青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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お待たせいたしました。どうぞご覧ください。




第26話 ワンアウト、ランナー一塁

──何とかフォアボールを選んで塁に出る…!

 

 春市は、あらためてバットをかまえ直す。巨摩大藤巻戦で折れたバットを交換して、今は新しい木製バットを使っている。念のために一本は替えを持ってきたのだ。

 

──これも折れたら、金属製バットを使うか、試合が終わってから現地で木製バットを購入するしかないけど。

 

 木製バットにはこだわりがあった。言い知れぬ思いがある。

 

 轟はコントロールはともかく、球威はそれなりにあるし、伸びのあるムービングボールは打ちにくいのも確かだ。

 

 芯を外して手元寄りに球を当ててしまったら、また木製バットを折ってしまうかも知れなかった。

 

「カハハハハ!」

 

 轟の雄叫びのような高笑いが響く。

 

 薬師の内野陣は、轟に声を掛ける。

 

 実際、薬師の守備力は、青道ナインの目から見ても侮れなかった。

 

 三球目。

 

「ボール!」

 

 三球目もボールだ。

 

「轟君、なかなかストライクが決まりません。カウントはノーストライク、スリーボールです」

 

 と、実況の声。続けて、

 

「東京秋季大会の決勝戦、奇しくも同じ青道との対戦で初登板でした。甲子園でもたびたびマウンドに上がりましたが、制球に苦しんできました。さあ、この回、薬師バッテリーは二番の小湊君にどう出るか」

 

と、述べる。全国放送を通じて、その声は届く。

 

──僕が塁に出たら御幸先輩まで回る。

 

 小湊は、よくボールを見定めようとしていた。

 

──秋季大会に比べるとコントロールはマシになっているようだけど、ムービングボールの動きに気を取られなければ、見定めるのは難しくない。ストライクゾーンを狙いつつ甘いところには投げないなんてことは、轟くんにはできはしないんだから。

 

 そう小湊は思った。

 

 しかし四球目は。

 

「ストライク!」

 

 小湊の脳裏に、片岡監督の言葉がよみがえる。

 

「無理に打たなくていい。焦るな」

 

 思い出して、バットを握り直す。傍目には打つ気もあるのだと見えるように。

 

「ボール! フォアボール!」

 

 と、球審の声。

 

「やった!」

 

 小湊は、愛用の木製バットを地面に投げ下ろして一塁へ走る。

 

「青道、さっそく初のランナーが出ました。ワンアウト、ランナー一塁です」

 

「春っちが塁に出た!」

 

 沢村は、さすがに先発だということで、ブルペンで真面目に投球練習している。それでもやはり青道の攻撃は大いに気になっていた。

 

「エース真田が出てくる前に点を取れるといいな」

 

 ブルペンキャッチャーとして沢村の球を受けている小野が言う。

 

「小野先輩、ここはこの沢村、味方を信じます!」

 

「よし、なら投球練習に集中しろ。今のうちにちゃんと肩を温めておくぞ」

 

「はい!」

 

 打席には、三番の白洲が入る。

 

 片岡監督からのサインは特になかった。白洲はバットをかまえる。送りバンドのかまえではない。

 

──四番に回る前にツーアウトにしたい。これ以上ランナーは溜(た)めたくない。何とかしてストライクゾーンに入れてくれ。

 

 秋葉は、念じた。

 

 初球はストライクが決まった。白洲はバットを振らなかった。

 

──例によって、ギリギリストライクゾーンに入ってくれたか。ストライクゾーンに来てくれさえしたら、青道打線と言えど、そう簡単に打てる球じゃないんだ。

 

 秋葉は、とにかくワンストライクになり、ホッとする思いだ。ベンチの轟監督のほうを見る。監督はサインを出さず、前のほうのベンチにもたれかかるようにして座っていた。

 

──とりあえずストライク取ることだけ考えてりゃいい。駄目なら交代させるだけだ。

 

 と、試合前に轟監督からは言われている。

 

──秋季大会決勝戦では、青道の四番は雷市を苦手にしていたけど。だけど後から聞いた話じゃ、あの時の四番は負傷していたらしいし。今回はどうなるか分からない。だけどまだ雷市をマウンドに上げて二回戦目だ。そんなに簡単に目が慣れるはずはない。

 

 秋葉は、

 

──ストライクに入りさえすれば何でもいい。ど真ん中でもインコース高めに来てもかまわない。だけど球の勢いはなくすな。それがお前の武器だからな。

 

と、マウンドの雷市に向けて、思いを込めてかまえ直す。

 

 白洲に向けて二球目。

 

「ストライク!」

 

──またストライクが入るようになった。

 

 白洲は内心でつぶやく。その思いは、青道ナインと共有しているだろうと思った。

 

──監督は焦って打とうとする必要はないと言っていたが…。しかし入る時にはストライクが入る。秋季大会決勝戦もそうだったな。

 

 焦っているつもりはなかった。倉持が感じていたようには感じていなかった。ピッチャー専任ではない選手を先発にした事を、特に気に掛けてはいない。

 

──しかしこうなると少々やっかいかも知れないな。三番として何とか塁に出て御幸につなげたいが。

 

 三球目。

 

「ボール!」

 

──外れたか。外れる時には、本当に分かりやすく外れるな。倉持や小湊の時と同じで、アウトコースへのボール球だ。秋季大会の時には、危うく御幸や川上(ノリ)にデッドボールになるような危険球を投げていたが…。

 

 ここで、渡辺ことナベが言っていたのを思い出す。

 

「甲子園に来てからは、デッドボールは一回だけですね。高めやアウトコースへのボールでフォアボールはけっこうあるんですけど。轟選手らしくないと思えるかも知れませんが、彼なりにデッドボールになるのは避けようとしてるんだと思います」

 

──データ上は確かにそうだ。しかし俺たちの頭には、あの危険球のことが今でも頭に残っている。相手にも、それが分かっているのだとしたら。

 

 白洲はちらりと捕手の秋葉を見て、思い切ってインコース寄りに立った。

 

「へえ、思い切ったことをするじゃないか」

 

 と、これは観客席で見ている円城の言だ。

 

「あれでアウトコースの球が、打者から見て良いコースに来ている位置になる」

 

 と、本郷に言った。

 

「は、東京での決勝戦じゃ、ホームベースから離れて麻生って奴が打ってたな」

 

 それは、いま白洲がやっているのとは逆に、インコースが真ん中に来るように見える立ち位置である。

 

「そうだね。結局、薬師のセカンド増田のファインプレイにアウトにされたけど。さて今回、薬師バッテリーはどうするかな」

 

 一回の表、ワンアウト、ランナー一塁。

 

 三番の白洲には、味方の期待が掛かっていた。

 

続く

 

 






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