青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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お待たせいたしました。どうぞご覧ください。





第27話 二塁ランナーとファインプレイ

 一回の表、青道の攻撃。三番の白洲の打席である。ツーストライク、ワンボール。カウントは、ピッチャー有利になった。

 

──青道の三番、かなりホームベース寄りに来たな。これだとアウトコースが、ちょうどいい感じの真ん中になるよな。

 

 秋葉は、さり気なく打者のほうを見て、轟には強気のサインを出した。

 

──かまわない。アウトコースでいい。どうせど真ん中に投げても、下からせり上がるように見える上、独特の動きをするムービングなんだ。そう簡単に打てやしない。思い切って投げろ。この打者に、どうするかって、お前が決めていい。

 

 轟の投球は、独特の動きをする上に勢いがある。そこに信用を置いていただけでなく、秋葉は雷市がインコース寄りに投げたくない理由も分かっていた。

 

 今の白洲の立ち位置なら、投げやすいホームベースの真ん中あたりを狙っても、デッドボールにしてしまう危険はある。それは轟も分かっているだろうと、秋葉は考えた。

 

──アウトコースでいい。思い切って投げろ。

 

 一方、白洲のほうは。

 

──アウトコースに来たら叩く。確実に叩く。

 

 そう思って、かまえていた。

 

 四球目。

 

「ボール!」

 

──やはり、俺がこの位置に経つと投げにくいのか。単にコントロールが、また悪くなっただけか。

 

 白洲は動かなかった。今度もはっきりと分かるボール球であった。

 

──ツーストライク、ツーボール。次の球がどうなるか分からない。たぶん、薬師バッテリーにも分かっていないのだろうな。

 

 と、推測する。それはその通りであった。

 

 五球目。

 

「ボール!」

 

「フルカウントです。やはり制球に苦しんでいます、轟選手」

 

 と、実況。

 

 白洲は、

 

──フルカウントになった。これで打者有利になったが。さて、次はどうしてくるか。

 

と思案し、秋葉のほうは。

 

──四番の前に、ランナーを二人も溜めたくはない。何とか、ここで仕留めたい。三番でも、ストライクに決まれば手がなかなか出せないみたいだな。何とかストライクを取れ。雷市、頼んだぞ。

 

 そして六球目。

 

 白洲は打った。やはりアウトコースだった。無理のない、きれいな流し打ちだ。左打席から三遊間へ、打球が猛スピードで転がる。

 

「抜けろー!」

 

 青道ベンチの叫びは、白洲にも薬師バッテリーにも聞こえていた。

 

 しかし。

 

「ショートの米原君、ダイビングキャッチ! ファインプレイです!」

 

 実況の言うとおりではあるが、外野に抜けるのは阻止したものの、球の勢いに押されて体勢を崩した。素早い送球ができない。

 

 一塁ランナーの春市は、盗塁を決めたこともある。倉持ほどではないが、彼もけっこうな俊足である。

 

 秋葉は、叫んだ。

 

「米(ヨネ)! ファーストだ!」

 

 ショートの米原は、そのとおりにした。

 

「二塁はセーフ! 一塁白洲君はアウトとなりました」

 

 青道側の応援席で見ていたナベは、

 

「やった。兎にも角にも、ランナーを二塁に進めた」

 

「白洲さん、ナイスバッティングです!」

 

 となりに座る女子マネージャーの吉川も、声を張り上げる。ペンチに戻る白洲に、青道側の応援席から大きな拍手が送られる。

 

「白洲、あれは仕方ない。向こうの守備が一枚上手だった!」

 

 と、ベンチにいる、スタメンには入れなかった選手たちからも、ねぎらいの声が。

 

「二塁には進めた。御幸が敬遠されなきゃいいが」

 

 と言う白洲に、

 

「敬遠? ないだろ、薬師は勝負してくる」

 

と、御幸。ネクストバッターサークルから立ち上がり、

 

「決勝戦も、そうだったもんな」

 

と、付け加えて。

 

「一発かましてこい、御幸!」

 

 と、倉持。

 

「はは」

 

 ただそう笑って、御幸はベンチを振り返らずにバッターボックスに向かった。

 

 巨摩大藤巻のバッテリーの二人は、その様子をずっと見つめていた。

 

「なかなかやるな、守備も」

 

 あまり認めたくはないような口ぶりだったが、本郷はそれが事実だから認めるのである。

 

「まあ、まぐれだけじゃ練習試合も含めて33連勝はできないし、甲子園で準決勝まで来られないからね。米原、あの選手は、強豪校の一大三高相手にも東京秋季大会の準決勝で、やはりヒットを阻止している。無理したプレイのようにも見えるけれどね。正直、安定感はない」

 

「本職ピッチャーでない奴なんか、さっさと打ち崩しちまえよと思うがな」

 

「たぶん、まだ目が慣れていないんだろうね。でも、その前にエースを出すと思うな」

 

「青道も先発は沢村のほうか。降谷は出さないんだな」

 

「決勝戦では好投したし、ハマればいい感じになる投手だ。ま、正直なところ、まだまだだなって感じるけど」

   

 円城は、そう言って笑う。見下すような笑いではない。どちらかと言うと、微笑ましいものを見るような感覚だった。試合が終わった後の、本郷への沢村の言葉としぐさが、円城の頭に残っている。

 

 円城は、さらに続けた。

 

「お前は、負けた時に言い訳をしなかった。それ以外でも、決して言い訳はしなかった。いつだって嫌われるのも批判されるのも、全部承知の上だったよな。だから俺は、お前についてきた。だから俺は、お前を支え続けたんだ」

 

 本郷は、何も言わなかった。何も言わずに甲子園のフィールドを見ていた。

 

 やがて本郷は、右手を差し出し、円城の左手を握りしめた。それから二人は何も言わずに、自分たちを打ち破った青道の試合を見届けるために、初春の浜風に吹かれながら、黙ってそこに座り続けていた。

 

 

続く






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