青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

20 / 23


いつもお読みいただき、ありがとうございます。
どうぞご覧ください。




第20話 高速のスプリット

──この大事な場面での代打だ。当然、打てると判断しての起用だろうからな。

 

 と、御幸。

 

──巨摩大藤巻ベンチとしては、何が何でも打って欲しいところだよな。

 

 内野安打でも、ポテンヒットでも一点。同点に追いつかれてしまう。青道ナインの間に緊張が走る。

 

「あとワンストライクだよ!」

 

 と、セカンドの小湊春市が。

 

「ツーアウト! ツーアウトや、降谷!」

 

 と、ファーストの前園。

 

「バックは任せとけ!」

 

 と、ショートで一番打者、足で巨摩大藤巻から一点をもぎ取った倉持が。

 

「落ち着いていこう!」

 

 これはサードの金丸。

 

 こうして、ピッチャーを元気づけるのも、声が届きやすい位置にいる内野手の役割の一つである。

 

──そうだ、降谷。バックを信じて投げろ。お前は打者に集中するんだ。

 

「降谷ー! ツーアウト、ツーストライクだぞ! 行けー!」

 

 沢村の大きな声が響く。

 

──降谷、次はこれだ。

 

 御幸のサインに、降谷はうなずく。

 

──御幸先輩を信じて投げる。それで打たれたのなら、僕には悔いはない。

 

 決め球のスプリット。

 

 しかし。

 

「ファウル!」

 

 一塁塁審の判定が。

 

 左打席から引っ張ったのだ。またしても打球はスタンドまで飛び、防護ネットに当たってグラウンドに落ちてきた。今度は、ブルペンキャッチャーの小野がその球を拾う。

 

「御幸! あと一球だ!」

 

 そう叫んで、正捕手の御幸にボールを投げた。

 

「キャップ、カウントはこちらに有利ですよ!」

 

 と、これは沢村が。

 

「ありがとうございます!」

 

 御幸は、控え捕手の小野に礼を言う。

 

 実力は御幸のほうが上で、正捕手ではあるが、小野がブルペンキャッチャーとして重要な役割を果たしてくれているベンチ入りメンバーなのも間違いない。

 

 小野は、正捕手としてこの重要な場面で投手を支えてくれている御幸に、ミットをはめたほうの手を振って返事に代えた。

 

 御幸は、再び球審に渡した球を受け取り、自分のポジションに着いた。上手く防護ネットに当たったために、ボールに傷は付かなかったようだ。

 

──正直、このスプリットで決めたかったが。

 

 ツーストライク・ワンボール。カウントは、相変わらず青道バッテリー有利である。

 

──しかし、決め球として投げさせた球もファウルにされる。惜しい当たりではないのが幸いだが…。

 

 御幸は、ほんのわずかに逡巡(しゅんじゅん)した。

 

──データによれば、この打者は変化球には比較的弱い。だが、今投げさせた球はスプリットだ。

 

 スプリットは、変化球としては変化の度合いが小さい代わりに、ストレートと変わらないスピードで投げられる球だ。

 

 降谷のような本格派投手のストレートに、このスプリットを混ぜられると、打者としては厄介である、はずなのだが。

 

──いいや、もう一度スプリットだ。同じ球を連続して投げるとは思わないだろう。思い切って、いけ!

 

 こうなると、降谷の球種の少なさもハンデとなる。それでも御幸は、降谷の力を最大限に引き出すリードをするのだ。

 

──御幸先輩を信じて投げる。それで打たれたのなら、僕には悔いはない。

 

 降谷は、うなずいた。

 

「あと一球! あと一球!」

 

 青道スタンド応援席から、盛大な声が。

 

「降谷、行けー! お前ならやれる!」

 

 と、沢村のいつもの大きな声。

 

 降谷はセットポジションから投球モーションに入る。

 

「御幸先輩を信じて投げる!」

 

 スプリットを投げた。豪速球であるストレートと、変わらない速度だ。甲子園の電光掲示板には、151キロ、と、出た。

 

 そして。

 

 キィン、と金属音がした。バッターは打った。

 

 鋭い当たりが、セカンドのほうへ。

 

──小湊、頼む。

 

 御幸は、心で念じる。三塁ランナーの円城は、ホームに突っ込んできた。

 

 小湊春市は、ゴロとなったその打球を、外野に抜ける前に、巧みに捕らえた。

 

──一塁のほうが近い。前園先輩!

 

 春市は、ファーストの前園に送球する。

 

 ファーストは。ランナーとなった代打のバッターは、そのまま一塁ベースに頭から滑(すべ)り込んだ。

 

 判定は。

 

「アウト!」

 

 青道にとっては歓喜の、巨摩大藤巻にとっては非情な、一塁塁審の声が響いた。

 

「やった! やったぞ!」

 

 御幸も思わず叫んでしまう。

 

 本塁の手前のライン上で、円城がへたり込んでいるのを見た。代打で出た選手も、また一塁ベース上で同じく。

 

──勝負は時として非情だ。だが、俺たちは、お互い全力を尽くした。

 

 御幸は、マウンド上の降谷に駆け寄る。内野陣も、マウンド上に集まってきた。もう試合は決まったのだ。外野の三人も内野の方へと駆けて来る。

 

「御幸先輩、やりました!」

 

「ああ、よくやったぞ、降谷!」

 

 御幸は、降谷の肩を軽くたたく。降谷は、先輩正捕手のキャッチャーミットを握り締めた。

 

「御幸先輩の、おかげです」

 

「お前が、俺のリードによく応えてくれたからさ」

 

「やったぞ。俺らはやったんや! あの巨摩大藤巻に勝ったんや!」

 

「そうですよ、前園先輩! 僕たちはやりました! 降谷くん、よく頑張ってくれたよね」

 

 と、春市。

 

「降谷、よくやった!」

 

 と、倉持。

 

「うちのリードオフマン、お前のおかげでもあるさ」

 

「はは、当たり前だっての! 御幸、次の試合もやってやるぜ!」

 

 青道のスタンド応援席も、歓喜の声にあふれていた。

 

 沢村はと言うと、ブルペンからマウンド上に走り寄って来ていた。

 

「お前、やったじゃねえか、降谷、こんちくしょう!」

 

「交代、なかったね」

 

「次は、俺も負けてねえぜ」

 

 こうして、一通りの勝利の喜びを分かち合うと。

 

「両チーム、整列!」

 

 主審の声がした。

 

 試合が終わった後の、向かい合っての整列と、礼である。

 

 本郷は円城に付き添われ、ムスッとした、何とも言えない顔をしていた。だが、かろうじて、礼をすることは忘れなかった。

 

 続く






何かミスなどありましたら、やんわりご指摘お願いいたします。
感想などもお待ちしております。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。