青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー 作:片桐秋
お待たせいたしました。どうぞご覧ください。
「キャップ、打ってくだせえ! 大舞台の甲子園準決勝、ここで漢(おとこ)を見せる時です!」
と、沢村はブルペンから大声で、御幸の背中に呼び掛けた。
「あーよしよし。お前はちゃんと肩を温めてろ」
御幸は独り言のような小声でつぶやく。バッターボックスに入った。左打席である。
「カハハハハッ!」
マウンドに立つ轟の豪快な笑い声が響く。
「ワハハハハッ! 四番と言えど、恐れるに足らず! 雷市、打たせていけ! 必ずこの俺が取ってやる!」
サードに立つ三島も、それに答えるように大声をあげる。半ばは自分自身にも言い聞かせているのだろう、そう御幸は見て取った。
「雷市、ツーアウトだぞ!」
と、ファーストに入っている真田の声。
「ツーアウト、ツーアウト!」
と、他の内野手も呼応した。
一方で青道の応援席からは、御幸のテーマ曲の『狙いうち』が演奏される。
「かっ飛ばせ、かっ飛ばせ、み、ゆ、き!」
甲子園でも当たっている青道期待の四番の打席に、一段と盛り上がりを見せる。
──とは言え、こいつの球、侮れえねんだよな。だけど、あの決勝戦の時には、どこにどう投げるか、まるで分からなかったが今は違う。
御幸は、ナベの言葉を思い出す。
「轟選手は、おそらくデッドボールを避けています。投球は、アウトコース寄りがはっきり分かるくらい多いんです。アウトコース低めと、敬遠かと思うほどの高い位置にボールがよく来ていますね」
──なるほどな。だったら攻略する道はあるぜ。
御幸は不敵に笑った。
──アウトコース、ストライクゾーンに来たら打つ。
ところが。
御幸の狙いは外れた。
轟の投球は、
「ストライク!」
インコースに、きれいに決まった。
薬師の捕手、秋葉のほうは、
──よし! 良い球が上手くインコースに決まってくれたぞ。
と、内心でガッツポーズをしたい気持ちになっていた。
御幸としては意表を突かれた形である。
──ああ、くそ! やってくれたな、こいつ、また俺の時だけ。秋季大会決勝戦でも、そうだったよな。
「カハハハハ!」
轟の雄叫びのような笑い声が、御幸にも聞こえてくる。
──何とか沢村がマウンドに上がる前に、点を取ってやりてえが…。
と、ちらりとブルペンを見る。
──しかしやはり、一塁が空いていても敬遠はないか。さすがは薬師だ。そうこなくっちゃな。
と、御幸が感心する一方で、薬師の轟雷蔵監督は
「敬遠して、ランナーを溜(た)めたところで良いこたないぜ。次の五番も案外くせ者だからな。ここは勝負だ。思い切って投げろ、雷市。フォアボールになっても、空いてる一塁が埋まるだけだからな」
と、言っていた。ベンチでの独り言のようで、さして大声でもないのでマウンドにいる息子には聞こえない。だが、勝負だ、のサインは出しておいた。それがいつもの薬師の方針である。
「カハハハハ!」
雷市はと言えば、恐れげもなく笑い声をあげた。内野陣も強気で、
「打たせていけー!」
「気楽にやっていいぞ!」
と、マウンドに立つ雷市に声を掛ける。決して御幸を侮るわけではない。秋季大会決勝戦でも、青道四番が決め手となる決勝打を打ったのは記憶に残っている。
それでも、いやだからこそ、そのように気持ちを奮い立たせるのである。
御幸は、
──狙い球を絞れねえ。チャンスに強いと言われてきた俺だが、轟はどこにどう投げてくるか分かんねえんだよな。ナベのリサーチも通用しねえとなると、そう簡単には打たせてもらえないぜ。
と、あらためてバットを強く握り締めた。
薬師は東京での大会でも、こんなふうに意表を突くような策を使ってくる。大胆に、伝統のある強豪校では、やらないようなやり方で。
──東京での秋季大会の準決勝、一大三高との対戦では、キャッチャーの秋葉に投げさせて、キャッチャーが控え投手の三島、バッテリーのポジションを交代させるなんてのもあったよな。さすがに一大三高が相手では、そうそう奇策も通用しなかったが、結局勝ったのは薬師(こいつら)だった。
マウンドからの、轟の第二球目。
「ストライク!」
──くそ、またインコースに…。
空振りだった。
──いいぞ、雷市! その調子だ!
と、秋葉は内心の思いを口には出さずに。
薬師の応援席も盛り上がっていた。東京の秋季大会決勝戦と同じカード、まさに因縁の対決である。
マスメディアも、その点に注目していた。
甲子園で勝つのは、青道か薬師か。
今度は、全国が注視している。
「青道の四番御幸選手、ツーストライクです。ランナー二塁のチャンスに、主砲としてマウンドにいる轟選手を攻略することができるでしょうか。そしてツーアウト、ツーストライクまで追い詰めた薬師バッテリー、果たしてこのピンチを切り抜けられるか」
と、実況の声。
──もう、ツーストライクまで追い詰められちまった。
せっかくの、一回表の攻撃からさっそく得たチャンスだ。
ここで打たねば四番として、キャプテンとして、期待に応えられない。それをもちろん自覚していた。
青道の応援席からの声援は、より大きくなるが、御幸には、ここで確実に打てるという確信はなかった。だがそれを少しも表に表さずに、落ち着いた様子でバットをかまえて立っていた。
「小湊を本塁に返してやりてえな」
口に出してつぶやく。小声で、薬師の捕手にも審判にも聞こえないように。
轟は、三球目を投げた。
続く
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