青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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お待たせいたしました。

春のセンバツ甲子園は三月なので、その時点では御幸はまだ二年生で、沢村と降谷も一年生でした。タイトルなどのミスを近い内に修正したいと思います。
今回は本文の中で、川上先輩が二年生と表記しました。
何とぞ御容赦ください。







第3話 沢村の思い

 御幸は少しだけベンチを見た。監督のサイン、他のベンチ入りメンバーの様子、そして何より沢村栄純の事を。

 

──この試合、沢村の出番はないだろう。ノリも。この回、そして残り八回と九回を、何とか降谷で押し切りたい。きっと監督もそう考えているはずだ。

 

 エースが不慮の事故で病院に運び出されてから、急にマウンドに上げられた降谷だが、立ち上がりで調子を崩す事が多いにもかかわらず、降谷は最初から好投してくれた。

 

──だから監督も交代は考えていない。そのまま降谷で行きたいはずだ。

 

 初の甲子園、対するは夏の全国優勝校という大舞台にも臆せず投げてくれている。沢村も川上(ノリ)も特に甲子園で調子が悪い訳では無いが、いま波が来ているのは降谷のほうだ、と御幸は思う。

 

「沢村が、今何を考えているかは分かる。だけど、俺もここで私情ははさめない」

 

 と、ここで。

 

「御幸先輩、この調子! ツーアウト、ツーアウト!」

 

 沢村から、キャッチャーである御幸にも声援が飛んだ。野球の守備において、目立って応援されるのはピッチャーだ。野球をある程度知らなければ、キャッチャーというポジションの重要性をさえも、分からない人も多い。

 

 御幸は、ミットをはめている方の手を上げてベンチに向けて軽く振った。

 

──大丈夫だ。心配するな。俺はいつも、お前たちピッチャーを支えてきただろう? ……皆の女房役として。

 

 その時、沢村は、

 

──キャッチャーは女房役って言うけど、御幸、いつも俺は情けない亭主で済まない。もっと頼りになるピッチャーになる。必ず……!

 

 と、心の中で叫んでいた。

 

 沢村がじっと御幸を見つめていると。その時、片岡監督が、

 

「沢村、ブルペンに入れ」

 

と、沢村に指示した。

 

「は、はい!」

 

 二年生である川上(ノリ)先輩を指定しなかったのはなぜだろう? そう思いはしたが、沢村はすぐに、指示通り投球練習に向かう。

 

 ブルペン捕手の小野は、すでに待機してくれていた。小野は、御幸や川上と同学年で、控えの捕手として、目立たないながらも重要な役割を果たしてくれている。

 

「監督、俺を試合に出してくれるのかな?」

 

 沢村は、降谷が立つマウンドのほうを見た。

 

──いや、俺の出番はありそうにない。だけど、何が起こるか分からないのが高校野球だ。

 

 それから御幸のほうを見て、

 

──御幸、俺はお前の背中を追い続けてきた。これからもだ。だけどお前が青道野球部にいる間に、お前にとっても、チームにとっても、もっと頼りがいのあるピッチャーになりたい。

 

 沢村は小野のミットに向けてストレートを投げた。すでに140キロ近い速度の球を投げられるようになってきた。キレの良さは、入部する前、御幸と始めてバッテリーを組んだ時から沢村の武器だ。

 

「よし、いい球来てるぞ。その調子」

 

 小野はそう声を掛けつつ、球を投げ返してくれた。沢村はうなずく。

 

「そして俺は、俺自身の目標である、青道のエースになりたい……!」

 

 さらに二球目。今度は、御幸との間で練り上げた、沢村の最大の武器の一つ、鋭く曲がるカットボールだ。

 

 カットボールは、球速はストレートとほとんど変わらず、打者の手前で鋭く小さく曲がる球だ。

 

 降谷の得意球のスプリットもそうだが、球速がストレートと変わらない変化球は、その代わりカーブやシュートといった変化球に比べて、変化の幅が小さい。

 

 だが、カットボールの小さな変化も、上手くバットの芯を外させ、凡打に打ち取るには有効な場合が多い。

 

──俺は降谷と違って球威で圧(お)すことはできない。だから、何とか工夫して打者を打ち取れなきゃいけない。

 

 御幸はほんの少しの間、ブルペンで投球練習に入った沢村を見ていたが、次に迎える四番打者に意識を向け直した。

 

「たぶん、この試合交代はない。ただ、『青道の投手層は、こんなに厚い。まだ投げられる投手がいる』と、そう見せつける効果がある。だから沢村、お前がこの試合マウンドに上がれなくても、俺達はお前にも支えられているんだよ。監督もきっとそのつもりだ」

 

 御幸は内心で、そう沢村に声援を返した。声には出せないが、心底からの思いである。

 

 迎える巨摩大藤巻の四番は。セカンドでキャプテンの西である。

 

 常に何かにいらだっているようなエースの本郷とは対照的に、チームのムードメーカーとも言える朗(ほが)らかで人当たりの良い男だった。

 

 西はバッターボックスに入る時に、一言、

 

「大したピッチャー、それにキャッチャーだ」

 

と、言った。表情は明るい。敵チームに対する素直な称賛の裏に、降谷の豪速球にも、脅威を感じている様子を見せない余裕が感じられる。

 

──ランナーは得点圏にいる。一点もやりたくはない。しかし、恐れることはないぞ。お前の全力をぶつけて来い。

 

 御幸はサインを出す。

 

「データ通りの配球でいく。まずはインコースにストレート」

 

 降谷は、サインにうなずいた。

 

 ツーアウトとはいえ、二塁にランナーを置いての四番打者だ。

 

「ここは、キャプテンとして四番として、何としても得点を上げたいところだろう。それは分かるぜ。同じ立場なら、俺も同じ気持ちになる」

 

 と、御幸は内心でつぶやく。

 

──だが、打たせるわけにはいかない。

 

 降谷の豪速球は。

 

 見事に御幸のミットに収まった。

 

「ストライク!」

 

 主審のコールが響く。

 

「はは、やるね」

 

 西は恐れ気もなく、笑顔を見せた。

 

「まあ、投手層が厚いのは、うちも同じだけど」

 

 そう言うと、西は表情を引き締め、次のボールを待つ姿勢を見せた。

 

続く

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