青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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お待たせいたしました。どうぞご覧くださいませ。




第15話 あの人も…

──ツーストライク、ワンボールになった。追い詰めたぜ。降谷、お前もよくやった!

 

 だが、まだまだ油断はできない。御幸は、そう考えていた。正直なところ、本郷の事を大人げない奴だと思うが、それでもその実力と執念を甘く見てはいない。

 

──長打を避けるには、普通はインコースには投げない。だが本郷は、インコースへの速球を比較的苦手としているし、降谷の球ならなおさらだ。バットも短く持ってるしな。それで降谷の球を長打にできるわけがねえぜ。

 

 本郷を、横目で気づかれないように見る。巨摩大藤巻の六番バッターは、ややホームベース寄りに立っていた。これは普通は、アウトコース狙いの立ち位置である。

 

──アウトコースに投げてきて、目はそちらに慣れているはずだ。そこをインコースに、力強くストレートで。思わず手が出て振っちまうだろ。空振り三振にしとめてやる。

 

 とは言え。

 

──円城捕手は、俺のこの配球を読んでいるかも知れないな。

 

 御幸は、二塁ランナーとなった円城を見る。サインを出しているようには見えないが、何がサインなのかは分からない。

 

──なら、裏をかく、か?

 

 降谷の方は、先輩捕手から返球されたボールを受け取ったまま、マウンド上でじっと次のサインを待っていた。時折、足でマウンドの土を均(なら)す。

 

 これは地面のへこみやでっぱりに足が引っ掛かって、フォームが崩れないようにするためである。

 

 むろん、あらかじめ整備はされているし、五回が終わった段階でも、さらにグラウンド整備が成される。

 

 が、九回ともなると、マウンドに各回で投手が投げてきた跡が付くものだ。

 

 ノーアウト、ランナー二塁。セットポジションで、右投げの降谷は、自分の右手側に二塁ランナーを見る。

 

 と、そこで牽制。ランナーの円城は、素早く二塁ベースに戻る。判定はセーフ。

 

 これはキャプテンであり正捕手である御幸の指示ではなく、降谷自身の判断である。

 

 ブルペンから声援、いや、雄叫びが聞こえてきた。

 

「降谷ー! 行けー! お前ならやれる! とりあえず、エースの座は譲っておいてやる。お前の力、見せてやれ!」

 

──御幸先輩、栄純は、とりあえずって言ってますよ。

 

 先輩捕手でありキャプテンである御幸の耳にも、沢村の声は聞こえているだろう。キャッチャーマスクの向こうで、御幸が苦笑するのが目に見える。

 

 そう、このくらいの距離ならバッテリーを組んでいる捕手の表情も見えるのだ。それもあって、キャッチャーにはピンチの時にも冷静さとピッチャーを落ち着かせる力量が必要とされる。

 

「降谷、良い球来てるぞ!」

 

 と、これはその御幸先輩からだ。

 

「次の球は…」

 

 御幸先輩がリードを読まれるなんて、ほぼあり得ないことだと降谷は思ってきた。多くの場合、打たれるのはピッチャーが調子を崩すか、リードや配球通りに投げられなかったからだった。

 

──あの人も、すごいキャッチャーなんだな…

 

 降谷は、また二塁ランナーの円城を見た。今は、あまり二塁ベースから離れていない。

 

 バッターが打つ前に、ランナーが、今いる塁から離れて次の塁に近づく事もリードと言われるが、そのリードは今は大きくはなかった。

 

 ちなみに、足の速い一番バッターをリードオフマンというが、このリードオフとは、相手チームの投手が足を上げて投球フォームに入る前に取るリードの事である。

 

 投手が投球フォームに入ってから牽制球を投げると、ボークというルール違反になる。

 

 そのため、牽制球を投げられても素早く元の塁に戻れるような、足の速いランナーだけがリードオフを大きく取れる。

 

 だから、足の速い一番バッターはリードオフマンと呼ばれる。

 

──青道のリードオフマンの、倉持先輩が取ってくれた一点だ。何としても守り抜きたい。

 

 降谷は、二塁カバーに入ってくれた二塁手の小湊春市からの返球を、固く握りしめた。

 

 ノーアウト、ランナー二塁。バッターとしても腕のある本郷がバッターボックスに入っている。

 

 ピンチであった。

 

 初めての甲子園で、大観衆に見守られながらの投球である。

 

 それでも不思議と、降谷は落ち着いていた。いや、落ち着いているというより、不安ではなく闘志が彼の心を満たしていたのだ。

 

──今では僕が、事実上のエースだ。僕は、任されたマウンドを降りるわけにはいかない。

 

 甲子園の大観衆の声が、降谷への声援に変わってゆく。巨摩大藤巻を応援する声もあるが、地元から見に来て、特に東京にも北海道にも縁のない人々は、ほぼ青道を、降谷を応援するようになってきた。

 

 東京での地区大会では、強豪校である青道より中堅どころの高校に白星を上げさせたいと、相手チームが応援されることがあった。

 

 ここでは反対に、去年の夏の優勝チームで甲子園常連と言ってよい巨摩大藤巻より、久々の甲子園出場となる青道に、白星を上げさせたいと思われているのだろう。

 

 降谷は、そう思った。降谷だけでなく、青道チームのほぼ全員がそれを感じ取っていた。

 

──ま、エースの本郷の態度が悪く、それをナインの誰も問題にしてないのも反感を買った理由だろうけどな。

 

と、御幸は口には出さずに、内心でつぶやく。

 

──降谷、巨摩大藤巻の六番バッター、必ず仕留(しと)めるぜ。絶対に同点にはさせねえ…!

 

 御幸は、サインを出した。

 

続く

 






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