〔1〕
「......打つ手無しか。負けました」
「ありがとうございました......」
名人戦第一局。挑戦者
「白井竜皇1勝おめでとうございます。勝因はなんだったのでしょうか?」
「はい、そうですね......うーん......128手目以降の伯方名人の手が疑問手になってまして......えー......そこから逆転の筋を導くことができましたね」
「伯方名人お疲れ様でした。どこで悪くしたとかありますか?」
「白井竜皇の仰る通り、128手目の時点で私が頓死したのが大きな敗因でしたね。今回の対局は私が汚した一局です。反省しかありません」
「両対局者、ありがとうございました」
僕はインタビュー終了後、白井竜皇に謝った。
「白井さん、本当にすみませんでした!今回の一局、自分のミスで汚してしまいました!次はこんなことが無いように努力します!」
「気にしないでください。私が求めるのは盤上真理、それだけですから......」
「......そうですか」
僕は白井竜皇が苦手だ。その認識は僕がプロになってから初めて負けたそのときからだ。約6年前の
『......』
『......!』
はっきり言って努力と経験の差を感じた。自分には不足していることばかりだと分かり、天狗になっていた自分をへし折られた気がした。
『負けました......』
『ありがとうございました......』
僕はプロになって初めて負けた。彼に強さの秘訣は何なのかと聞いたが、
『盤上真理を求めること......ですかね』
と回答されてしまった。あの後、白井帝位は棋匠を獲得した。僕を踏み躙った先に有ったのは2つ目のタイトルだったのだ。僕のプロ入り後初敗北時の報道は、
『伯方四段プロ入り後初敗北、相手は白井帝位』
『当然の結果でしょうね......白井帝位相手は無謀すぎましたね』
『A級棋士同士の対局だと言われても納得の一局でしたね』
師匠にも『白井くん相手によく粘った』とだけ言われた。自分はただただ自分の努力不足を悔いた。相手を侮ったことを悔いた。涙で雪を溶かしたのは懐かしい思い出だ。それ以来、僕にとって白井竜皇は、
「何を考えているのかよく分からない存在」
だと思っている。いつか、彼を理解出来る日は来るのだろうか。
Side Rize
レイが一際落ち込んでいた。それもそうだろう。名人戦の結果は既に報道されている。第一局を落としたのだ。出来れば気分転換させてあげたいのだが———
「......どうすれば良いんでしょう」
「レイちゃんショボショボしてる......」
「......」
レイの辛さを私たちは理解することが出来ない。プロの将棋界を知らない私たちでは、将棋での敗北の、ましてや名人戦での敗北の重さを理解することは出来ない。安易に次がある、だとかたかが1局、だとか言ったらどうなることか。レイを余計に傷つけるだけかもしれない。この状況下で私が出来ることは———
「レイ」
「......はい、何でしょ———」
私はレイを抱きしめた。どこかで人のぬくもりで人をリラックスさせられると聞いたことがあったから実践することにした。
「辛かったな......大変だったな......だからこそ、今は前を見ろ。昨日のことは一度忘れて、これからのことを考えるんだ」
「......はい。......グスッ。ありがとうございます」
レイは私の前で涙を流す。涙を流す姿もキレイ......って何を考えているんだ私は!?
「もう大丈夫です。リゼさんのおかげで吹っ切れました。ありがとうございます」
「そうか......なら良い」
レイはいつものニッコリした表情に戻り、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出している。良かった。私のしたことは無駄じゃなかったんだな。
Side Out
〔2〕
後日、僕たち4人は少し前に話題に出た「ラビットハウスの新しいカップ」を求めてカップ専門店を訪れていた。
「うわー!可愛いカップがいっぱーい!」
多くのカップを見てはしゃぎ回るココア。
「あんまはしゃぐなよ?」
その刹那、ココアがバランスを崩して目の前の棚に頭をぶつけた。上に置かれた写真立てが落ちるが、チノちゃんが見事キャッチし、倒れそうなココアをリゼさんが見事受け止め、ガタガタと揺れる棚を僕が抑えた。本当に予想を裏切らないな、ココアは。
「えへへ〜、ごめんねー。あ!可愛い!」
チノちゃんが持ってる写真立てには、カップに入ってるうさぎの写真が入っていた。
「ティッピーも入ってみたら、注目度アップだよ!」
「でもそんな大きなカップは無いだろ?」
「ありました」
すると、チノちゃんがティッピーが入りそうな大きなカップを持って来た。
「「あるのかよ!?」」
チノちゃんは頭に乗せてるティッピーを大きいカップに入れる。しかし———
「何か違う......」
「ご飯にしか見えないです」
「確かに白米にしか見えない......お腹空いてきた」
ティッピーがまるで抗議するように、む!?と声を出した気がした。その後もカップを見て回るココア。
「あっ!これなんて良いか———あっ」
すると、誰かの指と重なった。その相手は金髪に緑色の瞳を宿す少女だった。彼女はリゼさんと同じ学校の制服を着ていた。僕は彼女を知っている。彼女の名前は
「こんなシチュエーション漫画で見た事あります」
「よく恋愛に発展しそうだな」
そんなことを考えていると、2人の言葉を聞いたのかココアはシャロに何かを期待していた。なんでさ。
「あー......こんにちはシャロ」
「えっ、レイじゃない!それにリゼ先輩も!?」
「知り合いですか?」
「とある事情で知り合ったんだよね」
「私の学校の後輩だよ。ココアやレイと同い年」
「えっ?リゼちゃんって年上だったの?」
「今更!?」
さすがにリゼさんが不憫すぎる。僕が敬語で喋っている時点で......いや、何も言うまい。
「レイと先輩はどうしてここに?」
「バイト先の喫茶店で使うカップを買いに来たんだよ。シャロは何か買ったのか?」
「いえ、私は見てるだけで十分なので」
「見てるだけ?」
「というと?」
「ええ。この白く、滑らかなフォルム〜。フォハハ〜」
カップを手に取って感動するシャロ。完全に魅了されているな。
「それは変わった趣味ですな〜」
「「君(お前)が言う!?」」
思わずリゼさんとシンクロしてしまった。ココアにもモフモフ趣味があるでしょうが。自分のことを棚に上げんな。
「3人は学年や学校が違うのに、いつ知り合ったんです?」
「それは、私が暴漢に襲われそうになった所を助けてくれたの......」
「へぇ〜!格好良いな〜!」
「ん?」
「えっ?」
シャロは語り出す。彼女が人気の無い路地に、暴漢の男2人に囲まれてしまい、諦めようとしたその刹那———
『『伏せろ!』』
突然僕とリゼさんが現れて、驚愕する男たち。
『この私が!断罪してくれる!』
『貴様ら相手には歩兵を使うのも勿体無い』
男たちにハンドガンの銃口を向けるリゼさんと歩兵の駒を向ける僕。いや、どんな美化をされているのさ。
「いや、そんなこと起こってないよ......本当は———」
「あぁ!言わないでぇ!」
実際に起こったことを話そう。シャロは路地で立ち止まって怯えていた。目の前に木を咥えた野良うさぎがいたからだ。噛まれるとでも思ったのだろう。そこに偶然対局終わりの僕と下校中のリゼさんが気付いて———
『ああ、また通行の邪魔してるな?しっしっ!』
『こんなこともあるんだねぇ......お嬢さん、大丈夫ですか?』
野良うさぎは木をその場に吐き捨ててその場を去った。これが僕たちとシャロの出会いだった。
「———という訳」
その話を聞いたココアとチノちゃんがじーっ、とシャロを見る。
「うさぎが怖くて、わ!悪い!? あっ!」
するとシャロがカップを持って、
「こ、このティーカップどう?」
別の話題をしようとするシャロ。
「話を誤魔化そうとしてますね」
「違うの!ほら見て。この形、香りがよく広がるの」
「へぇ〜、カップにも色々あるんですね」
そしてもう一つのカップを持ってココアに見せる。
「こっちは持ち手の触り心地が工夫されているのよ」
カップの取っ手を触るココア。
「あっ!気持ち良い!成る程ねー」
「詳しいんだな!」
「上品な紅茶を飲むには、ティーカップにもこだわらなきゃです」
「うちもコーヒーカップには丈夫で良いものを使ってます」
「私のお茶碗は実家から持って来た拘りの一品だよ!」
「何張り合ってるんだ?」
張り合う理由無いだろうに。あっでも......
「うちコーヒーの店だから、カップもコーヒー用じゃないとダメだよね」
「えぇ!? そうなんですか!? レイとリゼ先輩のバイト先行ってみたかったのに......」
「あれ?もしかしてコーヒー苦手?」
「はい......」
「砂糖とミルクいっぱい入れれば美味しいよ?」
「に、苦いのが嫌いな訳じゃないのよ!」
「では何が?」
「......カフェインを摂り過ぎると、異常なテンションになるみたいなの」
「コーヒー酔い!?」
「自分じゃよく分からないんだけど......」
不思議な体質だなぁ......まぁ、でも。
「飲めなくても良いから遊びに来なよ」
「コーヒーでなくてもうちは楽しめるから、ね?」
「......!はい!」
すると、おしゃれなデザインが入ったカップを見付けたココア。
「あ!このカップおしゃれだよー?」
しかし、値段を見ると5万円もする高級なカップだった。
「高いなぁ......」
「5万円......」
「アンティーク物はそれくらいするわよ」
「まぁ、年代物は高いよねぇ......」
「あー、これ......昔、的にして打ち抜いた奴じゃん」
「「「「えっ」」」」
リゼさんの過去に何があったんだ......。
「チノちゃん、お揃いのマグカップ買おうよ!」
「私物を買いに来たんじゃないですよ?」
2人の会話を聞いたリゼさんが羨ましがっている。その気持ち、何となくだけど分かります。
「......あ!」
シャロが2つの色違いのマグカップを見付けてリゼさんに見せる。
「これなんて、色違いのセットで、か、可愛くないですか?」
「あー!それ可愛いなぁ!」
片方のうさぎの絵が描かれてるカップを持つリゼさん。持ってるマグカップはマフラーの絵があって———ってそれ恋人用じゃない?
「よーし買うか!シャロに一つあげるよ」
「あー!ありがとうございます!」
シャロも事態に気付いたようで少し赤面してる。
「シャロちゃんって高いカップに詳しくて、お嬢様って感じだね!」
「お嬢様!?」
「その制服の学校は秀才とお嬢様が多いと聞きます。」
「おまけに美人さんだし完璧だね!」
「そ......それリゼ先輩に言いなさいよ!」
「シャロにとっては、このカップも小物同然だろうなぁ」
「あ、貴女が言うの!? レイ、貴方は味方よね!?」
「えっ?シャロはかわいくて完璧に見えるけど」
「ほにゃ!?」
なんか鳴いたんだが。シャロは急にお嬢様のポーズを取り———
「末代まで家宝にしますけど!」
お嬢様口調で台詞を言う。様になってるじゃないか。
「お嬢様ポーズだ!本当カップを持つ仕草に気品があるよね!」
「普通に持ってるだけなのに」
「髪もカールしてて風格があります!」
「癖毛なんですけど」
「やっぱりキャビアとか食べるんですか?」
「そ、そう言う事は、レイやリゼ先輩に聞いた方が」
......ん?今の発言はどういう———
「うーん、私がよく食べるのはジャンクフード?あとレーションのサンプルとか」
「レーション?」
「軍人が食べる携帯軍用食のこと。リゼさんレーション食べるんですか......?」
「即席で食べられる物って良いよなー!」
「分かります!卵かけご飯とか美味しいですよね!」
「きっと卵ってキャビアの事だよ!」
「うんうん!」
「ちなみに僕は稼げなくなったときのことも考えて、あまり生活水準を上げないようにしているよ。外食は滅多にしないし」
「そうよね!外食なんて滅多に無いわよね!」
「外食ってきっと高級フレンチとかだよ!」
「ですね......!」
......あー、もしかしてそういうことか?ならばこの流れじゃ否定出来ないわな。
「シャロ、こっち来て」
「ん?どうしたのレイ」
僕はシャロをみんなから離した上で耳打ちする。
「シャロが仮にお嬢様とかじゃなくても、みんなは失望しないだろうから、信じてあげて」
「......!もしかして......気付いた?」
「まぁ......うん。これは誰にも言わないから」
「......お願い」
任された。
〔3〕
ラビットハウスの開店前準備。椅子やテーブルを配置し、豆やカップ等の状態確認を済ませ、後は僕が化粧をするだけ———そんなときだった。
「シャロちゃんがー!大変なのー!」
「何事!?」
突然、千夜がやって来た。何があったんだ。
「シャロちゃんが!こんなチラシを持って来て!きっと!いかがわしいお店で働いているなど!」
チラシにはロップイアーを着けた女性のシルエットと「フルール・ド・ラパン」と書かれていた。
「なんと!」
「怖くて本人に聞けない!」
......ここって外だけでしか見てないけど普通の喫茶店だったはず。そんな僕の思考を置いて、コーヒーを千夜に差し出すココア。
「どうやってシャロちゃんを止めたら良いの?」
「仕事が終わったら皆で見に行かない?」
「潜入ですね」
「潜入!?」
なんかリゼさんのスイッチが入ったな......。
「お前ら!ゴーストになる覚悟はあるのかー!」
「ちょっとあるよー!」
「潜入を甘く見るなー!」
「「サー!」」
「よーし!私に付いて来い!」
「「イエッサー!!」」
「仕事してからにしてほしいんだけど」
「何処に潜入に行くんです?」
「チラシに書いてある喫茶店じゃない?まあそんな事よりも仕事仕事」
その後、仕事を終えてフルールに潜入する僕たち。外から身を潜める。僕は仕事が終わってすぐに着替えたから私服だけど、他の皆は制服姿のままだ。
「千夜ちゃんとシャロちゃんって幼馴染だったんだね」
「そうなの。だから放っておけなくて」
「良いか?慎重に覗くんだぞ?」
慎重にそーっと店内を覗く。そこに見えたのは。
「いらっしゃいませー!」
ロップイアーをつけ、制服を着て笑顔で接客してるシャロの姿があった。
「......?......何で居るのよー!」
気配をキャッチしたシャロが僕たちを見付けた。なんか、ごめん。そんなこんなで僕たちはフルール・ド・ラパンに来店した。
「ここはハーブティーがメインの喫茶店よ。ハーブは色んな効能があるのよ。大体勘違いしたの誰?」
「私達、シャロちゃんに会いに来ただけだよー?」
手を上げてココアが言った。
「いかがわしいってどう言う意味です?」
「こんな事だろうと思った」
「千夜、説明」
「ん?」
僕たちは全員千夜を見る。しかし千夜は突然シャロの両手を握って、
「その制服素敵!」
話を逸らした。オイコラ。
「でもシャロちゃん可愛い!うさ耳似合うー!」
「店長の趣味よ。あっ......!」
シャロは僕とリゼさんを見て、なんだか悲壮感漂う目で見ている。どうしたのさ。悩みがあるなら言ってごらん?
「そ!それより何で制服なのよ!」
「あっ!」
「つい急いじゃって」
「店員さーん!注文お願ーい!」
「こっちも頼むわー!」
2人の女性客がココアと千夜に注文をお願いする。
「「少々お待ち下さーい!」」
2人はノリに乗って接客する。
「紛らわしい事やめてよー!」
「2人ともストップ」
僕はココアと千夜の襟首を掴む。ぐえっ、と2方向から声が聞こえたが気にしないことにする。僕たちはシャロの案内で席に通される。
「せっかくだからお茶してっても良いかな?」
「しょうがないわね」
シャロは僕たちにメニューを差し出す。メニューを見ると、ハーブティーの種類が多い。
「やっぱダンデライオンだよね!」
「飲んだ事あるんですか?」
「ライオンみたいに強くなれるよ!」
「たんぽぽの意味分かってないな?」
さすがにその勘違いは恥ずかしいぞココア。
「迷うなら、それぞれに合ったハーブティーを私が選んであげる。ココアは『リンデンフラワー』ね。リラックス効果があるわ」
「へぇ〜!」
「千夜は『ローズマリー』。肩こりに効くのよ」
「助かるー」
「チノちゃんは甘い香りで飲みやすい『カモミール』はどう?」
「子どもじゃないです」
「リゼ先輩は、最近眠れないって言ってましたから、『ラベンダー』がオススメです!」
「おー!」
「レイには、対局中の健康維持なんかも考えて、『ルイボス』をオススメするわ!」
「そうだね。最近飲みたいと思ってたからお願いしようかな」
「あっ、ティッピーには腰痛と老眼防止の効果があるものをお願いします」
「ティッピー、そんな老けてるの!?」
想像より高齢だった。......僕の推察が正しければ、その意味は———
「はい、お待ちどうさま」
そう考えていると、ハーブティーが届いた。ココアのハーブが入ったガラスのティーポットにお湯を入れると赤く染まった。
「うわー!赤く染まった!キレーイ!」
チノちゃんの青色のハーブティーにレモンを入れると一瞬にしてピンク色になった。
「こっちはレモンを入れたら色が青からピンクになりました」
「面白いわねー」
そうこうしていると、シャロがクッキーを持って来た。
「あの、ハーブを使ったクッキーはいかがでしょう?私が焼いたんですが」
「シャロが作ったのか!どれ......」
「僕も食べようかな」
クッキーを一口食べる僕とリゼさん。
「美味しい!」
「甘くて僕好みの味だ」
「良かったぁ......」
美味しいと言われたからか、笑顔になるシャロ。その近くでココアと千夜は意味深な表情を浮かべている。何しているのさ。ココアと千夜もクッキーを頂く。しかし、
「このクッキー甘くない!?」
「そんな事ないわよ?」
「ふっふっふ......『ギムネマ・シルヴェスター』を飲んだわね?」
「えっ!?」
「ギムネマとは、砂糖を壊す物の意味!それを飲むと一時的に甘みを感じなくなるのよ!」
「そ......そんな効能が......!」
「シャロちゃんはダイエットでよく飲んでいたのよね?」
「言うなバカー!特にレイの目の前で!」
千夜よ、乙女の秘密をあっさりとバラすんじゃありません。その後、ハーブティーを飲み終えた僕たち。
「沢山飲んじゃった〜」
「お腹の中で花が咲きそうだよー」
シャロが片付けようとすると、チノちゃんが口を開く。
「何かお手伝い出来る事があったら言って下さい」
「ありがとう。チノちゃん年下なのにしっかりしてるのね。妹に欲しいくらい」
「あっ!」
シャロがチノちゃんを撫でると、嬉しそうな顔をするチノちゃん。
「チノちゃんは私の妹だよー!」
「何言ってるの?」
「私はレイさんの妹です」
「ちょっと何言ってるか分からない」
「分かってくださいよ」
急に僕のところに座ってきてドヤ顔するチノちゃん。
「うぅ〜......やはり最大のライバルはレイちゃんか......!」
ココアも何を言っているんだ。
「皆さんはリラックス出来ました?」
「確かにリラックスしたけど」
「少し肩が軽くなったような」
「何だか気が楽になってきた」
「少し元気になった気がします」
「流石にプラシーボ効果だろ」
「ねぇシャロちゃん、ハーブティーって自分の家でも作れるの?」
「そうね、自家栽培する人もいるわ」
そう言った刹那、ココアが爆睡した。
「ココアさんが寝ています」
「今喋ってたのに」
「ハーブティー効き過ぎ」
「どんだけだよ......」
その後、僕とチノちゃんがラビットハウスに戻って掃除をしてると、ココアが戻って来た。
「ハーブティー作ろー!これで出来るかな?」
一束の草を持って来た。
「ココアさんそれ......雑草です」
それでは流石に無理かな......。
〔4〕
Side Chino
ある雨の日、ラビットハウスでは千夜さんとシャロさんが訪れていました。今日ここにいるのは前述の2人とココアさんとリゼさんだけ。レイさんは名人戦第二局で鹿島神宮にいます。今日が2日目で12時時点での評価値が、
「伯方名人62%VS白井竜皇38%」
となっていて、若干レイさん優勢でした。現在街は雨。急に降り出したのです。
「雨か」
「こんな天気なのに遊びに来てくれてありがとね」
「ちょうどバイトもなくなったし」
「でも、私達が来た時は晴れていたのに」
「誰かの日頃の行いのせいね」
そう言いながら千夜さんを見つめるシャロさん。何かあったのでしょうか。
「シャロちゃんが来るなんて珍しい事なんてあったのかな?」
「あえ!?」
そんな問答をしていたら、丁度リゼさんがコーヒーを持って来ました。
「お待たせ。コーヒー苦手なのに大丈夫か?」
「す、少しなら平気です」
コーヒーを手に取るシャロさん。リゼさんの方向を一瞬見るとコーヒーを飲み始める。すると一瞬に全部飲み切ってハイテンションになってしまいました。
「皆ー!今日は!私と遊んでくれてあっりがとぉ!イッエーイ☆」
「時間が空いたら何時でも来てね」
「良いの?行く行くー!あっ!」
すると私に抱き付いてもふもふする。
「チノちゃんふわふわー!」
やめてください。
「ねぇ〜レイはどこぉ?」
「レイは名人戦だぞ」
「やだぁ!レイも一緒じゃなきゃやだぁ!」
「......これでも見てください」
私がシャロさんに見せたのはタブレットに映っている名人戦の対局中継。戦況はレイさん勝勢(90%)でことが進んでいるみたいです。
「あぁー!レイだぁ!いけぇ!そこで4二龍だぁ!」
シャロさんが言い出したのはAIの最善手に乗っている「4二龍」を指せというもの。私もこの手の意味は理解出来るのですが、レイさんはいっこうに指しません。ほぼ一択なのに......どうしてでしょうか?
「えぇー?ここは4三銀だよー」
「......ココアさん、どういうことですか?」
「ここで飛車を渡したら逆にレイちゃん側の玉が詰んじゃうんだよ。だからここは一度銀で誘い出してから桂金龍でトドメを刺すんじゃないかな?」
そのココアさんの言葉を肯定するかのように、レイさんが指した手は「4三銀」。ここで評価値が一度32%まで下がりますが、しばらくすると96%になりました。
『負けました』
『ありがとうございました』
その手を受けて15分後、白井竜皇は投了。レイさんが1勝を返しました。
「ココア......今の手、よく思い付いたな」
「レイちゃんの研究用パソコンを使わせてもらってから面白い手がどんどん思いつくんだよねー」
ココアさんはある意味天才なのかもしれない。レイさんの対局を見送った後のこと、外の雨が段々激しくなってきました。
「雨が強くなってきたね」
「風もです」
「迎えを呼ぶから、家まで送ってやるよ」
「はっ!? いえ、私が連れて帰るわ!」
千夜さんがシャロさんを背負って帰る。しかし、すぐ倒れてしまいました。
「千夜ちゃぁぁぁん!」
さすがにこの天気ですし、みなさんを泊めてあげましょう。
Side Out
Side Sharo
なんやかんやあって私はラビットハウスに泊めてもらえることになった。千夜とお風呂に入ったり、チノちゃんの制服を着たリゼ先輩に見惚れたりと色々あったが、今は5人でくつろいでいる。
「何か一気に賑やかになったね」
「レイがいたらもっと賑やかになるな」
「こんな機会だから、皆の心に秘めてることを聞きたいんだけど」
「なっ......!」
これは好きな人を暴露する流れ......ちょっと待ってヤダヤダ、心の準備が......私の中ではレイとリゼ先輩とで揺れ動いているのよ———
「飛びっ切りの怪談を教えて?」
千夜!恋をしたような瞳で言うな!
「怪談ならうちのお店にありますよ」
「うぅ!」
「そうなのか?」
怖がるココアは思わずリゼ先輩に抱き付く。
「リゼさんとココアさんはここで働いてますけど、落ち着いて聞いて下さい」
「ゴクリ......」
「この喫茶店は夜になると......」
「「「「キャアァァァ!」」」」
突然雷が鳴り、私たちは悲鳴を上げた。
「目撃情報が沢山あるんです。父も私も目撃しました」
「そ......それは......」
「暗闇に光る目......ふわふわで小さく......白い物体!」
それってもしかしてティッピーって生き物のことかしら......。
「コホンッ。とっておきの話があるの。切り裂きラビットって言う実話なんだけど」
突然大きな雷が鳴ったと同時に部屋が停電した。
「て、停電!?」
「落ち着いて下さい。こんな時のために」
チノちゃんはライターの火を点けて、ロウソクに火を灯した。
「よりによってロウソクか!」
「盛り上がって来ちゃった......」
怪談話「切り裂きラビット」
「昔ある喫茶店に一匹のうさぎが居ました。そのうさぎの周囲では次々と殺人事件が......!」
それと同時に雷が再び鳴った。話の詳細はもう覚えていない。というより思い出したくない。
「「「「キャアァァァ!」」」」
「と言う訳なの。おしまい。さぁ、怪談はこれくらいにして、もう寝ましょ?」
「ぜ......絶対取り憑かれる......」
二度と怪談なんて聞くもんか......私はそう誓った。
Side Out
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい、レイくん」
「タカヒロさん、電気つかないんですが」
「雷で停電してしまったんだよ」
「そうでしたか......」
対局先で入浴してて良かった......。
「それではおやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
僕は自分の部屋に帰ろうとした刹那———
「......ん?レイ?」
「あれ?リゼさん?」
なんでリゼさんがいるんだ?まぁ、明日は土曜日だから問題無いだろうが......。
「少し......そこにいてくれないか?......理由は聞かないでほしい」
「はぁ......分かりました」
まぁ、聞くなと言われたので聞かないでおこう。僕が待っていると別の人物が現れた。その人物はシャロだった。
「あれ......レイ?対局は?」
「夕方に終わったよ。辛勝と言ったところだけれど」
はっきり言ってあの手が見えなければ僕は負けていたかもしれない。
「それなら丁度良いわ......そこで待っててくれる?」
「リゼさんにも言われたなそれ......まぁ、良いけど」
「リゼ先輩が?」
「うん、というかもしかして千夜もいる感じ?」
「そうね」
全員大集合じゃないか。
「レイお待たせ......ってシャロもいたのか」
「リゼ先輩!レイ......絶対待っててね......」
「はいはい、待ってるから———」
その刹那、大きな雷鳴が鳴る。
「「キャアァァァ!」」
「にゃあぁぁぁ!?」
僕はリゼさんとシャロに挟まれてしまった。感想?......聞くな。しかし、その中でシャロが少し満足げな表情を浮かべていたのは少し気になった。
この世界の将棋界の事情3
今期タイトル戦: タイトルホルダー(スコア)チャレンジャー
竜皇戦: 白井 創太竜皇VS???
名人戦: 伯方 玲名人(1-1)白井 創太竜皇
叡帝戦: 後藤 匠叡帝(2-0)鏑木 元気八段
帝位戦: 白井 創太帝位VS???
玉座戦: 白井 創太玉座VS???
棋匠戦: 白井 創太棋匠VS伯方 玲名人 or 春生 芳治九段
棋帝戦: 伯方 玲棋帝VS???
玉将戦: 伯方 玲玉将VS???
レイの弟子になるのは誰?
-
ココア
-
チノ
-
リゼ
-
千夜
-
シャロ
-
その他
-
誰も取らない