〔1〕
Side Sharo
玉座戦第一局。レイVS春生玉座。戦型は相掛かりとなり、激しい攻防戦が繰り広げられている。春生玉座は前期の順位戦の結果により、後藤棋匠(レイから叡帝を奪取された後、白井竜皇から棋匠を奪取した)とともに順位戦A級に返り咲いた。16時現在の形勢は、
「伯方名人46%VS春生玉座54%」
と、拮抗状態にある。既に両者の防御陣は半壊状態だ。
「うーむ、レイ側からも春生玉座側からも決定打を決められない状況だな......」
「悩みどころですね......どこからアプローチすれば良いものか......」
「今はレイくんの手番......決め手に欠ける状態ね......」
「攻めるにしてもどこから行けば良いものか......」
「ダメだよ!レイちゃん、ここは守らなきゃ!」
ココアは必死に守ることを推奨する。
「それはまたどうして?」
「この後、春生玉座側に逆転の一手として3四金があるんだよ!そこからだと長手数だけど詰み筋が生まれちゃうんだよ!」
「......ココアちゃん、その長手数って具体的には何手?」
「33手だよ!見つけ難かったけど、これを指されたらレイちゃんは窮地に立たされちゃう!だからここは攻防一体の4五銀か3八龍を———」
その声も虚しく、レイが指したのは2七龍。そこから約20分後、春生玉座が手を振るわせながら指した手は———3四金。ここから一気に形勢が春生玉座優勢に変わり、70%を越えた。......ココアは見えていたの?あの世界を?そこから約20手後、レイは投了した。
「......ココア、今のどうして見えたの?」
「レイちゃんが一番指されたく無い場所が3四だったんだよ。そこを重点的に攻撃されるとレイちゃん玉が詰むからそこから見えた手だよ」
やっぱりココアには私たちに見えていないナニかがある......そう思った私だった。
Side Out
〔2〕
今日も長閑なこの街。
「ん〜.......!気持ちの良い朝だね〜!ピッカピカの朝!ピッカピカのお姉ちゃん!」
「全く意味が分かりません。お姉ちゃんだと言うなら朝、自分でちゃんと起きて下さい。お兄ちゃんだって朝、自分で起きてますよ」
「そうだぞー。僕とチノに起こされるようじゃダメだぞー」
「えへへ〜」
「何で照れるんですか?じゃあ」
「また後でね〜!」
僕たちはそれぞれの学校へ登校する。するとココアがチノに向かって。
「チノちゃーん!後半年経ったら、こっちの道に来られるねー!」
「えっ?」
「同じ高校に通える日が楽しみだよー!」
「まだ何処へ行くかは決めてませんからー!」
「ヴェ!?」
「チノの進路を勝手に決めないの」
ココアが全速力でチノの目の前まで来た。
「じゃあ今すぐ決めようよ!決めて!どう!? 決めた!?」
「無茶を言うな」
「そんな簡単に言わないで下さい!遅刻しますよ?」
「ウェルカムカモ〜ンだよー!」
しばらく歩いたチノが、考え事をした。
「高校......」
「......」
チノはまだ決めきれていないようだな......。
Side Chino
私の中学校にて。
「高校の?」
「説明会?」
「うん!2人も一緒にどうかなって。志望校まだ決めてないよね?」
「メグの志望校って、あのごきげんよう高校でしょ?」
『ごきげんよう!』
『ごきげんよう!』
『ごきげんよう!』
ごきげんよう高校とは、リゼさんとシャロさんが通っているお嬢様学校の事である。○○学園という名前があるのに......。
『ごきげんよう!』
『『『ごきげんよう!』』』
「メグがごきげんよう症候群になってしまう!」
ごきげんよう症候群とは?
「もう、大袈裟だよ。そんな風にならないって」
「あの学校、堅苦しそうだし、倍率高いし、授業も結構難しくて、試験も多いし、大変そうだよ!」
マヤさんがその想像をしただけでガクガク震えてしまった。というか———
「詳しいですね」
「ほら!前にリゼが言ってたじゃん?」
「そうだっけ〜?」
「私はまだ志望校決めてませんし、参考になるかも知れないので良いですよ」
「っ!」
「良かった〜!実は1人だとちょっと不安だったんだ〜」
「はぁ......分かった!私も行くよ!メグとチノがごきげんよう症候群になったら大変だし」
「ありがとうマヤちゃん!じゃあ、見学の届け出しとくね!」
「......」
「?」
何かを考えてるマヤさん。一体どうしたのだろうか?
Side Out
僕の通う高校にて。
「それでは、このクラスの文化祭の出し物は『伯方名人監修将棋教室』に決まりました。文化祭実行委員長は
学級委員長の指示により指名された僕と2人の女生徒が壇上に立つ。
「実行委員長の里咲ですっ」
「副委員長の大宮です!」
「総合アドバイザーの伯方です。本企画は———」
僕と里咲さんと大宮さんを中心にクラスメイトも意見を出しながら出し物の内容を練っていく。
「———ということで、みなさんよろしいでしょうか?」
『賛成!』
「僕は基本的にみなさんの将棋指導をメインに行います。厳しくするつもりですので覚悟するように」
よし、僕に出来ることを進めていこう。夕方の下校道、僕はココアと千夜とともに歩いている。どうやら千夜は文化祭実行委員長に、ココアは副委員長に就任したらしい。
「そっちは喫茶店に決まったんだね」
「そうなんだよ!ワクワクする喫茶店にして、チノちゃんに楽しんでもらうんだ!この高校に通いたいなって思うように!そうそう!千夜ちゃんの司会進行、凄く良かったよ!いよっ!文化祭実行委員長!」
しかし千夜は乗る気がしなかった。
「千夜ちゃん?」
「わ、私......みんなを仕切るなんて初めてで......無事成功出来るのかしら......!?」
「「千夜(ちゃん)!?」」
急に千夜が怯えた。
「こんなんじゃ将来......甘兎庵社長として......やっていけないわぁぁぁぁぁ!」
その場で泣き崩れた。
「千夜ちゃん!?」
「えぇ......大丈夫......?」
「こんなにプレッシャー感じるなんて思わなかったの!うっ......うっ......!」
泣き崩れた千夜をココアが優しく抱擁した。
「よーしよし。一緒に頑張ろうね〜」
ラビットハウスにて。
「私、明日から文化祭の準備で、しばらくバイト休ませてもらいます!」
「僕も同じく休ませてもらうね」
「2人とも凄く張り切ってますね」
「フッフッフッ。楽しみにしててよ?ワックワクのモッフモフだよ!」
「ココアは何を企んでいるのさ」
「レイのクラスは将棋関連か?」
「そうだよ。せっかく僕がいるなら、ってことで文化祭限定将棋教室を開くことになったんだ」
その分、僕の苦労は倍プッシュだが。
「そうなんだな。ココアのクラスは何をやるんだ?」
「飲食店だよ!今年は地域と協力するの!街の畑で採れた野菜や果物を提供してくれるんだって!」
「へぇ〜!」
「だから出し物は飲食店が多いの!」
「収穫祭って感じですね」
「チノ、ラビットハウスも協力したら店の宣伝になるんじゃないかな?」
「そうですね!」
「みんなでティッピー帽子被るとか!」
「良い宣伝になりそうだな!提案してみてくれ!」
「どうせなら!ティッピーも教室にいてもらおうよ!」
「なぁ!?」
「人気出そうです!」
「コーヒーの提供じゃなくて?」
一番大事なモノを提供しなくてどうするんだ。時間は経ち夜、ココアの部屋にて。
「リゼちゃんとシャロちゃんの高校の見学会!?」
「メグちゃんの誘いで行くの?」
「良いなぁ〜。私も行きたいなぁ〜」
「ココアさんは自分の学校へ行って下さい」
「自分の学校を疎かにするんじゃない」
「えへへ......」
「お兄ちゃんの学校って、どんな感じなんですか?」
「楽しいよ!面白いよ!モフモフだよ!」
「要素がおかしい......」
「何ですか?モフモフって......」
「ん〜......リゼちゃんの学校も楽しそうだな〜」
「○○学園ってお嬢様学校でしょ?偏差値高いと思うけど」
「ん〜......あっ!もしチノちゃんが気に入っちゃったら......!?」
「そのまま受験するかも知れないですね」
「オーマイガー!」
ココアはベッドにぶっ倒れてしまった。
「何してんの?」
「わ......私の......妹と一緒に高校見学が......で......でもそれがチノちゃんの選んだ道なら......お姉ちゃんは......」
「......フッ」
「っ!? もぉ!お姉ちゃんをからかっちゃいけないんだよ!?」
「僕の妹だよ?」
「むむむ......」
「はいはい」
Side Chino
後日。学校の説明会の日。
「2人ともこっちだよー!」
今日のメグさんはウキウキしていた。
「メグさん楽しそうです」
「テンション高いなぁ〜」
いざ、学校の前に立った。
「何だこれ!? ラスボスの城か!?」
「ここまで近付いたのは初めてです」
「よし、行こう!」
「おぉ行った!メグは勇者だなぁ!」
「お姫様の皮を被った勇者です」
講堂で説明会が開かれた。
『OGの
あの人、確か青山さんの担当者の方......。
『———少しハードルが高いかと思っていましたが、先生に勧められて、特待生で入る事になりました』
「ふぅ〜ん、特待生ね〜」
「し〜」
『本当にやっていけるのか、付いて行けるのだろうかと、そんな私に思わぬ出会いが待っていました。誰かと出会う事によって、人は自分に秘められた新しい可能性を知り、成長する事が出来るのです。私は1人の先輩と出会った事により、人生が大きく変わりました!私は知ったのです!出会いが大切だと!』
出会いが大切......出会いが人生を変える......。私は初めてお兄ちゃんとココアさんと出会ったあの日を思い出した。......そう言う事もあるのかも......。
『先輩に振り回される日々は、私に充実した経験と、未来への道を開く切っ掛けを与えてくれました』
すると後ろにスクリーンが下りた。
『そして———』
後ろのスクリーンに———青山さんの指名手配書が映し出された。
『おぉー!』
青山さーん!? 指名手配されてるー!?
『今でもその先輩に振り回されています!この人見掛けたら連絡下さぁぁぁぁぁい!』
青山さん!何しているんですか!
Side Out
〔3〕
時は少し遡る。文化祭の将棋教室を開くにあたって、クラスメイト全員の棋力を確かめることになった。
「うーん......上がアマ2級程度で下がアマ6級程度か......」
一番多かったのがアマ5級程度。最低限全員をアマ3級程度には育てておきたいな......。
「最低でもみなさんをアマ3級程度に育てます!囲碁将棋部のメンバー及び僕からアマ3級以上の認定を受けた人はアマ4級認定を受けた人の指導に回ってください!僕は5〜6級の人を中心に全員を指導します!」
『はい!アドバイザー!』
囲碁将棋部が5人(アマ2級が3人、アマ3級が2人)、囲碁将棋部に所属していないアマ3級が3人、アマ4級が8人、アマ5級が18人、アマ6級が5人。指導対象は計39人。
「これは大仕事になりそうだね......」
こうして、クラスメイト総棋力向上計画が始まった。僕は自クラスにいない他の囲碁将棋部の部員の協力も借りて、指導を行っていく。
「レイくん、このときはどうすれば良いの?」
「このときは守りながら攻めることを視野に入れよう。例えばこの手だったら———」
「レイくん!この囲いを使ってみたいんだけど!」
「それを実戦で使う場合はこういう戦型になるのが望ましいね。こういう展開に持っていって———」
「レイ、この戦型の使い方のコツって何だ?」
「それは対振り飛車に特化した戦型だね。相手がこの位置に飛車を持って来た場合———」
僕たちの指導によって、クラスメイトの棋力がグングン上昇していくのを感じる。これが......教えることの楽しさ!
「師匠!このときの対策なんですけど!」
「師匠!美濃囲いの実戦形を教えて!」
「師匠!対居飛車穴熊の戦い方は何ですか!」
「師匠?」
「あぁ、みんなに教えている姿を見て、レイくんが師匠、私たちが弟子って構図に見えたんだよ」
「うんうん!」
「カッコいいよ師匠!」
「輝いて見えるぜ!」
「師匠......師匠か......」
なんだか良い響きだな。そして現在、僕は○○高校囲碁将棋部と○○学園囲碁将棋部との交流対局会に参加している。場所は○○学園にて行われ「是非とも伯方名人にお越しいただければ!」と快諾された。この日はクラスメイトへの指導のことを忘れて、○○学園囲碁将棋部の実力を見に来ている。僕の合図で対局を始めることになった。
「それでは、対局を初めてください」
『お願いします』
○○高校囲碁将棋部の実力はアマ1級〜アマ3級程度。○○学園囲碁将棋部の実力はアマ初段〜アマ4級程度。そんな中、不思議な来客が現れた。
「すまない!少し遅れてしまった!ってレイ!?」
『リゼさん(先輩)!ごきげんよう!』
「リゼ?ここでも助っ人予定だったの?」
「あぁ、そうだが、人は足りてるみたいだな」
「せっかくだから僕と一局指してく?」
「それは良いな。是非とも対局させてくれ」
リゼは去年の春よりもずっと強くなっており、アマ二段クラスの実力を身につけていた。攻撃的な手は変わらず、それでも防御に対する意識が変わったのか、攻防一体の一手を放つようになった。
「......ありません。負けました」
「ありがとうございました。すごく強くなったね」
「あぁ。お前に並び立ちたいと思ったからな!」
「......!そ、そう......なんだね......」
いつの間にか対局を終わらせていた両校の囲碁将棋部員の表情が意味深なモノになっていた。......なんでさ。
「リゼはこの後、どうするの?」
「あぁ、そうだった!吹き矢部の助っ人を頼まれていたんだった!思い出させてくれてありがとう!それじゃあ!」
そう言って、リゼは囲碁将棋部の部室を後にする。嵐のようだったな。
「あの、伯方名人。少し質問があるのですが......」
「はい?何でしょうか?」
「伯方名人はミス・ルビーダイヤモンド......冷泉 瑠衣さんの親族ですか?」
「ぶふっ......な、何故そう思ったのですか?」
「いえ......その、顔立ちが伯方名人とそっくりだったので......」
「......知りませんね。初めて聞いた名前です」
嘘だ。バリバリ本人である。
「そうですか......ありがとうございました。......やはりあの方は伝説の存在......」
まだ噂になっているのか......その後、交流対局を何度か行った両校の囲碁将棋部員は満足げな表情を浮かべていた。陽はすでに傾いており、17時を迎えていた。
「みなさん、まだまだ指し足りないとは思いますが、本日はここでお開きと致しましょう。全員、礼!」
『ありがとうございました!』
僕は我が校の囲碁将棋部員と談笑していると、とある集団が目についた。
「みなさんは先に帰っていてください。僕は少し寄り道をしてから帰ります」
「分かりました!お気をつけて!」
僕の予想が正しければ———
「......なんでここにいるの、みんな」
「「「「「「レイ(ちゃん)(くん)(兄)(お兄ちゃん)!?」」」」」」
「やっほーレイ、さっきぶりだな」
「やっほー。全員大集合だね......チマメ隊がここにいる理由は分かるんだけど......ココアと千夜は本当になんで?」
みんなこの学園の制服になっているし。
「文化祭の資材借りに来たら、被服部と仲良くなって着せてくれたの!」
「私たち、今日だけお嬢様〜!」
「......そんなことある?」
「そういうレイちゃんはなんで!?」
「囲碁将棋部の交流対局会の立ち会い。途中からリゼと対局もしたよ」
「「「リゼちゃん(さん)(先輩)ズルい(です)!」」」
「助っ人の特権だ」
ココア、チノ、シャロから非難を受けるも涼しい顔で流すリゼ。その傍で意味深な表情を浮かべる千夜と不思議そうな顔を浮かべるマヤちゃんとメグちゃん。なんだこの状況。
「とりあえず、何もかも終わったのなら帰るよ?ココアたちは制服に着替え直さないと」
「「「「「そうだった!」」」」」
「「更衣室連れて行くからここで待ってて!」」
「はいよー」
みんなが慌てて更衣室に移動する。
「全く......相変わらず騒がしいなぁ......」
僕は以前師匠に言われていたことを思い出していた。
『ところで玲、弟子をとるつもりは無いのかね?』
『弟子......?自分にはまだ早いような気がするんだけど......』
『まぁ、いつか玲にもこの気持ちが分かるときが来るさ』
この文化祭の準備を通して、その気持ちが———人を育てる楽しさが———少し分かったような気がする。僕たちは○○学園を後にする。
「この学校、楽しく過ごせそうだね!」
「うん!」
「......高校かぁ......」
「......」
果たして、チノの志望校は見つかるのか。兄としてはそれが不安でならない。
伯方 玲の意外な特技3「超視力・超聴力」
まれに物凄い精度の視力と聴力を発揮することがある。この力でティッピー発声箇所の違いを見破ったり、100m程度遠くにいる人物を識別したりすることが出来る。
レイの弟子になるのは誰?
-
ココア
-
チノ
-
リゼ
-
千夜
-
シャロ
-
その他
-
誰も取らない