青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー 作:片桐秋
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甲子園、春のセンバツ高校野球。準決勝が始まった。午前の第一試合である。
青道VS薬師。東京からの選抜チーム同士の激突となった。秋季大会の東京地区の決勝戦でもぶつかりあった、因縁の対決でもある。
キャプテンの御幸は、思案にふける。
──秋季大会の決勝戦では、俺は怪我をしていて本調子ではなかった。勝つには勝ったが、苦しい戦いだったぜ。今でもやはり、薬師は手強い相手だ。巨摩大藤巻に勝ったからって、甘く見ていたらそのスキを突かれる。気を緩めねえように、沢村には厳しく言っといたが、さて立ち上がりがどうなるか、だな。
しかし先発の沢村の登板はまだ先だった。青道が先攻である。
そして、薬師の先発は轟であった。
御幸は、
「こいつが出てくるのは、半ばは予想していたがな。エース真田には、一試合を一人で投げ抜くだけの負担は掛けない。それがいつもの薬師の方針だよな。それを真っ当なやり方ではなく、言うなれば奇策で、またもやってくれるってわけだ」
「絶対、塁に出てやるぜ。サードが片手間にピッチャーやってるような奴に、なめられてたまるかよ」
と、そう言い置いて、倉持はバッターボックスに向かっていった。シングルヒットでも、ほぼ事実上の二塁打。足でかき乱す俊足のランナーとなれるだけに、チームメイトからも出塁への期待は大きい。
ブルペンに入っている沢村は、それを聞いて、
「おお、さすが元ヤン! チーター、ケンカ上等の精神! その精神で、バッターボックスに入ってつかあさい!」
と、大きな声で呼び掛ける。
「うっせ。ケンカじゃねえよ」
と、ブルペンに聞こえるようにツッコミを入れておいて、倉持は打席に立った。
──こいつの球に勢いはあるが、無理に打つ必要もない。じっくり見てフォアボール選んでやる。そしたら、二塁も盗んでやるぜ!
倉持は、思い出していた。轟が秋季大会の決勝戦で、危うく頭に当たるような危険な球を御幸と川上に投げていたのを。
用心のために、ややホームベースから離れた位置に立つ。そこからでは、アウトコースの球は見えづらいが、それでも轟が投げるようなあからさまなボールなら、充分に見極められると考えていた。
倉持の意図は、相手チーム捕手の秋葉にも分かった。
──デッドボール警戒か。おそらくフォアボールを選んで出塁するつもりなんだろう。こいつに塁に出られるとやっかいだ。巨摩大藤巻戦でも、こいつの走塁で点を取ったようなもんだしな。
ホームベースから離れた位置からだと、アウトコースの球は見極めにくいだろうと秋葉は思う。
──とは言え、雷市にはアウトコースのストライクゾーンぎりぎりに投げるなんてことはできない。とりあえずストライク取りに来い。フォアボール狙いなら先にストライクを取ってやろう。甘く入っても雷市のストレートには、球威と独特の動きがある。青道の上位打線と言えど、かなり打ちあぐねるはずだ。
秋葉は、マウンドに立つ轟にサインを出す。どうせ球種はクセ球のストレートしかないのだ。あれこれ考えるより勢いで押し切ろう、と考えた。
「カハハハハッ。青道打線、ぶっ飛ばす! カハハハハッ!」
轟の雄叫びと、けたたましい笑い声が秋葉の耳にも届いた。当然、倉持にも聞こえている。
倉持は、動じなかった。
──秋季大会決勝戦でも四球を連発していたよな。打ちにいくとなるとこいつの球はやっかいだが、無理に打つ必要はねえ。
まずは第一球。
「ストライク!」
球審が告げる。
──へえ、一球目からは外さなかったか。確かに、あいかわらず沢村のムービングボールより動くな。軌道が読みにくい。それにスピードもある。だがストライクを上手く連続して決めることはできないはずだ。このまま、塁に出られるまでねばってやるぜ。
倉持は、改めてバットをかまえ直す。
「よし、一球目、いいぞ!」
秋葉は、球を轟に投げ返した。
「カハハハハッ!」
轟は自信を持ったのか、なおさらに高笑いをしてみせる。
次の球は。
「ボール!」
──やはり、大きく外れた。今度も外角。俺がこの位置に立ったからだろうが、そこまで大きく外されたら、さすがに誰でもボールだって分かるぜ。
カウントは1-1。
薬師の秋葉捕手のほうは。
──無理にアウトコース寄りに投げなくていい。最悪、デッドボールにならなきゃいいんだ。もっとストライクゾーン狙いに来てかまわない。甘く入ってもいい。とにかく、力のある球を。頼んだぜ、雷市。
と、心で念じていた。その思いはマウンドに立つ轟に届いたかどうか。
秋季大会が終わってからも、すぐには良い投手は育たない。エース真田にだけ任せるわけにはいかず、三島先発だけでも不安があるとなると、やはり轟にも登板の機会を与えないわけにはいかなかった。
──轟監督は、こう言っていたな。秋季大会決勝戦で雷市が失敗したのは、打者や三塁手のように投球や打球を待ち受けて行動するのではなく、投手としてこちらから仕掛けて投げるポジションに慣れていなかったからだって。それで、バッターボックスの打者をよく見て、それに対処する心持ちで投げろって指導したけど。
秋葉は、左打席の倉持を、次にマウンド上の轟を見た。
左打席のほうが一塁に近いだけでなく、打った時の体の向きが一塁側を向くため、より走塁に有利なのである。
──フォアボールを選ばれなかったとしてもやっかいな相手だ…。だけど雷市、今はこのバッターをよく見ろ。それから、お前はどうしたいか考えろ。その次に、俺のサインを見てくれ。打者が投手を見て打ち方を変えるように、お前は打者を見て、投げ方を変えろ。俺のサインだけを見ていなくていい。
秋葉は次のサインを出した。実のところ、かなりのクセ球でスピードもある轟の球を受けるのには、それなりのスキルが必要だ。秋葉には、そのスキルがあった。
エース真田が変化球を思い切り投げてこられたのも、やはり捕手側の捕球力もあればこそである。
轟は、三球目を投げた。
続く
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