青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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第19話 お前ならやれる

 ワンストライク・ワンボール。降谷が次に投げる球は、三球目だ。

 

 降谷は御幸のサインを見て、首を縦に振った。

 

──今度も縦のスライダー。高めからストライクゾーンに落ちるように。

 

 降谷としては、そこに確実に投げられるだけのコントロールがあるわけではない。

 

 高めも、インコース、真ん中、アウトコースとあり、ストライクゾーンなのか、ボールになる高めか、いろいろある。

 

 制球力のある投手なら、ここを的確に投げ分ける。

 

──だが、降谷、お前にはそんな細かい投げ分けは要求しない。思い切り自分の力を出せ。ボールになる高めから、ストライクゾーンに落ちるように。縦のスライダーだ、思い切って投げろ。

 

 降谷は、投球モーションに入る。

 

「降谷行けー! ねじ伏せろぉ! お前ならやれる!」

 

 と、沢村の大きな声が聞こえてきた。

 

──そうだ、お前ならやれる。

 

 第三球が、降谷の手を離れた。

 

「ファウル!」

 

 今度は三塁塁審の声が、ファウルを告げた。

 

──アウトコース寄りに来たのを、巧みに流し打ったか。これでツーストライク。しかし、ちゃんと当てに来ているな…。

 

 しかし、これも、三塁線ぎりぎりの当たりではない。明らかにファウルと分かる当たりは、スタンドに飛んで行った。

 

 観客をファウルボールから守るための防護ネットに当たって、ボールはグラウンドまで落ちてきた。

 

 三塁側のベンチ近くにいる巨摩大藤巻の選手が、そのファウルボールを拾う。

 

 ファウルボールが飛んで来やすい位置の観客席は、観客が打球に当たってしまうリスクも高い。

 

 ゆえに、透明度が高い上に丈夫な、特殊繊維で作られた防護ネットで、打球から保護されている。

 

──これでまたカウントを稼げた。ツーストライクだ。しかし当てては来ている。変化球には、比較的弱いはずだがな。

 

「あと一球! あと一球だぞ!」

 

 と、沢村の大きな声が。

 

──そうだ、栄純の言うとおり、あと一つ、ストライクを取れば勝てる。

 

 青道スタンド応援席からは、「あと一球! あと一球!」とコールが響いてきた。

 

 降谷は、セットポジションから、振り返ってベンチのほうを見た。沢村がいる、ブルペンのほうも。スタンド応援席も。

 

──栄純には交代させなかった。監督は、僕を信じて任せてくれたんだ。だったら、その信頼に応えたい。

 

 怪物と言われる二年生投手は、セットポジションに直った。

 

──勝ちたい。みんなで、昨年夏の全国優勝校に勝ちたい…! 僕はまだ、甲子園を去りたくない!

 

 巨摩大藤巻の選手は、キャッチしたファウルボールを御幸には投げず、代わりに主審のところへ急いで持ってきた。

 

 主審は、そのボールを受け取り、例によって仔細(しさい)に検分した。

 

「問題ない。このボールで」

 

 主審は、そう言って御幸にボールを渡す。

 

「はい」

 

 御幸は受け取り、降谷に投げ返した。

 

「ツーストライクだぞ、降谷!」

 

 と、大声で呼び掛けながら。

 

 降谷は、うなずいてボールを受け止めた。

 

 と、そこで牽制。

 

 三塁ランナーの円城は、急いでベースタッチする。判定はセーフ。

 

──リードが大きくなっていたな。エンドラン、あるんだろうか。

 

 サードの金丸からの返球を受け取り、改めてセットポジションに。

 

──エンドランを掛けたとしても、もうツーアウトだ。三塁ランナーだけでなく、一塁ランナーもセーフにならなくてはいけない場面だけど…。いや、考えるのはやめよう。御幸先輩を信じて投げるだけだ。

 

 ここで下手にいろいろ考えると、肝心の投球への集中を欠くことになりかねない。降谷は、そう思った。

 

 カウントは、ツーストライク・ワンボール。バッテリー有利になった。ただし、ツーストライクは、いずれも当てられてファウルになった球だ。きれいにストライクを決められたわけではない。

 

 御幸は、瞬時に考えをめぐらせる。

 

──あのようにファウルになるということは、タイミングが早過ぎるんだ。降谷の球の速さに目が慣れていないから、ついつい早めにバットを振り過ぎてしまうんだろう。

 

 御幸は、バッターを横目で見た。

 

──何とか、目が慣れていない今のうちに打ち取りたい。低めに来た球はゴロになるように打ち、高めの球なら打ち上げる。打ち分けがきれいにできる巧打者だったな。

 

 先ほど、降谷が投げた二球目もファウルになっていた。沢村がキャッチしたそのファウルボールは、ファウルグラウンドにゴロになって転がっていったのである。

 

 フライであればファーストの前園が、捕球してアウトにできたかも知れないが、そう簡単にはいかなかった。

 

「降谷、次はここだ」

 

 小さな声でささやきつつ、御幸はサインを出す。

 

 降谷はうなずく。セットポジションから、投球モーションへ。

 

──思い切って、ストレートで勝負だ。今はおそらく、バッターもベンチも、変化球でかわすと見ているだろう。だが、お前の球威でねじ伏せろ。お前なら、やれる。

 

 ストレート。第四球目である。

 

「ファウル!」

 

 今度も、三塁塁審の声が響いた。

 

「またしてもファウルです。よく粘ります、巨摩大藤巻。代打で出たこの場面、何としてもランナーをホームに帰し、同点に追いつきたいところでしょう。すでにツーアウト。もう後はありません。青道は、どう抑えるか。バッテリーの次の配球に注目です」

 

 と、全国ネットの実況の声。北は北海道から、南は沖縄まで、全国津々浦々に届く。

 

「ツーストライク・ワンボール。カウントは、こちらに有利なのに、あと一球が決まらねえ」

 

 御幸は、思わず声に出した。ごく小さな、人には聞こえないささやき声ではあったが。

 

 ファウルボールは、やはり三塁側ダッグアウトの巨摩大藤巻の選手が拾い、主審に走り寄って手渡す。

 

「お前なら打てる! 蓮司をホームに帰そうぜ!」

 

「ああ。やってやる」

 

 そんな会話を、御幸は耳にした。

 

続く

 

 






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