〔1〕
Side Sharo
ある朝の甘兎庵にて。私は外に逃げ出していた。
「いやあぁぁぁぁぁ!」
理由は、私のトラウマのあんこが追い掛けて来たからである。
「いやあぁぁぁぁぁ!来ないでぇぇぇぇぇ!」
遂に裏路地まで追い詰められてしまった。
「それ以上近付いたら、舌噛むから!」
私は自分の死を覚悟した。その刹那———
「あんこ?こっちおいで」
「......!」
私の救世主が現れた。今日免状を書く予定のレイだった。
「ほらほらー、良い子だからこっちおいでー」
「あっ......!」
レイのお陰で救われた私。あんこはレイが抱えてる。うさぎ恐怖症の私をよく助けてくれる———将棋棋士という1人の社会人としても———レイは、私にとっては憧れの存在だ。
「甘兎庵に返してあげなきゃねー」
もし私がレイのような性格だったら、貧乏でも堂々としていられたのかな?
『特売ですね。みなさん、私に道をお譲りなさい』
上品な着物を着て、周りの客達を退かす。そして堂々と前へ進む私———
「はっ!ごめんなさい!ごめんなさい!私ったらいけない想像を!」
「どういうことだよ」
あぁー......恥ずかしい......。
Side Out
その日の免状業務終わりのこと。シャロが自分の家に招待してくれた。
「甘兎庵の隣だったんだね」
「まぁ......つまらないものしかないけれど......」
「シャロとお話出来るだけでも僕は嬉しいんだよ?」
「......!またそうやって人を喜ばせるような言葉を......!」
......?あまりにも小さすぎてよく聞き取れない。
「ごめん、何か言った?」
「何も言ってないわ」
「そう?まぁ良いや。お邪魔します」
シャロの家は元々甘兎庵の物置だったらしいが、その面影は無く十分に人が居住出来るような環境になっていた。
「はい、心が落ち着くハーブティー」
「ありがとう......うん、美味しい。シャロのハーブティーなら何杯でも飲めちゃいそうだよ」
「......もしかしてレイって女たらし?」
「何をどうしたらそんな見解になるのさ」
僕が女たらしな訳ないだろう。その証拠に———
「周りの女流棋士には、恐れられているのかは分からないけど避けられてるんだから......仮に僕が女たらしならそうはならないだろう?」
「......それって畏れ多いと思っているファン思考なんじゃ......」
......そうかもしれない。あの人たちの見る目、たまに怖いもん。
「あっ、そうだ!私の宝物を見せてあげる!」
「宝物?」
そう言うと、シャロはガサゴソと何かを探し出した。そして、額縁を取り出した。額縁の中に入っていたのは、連盟会長である師匠、名人である僕、竜皇である白井竜皇の署名が入った、シャロをアマ初段と認定する免状だった。これってもしかして———
「これ!レイが名人になってすぐに申請したの!」
「これ......僕が名人になって初めて署名した免状だ」
「そうなの?」
「うん。桐間って苗字を聞いてもしかしてと思ったんだけど、そっか。シャロが受け取ってくれたんだ......」
そう思うと、なんか嬉しいな......。
「そっか......レイ、これからも頑張って。棋士としても、1人の人間としても応援してる」
「......ありがとう」
......負けられない理由がまた増えたな。その後、シャロと一局指したり、お互いの苦労話をしたりした。シャロと少し親密になった気がする。ちなみにシャロは受け将棋が得意で、アマ二段相当の棋力を持ってた。
〔2〕
ある日のラビットハウス。今日のチノちゃんはちょっと不機嫌になっていた。
「レイ、ココア。今日のチノ、機嫌悪くないか?」
「だね......僕は心当たり無いけれど......。ココアは何か知ってる?」
「えっ?そうかな?」
ココアは回想し始める。
『チノちゃーん!モフモフー!』
『やめてくださいココアさん』
モフモフしようとするが拒否られる。別の場面、うさぎのラテアートが出来て満足になるココア。
『ココアさん邪魔です』
しかし、途中で皿を運んでるチノにぶつかってミルクをこぼす。
「チノちゃんはいつも私にツンツンだよ?」
「いつもそんなあしらわれ方されてんの?」
「いくらなんでもチノちゃんに甘すぎだよ」
そこで僕とリゼさんは、昨日何があったのかを聞くためにチノちゃんを裏に呼んだ。
「何かあったのか?」
「僕とリゼさんが相談に乗ってあげるよ?」
「昨日、ココアさんと私の部屋で遊んでる時に———」
チノちゃんは回想し始める。それは昨日の夜、ココアがチノちゃんの部屋で遊んでるときのこと。
『ちょっとお手洗いに』
『行ってらっしゃーい!』
お手洗いに向かったチノちゃん。済ませた後に待っていたのは———
「戻って来たら、毎日少しずつやるのが楽しみだったパズルがほぼ完成状態に」
なんとお手洗いに行ってた間、ココアがパズルを勝手にやってしまったのだった。
「えっ!?」
「しかも、1ピース足りなかったんです」
「Oh......」
この事をココアに告げる。すると———
「えー!? チノちゃん喜ぶと思ったのにー!」
「ココアがチノちゃんの楽しみを台無しにしたから、あんなに機嫌が悪くなったんだと思うよ」
「で、でもパズルのピースは最初から無かったよ?」
「無くしたのはココアだと思ってないのだろうけど、楽しみが取られてショックだろうな」
「......私......私......お姉ちゃん失格だぁぁぁぁぁ!」
ココアはそう叫んで店を飛び出した。
「「先に謝っとけよ......」」
しばらく時間が経ち、夕方になってもココアは帰って来ない。
「ココアが帰って来ない......」
「チノちゃん、ココアに悪気は無かったんだから、許してあげたらどうかな?」
「ですが......あんな態度を取ってしまった以上、普通に話すのが恥ずかしくて......」
「あぁー......確かに。気まずいよね......」
ココアは全く気付いて無かったけどね。そんなことを思っていると、
「チノちゃーん!」
さっきまで帰って来なかったココアがパズルの箱を持って帰って来た。
「新しいパズル買ってきたから許してー!」
「8,000ピース!?」
「多すぎるよ!」
パズルのピースの数はなんと8,000ピースだった。その夜、諸事情により千夜とシャロを招き入れた。
「協力して欲しいって......」
「これなの?」
僕たちでは8,000ピースのパズルがあまりにも進まなかったため、千夜とシャロを招いたのである。
「手伝って〜......」
「始めたものの終わらないんです......」
「一回崩しちゃえば?」
「勿体無いよー!」
「......シャロ、見なよ。今のリゼさんを止めるのは無理だ」
パズルで気分上々になってるリゼさん。
「楽しい......!」
「た、確かに......仕方ないわね!手伝ってあげるわよ!」
「本当ー!?」
そして僕たち6人でパズル完成を目指す。
「ジグソーパズルなんて久しぶりー!」
「端から作って行くのが楽なんだよねー」
しかし千夜は、持ってるピースが合わなくて困っていた。
「チノちゃんが作った所と合体ー!」
「合いそうですね」
シャロが作った所とチノちゃんが作った所がピッタリ合った。
「こっちも、リゼちゃんが作ってた所と合体だよー!」
リゼさんとココアのピースがピッタリ合った。千夜は頑張って合うピースを探すが、どれも合わなかった。
「シャロちゃん......1ピースも合わせられない役立たずが、ここに居ても良いのかしら......」
「はぁ......」
自暴自棄になり自虐的になってしまった千夜。その後、シャロがピースを嵌めようとしたその時、僕と重なってしまった。
「レレレレレレイから先に良いわよ!」
「いや、シャロの方が合ってるっぽいよ?」
「そ、そんなこと無いわよ〜!」
「だってほら、形が」
「いいや、レイが先に!」
「いや、シャロが」
そんな問答をしていたが、千夜がピースをはめるとピッタリ合った。
「あー!はまったー!」
「「......」」
「あっ!」
「どうしたのよ?」
「ううん、何でもないわ」
しばらく時間が経ち、僕たちの大半は集中力が切れてた。
「みんな、集中が切れかかっているよ......」
「おーい!ハートマークが出来たぞー!」
何故かリゼさんからピンク色のオーラがあふれ出ていた。
「リゼ先輩!疲れてるなら休憩して下さい!」
ココアを見るチノちゃん。ココアは1ピースをじっと見て動く気配も無い。
「......そ、その、責任取ろうとしないで下さい......私、もう怒って———」
だがココアは寝ていた。なにしてるんだ。
「寝てる!?」
「あっ!」
チノちゃんの言葉で目が覚めたココア。
「も、もう一息!頑張らなくっちゃ!もう少しで完成だもん!」
「そうです!」
「ラストスパートね!」
「ええ!」
「みんな、気を引き締めていくよ!」
みんな気を取り直してやる気を見せた。
「これ、下に何も敷いてないけど、どうするんだ?」
「「「「「Oh......」」」」」
そのとき、みんなの動きが固まってやる気が切れた。
「マズい、何も考えて無かった......」
「私、さっき気付いてたのに、この空気になるのが怖くて言えなかった......もっと早く言ってれば、私のせいで......」
「余計空気が重くなるから、自分を責めるのはやめて!」
すると、だれかのお腹の虫が鳴った。音の方向的にシャロだろうか。
「ごめん、僕の腹の虫だ」
「......!」
「お腹空いたねー。ホットケーキ作ってくるよー!」
「あっ!手伝います!」
「僕も行くよ。みんな、あとは頼んだよ」
僕たち3人はキッチンに向かった。ココアがホットケーキを焼いているが大丈夫だろうか。
「ココア、上手く出来るの?」
「私ね、最近ホットケーキ宙に浮かして返せるようになったんだよー?見ててねー。行っくよー!えい!」
ホットケーキを宙に高く浮かせた。するとホットケーキが僕の頭に———
「ホニャー!?」
「「レイちゃん(さん)!?」」
直撃した。急いでホットケーキを皿に移動させる。熱い。
「レイちゃんごめーん!」
「ココアさん......」
「チ、チノちゃん......?」
「最低です」
その一言にショックを受けたココアはチノちゃんの部屋に駆け出す。
『うわーん!チノちゃんが口聞いてくれないよー!』
『自分でどうにかしろよ』
キッチンでは、チノちゃんがホットケーキを焼いていた。僕は顔を上にして顔面に水袋を乗せてココアの隣に座ってる。さっきは熱かった。
「そろそろ焼き上がるので、先に運んで———レ、レイさん......」
「ん?どうしたチノちゃ———あれ?」
テーブルを見ると、ココアがケチャップを使ってテーブルの上にダイングメッセージとして『死してつぐないます』と書いていた。チノちゃんは急いで自分の部屋に移動する。
『大変です!ココアさんがケチャップで死んでます!』
『えっ!?』
キッチンに戻ったチノちゃんは、ココアの顔を拭いてあげてる。
「ごめんねチノちゃん......」
「私も素っ気ない態度を取ってしまいました......レイさん、顔は大丈夫ですか?」
「もう大丈夫だよ。そっちに被害が無くて良かった」
「でもね、初めて姉妹っぽい喧嘩出来て、ちょっと嬉しかった!かも」
「えっ?」
「うさぎも気を引きたくて、死んだふりをするんだよ?」
「ココアさんはうさぎと言うより笑顔が、ウーパールーパー」
「ウーパールーパーかぁ。複雑!」
謎のチョイスすぎる。その後、ホットケーキを食べた僕たち。
「ごちそうさまでしたー」
「美味しかったなー」
「はいー」
「この知恵の輪難しいね」
うさぎ型の2枚の輪が重なっている知恵の輪を攻略してるココア。
「おじいちゃんが作ってくれたんです」
「チノって、パズルゲーム好きなんだな」
「難しくて何度挑戦しても出来なかったんですが、いつか自分の力で解いて、おじいちゃんをあっと言わせて見せます!」
そのおじいちゃんなら、ティッピーとしてここにいるけどね。
「しかし、最初にやってたパズルのピースは何処に行ったんだろうなー」
「そう言うのって、忘れた頃に見つかりますよね」
「確かにね。僕も師匠の家で対局してたときに『步が1枚見つからない!』って大騒ぎになったっけ」
「シャロちゃんは学校にランドセル忘れたまま帰って来た事があったわ」
「ッ!」
「明日学校行けなーいって泣いてー」
「レ、レイやリゼ先輩の前で昔の話はやめてよ!」
そう言ってシャロはベッドを叩いた。叩いた反動でティッピーが飛んだ。するとティッピーから何か小さい物が落ちてきた。
「チノちゃん、これって......」
「なくなったピース......」
「なんだ、ティッピーの中にあったのか」
なんとあのときのパズルのピースだった。
「良かったー!これで完成だねー!」
「はい!」
「ん?ちょっと待ってココア、知恵の輪———」
僕の忠告も虚しく、チャリッ、と音が響いた。
「あっ......」
ココアは嬉しさのあまり、知恵の輪を一瞬にして解いてしまった。
「「あぁ......」」
「まぁ」
「あ、あはははは......」
「終わったな......」
怒ったチノちゃんは頬を膨らませた。
「ココアさん!」
「はい。お姉ちゃんって......」
「呼びません!レイさんはお兄ちゃんって呼びますけど!」
「なんでさ」
僕を張り合いに出すな。あと僕はチノちゃんを妹とは思っていません。......思ってないからね!?
〔3〕
翌日。僕は対局等が無いので、ココアと一緒に学校に登校した。途中で千夜に出会った。
「おはよー千夜ちゃん!」
「おはよう、千夜」
「おはようレイくん、ココアちゃん。チノちゃんのご機嫌直った?」
「朝になったら許してくれたよ。あれ?穴がー!」
よく見ると、千夜のタイツに穴が空いてた。
「やだ!」
「このままだと目立っちゃうね。絆創膏で穴を塞ぐのと、ペンで肌を黒くするの、どっちが良い?」
「大丈夫よ」
するとタイツをその場で脱ぐって———!
「その手があったかー!」
「ボクハナニモミテイナイ、ナニモミテイナイ」
その後、僕の見ぬ間に白ソックスに履き替えた千夜。昼になり、みんなで弁当を食べる。
「おじさんの作った栗きんとん美味しいねー!」
「タカヒロさんの料理......参考になる部分があるな......」
「えぇ......」
しかし、千夜は弁当を一口も食べてなかった。
「お弁当食べないの?」
「食欲無くて......」
なんだか落ち込んでいるように感じる。
「悩み事があったら言ってね」
「僕も相談に乗るよ?」
「ありがとう。でも良いの。これは私の問題だから」
その後、ラビットハウスに帰って来た僕たちは2人に千夜の事を話した。
「千夜が落ち込んでる?」
「そうなの」
「レイさんはまだしも、ココアさんは私が怒ってるときは気が付かなかったのに、千夜さんの様子がおかしいときは気が付くんですね」
まぁ、あれは......ねぇ......。
「チノちゃんの事はちゃんと見てるよ!」
「えっ?」
「考えてると言うか......」
「方向性がなんか違う......」
「実は......私に悩みが......」
「辛い事があったら我慢せずに私の胸に飛び込んでおいで!」
「相談に乗るから何でも言えよ?精神のブレは戦場では命取りになるからな」
悩むチノに必死に相手にしたがるココアとリゼさん。しかし———
「成長が止まった気がします......」
「精進あるのみじゃ」
「効率の良い方法を模索しようか」
「「スルー!? そしてレイ(ちゃん)ズルい!」」
相談相手は僕とマスターだった。なんか、ごめんよ。その夜、僕とココアは甘兎庵に向かった。しかしそこに居たのは———
「ん?シャロちゃん?」
体育座りして落ち込んでるシャロだった。
「シャロ?千夜の家の前で何落ち込んでいるのさ?」
「朝、起こしに来た千夜とちょっともめてしまって......」
「だから落ち込んでたの?」
「追い掛けて来たのを振り切って学校に行ったんだけど......」
シャロは回想する。それは今朝の出来事。
『シャロちゃぁぁぁぁぁん!あぁ!』
千夜はシャロを追い掛ける途中転んでしまった。タイツが破れていたのはそれが理由か。
「罪悪感が......」
「それで仲直りしたいんだね」
「でも!千夜だって悪いのよ!成長するようにって、毎朝しつこく牛乳を押し付けて来るの!胸が無いからって!」
「身長の心配だと思うよ!?」
......これ、僕が聞いて良かったのか?
「うぅぅ......」
「よしよし」
泣いてるシャロを撫でる僕。シャロは赤面してた。
「千夜ちゃん凄く落ち込んでたよ?あんなにショボンとしてるの見たの初めて」
「そ、そんなに?」
「幼馴染って良いなー」
ココアはシャロの手を掴んで立たせる。
「行こっ!一緒に会えば、恥ずかしくないでしょ?」
「お店に入りづらいのはそう言う理由じゃなくて!」
店を覗いてあんこを見る。
「アイツが怖いの!私の顔を見るなり噛み付いて来るから!」
「あー......そういうことか」
「それなら私に任せて!私が守るよ!」
ココアは作戦を思い付いて来店する。
「いらっしゃいませー、え?え!? あぁ!ご、強盗!?」
来店して来たのは、モデルガンを持ってるココアと、紙袋を被ってるシャロと、某大量殺人鬼のマスクを被ってる僕だった。
「私だよ、私!」
「僕だよ!レイだよ!」
僕は例のマスクを外す。
「あ!レイくん、ココアちゃん、どうしたの?あぁ......」
千夜が突然フラフラになって倒れそうになり僕が支える。
「だ、大丈夫!? お昼も食べてなかったし!」
「食欲が無いの......」
「もうオーダーストップしてる時間よね!キッチン、借りるわよ!」
「あっ......」
シャロが被ってる紙袋を破く。その刹那、あんこがシャロを追い掛ける。
「Nooooo!」
あんこに追い掛けられて外に逃げるシャロ。
「キッチンはそっちじゃないよ!?」
「今助けるからね!」
その後、僕たちはシャロを助けた後、キッチンで夕食を作る。シャロが味噌汁を味見する。
「こんなもんね」
「お味噌汁作ってるシャロちゃんって、意外と様になってるねー。お母さんが恋しくなっちゃった」
「な!や、やめてよー!」
母親......母親か......。
「ところでお母さん、さっきからワカメの増殖が止まらないの」
「入れ過ぎ!」
「何してんの?」
その後、ココアはタマネギを切る。連続で切ったお陰で泣いてしまった。シャロも巻き込まれた。僕?メガネを付けてるから問題無し。
「タマネギで涙が止まらないよー!」
「娘なら邪魔しないでよー!」
「カットに集中しなー」
「アナタはなんで平気なのよー!」
「メガネかけてるから?」
「お父さんの裏切り者ー!」
心外な。
「3人共、私のために夕食作ってくれてるの?」
「しょ、食欲無いって言うから、食べやすくて体に良いものを」
「嬉しい!でもシャロちゃんはお母さんって言うより......生活に困っても、愛があれば大丈夫!っな新妻役でお願いするわ」
「ちゃっかり会話聞いてるんじゃないわよ!」
「レイくんは、仕事第一主義で家庭を顧みられない時代遅れの夫役でお願いするわ」
「なんでさ」
「......その......」
「ん?」
「朝は逃げてごめんなさい......」
「シャロちゃん......!」
「ね!千夜ちゃんも元気出して!」
「ごめんなさい!そのね......」
それは、今日の昼の時。
『お弁当のおかず、交換しよ?』
回想終了。
「チノちゃんのお父さんが作った栗きんとんが、私の作った和菓子より美味しかったなんて、恥ずかしくて言えなくて......」
「そうだったんだー!」
そんなことだったのかよ、心配して少し損したぞ。
「そう言えば!今朝渡したかった物だけど」
「ん?牛乳じゃなかったの?」
「これがうちの木に引っ掛かってたの」
「ニャ!?」
「ほにゃ!?」
千夜が袖から取り出したのは、シャロのパンツだった。
「追い掛けても逃げるように学校へ行っちゃうんだもん」
「これ振り回して走ってたんじゃないんでしょうねー!? この和菓子バカー!というか、レイがいることも考えなさいよ!」
「白かー」
「ボクハナニモミテイナイ、ナニモミテイナイ」
いくらなんでもシャロが不憫すぎる。
〔4〕
後日、公園にてラビットハウスの宣伝をするために、僕とリゼさんは公園に出向いていた。すると———
「ん?」
「えっ?」
「退いて下さい!お願いします!お願いします!お願いします!」
うさぎに向かって土下座をしてるシャロを発見した。
「お願いします!お願いします!」
「はいよ、外におかえり」
僕は野良うさぎを持って退かした。
「レイィ......!」
「大丈夫かシャロ?」
「リゼ先輩!」
僕は野良うさぎを、シャロを視界に入れない位置に降ろして逃がした。
「あ、ありがとう......2人とも、その服で外に居るなんて珍しいですね」
「ココアが企画した、夏のパン祭りのチラシ配り担当に任命された」
「僕もだね」
ラビットハウスのチラシには『パン祭り。焼きたてパンが食べ放題』と書かれていた。
「食べ放題......」
「シャロも来てみたらどうかな?」
「はっ!土曜日は一日中バイトなので......」
「そっか、残念だな......」
「メロンパン、お腹いっぱい食べたかったな......」
「おすそ分けするから、楽しみにしててね?」
「あ、ありがとう」
「さて、やるか」
配る時、腰を少し曲げてチラシを前に出す。
「こうやって配れば、受け取ってくれるのか?」
「はい」
「フルール・ド・ラパンをよろしくお願いしまーす!」
「リゼさん!無意識にフルールの宣伝になってます!」
僕は所定の位置につき、チラシを確認する。......えっ?
「
しかも「うぇるかむかも〜ん」ってなんだよ。これ書いたのココアだったよな......。画力はあるから期待してたのに......。
「これからは僕も監修しなきゃな......あるいはPCで作るのもアリか......リゼさんに報告しよう......」
僕はリゼさんのところに向かう。
「リゼさん!一旦チラシ配りストップしてください!」
「レイ?」
「......?どうした?レイ」
「ココアがスペルミスしてました!これでは宣伝になりません!」
「何だと!? ......本当じゃないか!」
「チラシ配りストップー!」
「待ってくださいー!」
その後、事態の重さに気付いたのか、ココアとチノちゃんが駆け付けて来た。
「あ!シャロさん!」
「スペル間違えちゃった......」
「「知ってる」」
「えっ」
「というか僕が気付いた」
「しょうがない、残りは書き直して———」
刹那、風が吹き始めた。風で「ラビットホース」のチラシが舞い上がっていく。
「うえぇぇぇぇぇ!」
バラまかれてしまったチラシを拾う。木に引っ掛かってるチラシを取ろうと、チノちゃんがココアの背中に乗って取ろうとする。
「動かないで下さい」
「本当に馬になるなんて......」
すると木から何かが落ちた。
「あ、大きい虫が落ちました」
「うわぁー!なんて事をー!」
虫がリゼさんの頭に落ちた。リゼさんは怯えてしまった。
「意外な一面ですね」
すると、シャロが虫をすぐ追い払う。
「おー、お前も意外とたくましいな」
「家の隙間からよく入ってく———何でも、ないです......ッ!」
なんと、先ほどの野良うさぎが戻って来て、シャロの足をペロペロ舐めてた。
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
「でも、うさぎがダメなんだな......」
「まぁ......仕方ないですよ」
うさぎが舐めてるのは親愛の証なんだけどね......。
「このちっちゃい子なら大丈夫でしょ?」
ココアは一羽の子うさぎをシャロに差し出し、うさぎを受け取ってじっと見る。
「か、噛まないなら......」
うさぎを見つめるシャロ。
「きゅ、きゅわー......」
「え!? うさぎって鳴くの!?」
「そんなにはっきりとは鳴かないかと」
「えっ!?」
「鳴くとしても『ぷーぷー』って鳴くらしいね」
シャロは恥をかいたかの如くうずくまった。その夜、ラビットハウスパン祭りが終わった後、僕たち4人は千夜のところに訪れた。
「今日はパン祭りに来てくれてありがとね!」
「無事に成功して良かったね」
「千夜ちゃんあまり居られなかったから、はい!おすそ分け!」
千夜におすそ分けのパンを差し出すココア。
「ありがとー!」
ありがたく受け取る千夜。
「それで、シャロの家知らないか?」
「え?」
「バイトで来れなかったから、おすそ分けしたくて。きっと赤い屋根の大きなお家に住んでると思うんだけど」
「シルバニアファミリーかな?」
「えっと......」
「一応僕が知っているから、僕が1人で届けに———」
すると、千夜の隣の家からドアの開閉音が聞こえた———マズい。
「夕食買い忘れちゃった。ん?」
家からシャロが出て来た。僕たちと偶然会ってしまった。......守れなかった。
「あぁ......!」
「もしかして私達は......」
「大きな勘違いをしていた......」
「今まで勝手に妄想の押しつけを......お嬢様とか関係なく私の憧れなので......」
「気遣わせちゃってる!?」
もうやめて!これ以上の悲劇は見たくない!
「ところで、シャロちゃんの家はどこ?」
「この物置よー!」
「えっ!?」
ココアは千夜の隣の物置がシャロの家だと知って驚いた。
「そっか、うちの学校の特待生ってシャロだったんだな」
「その、言い出せなくて......」
「よし!フェアになるよう!私も秘密を教えよう!」
「え?」
リゼさんはシャロの耳元で自分の秘密を教える。
「あのな、うさぎのぬいぐるみに、銃のミニチュアを背負わすのにハマってるんだ。可笑しいかな?」
「分かります!私もぬいぐるみの近くに小物の食器とか置くのが好きですー!」
その内容は聞こえなかったがそれで良い。リゼさんとシャロの親交が深まった気がした。
「どうせなら、シャロ。僕も君に1つ恥ずかしい秘密を教えよう」
「えっ?レイは気にしなくても良いのに......」
「いや、これは僕が許せないんだ」
そう言って、僕はシャロに耳打ちする。
「僕が初めて公式戦で負けたとき、僕がついつい師匠の娘さんが作った雪うさぎを涙で溶かして娘さんに怒られた話は有名だろう?」
「えぇ......そうね」
「それのタイトル戦バージョンがあるんだよ。初めてのタイトル戦、竜皇戦で3勝した後に4敗して逆転挑戦失敗したとき、第七局終了後に無人の海岸で近所迷惑も考えずに叫んだんだ『僕のバカヤロー!』ってね。それに気付いた当時竜皇の
「それは初耳ね......でも気持ちは分かるわ!後一歩ってときにやらかしたら嫌になるわよね!」
その話をして以来、シャロの目が少し温かいものになった気がした。
この世界の将棋界の事情7
伯方 玲の各タイトル戦の最高戦績
竜皇戦: タイトル挑戦失敗(3-4)
名人戦: 名人連続2期
叡帝戦: 挑戦者決定戦敗退
帝位戦: タイトル挑戦中(1-0)
玉座戦: 挑戦者決定トーナメント準決勝敗退
棋匠戦: 挑戦者決定戦敗退
棋帝戦: 棋帝連続5期(永世棋帝資格獲得)
玉将戦: 玉将連続4期
レイの弟子になるのは誰?
-
ココア
-
チノ
-
リゼ
-
千夜
-
シャロ
-
その他
-
誰も取らない