青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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第21話 幕間のインタビュー

 両チーム向かい合っての礼が終わると、青道ナインだけがバックネット裏に背を向ける形で横一列に並ぶ。甲子園に高らかに、青道高校の校歌が響きわたった。

 

 巨摩大藤巻ナインは、自チームのベンチの前に整列していた。校歌が終わっても、誰も甲子園の土を手にしようとはしなかった。

 

「俺たちは、また夏も、ここに戻ってくるんだ。必ずな」

 

 キャプテンの西は、静かな決意を秘めた口ぶりで言った。一人唇を引き結んでいる本郷を除いて、ナインの全員がそれにうなずいた。

 

 両チームは再び、それぞれのベンチのあるダッグアウトに向かう。その奥にある出入り口から、取材エリアに向かう通路に入ってゆく。マスメディアの関係者が、敗者と勝者の双方を待ち構えている。

 

 本郷だけは不機嫌そうと言うよりは、どこか気落ちしたように背を向けて、その場を去ろうとした。マスメディアのインタビューにも、一切答える気はないらしい。答えるのは監督か、キャプテンの西の役割になるのだろう。

 

 その本郷の背中に、

 

「本郷!」

 

 と、呼び掛けた者がいた。沢村だった。

 

 誰もが、そのまま無視して歩み去るかと思ったが、意外にも本郷は立ち止まった。ゆっくりと振り返る。

 

「本郷、お前すごかったぜ。だけど! 俺も負けない。また勝負しよう。この甲子園で!」

 

 沢村の顔には、巨摩大藤巻のエース、マスメディアからは怪童とも呼ばれる投手への、心からの敬意があった。それは誰の目にも明らかだった。

 

「…お前は、登板しなかっただろ」

 

「ああ、そうだよ! だけど今度やる時は俺も投げるぜ。その時まで、降谷だけでなく俺のことも忘れんな」

 

 沢村はそう言って、自分の右手を差し出した。左利きゆえに左投げだが、握手の時には相手の利き手に合わせるのだ。

 

 本郷は、手を取ろうとはしなかった。だが、それまで巨摩大藤巻が負かしてきたチームに対するように、サッサと背を向けて去っていこうともしなかった。

 

「正宗」

 

 円城が、そっと声を掛ける。

 

 結局、本郷は沢村の手を取らなかった。代わりに短く、

 

「夏の甲子園でな。今度は絶対負けねえぜ」

 

と、告げて背を向けた。

 

「ああ、必ずな!」

 

「巨摩大藤巻が相手なら、僕も投げなきゃいけない」

 

 降谷が、短く、同じように一言だけ。

 

 本郷は、振り返らなかった。右手に持ったグローブを軽く振ってみせた。雑な振り方で、実に本郷らしく見えた。

 

 円城は彼の後に続き、他の巨摩大藤巻ナインも、球場の外に待つバスへと引き上げて行った。

 

「さあ、勝利投手のインタビューだぞ。キャプテンより、そちらが先だな」

 

 と、御幸。

 

「相変わらず、インタビューに答えるのは苦手なんです」

 

 御幸は、それを聞いてニヤリとした。

 

「円城に打たれたのは、俺のせいにしていいからな。実際、俺のリードを読まれたせいだ」

 

 降谷は、冗談めかした正捕手の物言いに、真面目な顔をして、

 

「そんなことは言いませんよ」

 

 とだけ、告げて取材エリアに向かって歩いていった。また、巨摩大藤巻へのインタビューは終わっていないため、離れた位置で待つことになるが。

 

 青道の片岡監督もまた、取材エリアで待ち構えるマスメディア関係者のほうに歩いてゆき、やや離れた位置で立ち止まった。

 

「降谷君は、すごいピッチャーです。控えにもこんな投手がいるのだと、驚かされました。また気を引き締めて、夏の甲子園に向けてチーム一丸となってやっていきます」

 

 巨摩大藤巻のキャプテン西である。今となっては、さほど悔しそうな顔は見せていない。

 

 卒(そつ)のない答え方だな、と御幸は思う。わざわざ反感を買うような態度を見せるのは、巨摩大藤巻の中でも本郷だけらしい、と。

 

 こうして、敗者へのインタビューは終わった。降谷は、片岡監督に続いて、取材エリアに歩み寄る。

 

「降谷君、今日は本当に調子が良かったね! ものすごい豪速球で球場を湧かせましたね。エースが急に搬送されてからの登板だったけど、緊張はなかったですか?」

 

 と、インタビュアーの一人がマイクを突きつけながら、青道の勝利投手に問い掛ける。

 

「御幸先輩を、信じて投げました」

 

 降谷は、ごく短く、それだけを答えた。

 

 御幸は苦笑する。

 

──ここで、もう少し愛想よく『はい、急にエースの代わりに登板することになって緊張しました。でも、キャッチャーをしてくれるキャプテンの御幸先輩と、バックで守ってくれるみんなを信じて投げ抜きました! この勝利は、みんなでつかんだ勝利です』と、こうね、いかにも大人たちが望むような高校球児を演じられるといいんだろうがな。ま、俺もそこまでサービス精神は無いし、お互い様か。

 

 御幸は川上(ノリ)を見た。彼はホッとした顔をしていた。初の甲子園という大舞台だ。

 

 巨摩大藤巻相手の今回の登板はなく、甲子園に来てからそこまで華やかな活躍はできていないものの、何とかリリーフピッチャーとして投げてきてくれた。

 

「気持ちは、次の試合へ、か」

 

「ああ、僕も調子を取り戻さないと。後輩にばかり、頼ってはいられないからね」

 

 沢村は、というと。

 

──ちくしょう、降谷ばっかり! 俺も投げたかった…俺も投げたかった…俺も投げたかったあ!

 

 誰からも、その内心は丸わかりである。

 

 春市は、

 

「本郷投手のとやり取りで、沢村くん偉いなあ、と見直したところだったんだけど」

 

と、沢村にツッコミを入れる。

 

「お前、ブルペンで投げてたじゃねえか」

 

 御幸は、からかうように言う。

 

「ブルペンじゃなくて、マウンド上で投げたかったんですよ!」

 

 ここで御幸は表情を引き締める。

 

「ま、次の試合には登板があるだろう。ちゃんと準備しとけ。エースは当分試合復帰できないし、降谷にばかり投げさせられねえからな」

 

「はい!」

 

 沢村は、元気よく返事をした。

 

「よしよし、降谷もお前も、気を引き締めろよ。優勝候補の巨摩大藤巻に勝ったのはいいが、浮かれてちゃ駄目だ。数時間はゆっくり休め。今晩からまた厳しくやるからな」

 

「…はい」

 

 沢村も、真面目な表情になった。まだ先は長い。せっかくここまで来たのだ。少しでも長く、甲子園にいたかった。

 

──全国の強豪と戦えるんだ。こんな面白い、ワクワクすることはないぜ。

 

「分かりました、キャップ! この甲子園で、沢村伝説の始まりを野球ファンの皆様にお見せします!」

 

「あー、はいはい。今度はマウンド上で転ばないように、足元に気を付けとけよ」

 

「うわぁあー! それは言わないでくれ! 思い出させんな!」

 

「お前、敬語」

 

「今度はちゃんとします! もうそれは忘れてください、キャップ!」

 

 御幸は、笑った。その場にいた、インタビューを受けている降谷以外の青道ナインも笑っていた。

 

──さあ、もう次の試合は始まってるぜ。そんな気でいかなくちゃな。

 

 と、御幸は内心で考えていた。これもキャプテンの役割だからだった。

 

続く

 






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