青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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大変お待たせしました。どうぞご覧ください。




第2話 巨摩大藤巻クリーンナップ

──何とかして、御幸先輩の、監督の、他のチームメイトの期待に応えたい。次はクリーンナップ。でも僕は負けたくない。

 

──巨摩大藤巻にも、栄純にも負けたくない。

 

 降谷は内心で闘志をたぎらせた。打席には三番打者が入る。いよいよクリーンナップだ。

 

──いや、そうじゃない。この試合、必ず勝ちたい……!

 

 降谷は御幸のサインを見た。

 

「内角ストレート」

 

 降谷は、サインにうなずく。

 

「御幸先輩のサインを信じて投げる。僕が上手く投げれば必ず打ち取れる」

 

 またしても轟音を立てて、ミットに投球が収まった。甲子園の電光掲示板に、152キロの表示が出る。まさに、超高校級と言うに相応しい数値である。観客席からのどよめきが走る。

 

 判定はストライク。

 

 打者は見逃した。わざと球筋を見極めようとしたのか、手が出なかったのか。

 

──どうやら、手が出なかったようだな。

 

 御幸は、そう見て取った。

 

──巨摩大藤巻のエース本郷も、ものすごい豪速球を投げる投手だ。だけどお前だって負けてはいない、降谷。

 

 御幸の内心の思いが降谷に伝わったのか、降谷は静かにうなずく。

 

「巨摩大藤巻は……俺たちは負けない」

 

 三番のバッターがつぶやくのが、御幸の耳に入った。

 

──今はもう七回。どちらもまだ点は取れていない。このクリーンナップをしのげば、勝利が見えてくる。降谷、俺達でやるんだ。

 

 クリーンナップの三番打者は、ホームベースから遠からず近からずの位置に立っている。

 

 ある時点で、ストライクゾーンが下に広がるルール改正が行われた。それを利用して、ストライクゾーンぎりぎりに低めに投げられた球は、打者にとっては打ちにくく、打てたとしてもヒットにはなりにくい。まして長打にするのは困難である。

 

 しかもアウトコースにもギリギリの球なら、なおさらだ。

 

 今はまだワンナウト。ランナーは得点圏の二塁にいる。

 

「低めに、思い切りストレートを投げて来い」

 

 御幸はサインを出した。本郷が相手では、一点もやりたくはない。それが、御幸だけでなく青道ナインの偽らざる本音である。

 

 だが、ここで攻めの気持ちを忘れてはかえって勢いを無くし、相手チームに付け込まれるだろう。

 

 御幸は思い切ったリードをした。降谷の球威はすごいが、残念ながらコントロールはそこまででもない。上手くアウトローに決まればいいが、ボールが先行してしまうかも知れなかった。

 

 だが御幸は決断した。

 

「もう先にストライクを取れたんだ。思い切り投げろ」

 

 降谷はサインにうなづく。

 

 二球目。

 

「ボール!」

 

 主審のコールはボールだった。だがそこまで大きく外しているわけではない。

 

 甲子園の電光掲示板に、152キロの表示が出る。観客席には、またしてもどよめき、感嘆の声。

 

──ボールだと見極めたか。手が出なかったのか。

 

 御幸は思案する。何と言っても南北海道を代表する強豪校のクリーンナップなのだ。降谷の実力を信頼してはいるが、言うまでもなく油断はできない。

 

「いい球が来ているぞ! その調子だ」

 

 御幸は、マウンド上の投手に球を投げ返した。大声で、今や事実上のエースとなった後輩に呼び掛ける。

 

 カウントは、1-1。

 

 ワンナウト、ランナーは一塁。

 

 相手のエースは本郷である。

 

 今は甲子園にいる。

 

 これで緊張するなと言うほうが無理だが、降谷は落ち着いているように見えた。

 

 信頼。

 

──そうだ、俺たちの間には、堅い信頼がある。

 

 降谷の持ち球は、ストレートとスプリット、そして縦に落ちるスライダー。

 

 それは、相手チームエースの本郷の持ち球と同じである。

 

 ストレートの速さは。

 

「154キロ!」

 

「凄いな、まさに超高校級、本格派だ!」

 

 観客席に、またもどよめきが走る。

 

──ついに154が出せたか。その調子だ。降谷、ここは事実上のエースとしてお前に任せたぞ。

 

 今回は上手くアウトローにストレートが決まった。カウントは2-1。三番打者が、舌打ちをするのが聞こえた。

 

 御幸は次のサインを出す。

 

「次は揺さぶりのために、インコースに来ると読んでいるはずだ。その裏をつき、アウトコースの高めから落ちるスプリットで仕留める」

 

 降谷は、サインにうなずいた。

 

 実況は全国の観戦者、視聴者に向かって叫ぶ。

 

「空振りの三振!」

 

 スタンドの応援席から、ベンチから、ひときわ大きな声援が飛んだ。

 

「降谷、よくやった!」

 

「ツーアウトだ!」

 

「ちくしょう、あいつ一人で目立ちやがって」

 

 沢村は、チームの勝利が近づくのを喜びつつも悔しそうにもしていた。降谷とは共に力を合わせて戦うチームメイトだが、同時にエースの座を競うライバルでもある。

 

 正捕手御幸にとって、より重要な投手となるのを競うライバルでもある。

 

 御幸自身は、チームのどのベンチ入り投手に対しても、別け隔てなく公平に接している。

 

 だが沢村は、御幸にとって一番頼りになる投手になるのを、堂々のエースナンバーを背負う日を夢見てきた。

 

 いや、それは夢ではない。明確な目標である。

 

「御幸、見ていろ。必ず、降谷以上に、お前にとって頼りになるピッチャーになってやる」

 

 沢村は、心のなかで御幸に宣言した。

 

続く

 

 




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