青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

17 / 23


お待たせいたしました。どうぞご覧くださいませ。





第17話 巨摩大藤巻監督の判断

 七番バッターは送りバンドのかまえだ。

 

──本郷には、送りバンドをさせなかった。今では、どうだろう。どうせアウトになるなら、無難に送らせておけばよかったと、ベンチは思っているだろうか。

 

 と、御幸は考えた。

 

──だが、本郷には送りバンドをさせなかった。ヒッティングを選ばせた。

 

 相手チームのベンチを見る。本郷の姿は見えない。奥に引っ込んでしまったのだろう。

 

──一つの難局を切り抜けた。だが、まだワンアウトだ。

 

「まだ、ワンアウトだぞ〜!」

 

 御幸の背後の、バックネット裏の観客席から、巨摩大藤巻への声援が飛んだ。

 

 御幸のサインにうなずき、降谷はセットポジションから投球フォームに入った。

 

 今回は、二塁ランナー円城への牽制はない。円城も、リードを大きく取ってはいなかった。

 

──普通に送りバンド。エンドランは無いと、御幸先輩は見ているんだ。

 

 降谷は投げた。ストレート。

 

──やばい。ど真ん中だ。

 

 御幸は、少しだけヒヤリとした。

 

 だが、球は走っており、速度も相変わらずの150キロ越えに見える。

 

──しかし巨摩大藤巻の打線は…

 

 コン! と音がして、送りバンドされた打球が御幸の眼前に転がる。

 

 内野手は、全員定位置の守備だった。エンドランを掛けてヒッティングに切り替えることも考え、あえて前進守備は取らせていなかった。

 

 送りバンドの球は、一塁側に転がる。一塁手の前園、こと通称ゾノがダッシュしてきた。

 

──ちっ、上手くやってくれたな。三塁は間に合わねえ。

 

「ファースト!」

 

 御幸は、大声で前園に指示を出した。前園は、それに従い一塁カバーに入った降谷に向かって送球する。

 

 一塁は、

 

「アウト!」

 

と、一塁の塁審の声。

 

──ツーアウトで三塁になった。スクイズはないわけだが…。

 

 巨摩大藤巻のネクストバッターサークルから、八番打者がやって来る。しかしここで、向こうの監督は、その打者を呼び止めた。

 

──代打か?   

 

 御幸の予想は正しかった。

 

 巨摩大藤巻の監督は、八番打者と何やら話していた。、その打者は、ベンチに引っ込んだ。

 

 代わりに、それまではベンチの椅子から立って応援をし続けてきた選手が、ヘルメットをかぶり、金属バットを手に出てきた。

 

「巨摩大藤巻の、選手の交代をお知らせします」

 

 ウグイス嬢の声が響く。

 

「やはり、代打だったか。勝負を掛けてきたな」

 

 その選手のことはデータにあった。右投げ左打ち。特に右腕投手に対して、理想的な打者だ。

 

──今、送りバンドをした打者も、右投げ左打ちだったな。さすがに層が厚い。

 

「ツーアウトですが、ランナーは三塁です。内野安打でも同点のチャンス。巨摩大藤巻はどう攻めるか? 青道、守り抜けるか。注目の第一球です」

 

 実況は、そのように日本各地に伝えていた。甲子園球場には、ますます緊張感が走る。それぞれのチームの応援席は、大いに盛り上がりを見せた。

 

「降谷、頑張れー!」

 

「降谷君、抑えて!」

 

「打てー! ここで決めろ!」

 

「いけー! 同点、同点!」

 

──降谷、落ち着いていけ。心配するな。お前なら、抑えられる

 

 本郷に送りバンドをさせていたら、ワンアウトでランナー三塁だったな。と御幸は思う。

 

 結果論ではあるが、強攻策を取ってくれて助かったのだ。もちろん、ツーアウトとは言え、まだ油断はできないが、スクイズは無いと確実に分かっているだけでも、かなり違う。

 

──御幸先輩を信じて投げる。信じて打たれたなら、僕には悔いはない。

 

 ランナーを三塁に見るセットポジションから、投球モーションに入る。

 

──次のサインは、縦に落ちるカーブ。

 

 投球は、降谷の手を離れた。

 

──データによれば、ストレートよりも変化球に弱い打者だ。六番本郷と、送りバンドを決めた七番にはストレートで押したから、今度もストレートでねじ伏せに来ると見ているだろう。バッテリーは、降谷の球威を過信していると。その裏をかいて、縦に落ちるスライダーだ。

 

「ボール!」

 

 球審は、そう告げた。降谷の投球は低めに落ち、地面にバウンドした。球速の落ちる変化球とは言え、かなりのスピードで投げられたのだ。バウンドも激しく大きい、が、ここで後ろに逸らす御幸ではなかった。

 

 キャッチャー用のプロテクターを着けた上半身全体でガードしつつ、巧みにキャッチャーミットでボールを捕らえた。

 

──へえ、よく見てるじゃねえか。

 

 と、これは代打で出てきた巨摩大藤巻の打者に。

 

──こいつは、当たればでかいタイプではなく、確実にシングルヒットを狙う巧打者タイプだ。向こうの監督、今度は手堅く行く気だな。

 

 本郷には、送りバンドをさせなかったのにな、とも思いつつ。

 

──本郷は、あそこで打ちたかっただろう。自分の手で、円城をホームに帰したかったはずだ。

 

 しかし、結果はこうである。一点差。ツーアウトランナー三塁。どちらにとっても、後は無い。ギリギリの勝負だ。

 

──甲子園まで来て、こんな良い勝負ができるなんて、俺たちは恵まれてるぜ。

 

 御幸は、後ろに逸らすことなくキャッチした球を、降谷に投げ返す。と、ここで沢村の声が。

 

「降谷ー! お前の球の威力を見せてやれ! 行け行け! ツーアウト、ツーアウトだぞっ!」

 

 初球はボールだったが、励ましの応援の声が、マウンドまで届くのは御幸にも分かった。

 

「ははっ、お前も元気だな、沢村」

 

 降谷が球を受け取ったのを見届けてから、御幸は改めて守備位置にかがみ込む。

 

──しかし、こいつは球威で押せるタイプじゃないかも知れねえんだよな…。

 

 御幸は、そう考えつつ、次のサインを出した。

 

 

続く






もし何かミスなどありましたら、やんわりご指摘お願いいたします。感想などもお待ちしております。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。