青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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お待たせいたしました。どうぞご覧ください。




第30話 俺たちの作品を

──さあ、沢村。点は取ってやれなかったが、ここでは薬師上位打線を抑えるために全力を尽くすぜ。お前の女房役としてな!

 

──御幸、俺はお前を信じて投げる。この甲子園でも、これまでと、いつもと変わらずに、信じて投げるだけだ!

 

「投球練習が終わり、いよいよ薬師の攻撃が始まります。一番秋葉君、いかに沢村君を攻略するか。注目の一球目です」

 

 甲子園の観客席に来ている多くの人は、実況の声を聞いてはいなかったが、沢村の一球目を注目して見ていたのは同じだ。

 

──初球、アウトコース低めにストレートを。いつものように、きれいに決めてみろ。そこに上手く決められたなら、まず打たれることはない!

 

──アウトコース低め。よし…!

 

 沢村は、御幸からのサインにうなずいた。

 

 沢村は、今の時点でもきれいな真っ直ぐのストレートは投げられず、ストレートでもムービングになる。

 

──だけどそれは、入部当初からのこいつの武器だ。礼ちゃんも、それを見てスカウトしたんだからな。

 

 礼ちゃんとは、高島礼、沢村を長野県の村からスカウトし、東京の青道まで来るきっかけを作った女性だ。

 

 沢村にとってだけでなく御幸にとっても、高島礼は恩人である。

 

──礼ちゃん、よくこいつを連れてきてくれたよ。沢村と初めて出会ったあの日、今でも覚えてるぜ。

 

 きれいなストレートにはならない、軌道が不規則に動く球ムービングボール。

 

 沢村はそれを、かなり的確に、ストライクゾーンの角(すみ)に投げ分けることができた。

 

「ストライク!」

 

 球審の声が響く。

 

 秋葉は見送りだった。正直なところ、手が出なかったというのが本当のところだ。

 

──きれいにアウトローに決まった。打ちづらい…。こいつ、コントロールはいいんだよな。それに、ボールの出どころが分かりにくい投球フォームに、キレがあって実際以上の球速と勢いに見えるストレート。その上、ムービングボールだ。打ちづらい、だけど打つしかない…!

 

──いいぞ、沢村。その調子だ。

 

 御幸は、球をマウンド上に投げ返す。沢村が受け取る。次のサインは。

 

──今度もアウトローで。ここならバッターは手が出せないか、打たれても凡打に打ち取れる。甘いところには投げるなよ。薬師の上位打線は油断ならねえぜ。

 

 沢村は、うなずく。

 

──よし、御幸を信じて投げる。御幸は言ってたよな。投球とは、ピッチャーとキャッチャーが協力して生まれる、その都度その都度、ただ一度きりの『作品』なんだって。

 

 沢村は二球目を投げた。

 

──その作品を、御幸と共に…!

 

 二球目を秋葉はバットに当てた。右投げ左打ちの秋葉の流し打ちだ。打球はゴロとなり、三遊間あたりへと転がっていく。

 

 セオリー通り。アウトコース低めの球の、無理に引っ張らない流し打ちである。この打ち方はロングヒットにはなりにくいが、手堅い打ち方だ。

 

 しかし。

 

──よし、打ち取った!

 

 と、御幸。

 

 三塁を守る、二年生金丸が難なく捕球した。打球は三遊間のサード寄り。サード正面ではないものの、さして難しい捕球ではなかった。

 

「金丸君、取って一塁へ。一塁はアウト。これで薬師はワンアウトです」

 

 と、実況の声。

 

──よし、まずは幸先のいいスタートだ。

 

 御幸は、ひとまずは安堵した。もちろん油断はできない。

 

──薬師はくせ者ぞろいだし、時々、沢村も何やらかすか分からないからなぁ…。

 

 と、後半の心の声は、沢村には分からぬように。

 

「よし! ワンアウトや、沢村!」

 

 一塁を守る前園から沢村に向けて、激励の声が届く。

 

「はい! ゾノ先輩! おまかせください、この沢村、絶好調です!」

 

──おいおい、調子に乗りすぎるなよ…。

 

 と、御幸は内心でツッコミを入れる。

 

 次は二塁手の増田が、右打席のバッターボックスに入った。

 

──よし、今度もアウトローへ、ストレートで押し切れ! 今、いい感じに球が走ってるぞ、沢村。

 

 沢村は、御幸からのサインにうなずいた。

 

──今度もアウトコース低め(ロー)。ようし。

 

 薬師二番手の打者に、第一球を投げる。

 

「ストライク!」

 

 二番手の打者、増田は見送った。

 

──なるほど、左右のコーナーに投げ分けられるコントロールは相変わらずだな。

 

 あらためてバットを握り直す。

 

──何とか塁に出て、雷市につなげたい。先制点を取りたい。たぶん次の回には、真田先輩がマウンドに上がるだろうから、その前に。

 

 増田としては、自分はクリーンナップへのつなぎ役だと思っている。薬師の野球部に入った時の自己紹介でもそう言った。

 

──だけど秋葉は塁に出られなかった。どのみち、甲子園でも手堅く送りバンドとは、うちの監督、指示しないだろうけど。出塁して、雷市にまで打順を回せれば…。

 

 むろん、青道側は四番の轟に回したくはない。今の沢村にとっても、やはり轟雷市は手強いスラッガーである。

 

──轟に回る前に止めるぜ。ここは三者凡退に仕留めたいところだ。四番の前に、ランナーを出したくはねえ。

 

 御幸の思いを、沢村も分かっていた。

 

──この甲子園でも、御幸を信じて投げるぜ。俺たちの『作品』を、全国に見せてやる!

 

 沢村は、御幸のミットに目がけて、第二球目を投げた。

 

 今度はチェンジアップだった。

 

 

続く






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