〔1〕
僕は久しぶりに凹んでいる。それは金冠杯決勝での出来事だった。
『......』
『......ッ!』
対局相手は皆瀬九段。状況は僕が追い詰められており、必至を解除しようと試みているところ。
『これで行け———あっ!』
僕はすんでのところで指す手を間違えた。10手程先の手を指してしまったのだ。そこを皆瀬九段は逃さず猛追。僕は最終的に投了した。
「冷静に考えていたらあんなミスしないのになぁ......」
僕は帰りの列車の中で1人凹んでいた。時間的に授業が終わったであろういつメンのグループにメールを打つ。
『金冠杯負けちゃった......』
『レイくんお疲れ様』
『ミスは誰にでもあるよ!レイちゃん、次はがんばろっ!』
『いくら失敗しても良い、最後に立っていれば良いんだ!』
『まだ星河戦も旭日杯も公共杯も残っているわ!』
『お兄ちゃん、ファイトです!』
『みんな、ありがとう』
みんな、暖かいなぁ......。
「さーて、気持ちを切り替えよう!まだまだ僕の棋士人生は始まったばかり!」
これからも頑張らなくちゃ!
〔2〕
Side Chiya
これは、ある2人の小さい頃のお話。
『これ、千夜にあげる!』
それは私とシャロちゃんのお話。シャロちゃんは私に小さな冠をあげた。
『シャロちゃん......』
私たち2人は坂を駆け上がる。
『シャロちゃん!早く!早く!』
丘の上に着き、私が朝日に向かって両手を広げた。
『この街は私が支配するわー!』
『ヒィィィ!』
そして現在、甘兎庵では。
「はぁ......ここにも無い......何処に行ったのかしら......?大切なモノなのに......」
あの王冠は唯一無二の大切なモノだというのに......。
Side Out
とある日の○○高校にて。
「それでは、生徒会長候補者を決めますが———」
『はい!伯方(くん)を推薦しま———』
「伯方くんはプロ棋士という社会人である関係上、推薦を認めません」
『えぇー!? 伯方(くん)以外あり得ない!』
「なんでさ」
当たり前だ。学校に半分以上いない生徒会長とかあり得ないだろう。
「考え直してください先生!」
「この中じゃ伯方が適任ですよ!」
「生徒会長の実務が滞ること間違い無しでしょうね」
「僕もそう思います」
ろくに活動出来ない生徒会長なんて、あってはならないだろう。
「逆に考えてみてください、生徒会長は学校の代表です」
「この学校の代表として最も適任は誰かを!」
「天皇にとっての摂政のように、会長権限が必要な内容は、会長不在時は副会長が代理で権限を行使すれば良いんですよ!」
「成る程......?それなら良いのかしら......?」
「先生?納得しないでください」
「伯方くんへの推薦を認めます!」
『やったー!』
「なんでさ!?」
結局、僕は生徒会長候補者に推薦されてしまった。誠に遺憾である。ココアと千夜のクラスでは千夜が生徒会長候補者になっていた。マイさんじゃなかったのが少し意外だった。
Side Sharo
夕方。私が学校で渡された生徒会役員選挙についてのプリントを見ながら帰ってる。
「はぁ......私が生徒会長に推薦されるなんて......ん?」
丁度甘兎庵に着いた。甘兎庵に入る。
「千夜〜。ん?」
入ると、千夜が悩んでいた。
「ダメ!こんなんじゃ全然伝わらないわ!!」
「メニュー名のスランプ?珍しいわね」
「ううん。生徒会長選挙の演説の原稿......」
「えっ!?」
「私、推薦されちゃって......」
「それで、引き受けたの......?」
「うん!みんな納得して推薦してくれたんだもの。期待に応えなきゃ!」
「ふぅ〜ん。ん?」
ノートを見ると、演説の原稿ではなく委員会の改名案を書いていた。
「こ、これは......演説を考えなさいよ!」
「だってぇ〜、難しいのよぉ......そうだ!委員会の改名を公約にしようかしら!」
「それで票を入れるのはココアくらいよ......」
Side Out
後日。洋服店で僕と一緒にリゼが服を選んでいる。
「う〜ん......髪を下ろした方が大学生っぽいかなぁ......?」
「ツインテのリゼも僕は好きだけどね」
「そうか?う〜ん......ん?」
外を見ると千夜が見えた。
「千夜!」
一方千夜は雑貨屋に来ていた。
「ん〜......これなら代わりになるかしら......?」
千夜が見ていたのは冠のストラップ。
「千夜!」
「!?」
「頼む!私を大人にしてくれ!」
「わ、私が!?」
「あはは......」
レコード店前にシャロが立っている。
「シャロちゃ〜ん!」
「ん?」
シャロが後ろに振り向くと、僕と千夜とロゼと化したリゼが立っていた。
「え?えっとぉ......こ、こんにちは......」
「まさか誰か分からないなんて言わないわよね?シャロちゃん」
「試されてる......!?」
「これでどうかな?」
手の銃をシャロに向ける。
「リゼ先輩!?」
「気付くの遅いぞ?」
「私とレイくんがコーディネートしてみました〜!」
「頑張ったよ......」
「大学生になるんだし、大人っぽくなりたくて。こう言うキッカケでもないと、イメチェンする機会がなくてな......」
「......」
「やり過ぎたかなぁ?誰も私だって気が付かなかったり———」
「超絶似合ってます!そんなおバカ私だけです!」
「あー!レイちゃんと千夜ちゃんとシャロちゃんと知らない美人さんだー!」
レコード店からココアとチノが出て来た。
「学校のお友達ですか?」
「へ?」
「「あぁ!」」
「貴女は!」
「ロゼちゃん!」
そっちかよ。何故リゼだと気付かないのか。
「ご、ご無沙汰しております......チノさん、ココアさん」
「お久し振りです!あの、良ければお店に来て下さい!約束しましたよね?」
「コーヒー飲んで語り明かそう?」
「え、えぇ。是非......」
いつまで気付かないんだろうかこの2人は。横を見ると、リゼが悪巧みを浮かべたような顔をしていた。
「1名様ご案内〜!」
「ご案内です!」
「あ、あのぉ」
「「ん?」」
「良かったら今日1日制服を着て、働いてみたいなぁ〜!」
「キャラが変わった!?」
「いつものロゼさんは何処へ!?」
「どうする?チノちゃん」
「リゼさんは今日お休みですし、働いてもらえると助かるかも」
僕たち4人はコソコソと会話してる。
「誤解を解かなくて良いの?」
「ずっとロゼさんの認識になるけど良いの?」
「気付かない方がおかしいだろう?」
「それはそうだけど......」
「この間なんか家出して、お泊まりして、同じ釜の飯を食べたんだぞ?いわば戦場を共に駆け抜けた友だ」
「た、確かに......」
「もしや......私だと気付いてからかっているのかもしれない......」
「その可能性は否定出来ないね......」
「だろ?」
「ロゼさん!是非お願いします!」
「ありがとうございます〜!」
果たしてどうなることやら。
「さぁ〜!コーヒーと香りとダンスしに参りましょう〜!」
「参りましょう〜!」
「大丈夫かなぁ......?」
......果たしてどうなることやら。ラビットハウスの男子更衣室にて。
「いい加減、そろそろ制服を戻してほしいんだけどなぁ......」
僕の制服だけみんなのモノより過激なものになっており、それを見たさに来ているお客さまもいるので少し......いやかなり嫌だ。
「タカヒロさんを味方につけるか......?いや、数の暴力で押し切られそう......」
僕たちが制服に着替えてしばらく経った頃、マヤちゃんとメグちゃんがやって来た。
「こんにちは〜!」
「勉強させにもらいに来たよ〜!」
「いらっしゃ———」
「あれ?リ———!?」
秘密をバラそうとしたが僕と千夜に口止めされた。ココアとチノにまだバレていない。
「マヤちゃん、メグちゃん、これには訳があって」
「実は、今ね?」
2人に耳元で訳を話した。
「っ!」
「面白そ〜!」
「ロゼさんとお知り合いですか?」
「えと......う、ウチのバレエ教室の生徒さんなの!す、凄くターンが上手な人でねー!」
ナイスフォロー!
「そして!じ、実は!バレエ拳法の使い手で、昼は大学生、夜は闇の仕置人として———」
バッドフォロー!
「バレエ拳法って何ですか?」
「見たーい!」
「バレエ拳法はお店を破壊してしまうので......」
「そうだよ!バレエ拳法は正義のためにしか振舞わないんだ!」
ナイスフォローだよっ!
「でも、バレエ接客なら出来るんじゃないかな!?」
バッドフォローだよっ!
「マヤちゃん、メグちゃん、パニックになって無茶を言わない」
「ごめんなさ〜い」
「ちょっと言い過ぎちゃったかな?」
「ではロゼさん、スペシャルブレンドとチョコケーキをお願いします」
「青山さん!? いつの間に!?」
「ウフフ♪」
「神出鬼没にも程がある。真手さん呼ぼうかな」
「やめてくださ〜い」
リゼ(ロゼ)は出来たスペシャルブレンドとチョコケーキを持ってバレエ接客を開始。
「スペシャルブレンドとチョコケーキになりま〜す!」
「凄ーい!」
「一瞬リゼさんの勇ましさと重なって見えました!」
「ギクッ!?」
「ロゼさんは、私の文芸部と食レポの後輩なんです」
「食レポ?の後輩とは?」
「大丈夫です。ケーキを食べたらこの台詞を」
青山先生は予め書いていた台詞の紙をリゼ(ロゼ)に渡した。
「は、はい......」
「はい。あ〜ん」
「あ〜ん......」
チョコケーキをリゼ(ロゼ)に食べさせた。
「わぁ〜!口の中に天使の香り!舌も脳も溶けちゃいそう〜!」
「チョコケーキに何入れたの!?」
「普段作っているモノと一緒だよ」
しばらく落ち着いた後。リゼ(ロゼ)は端っこの席に座ってぐったりしている。相当疲れてしまったようだ。
「ロゼさん」
「は〜い......」
「私もロゼさんの隣で日向ぼっこしても言いですか?」
「え、えぇ勿論......」
隣にチノが座った。
「最近日向ぼっこにハマってて、ココアさんと日向ぼっこ対決しているんです」
「ん?」
「そういえば......」
「レイお兄ちゃんやリゼさんがいたら怒られるんですけど、最近は忙しいせいか、お休みの日が増えて......ちょっと寂しいです......」
「レイさんって男性でしたのね......」
演技だからってソレ言われると少し凹むよ?その後、僕とココアとリゼ(ロゼ)はコーヒー豆の入った袋を運ぶ。
「ロゼちゃん大丈夫......?」
「えっ?わぁ!コーヒー豆の袋って重いのね〜」
わざとらしいなぁ......すると目の前に誰かが現れた。
「わぁぁぁ!」
「誰だ!」
リゼ(ロゼ)は瞬時にモデルガンを向けた。現れたのはタカヒロさんだった。
「フッ」
タカヒロさんは笑って去って行った。あれは察している顔だな......。
「何だ。ただのタカヒロさんか。驚かせるなよココ......ア!」
これはもう言い逃れは出来ない、と思ったが———
「ごめんねリゼちゃん」
「気付いてた......?」
「気付いていたなら言えば良いのに......」
「えへへ〜。私を侮らないでよ〜」
リゼ(ロゼ))の髪をツインテールにした。
「ほら!こうするとリゼちゃん!」
「すまない......気付かれないのが寂しくて、確かめるようなことを......」
「今日のリゼちゃんも素敵だけど———」
「「自然体のリゼ(ちゃん)はもっと好きだよ?」」
「レイ、ココア......目にゴミが入った......」
「......そっか」
「えへへ〜」
ホールに戻って、ロゼのことを話した。
「な〜んだバレてたのか〜」
「リゼさんの演技は凄かったけど、ココアちゃんにはすっかり騙されちゃった〜」
「流石名女優ね〜!」
「......そでしょ......?」
「ん?」
「嘘でしょ!? リゼちゃんがロゼちゃんって嘘でしょー!?」
「本当に気付いて無かったのかい!?」
「レイちゃんはともかく、みんな気付いてたの!? 最初から!?」
「じゃあココアはいつ気付いたの......?」
「銃構えたところだよ!」
「雰囲気で何となく察するだろうに」
「あわわわ......私すっごくおバカな子じゃん......!ずっと一緒だったのに......あんなに傍にいたのに......」
「失恋ソングの歌詞みたいね......」
「チノちゃんも何冷静になってるの......!? みんな私を騙してもうーーー!」
「ロゼさんは何処に?」
「状況に付いて行けてない!?」
その後、リゼがホールに戻るとそこには。
「リゼちゃ〜ん!久し振り〜!」
「モカさーーーん!?」
無論、モカさんに変装したココアである。
「会いたかったわよ〜!再会のモフモフ〜!」
モフモフされてぶっ倒れてしまった。
「死んだフリ!?」
「リゼー!」
「何の騒ぎで———モカさん!?」
「チノちゃ〜ん。久し振り〜」
「い、今ココアさんを呼んで......」
「サプラ〜イズ!」
しかし、ウィッグが取れてしまった事に気付かないままココアはチノをモフモフした。
「あーあ、知ーらない」
その後。チノが2人を説教する。
「ココアさん」
「はいぃ......」
「今度からかったら2人ともおやつ抜きです!」
「可愛い罰だこと」
「「もうしません!」」
「これに乗じて僕の制服も———」
「「「ダメだ(だよ)(です)」」」
返せよ、僕の意思。
〔3〕
ある日の甘兎庵にて。
「じゃーん!選挙用のポスターが出来たよー!」
「選挙と言うより甘兎庵の宣伝になってるじゃない......」
「......何しているんだか」
僕の場合は、美術部のクラスメイト2人が躍起になって選挙ポスターを作っている。
「何だか恥ずかしいわぁ〜......」
「推薦状も書いたんだよ?青山さんに手伝ってもらったんだ!」
「ほぼ書いてもらってましたよね?」
ココアは何もしていなかったでしょ。
「彼女の紡ぎ出す和菓子は、王道でありながら確かに個性が存在しています。あんこの繊細で上品な甘さは、故郷の情景を———」
「ただの食レポだろ」
「嬉しいけど照れちゃうわ〜」
「これで納得出来る人が何人いるのか」
「あ、あの!私も推薦状を書いてみたのですが......」
「おぉ!読んでみてくれ!」
「普段は優しく誠実で、仕事においては責任感は強く、妥協しないその姿勢は、生徒を引っ張り導き手として理想的であり———」
「いやぁ〜ん!もうダ〜メ!褒められ過ぎて爆発しそう〜!」
「千夜が壊れた......」
「お兄ちゃんの分も書いてみました!」
「そうなの?聞かせて」
「将棋界の第一人者として、将棋及び棋界に対する誠実な姿勢は、生徒会においても発揮され得ること間違いなし。生徒の導き手として、また学校の代表者としてこれ以上なく適任———」
「分かった!分かったから!」
聞いてるだけでも恥ずかしいよっ!
「チノちゃん!その調子でお姉ちゃんも推薦してごらん!」
「いつもお寝坊さんで、人参もダメで、コーヒーの区別も出来ず」
「うううぅぅぅ......」
推薦状ならぬ正論状である。
「推薦文はチノに任せるとして、レイと千夜は演説は大丈夫なのか?」
「僕は大丈夫だけど......」
「それが、まだ書けてないの......甘兎庵のアピールならいくらでも出来るんだけど......自分をアピールするのって難しくて......」
「もっと堂々としてないと生徒会長らしくないな!動じず臆せず冷静に!」
「でもどうすれば......」
「リゼちゃんのモノマネしてみたら?」
「えっ!?」
しかし千夜がリゼのモノマネで覚醒した。
「貴様ら1人1人では小さな火だが、私の下で1つになり、地獄の業火になると確信している!」
「良いねー!」
「んー......?」
「立て!生徒諸君!私と共に青春と言う戦場を駆け抜けよう!」
「私はそんなこと言わない!」
「リゼらしさが欠如してるよ......」
千夜は新作を持って来た。
「『秋の空、轟く音はおめでたい』お待ちどうさま!」
「おめでたいって、たい焼きのダジャレなのね......」
「そう言えば、シャロも生徒会長に推薦されたって聞いたけど」
「あっ。でも、私はもう———」
「そうだったの!? なんで言ってくれなかったの!?」
「言おうとしたわよ......」
「シャロちゃんが生徒会長になったら......」
「ん?」
『購買部に特売制度を設けまーす!』
「「格好良い〜!」」
「そんなことするか!」
「いくら何でもシャロへのイメージが酷い」
「......シャロさんまで生徒会長になったら、こうやって集まる機会が減りそうです......」
「いや、だからその———」
「会議の時はコーヒーとパンの出張するからねぇ......」
「そんな大袈裟よ......まだ当選した訳じゃないのに......」
「そうよ。だって私とっくに———」
「そうだぞお前らぁぁぁ!そんなにしんみりするなぁぁぁ!生きていればまた会える!笑顔で応援してやろう!」
「「1番大げさ......」」
すると、店のドアが開いた。
「あっ!いらっしゃーい!」
「あら〜。可愛いお店だこと」
「千夜ちゃん、4人だけど良い?」
「大丈夫ですよ〜!お好きな席にどうぞ〜!」
4人のお婆さまが来てくれた。
「千夜ちゃん!」
「うん!」
ココアと千夜の2人は接客を始めた。
「はーい!お待ちどうさまー!はいはーい!あがり3丁おめでたい2丁!こちらのお嬢さん、5人目の曾孫が生まれたってよー!」
「あいよー!いつもより多めに振りかけておりまーす!」
「相変わらず息ピッタリだな」
「さすが自称ソウルメイト」
「こうして働く千夜さんを見る機会も少なくなるんですね」
「そうね......」
僕たちの今後はどうなるのか。
「うんうん!輝いてるね〜!」
「金粉を乗せると華やかになるわよね〜」
「違うよ?千夜ちゃんのこと!」
「えっ?」
「働いている時の千夜ちゃんは、キラキラしてるよ!」
「っ!」
「選挙もその調子で輝こうね!」
「目指せ金粉!」
「イエーイ!延べ棒ー!」
夕方。
「寒くなって来たねぇ〜」
「帰ったら暖かくしてね?」
「何だい?もう帰るのかい?」
「おや。千夜のお祖母さま。あのときはお世話になりました」
「ああ、お邪魔しました」
「んじゃ、これ持って行きな」
紅白饅頭をくれた。
「紅白饅頭!」
「お祖母ちゃん......!」
「そう言えば、ジジィもウチの饅頭好きだったわねぇ〜。バカが出る前に食っちまうんだよ?」
「ありがとうございます」
「千夜ちゃーん!また明日から選挙活動頑張ろうねー!」
「うん!」
「当日はライバル同士頑張ろうね!」
「えぇ!負けないわ!」
僕たちは帰って行った。
Side Chiya
その夜。私は1人でスピーチ原稿を考えている。
「はぁ......」
するとシャロちゃんが来た。
「はい」
「えっ!?」
「あったわよ」
小さな冠を千夜に差し出した。
「あっ!」
「探していたんでしょ?」
「気付いてたの!?」
「当たり前でしょ?アンタ何か変だったし。そもそもあんこに乗ってないし」
「で、でも!部屋中探したのに見付からなったのよ!? 一体何処に......」
「お祖母ちゃんが簪にしてたのよ?」
「えええーーー!? 全然気付かなかったーーー!ずっと一緒だったのに、あんなに傍にいたのに!」
「失恋ソングの歌詞みたいになってるわよ......」
冠をあんこに被せた。
「見付かって本当に良かったぁ〜。シャロちゃんに貰った世界征服の社長のシンボルだもの」
「そんなつもりであげてない!」
「当選したらこれ被って挨拶しましょうね」
「恥ずかしいわ!あと、私生徒会長の推薦辞退したから」
「えっ!? あっ、バイト忙しいから?」
「それもあるけど......それだけじゃなくて......自分で考えてよね!」
シャロちゃんは去って行った。
「......またシャロちゃんに貰っちゃったわね。ずーっと一緒よ。あんこも、この王冠も」
小さい頃。
『これ、千夜にあげる!』
それは私とシャロちゃんのお話。シャロちゃんは私に小さな冠をくれた。
『シャロちゃん......』
『えへへ!』
『ありがと〜!』
私たち2人は坂を駆け上がる。
『シャロちゃん!早く!早く!』
丘の上に着き、私が朝日に向かって両手を広げた。
『千夜!?』
『この街は私が支配するわー!』
『ヒィィィ!』
『ん?違うの?この王冠は、甘兎庵の社長になって世界征服しろってことでしょ?』
『ち、違うよー!甘兎庵でキラキラしてる千夜が見たいだけだよー!』
『そうなの!?えへへへ!』
『あははははは!』
『じゃあ2人で、キラキラした社長になりましょ!』
『えっ!? 私も社長なのー!?』
「あの頃が懐かしいわね〜。......そうだ!」
私はレイくんに、ある連絡をした。
Side Out
後日。甘兎庵にて。
「千夜ー。お醤油貸してー」
「あっ!シャロちゃん!」
「ようやく来たね、シャロ」
「いらっしゃーい!」
「何かのお祝い?」
「生徒会長就任のパーティーだよ!」
「えっ?そ、そうなんだ......ラビットハウスでやらないってことはレイじゃなくて......」
あー......これは何も知らないやつか。
「千夜......生徒会長当選お、おめ———」
すると誰かがドアを開けて入って来た。
「今日は私の生徒会長当選祝いに集まってくれてありがとー!」
それはマイさんだった。
「えっ!?」
「待ってたよー!」
「マイさんおめでとう!」
「千夜が当選したんじゃ......」
「推薦は辞退したの」
「えっ!?」
「この王冠と一緒。大切な物はすぐ傍にあるのに、見えなくなっていた。来年もここで、みんなの居場所を作って行きたい!」
「私も似たような理由......」
「えっ?」
「みんなとの時間が減るのはちょっと寂しいし、この方が私にとって1番———」
「ちょっと待って?」
「えっ?」
「せーので答え合わせしましょう?」
「うん!」
「「せーの!私にとって、1番キラキラ出来る気がするの!」」
「ふふっ」
生徒会長を辞退した2人は、これからもずっとみんなと一緒にいる事を選んだ。
「ちなみにレイはなんで落選したのよ?」
「それはね?」
時は生徒会長選挙戦前に遡る。
『レイくん、昨日も言ったけど、私......候補を辞退するわ』
『そっか......分かった。ということはそっちの候補者はマイさんになりそうかな?』
『そのとーり!委員長は強敵だよー?』
『僕は敢えて辞退しない。ちょっとした秘策があるんだ』
『『秘策?』』
そして選挙戦当日。
『レイくんが相手なんて......勝てる訳無いよ......』
『マイさん』
僕はマイさんに近づいてこう言った。
『僕はマイさんと正々堂々と戦いたい。人気票なんかじゃなくて、生徒会長に相応しい存在であるか、という点を評価してもらいたい。だからこそ、勝てる訳無いなんて言わないで。挑戦して打倒する気持ちで臨んでほしいな』
『レイくん......分かった!私、レイくんを倒す!』
『うん、その気概だ。何度でも立ち上がるその心の強さがマイさんの美点だ』
そして選挙演説開始。何人もの生徒が演説する中、遂に僕の番になった。
『2年A組生徒会長候補者の伯方です。始めに言っておきたいことがありますが『伯方名人だから』という理由での投票は決して行わないでください』
この発言に周囲がざわめく。いいぞ、この調子だ。
『私はあくまで、1人の生徒としてこの場に立っているということを、みなさまご理解いただけると嬉しいです。私の個人的な意見ではあるのですが、生徒会長たる者の要件は『生徒と学校の行末を見守り、近くで支えることの出来る者』であると思っています。個人的にはこの観点から、生徒会長により相応しい者は誰かを見極めてほしいと考えています。私が掲げる公約は『良き伝統を守り、悪しき伝統を廃する』これだけです。これ以上のモノはございません。私の演説は以上です。ご静聴ありがとうございました』
大きな拍手が起こる。そして、マイさんを含む全ての候補者の演説が終わった。投票結果は即時に開示され、結果が公表される。僕の計算が正しければきっと———
『———第2位、伯方 玲候補、238票。第1位、平沢 舞候補、239票』
1票差でマイさんが勝った。僕とマイさんだけで全校生徒の約半分の票を集めている。
『マイさん』
『ん?』
『負けました』
『っ!ありがとうございました!』
生徒会長就任挨拶直前のステージでの僕たちのやり取り。僕とマイさんが互いに頭を下げ、互いの健闘を讃えあった。このシーンは広報に載り、話題になった。そして今に至る。
「———という訳。だからいち生徒として負けた分、逆に僕はスッキリしているよ......ってアレ?」
なんかみんなが涙を流しているんだが。
「レイちゃんお疲れ様だよおぉぉぉ!」
「お兄ちゃぁぁぁん!素敵ですぅぅぅ!」
「レイぃぃぃ、頑張ったわねぇぇぇ!」
「正々堂々戦うなんて素敵だわぁぁぁ!」
『レイくん最高ぉぉぉ!』
「えぇ......」
ここまで泣かれるのは想定外なんだけど。この後、みんなを宥めてからパーティーは無事に開かれた。ちなみにこの話をリゼにもしたら———
「レイぃぃぃ!お前は真の漢だぁぁぁ!」
またしても泣かれたのだった。......どうして?
伯方 玲の意外な特技9「直感」
良い方向にも悪い方向にも大体当たる。自身の今までの経験の濃さ故か、かなり精度が良い。最近働いた直感は「いつメンの誰かに女装させられる予感」である。
レイの弟子になるのは誰?
-
ココア
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チノ
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リゼ
-
千夜
-
シャロ
-
その他
-
誰も取らない