青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー 作:片桐秋
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前園は、たちまち追い込まれた。カウント2-1(ツーストライク、ワンボール)。
──御幸は打ってくれたんや。俺が続かんかったら、五番にいる意味がない。
とは言え。これまでは三振に抑えられてきた。シングルヒットでも白洲を本塁に帰すことはできるかも知れないが、それは簡単なことではない。
内野は定位置である。外野も然り。
もう、意表を突いて小技で稼ぐわけにはいかなかった。
元々、片岡監督も前園に小技は期待していないが。
一塁ランナーとなった御幸は、打席の方を見つめながら思案した。
──やはり、無理か。そして九回の表には五番円城から始まる。四番を打ち取ったからって、油断はできない。
御幸としても、前園(ゾノ)の力闘を信じたい気持ちはある。だがやはり、本郷を相手に追加点を取れるとは思えなかった。
「ストライク! バッターアウト!」
最後も空振りの三振。悔しそうというよりは、己の不甲斐なさを恥じるように、ゾノと呼ばれている男は、肩を落としてベンチに引き上げていった。
次は六番の金丸の打席である。沢村は、チームメイトであるだけでなく、同じクラスの友人でもある金丸の背中に向けて声援を送る。
「打て打て! ここで打ったら金丸、お前はヒーローだぞ!」
金丸はといえば、振り返りもせずに、
「投球練習しろって言われてるだろ」
と、沢村に。
「分かったぞ、金丸! 俺の出番は無いほうがいいだろう。だが俺の出番が欲しい!」
「どっちだよ」
あきれたように言って、バッターボックスへ。
──延長戦。あり得ない話じゃないな。何とか、ここで追加点を取りたいが。
金丸も、キャプテン御幸と同じ懸念を抱いていたのである。
チームの士気が落ちないようにするため、延長戦になるかも知れないとは、この段階では言えなかった。また、降谷への信頼が無いのだと思われるのもまずい。
──御幸キャプテンも同じ考えかも知れない。いや、それは俺の思い過ごしか? 今の降谷がそうそう打たれるとは思えねえが、しかし。
しかし、油断はできない。追加点を取るのは難しく、追加点を取らねば残り一回でも安心はできなかった。
打席に入る。
初球、ストレート。ストライク。
──速いしキレもある。コントロールも良い。もう三打席めだが、まだ目が慣れない。
ちらりと円城を見る。彼も失点からは頭を切り替えたらしく、落ち着いた態度である。
──皆、本郷にばかり注目するが、こいつも大したもんだ。しかし何とかして、下位打線の俺も一矢は報いたい。
続いて二球目。今度もストレート。
金丸は空振りした。
「ストライク!」
──正宗、やれるぞ。こいつを三振にしたら、今度は俺たちの攻撃だ。最後まであきらめずにやろう。俺は、バットで自分の失点を取り返す…!
──そうだ、追加点なんてやるもんかよ。姑息な技も、もう通じねえからな!
「ボール!」
──何とか、見られた。しかし打てる気がしない…。
金丸はバットをかまえ直す。バットを最初から短く持っていた。これは長打はあきらめる代わりに、確実に当てに行く時のやり方だ。しかし、それでも当てられる気がしなかった。
──畜生、何とかして当ててやる。
円城は、球を本郷に返す時に、ちらりと金丸の方を見た。
──はは、無駄だよ。バットを短く持ったところで、正宗の球には当てられない。君の実力じゃ無理無理。甲子園でも他のチームが相手なら、それなりには通用するかもね。でも、
「巨摩大藤巻(うち)には無理だよ」
声に出してつぶやく。金丸には聞こえないように。
カウント2-1。先ほどの前園と同じだ。すでにツーアウトになっていた。
──追い込まれた。だが最後まであきらめないぞ。
二塁の白洲、一塁の御幸を見ながら思う。
「本郷君、ついにツーアウト、カウント2-1まで金丸君を追い詰めました。青道は、何とかしてこの回、追加点を取りたいところです」
実況の声は、全国の津々浦々にまで届く。
長野県にある沢村の故郷にも、御幸の実家にも。
巨摩大藤巻のある東北海道にも、だ。
──正宗、ここで決めよう。次もストレートで押す。低めに決まれば打たれることはない。
──ようし。青道のバッター、調子に乗るな。目にモノ見せてやる。
「ストライク!」
「空振りの三振!」
こうして、青道の八回裏の攻撃は終わった。
「さあ、最後の回ですよ、皆さん、締めていきましょう!」
沢村が、例によってブルペンから大声を出す。
「降谷、最後まで気を緩(ゆる)めんなよ!」
とも付け加え。
「緩めてない」
降谷は、ぼそりとつぶやくように答える。ブルペンまではその声は届かなかった。
──最後になるかどうか…。いや、ここは降谷を信じるしかない。何とか抑えてくれ。あの本郷から、さらに一点を取れる気がしない。
金丸は、内心の思いを口にはしなかった。何とかバットに当てるだけでもと思ったが、それすらできなかったのだ。
「最後の回にするぜ、降谷」
「はい、御幸先輩」
青道バッテリーは、それぞれのポジションに着いた。
青道の応援席からは、盛大な拍手が送られる。それは降谷への期待である。
エースに代わり登板して、八回表のピンチを切り抜けた、『怪物』投手への心からの応援であった。
続く
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