ご注文は名人ですか?   作:神近 舞

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第5羽 ココアとレイと悪意なき殺意

 

〔1〕

 

 Side Cocoa

 

 今日はレイちゃんが帝位戦に出られるかが懸かった大事な一局だ。チノちゃんやリゼちゃんだけでなく、今日はお休みの千夜ちゃんやシャロちゃんもこの一局を見守っている。

 

「......後藤叡帝、強いですね」

「さっきから鋭い一手ばっかりだ」

「レイくんはどう返すのかしら......」

「レイ!そこで最善手を......指した!良かった!」

 

 中継の視聴者数を示す数字は10万人を越えている。すごいね、レイちゃんは。自分の持ってるものでこれだけ多くの人を魅了しちゃうんだもん。でも......。

 

「なんだか......レイちゃんが遠い存在に見えちゃうよ......」

「「「「......」」」」

 

 私は普段のレイちゃんを知ってるからこそ、将棋の世界にいるレイちゃんはどこか遠い存在に見えてしまう。......レイちゃんに近づきたいな。

 

 Side Out

 

 

 

 

 

「......負けました」

「ありがとうございました」

 

 帝位戦挑戦者決定戦。紅組全勝の僕と白組全勝の後藤叡帝の対局になったが、ギリギリのところで僕が勝利をおさめた。これで今回の帝位戦で白井帝位に挑むのは僕に決まった。

 

「伯方名人、帝位挑戦おめでとうございます。白井帝位とは名人戦ぶりの対局になりますが、自信のほどは?」

「正直自信はありません。白井帝位は今の将棋界でトップクラスの存在。生半可な研究では太刀打ち出来ない相手です」

「勝てる見込みは無いと?」

「そのようなことはありません。これまで幾度も退けた実力を発揮するまでです」

 

 インタビューの後、僕は後藤叡帝と話す時間があった。

 

「後藤さん、ありがとうございました。今回は良い一局が指せました」

「こちらこそありがとう。白井との将棋、楽しんでこい」

 

 彼は僕と同じで、白井竜皇からタイトルを獲ったことのある数少ない棋士だ。彼とはどこか波長の合う部分があり、楽しい対局が指せている。......しかし、楽しんでこいとは......。

 

「白井さんとの対局で何か分かったことでも?」

「ふむ......そうだな......いつか君にも分かるときが来る」

「そう......ですか......」

 

 戦ってこい、ではなく楽しんでこい。後藤叡帝は何を伝えたかったのだろうか。僕はそんな疑問を胸に抱きながら街に帰ったのだった。ラビットハウスに戻った僕に待っていたのは———

 

「「「「「レイ(ちゃん)(さん)(くん)、帝位戦挑戦おめでとう!」」」」」

 

 クラッカーを鳴らしてお祝いしてくれたココアたちだった。

 

「あはは......ありがとう。でも勝負はこれからだよ。また白井帝位相手に4勝しなきゃいけないんだから」

玉座(ぎょくざ)戦と竜皇戦はもう落としてるんですから気楽ですよね」

「ヴッ......」

 

 そう、玉座戦は挑戦者決定トーナメント2回戦敗退、竜皇戦は1組3位戦敗退のため、今期はチャンスが無い。他にあるのは一般棋戦のみだ。

 

「まぁ、一般棋戦としてテレビ放送の星河(せいが)戦や公共(こうきょう)杯、後旭日(あさひ)杯や金冠(きんかん)杯があるから......」

「今年はグランドスラムしてください」

「無茶言わないでほしいんだけど」

 

 一般棋戦グランドスラム。先に挙げた4棋戦を同年度中にすべて優勝することだ。過去に白井竜皇が成し遂げたことがあるので、今度は僕にも期待が向けられている。

 

「ひとまずは帝位戦!一般棋戦は一旦その後!白井帝位対策を強化しなきゃ」

 

 その言葉で締めくくり、パーティーが始まった。まるでもう勝ったかのように大賑わいだった。みんなに報いるためにも、勝たなきゃ。より一層心を引き締めた瞬間であった。それから約1週間後、僕は公共杯の対局の解説に出ていた。今日の対局は二回戦第一局、後藤叡帝VS鏑木 元気(かぶらき げんき)八段。後藤叡帝は「A級棋士と対局出来る機会なんてそうそう無い」とやる気になっていた。対する鏑木八段も「この前の帝位戦挑戦者決定リーグのリベンジだ」と燃えていた。

 

「2人ともやる気は十分とのことで、私は良い対局を見られそうで嬉しい限りです」

 

 僕は無難にそう返し、対局が始まった。対局は角換わりで進行したが、早速定跡から外れた手を鏑木八段が見せる。後藤叡帝は少し固まったものの、何とか食らいついてみせる。

 

「完全に定跡から外れましたね。ここからは事前研究がものを言う領域になるでしょう」

 

 両者持ち時間をすり減らし、終盤に突入。後藤玉を詰ませられたら鏑木八段の勝ち、逃げ切れば後藤叡帝の勝ちだが———

 

「これは詰ませられる形ですね。6七の地点を抑えられたら後藤玉は詰みます」

 

 時間をすべて使った鏑木八段は僕が見つけた筋に気付いたようで、6七を封じ込め始める。後藤叡帝は必死の抵抗を見せるものの、惜しくも及ばず投了。三回戦にいち早く駒を進めたのは鏑木八段だった。収録が終わり、街に戻ったタイミングで僕を待っていたのは———

 

「ココアと千夜が......倒れてる......?」

 

 公園で倒れているココアと千夜、そしてその光景を呆然と眺めているチノちゃんとリゼさんの姿だった。

 

 

 

 

 

〔2〕

 

 公園に降り立った僕たち。木の棒でココアの周りに線を書くチノちゃん。勝手に殺さないで?

 

「この状況、どう見ます?」

「ふむ、現場に残された物は......一つのボール」

「2人ともなんで死んだことにしてるのさ」

「あっ!球技大会の練習と言うのは建前で、お互い叩きのめし合ったと言う事か!」

「どうしたらそう見えるの!?」

 

 倒れたココアが起き上がってリゼさんにツッコんだ。

 

「生きてたか」

「逆になんで死んでると思ったのさ......」

「バレーボールの練習をしてたの......」

 

 倒れていた千夜がフラフラしながら立ち上がる。

 

「それがどうしてこうなったのですか?」

「ボールのコントロールが上手く行かなくて......」

 

 千夜は回想を始める。バレーの練習中、千夜が息を切らしてた。

 

『ハァ......ハァ......ハァ......もう無理......私当日休むから......』

『努力あるのみだよ!今度はトスで返してね』

 

 ココアがボールをトスして千夜にパスする。

 

『トス......トス?......トス!? トスって何ー!?』

『グハッ!?』

 

 しかし千夜は間違えてスパイクをした。ボールがココアの顔面にダイレクトアタックし、ココアは倒れた。

 

『体力の......限界......』

 

 それと同時に体力を使い切った千夜も倒れた。その数分後に僕たちが来たと言う事になる。回想終了。

 

「千夜ちゃん......和菓子作りと追い詰められた時だけ力発揮するから......」

 

 話を聞いたリゼさんとチノは寒気を感じてガクガク震えていた。

 

「何をどうしたらそうなるんだ......」

「これじゃあ、チームプレーも難しいな」

「顔に当てたら反則なんだよ?」

「嘘!? 知らずにやってたわ!」

「えっ......わざとじゃないよね......?」

「確か顔面はセーフじゃなかったですか?」

「セーフだけどSafeじゃないよ......」

「なーんだ。良かったー」

「全然良くないよ!」

 

 そりゃそうだ。ココアからしたらたまったもんじゃない。

 

「ちなみにチノちゃんとリゼさんは何故ここに?」

「私のバドミントンの練習をリゼさんが手伝ってくれることになりました」

「親父直伝の技を教えようと思ってな!」

「......それ、バドミントンと言う名の殺戮行為じゃないですよね?大丈夫ですよね?」

「チノにも似たようなことを言われたが、私のことを何だと思っている」

「イイエ、トクニナニモ」

「嘘だッ!」

 

 それ、無関係の別の人。その後、僕が柱を立てて、ネットを張る。

 

「これで良し。何時でも練習出来るよ」

「よし。チノー!私達も練習するぞー!」

「はい!」

「行くぞー!」

 

 シャトルを飛ばすリゼさん。チノちゃんが返そうとするが、位置が合わず外してしまった。

 

「す、すみません......」

「あっはは。落ち着いてやれよ?」

「は、はい!」

 

 ココア・千夜組とは大違いだな......。

 

「次行くぞー!」

「お願いします!」

「私そっち行きたい!」

「「ダメ(だ)」」

「せめて、関係ない人を当てちゃう癖を直さないと......」

 

 そうだぞ。さっき僕も被害受けかけたぞ。ギリギリ回避したけどさ。

 

「今度はレシーブで返してねー!」

「チノー!行くぞー!」

 

 その時だった。

 

「わっ!?」

「あっ!」

 

 ココアがボールを勢い良く飛ばして、リゼさんの手が滑ってラケットが飛ぶ。二つが飛んでいく方向には千夜が立っていた。

 

「千夜ちゃん!」

「危ない!」

 

 直撃されそうになる。クソッ!

 

「間に合えぇぇぇ!」

 

 咄嗟に僕が間に入り庇う。しかし———

 

「あっ!靴紐が......」

「えっ......」

 

 しゃがんで靴紐を結ぶ千夜。2つの危険物の目の前には僕。したがって———

 

「グニャー!?」

「「「レイ(ちゃん)(さん)!? 大丈夫(ですか)!?」」」

「あっ......ごめんなさい......」

 

 誘爆するが如く、僕は被弾したのだった。......痛い。

 

「さすがに痛い......ダブルは効いたよ......」

「千夜さん、自分の危険は回避出来るんですね......」

「リゼちゃん!交代してー!」

「......僕は休んどくよ」

 

 ココアは泣きながらリゼさんに頼む。僕は隅に移動する。

 

「しょうがないなー」

「ココアさん、バドミントン出来るんですか?」

「任せて!」

 

 左右に飛びながら構えるココア。チノちゃんがシャトルを飛ばす。

 

「私の華麗なる振りを見ててね!」

 

 だが、シャトルに当たらず頭に当たってしまった。これにはチノちゃんも呆れる。

 

「見ないでー!」

「どっちですか?」

 

 両手で両目を隠すココア。その刹那———

 

「見な———ぐわっ!」

「ああ!ごめんなさい!」

 

 またもや千夜のボールがココアの顔に激突した。

 

「私......周りに迷惑掛けてばっかり......」

 

 縮こまった千夜は自虐的な言葉を言う。ココアはフラフラしながら立ち上がる。

 

「意図的に入り込んだ僕を除けば、全部ココアにしか当たってない気がするんだけど......」

「だとしたらそれは愛です!ココアさん!私に華麗なる顔面レシーブを見せて下さい!」

「そんな愛嫌だ!」

 

 僕だって嫌だ。

 

「よし!みっちり鍛えてやるからな!」

「何で私の特訓になってるの!?」

「やめたげなよ。さすがにココアが可哀想だ」

 

 そう思っていたときだった。

 

「千夜ー!おばあさんが帰りが遅いって心配してたわよー!」

「あら?シャロちゃん!」

「おっ!シャロもちょっと寄ってくかー?」

 

 シャロが現れた。シャロは僕とリゼさんの方向を向いて何か後悔したような表情をしている。どういうことだ?

 

「その格好なら動きやすいし大丈夫だよー」

 

 そう、シャロの服装はジャージ姿。運動するにはうってつけだ。

 

「被害者———人数は多い方が楽しいよー」

 

 おいこらココア、参加者のことを被害者と言うんじゃない。

 

「それでは、バレー勝負を始めます」

 

 何故か強制的にシャロも参加させられることになった。

 

「なんで!?」

「頑張りましょうね♪」

「......なんだかシャロが可哀想に見えてきた」

 

 シャロが絶望した顔をしていた。まるでリゼさんに敵わないと言わんばかりの顔だ。すると、ココアがシャロの両手を握った。

 

「シャロちゃん、今こそあの状態になるべきだよ」

「えっ!? で、でもそんな事......恥ずかしい......」

「ちょっと待ってて!すぐ戻るから!」

「待って!まだ使うって決めてない!」

 

 そしてココアがシャロに与えたのは———

 

「バリーボール大好きー!」

 

 カフェインたっぷりのコーヒーだった。ひどい、ひどすぎる。

 

「カフェインでドーピングしましたね」

「うん!」

「うん!じゃないが」

 

 カフェインを摂ったシャロはスーパーハイテンション状態になってしまった。シャロ、ごめんよ。ココアの代わりに謝っとく。

 

「おっ!シャロやる気だなー!」

「何この状況......」

「それでは試合開始です!」

「行くぞー!」

 

 そしてバレーの試合が始まった。リゼさんがシャロにサーブする。シャロがそれを返す。その後リゼさんがレシーブ、リフティング、スパイクと連続で決める。

 

「フレー、フレー」

「あれ?」

 

 何故か千夜は何もせずにリゼさんを応援してる。おいこらサボんな。その後、シャロも次々と決めていく。今度はココアも次々と決めていく。更にココアとシャロが同時にトスする。そして———

 

「はっ!あっ!」

 

 遂に千夜がトスをマスターした。さすがだ。

 

「凄いぞ千夜!」

「やっとトス出来るようになりましたね!」

「うん!ありがとう!皆のおかげよ!」

「頑張ったな!」

「「ハァ......ハァ......」」

 

 ココアとシャロはもう体力の限界寸前だった。僕は2人の背中をさする。

 

「ココア、シャロ、大丈夫?水でも飲むかい?」

「これで、球技大会で勝てるかもしれないわ!よーし!」

「「「エイエイオー!」」」

 

 おい、そっちで団結してないで、こっちのことも見てあげてよ。その後の結果については僕は対局があったので詳しいことは分からない。しかし皆満足した表情になっていたので、まぁ、良かったのだろう。

 

 

 

 

 

〔3〕

 

 あれから数日後のラビットハウス。チノちゃんは何か考え事をしていた。

 

「どうしたのチノちゃん?」

「あ、いえ、もうすぐ父の日なので、何を贈ろうかと思いまして」

「そっかー!父の日か!」

 

 父の日......か。僕には両親はもういないし、師匠が父親代わりみたいなものだったからなぁ......。そんなことを考えていると、勢いよくリゼさんが現れた。

 

「明日から私は!他の店でのバイトをする事にした!」

「「「え?」」」

「シフトを少し変えて貰ったから、宜しく」

「リゼちゃんが軍人から企業スパイに......!」

「スパイなんて頼んでませんよ......!」

「軍人じゃないし、スパイでもない......!」

「2人ともリゼさんをなんだと思っているのか」

「じゃ、じゃあどうして?私達にはもう飽きたの!?」

「変な言い方するなー!」

「どうしたんですか。何かトラブルでも?」

「実は......」

 

 リゼさんは語り出す。

 

 

 

 

 

 Side Rize

 

 それは私が敷地内でバドミントンの練習をしていたときだった。

 

『パトリオットサーブ!パトリオットサーブ!パトリオット......サーブ!』

 

 パトリオットサーブを放った瞬間、手が滑ってラケットが飛んで、目の前の木にぶつけて反射して、親父の部屋のガラスを割ってしまった。しかし、それだけでは終わらなかった。

 

「親父のコレクションのワインを、1本割ってしまったんだ」

 

 親父のワインを割ってしまったのである。

 

「だから、父の日に親父が飲みたがってたビンテージワインを贈って、罪滅ぼしがしたい!」

「女子高生がそんな高価な酒を......」

「リゼさんが飲む訳じゃないから......」

「プレゼントなら、未成年でもワインを買えるし、バイトを掛け持ちしようかと!」

「成る程ー!それで、何処でバイトするの?」

「まずは———」

 

 甘兎庵だな。私は甘兎庵でのバイトを始めた。部屋の戸を開ける千夜。

 

「上手く着れたかしら?」

「ま、待て!まだだ。着物には慣れなくて......」

 

 和服というのはよくわからない。恥を忍んでレイに聞けば良かったな。

 

「あら着方が違うわ。左前にならないようにね。」

 

 着方を教える千夜。

 

「す、すまない、最初から素直に、着付けを頼めば良かったな......」

「あっ!そうだわ!」

「ん?」

「......!想像以上に似合う......!」

 

 私の胸に包帯を巻き、髪を結んだ千夜。これじゃあ侍じゃないか!

 

「ちゃんと着せろ!」

「リゼちゃんが来てくれるから、ミリタリー月間にしようと思うの!」

 

 迷彩の軍事ヘルメットを被る千夜。

 

「しなくていい!」

「抹茶の迷彩ラテアートよ」

 

 迷彩ラテアートを差し出す千夜。

 

「悪くは無いが気持ち悪い!」

 

 そして私たちはモデルガンを持つ。

 

「私もモデルガンを装備してみました!」

「何だこのイメージ!? ついポーズを取ってしまった!?」

「こんなに連続でツッコまれるの初めて!ついはしゃいじゃった☆」

「わざとボケてないよな?」

 

 そしてバイトが始まった。トレーにおしぼりと水を乗せる。

 

「あんまり見つめるなよ?」

「あっ!......すみません......とっても良くお似合いなので......」

 

 和服姿の私を見つめているシャロ。おしぼりと水を置く。

 

「それで何にす———あっ!......しますか?」

「あっ......えっと......この『黒曜を抱く桜華』って何ですか?」

 

 メニューを見て、質問をするシャロ。

 

「黒曜を抱く?......えっと......」

 

 すると千夜が桜餅を持って来た。

 

「はい。こちら新作の『黒曜を抱く桜華』よ」

「ああ、桜餅か」

「相変わらずね。お客さん混乱しないの?」

「初めてのお客様には指南書をお配りしてるわ」

「なら、最初から普通の名前で良いじゃない」

「そうかしら?こちら新作の桜餅です」

 

 普通の名前で言う千夜。だがしかし。

 

「ダメよ!普通過ぎる......!私......負けちゃう!」

「誰によ?」

 

 何に対してだ。その夜、甘兎庵のバイトを終えた私。

 

「あ、あの......リゼ先輩、明日からは、フルール・ド・ラパンでもバイトするんですよね?」

「甘兎と日替わりで、よろしくな」

「はい!楽しみにしています!では明日!」

「またなー!」

 

 シャロが遠くまで行き、曲がり角を曲がる。そこにシャロの姿は無かった。翌日、フルール・ド・ラパンの更衣室。私はフルールの制服を着ていた。するとそこにシャロが来た。

 

「服のサイズ、大丈夫でしたか?」

「問題無い」

「......」

「へ、変だったら、正直に言えよ?」

「いえ、先輩が着ると、この制服、いかがわしさが増すな......と」

「どう言う意味だ?」

 

 店の表に出た私たち。

 

「あの先輩、いらっしゃいませのときは、恥ずかしいとは思いますが、仕草を変えて『いらっしゃいませー!』っと、こんな感じでお願いします」

「分かった......い......い......いらっしゃいませー!」

 

 勇気を持って仕草を変えて言った私。何故かシャロが恥ずかしがる。

 

「って!お前が照れてどうする!?」

「すみません!何故かいけない物を見た気がして......」

 

 するとお客様が来店してきた。

 

「「いらっしゃいませー!」」

「あっ......どうも、2人とも」

「「レ、レイ!?」」

「あー今日は非番でね......似合ってるよ......2人とも」

「「〜〜〜ッ!」」

 

 レイに見られるのは聞いてない!恥ずかしい〜!

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 僕は僕で父の日の準備をしていない訳では無い。誰に送るのかって?昔から父親代わりをしてくれた師匠、春生 芳治九段に対して、だ。

 

「といっても、贈るモノなんて限られているけれど」

 

 自分なりに師匠に贈れるモノとは何かを考えた結果、これしか浮かばなかった。

 

「久しぶりに来てくれたね、玲」

「ただいま、父さん」

「......ん?そのノートは?」

「今日は父の日とのことです。ですので、自分なりに恩返しをしに来ました」

 

 僕が渡したのは僕なりに調べた「白井 創太の弱点まとめノート」これを参考にタイトル戦に挑んでほしいという僕の気持ちだ。

 

「僕は師匠がタイトルを持ってる姿をもう一度見たい。ですから、それが僕の貴方への恩返しです」

「......そうか」

「今日は僕に料理をさせてください。ご馳走しますよ」

「......この9年間、玲は元気に育ってくれた」

 

 ......えっ?

 

「私が最初に玲を拾った理由を覚えているかい?」

「えぇっと......孤児だった自分の将棋を見て才能を感じたから......だと仰ってましたよね?」

「それもある。だが一番は———私を倒す存在になってほしかったから」

「......えっ?」

「七冠を独占したあの日から、私=将棋界最強になった。挑戦者は軒並み怯えるばかりだった。そんなときに君を見つけたのは運命だと思った」

 

 語られる真実。僕にはどれも衝撃的すぎた。

 

「君の手で私を......私の時代を終わらせてほしかった。だから———」

 

 師匠は和服を翻し言い放つ。

 

「続きは、タイトル戦で」

「......!」

 

 ギラギラと放つ眼光が、僕を射止める。その光の強さに、僕は飲み込まれそうになった。その先のことはあまり覚えていない。何故かって?この強い衝動が生まれたからだ。

 

「———タイトル戦で、師匠を倒したい」




この世界の将棋界の事情5
前期順位戦結果(スコア)→今期A級順位戦結果(スコア)
 名人: 伯方 玲名人(A: 9-0)→名人防衛(4-1)
 1位: 白井 創太竜皇(前期名人)→1位(7-2)→挑戦失敗(1-4)
 2位: 広島 雅之九段(A: 6-3)→4位(5-4)
 3位: 皆瀬 琢也九段(A: 6-3)→2位(6-3)
 4位: 真辺 明九段(A: 5-4)→5位(5-4)
 5位: 永井 達也八段(A: 5-4)→9位(2-7)→A級陥落
 6位: 秋葉 陽八段(A: 4-5)→10位(2-7)→A級陥落
 7位: 加藤 甘彦九段(A: 4-5)→3位(6-3)
 8位: 鏑木 元気八段(A: 3-6)→7位(4-5)
 9位: 牧村 大地八段(B1: 10-2)→6位(5-4)
10位: 安田 泰宏八段(B1: 9-3)→8位(3-6)

レイの弟子になるのは誰?

  • ココア
  • チノ
  • リゼ
  • 千夜
  • シャロ
  • その他
  • 誰も取らない
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