノマネをする。

 

「お姉ちゃんに任せなさーい」

「ダメです。本当に姉オーラが出てしまってます。美化されてます。でも私のために普段やらない事までしてくれてありがとうございます」

「良いのよ。ラビットハウスごっこは1人でよくやってるから」

「ん?」

「えっ!」

「ほらいつまでも遊んでないで、後は任せたよ」

「「はい」」

「承知致しました」

 

 その後、厨房で餅を作る。

 

「そうそう、上手よ。チノちゃん、レイくん」

「コツが要るんだね」

「は......はい。シャロさんはあんこが苦手だからここで働かないんですか?」

「そうね。最近はちょっと慣れて来たみたいなんだけど、それよりもお隣さんだから気恥ずかしさがあるんじゃないかしら。私もうちに来ないって言いにくいし」

 

 千夜、バイト仲間がいなくて寂しそうなのにモノマネするほど......幼馴染って難しいんだな。チノは餅をティッピーの形にした。

 

「......でも私、お2人が一緒に働いてるところ見てみたいです」

「あっ......」

「帰って来たら、誘ってみたらどうですか?」

「いいかもね」

「そ......そうね。ありがとう、チノちゃん。じゃあ後で誘ってみようかしら」

「はい」

「きっと快諾してくれるさ」

 

 夕方、千夜が部屋で悲しそうに落ち込んでた。

 

「フルールを満喫してるみたい......とても甘兎庵で働く気なんて無さそう......」

「聞いてみなきゃ分かりませんよ!ファイトです!」

 

 落ち込む千夜をチノが励ます。

 

「そうね」

 

 その後、チノは千夜の部屋で職業体験レポートを書いていたが、中々進まなかった。

 

「職場体験レポート......難しいです」

 

 するとチノの携帯が鳴った。チノは電話に出る。

 

「もしもし」

『チノ、レイ、休憩中か?』

「はい、おじいちゃん」

「お疲れ様です、マスター」

『敵地の様子はどうじゃ?』

 

 電話相手はティッピー(マスター)だった。

 

「敵地って......」

「どうと言われても、何を報告すれば良いんですか?」

 

 すると千夜のお祖母さまが入って来た。

 

「あんた、良く見ると仏頂面があのジジイにそっくりだね」

『ババアの声、大きなお世話じゃ!』

 

 すると千夜のお祖母さまがもなかを差し出した。

 

「疲れてんなら、あのジジイが嫌いだったもなかでも食べな」

「あ......あの......」

「ようかんも欲しいのかい?ジジイに似て業突く張りだね」

 

 今度はようかんを僕たちに差し出した。

 

「い......いや......」

「喉が詰まったらどうするって?」

「あ、あぁ......」

 

 泣きながら怯えるチノ。

 

「だったら茶を飲めば良いだろ」

 

 今度はお茶を差し出した。

 

「足りなかったらそう言うんだよ。全くジジイに似て図々しいわい。好きなだけ休憩してな!ゆっくりするんだよ!」

「あ......ありがとうございます」

 

 千夜のお祖母さまは部屋から出た。もなかを食べるチノ。

 

「美味しい!なんて優しいおばあちゃん!」

「うん、美味しい」

 

 厳しそうに見えた千夜のお祖母さまはとても優しいと思ったチノ。

 

『ダメじゃ!食ったら虫歯になるぞ!チノ聞いているのか?チノ!チノ!』

「マスター......余計なお世話です」

 

 注意を聞いてないチノ。僕は電話を切ってチノと一緒にお茶を飲む。するとそこに千夜が帰って来た。

 

「おかえりなさい。どうでしたか?」

「それがね......」

 

 すると廊下からドタドタと音が響いた。その音は次第に近付き、戸が開いた。開けたのはシャロだった。

 

「もう!素直に直球で言いなさいよ!」

「シャロちゃん!」

 

 何故シャロが来たかと言うと、それはシャロがある手紙を見たからであった。手紙に書かれた内容は「シャロちゃんと同じ制服を着て一緒に働きたいの」と書かれてた。

 

「全く......そしたら私も......直球で返すんだから......!」

 

 フルールの制服を千夜に差し出した。

 

「ヤダ......変化球だわ」

「あはは......」

 

 受け取った千夜はフルールの制服を着て嬉しそうに喜んだ。

 

「着てしまってます。ノリノリです。千夜さんがフルールで働きたいと思ってるって勘違いされてませんか?」

「そうね」

「そうだろうね」

「私が着た着物も本当はシャロさんに用意したモノだったんじゃ?」

「見て、シャロちゃん、とっても嬉しそう」

「もう!うちには絶対興味ないって思ってたのにしょうがないわね!」

 

 嬉しそうなシャロ。

 

「きっと一緒に働きたいって思いは同じだったんです」

「まあその気持ちが分かっただけでも今日は十分だわ。本当に1日だけ働いてみようかしら」

「本当にって何よ!」

「あはは......アイタッ!」

 

 すると千夜が着てるフルールの制服のボタンが取れてしまった。そのボタンは僕の額にダイレクトアタックして落ちた。

 

「あぁ!きつくて胸のボタンが......腰回りは大丈夫なのに......」

「あれのサイズは......?」

「私と同じよ......」

「ボタン見付からないわ」

「凄い......」

「Oh......」

 

 シャロは笑ってるが、完全に殺気を醸し出してた。......心中お察しします。

 

「レイ......」

「......何?」

「殴って良いかしら?」

「なんでさ!?」

 

 Side Cocoa

 

 その頃ラビットハウスでは、私がリゼちゃんとマヤちゃんを見送ってた。

 

「遅くまでお疲れ〜」

「また明日な」

「ココア、じゃあね!」

 

 こうして2人は帰って行った。すると私の携帯に受信音が鳴った。

 

「チノちゃんからメールだ!帰って来たら今日の話たくさん聞けると良いね、ティッピー」

 

 メールを見ると「夕飯にお呼ばれしたので帰りは遅くなります」と送られて来た。再度受信音が鳴る。

 

「ありゃ?」

 

 次のメールはレイちゃんからで、見てみると「千夜曰く、甘兎庵看板三姉妹爆☆誕......らしい」のメールと、レイちゃん(女装姿)とチノちゃんと千夜ちゃんがポーズを取ってる写メまで送られて来た。

 

「ヴェアアアアアァァァァァ!レイちゃんにチノちゃんったら!」

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 その後、僕とチノにメールが来た。

 

『ラビットハウス新三姉妹で対抗だよ!』

 

 そしてリゼとマヤちゃんと一緒に写ってる写真データまで送られて来た。

 

「まったくココアさんは、しょうがないココアさんです」

「そうだね」

「ボタンあったわー!良かった!」

 

 千夜はやっと取れたボタンを見付けた。

 

「やっぱりフルールで働かなくて良いわ」

「えっ?どうして?」

「なんでもよー」

「似合うと思うんだけど......」

 

 するとシャロは痺れを切らせて怒った。

 

「もう!うるさい!早くそれを脱ぎなさいよ!」

「おやめになってー!」

 

 逃げる千夜を追いかけるシャロ。そんな2人を見て微笑んだ僕とチノであった。

 

「ちなみに僕はいつこの女装を解けば良いんだい?」

「「「まだダメ(です)♪」」」

「なんでさ!」

 

 早く元に戻させてくれ!




伯方 玲の語られざる過去9
2020年8月25日、竜皇戦挑戦により、七段昇段。
同年10月15日、星河戦初優勝。同年10月19日、新鋭戦初優勝。

レイの弟子になるのは誰?

  • ココア
  • チノ
  • リゼ
  • 千夜
  • シャロ
  • その他
  • 誰も取らない
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