青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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お待たせいたしました。どうぞ、ご覧ください。




第18話 ツーアウト、あと一人

──今度はストレートだ。アウトコース寄りに。

 

 降谷は、サインにうなずいた。相手打線のデータは、それなりには頭に入っているが、控えの打者までは正確には覚えていない。

 

──でも、御幸先輩はちゃんと覚えているはずだ。

 

 でもたしか、この打者はストレートに強くなかっただろうか? 少しだけ、降谷の脳裏に疑問が浮かぶ。

 

──僕のストレートなら、ストレートが得意なバッターにも通用する、と御幸先輩は考えているのかも知れない。

 

 サインに、首を横に振ることはしなかった。うなずいて二球目。

 

 セットポジションから投球モーションに入る。

 

「押せ押せ、降谷! 行けー! お前の球なら打ち取れる! ツーアウト、ツーアウトだぞ、降谷!」

 

 と、沢村が、例によって大きな声でマウンドにエールを送る。

 

──そうだ、押し切れ、降谷。

 

 投げた球は。

 

「ファウル!」

 

 と、一塁塁審の声が響く。打球は、一塁側のファウルグラウンドに飛んだ。ライン際の惜しい当たりではない。明らかにファウルと分かる位置に飛んだのだ。

 

 甲子園の電光掲示板には、153キロの表示。巨摩大藤巻のエース本郷の最速より、さらに2キロも速い。

 

──それでも当ててきた。明らかなファウルではあるが…。しかしこれでカウントを稼げたのも事実だ。それに、降谷の球はちゃんとストライクゾーンに来てくれた。降谷の調子はいい。球が走っているし、落ち着いている。このまま、押しきれるはずだ…。

 

 御幸は、ちらりとだけ、ベンチのほうを見た。

 

 片岡監督は腕組みをしたまま、バッテリーを見守っていた。

 

──代打のバッターが左打ちで変化球に弱いなら、降谷は外野に下げて、左投げで今は変化球も身に着けた沢村に交代させる手もあった。

 

 と、御幸は思案する。

 

──でなければ右投げだが、技巧派投手としては先輩で、制球力も安定している川上(ノリ)に。だが、監督は降谷に投げさせるのを選んだ。

 

 

「良い球来てるぞ。その調子だ!」

 

 御幸は、マウンドに向かって叫んだ。

 

「ツーアウト、ツーアウト!」

 

 足で一点をもぎ取ってくれた、ショートの倉持の声。

 

「バックは任せとけ、降谷!」

 

 と、これはサードの金丸が。

 

 降谷のような奪三振記録を作れるような本格派投手であっても、やはりバックの守りの確かさは重要である。

 

──降谷の調子はいい。甲子園に来てから、ますます伸びている。今は、沢村や川上よりも。だから、監督はこの場面を降谷に任せたんだ。きっと、そうだ。

 

 御幸は、バッターの様子を見ながら、次のサインを考える。

 

──お前なら抑えきれると、監督はお前にこの大事な場面を託したんだ。

 

 巨摩大藤巻の、代打で出てきたバッターもまた、自チームのベンチを見ていた。向こうの監督も何やらサインを出していた。

 

──ツーアウトだ。スクイズはない。向こうが取れる選択肢は限られている。

 

 しかしカウントは未だ、ワンストライク・ワンボールである。まだ今の段階では、どちらに転ぶか、御幸にも確証はない。

 

 ファウルボールは一塁側のベンチ、つまり青道チームのいる側に飛んでいた。

 

 沢村が、そのファウルボールをキャッチしていた。彼は、御幸のいる位置の近くまで、少し走り寄って来た。

 

「キャップ!」

 

 と、大きな掛け声を出してからボールを投げた。御幸は、それを受け止める。

 

──ありがとう、沢村。

 

 御幸は笑顔で返す。顔はキャッチャーマスクに隠れているが、この距離なら沢村にも見えるだろう、と。

 

 御幸は、沢村から受け取った球を球審に渡す。球審は球に、正確なプレイを妨げるような傷や汚れがないかを確かめる。それが終わると、また捕手である御幸に返した。

 

 御幸はその球を、降谷に投げて返す。

 

──降谷、もうツーアウトだ。後一つ、アウトを取れば、俺たちは勝てる! お前は、勝利投手になれるんだ。あの巨摩大藤巻を相手にな!

 

 しかしカウントは、ワンストライク・ワンボール。まだどちらに転ぶか、御幸にも確信は持てなかった。

 

 いや、御幸だけではない。この場にいる誰にも、確信は持てないはずだった。

 

 御幸は、降谷だけでなく、自チームの内野と外野の守備陣も見た。

 

──内野安打でも一点だからな。ラッキー安打で、ポテンヒットでも、だ。だが、そこは降谷とバックを信じるしかない。

 

 相手チームのベンチの監督は、代打で出した選手に何やらサインを出していた。

 

──一体何を?

 

 御幸は自チームのベンチを見る。片岡監督は立って腕組みをしている。サインは出ていなかった。

 

──俺を、いや俺たちを信じて任せるってことですね。分かりました、やります。さあ、降谷。次の球は、こうだ。

 

 スプリットでツーストライク目を決めようかと思ったが。スプリットは、ストレートと変わらない速さの変化球、降谷の決め球の一つだ。

 

──だが、相手もそれは予想しているだろう。縦のスライダー、ストレートとくれば、次はスプリットだと。降谷の球種は少ない。この代打のバッターが、ストレートに強いことを俺たちも知っていると、ならば変化球で対策してくるはずだと、向こうも読んでいるはずだ。

 

 高校野球は、現代では、プロ野球よりもきびきびしたスピード感が要求されるようになった。あまり考え込まず、すぐにサインを出さなくてはならない。キャッチャーの御幸には、即決即断が求められる。

 

──降谷、次はこれだ。

 

 降谷は、首を縦に振った。

 

 甲子園球場は、降谷の三球目を、固唾を呑んで見守っていた。

 

 

続く

 






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