青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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どうぞご覧ください。




第33話 運と実力

 薬師のエース真田の一球目はストレートである。前園がインコースに強いバッターであることはすでに知られていたため、アウトコース低めへ決めた。 

 

 ストライク! と球審のコールが響く。

 

 真田もかなりコントロールの良い投手で、めったにフォアボールを出すことはない。球速は140キロ台。高校生ピッチャーとしては、かなり速い部類だ。

 

 青道の沢村はと言えば、彼の球速はこの時点では、あと少しで140キロに及ばない。

 

 しかし、球の出どころの見にくい独特の投球フォームと、打者の手元に来ても球速の衰えないキレのある球であるゆえに、打席で見る感覚としては140キロか少し超えるくらいに感じられるのである。

 

 秋葉は、青道のクリーンナップを抑えるためにマウンドに上がったエースに、内心で、

 

──いい球来てますよ、真田先輩! アウトコース低めへの的確な攻めは、青道沢村だけの専売特許じゃない!

 

と、声を掛けていた。

 

──はは、とりあえずクリーンナップは抑えろって言われてるからな。五番を抑えたら、後はミッシーマに任せる。

 

 真田の表情には余裕があった。それは相手を侮(あなど)るゆえの余裕ではない。心からチームメイトを信頼し、またこの大舞台においても野球を楽しむ精神を持ち続けるがゆえの余裕である。

 

 それが自然と伝わるために、前園としても決して悪い気はしなかった。

 

 さて、自分がインコースに強いこと、データ分析で相手チームにもそれは分かっていること、それらを前園も理解していた。

 

 当然、対策もしている。

 

「御幸も強気の攻めのリードをするんで知られとるが、真田投手もなかなか強気のピッチャーや。インコースにあえて攻めてくるかも知れんが、しかしそれよりも」

 

 前園はアウトコースに狙いを定めた。

 

「アウトコースに来たら打つ。必ず塁に出る。御幸にばかり負担は掛けられん。五番の意地を見せるんや」

 

 それはほんの小さなつぶやきで、秋葉の耳にも聞こえない。

 

 とは言え、アウトコース低めはどんな打者にとっても打ちにくいコースだ。ストライクゾーンのギリギリの角(すみ)に的確に投げられたなら、なおのこと。

 

「だが、打つ。打つしかない」

 

 前園は、集中してかまえた。元々の厳(いか)つい顔立ちもあって、迫力満点の表情となっている。

 

 秋葉はそれを見て、

 

──顔と気迫にだまされちゃ駄目だ。真田先輩なら打ち取れる。とにかくこの五番をきれいに打ち取らなくちゃな。

 

と、内心で決意を固める。

 

──真田先輩、次もアウトコースに。低めを突きましょう。

 

──よし、アウトコース低め。打てるもんなら打ってみろ!

 

 前園は、

 

──来た…! アウトコース低め、狙い通りや!

 

 打った。

 

──しまった、ツーシーム。当たりどころが悪い…!

 

 打球はフラフラと二塁手の頭上に飛ぶ。アウトコースを引っ張ったのである。

 

──取ってくれ!

 

 秋葉は念じた。しかし。

 

 二塁手と、外野を守る右翼手(ライト)と中堅手(センター)のちょうど中間の位置に、運も手伝ってポトリと落ちた。

 

「やったあ! ゾノ先輩得意のポテンヒット!」

 

「栄純くん、それ褒めてないよ…」

 

 沢村の雄叫びに、小湊春市がツッコミを入れる。

 

「あー、ちくしょう、やっちまった」

 

 真田は独(ひと)り言(ご)ちた。

 

「二回の表、青道からランナーが出ました。ノーアウト、ランナー一塁です」

 

 実況の声が全国に届く。

 

「よーし、後に続けー!」

 

 青道ベンチから、六番バッターに声援が送られる。

 

 秋葉は、

 

──監督はどうするだろう? 微妙な当たりでもヒットはヒットだし。五番を抑えきれなかった。ここでミッシーマに交代させるんだろうか?

 

と、ベンチの轟雷蔵監督を見た。

 

「またポテンヒットか、運の良い奴だ。ち、しょうがねえな。いったんここでミッシーマに交代だ。下位打線だ、何とか抑えろよ」

 

 と、言いつつ轟監督はサインを出す。

 

「薬師高校の選手の交代をお知らせします。ピッチャー真田君がファーストに、ファースト三島君がマウンドに上がります」

 

 ウグイス嬢が選手の交代を告げた。

 

 ウグイス嬢の告げるのを聞いて、また交代か? と一部の観客席がざわつく。

 

「ま、交代ばかりで忙(せわ)しねえが、これもうちのやり方だ。何とか、うちの選手層の薄さをやり繰りしなきゃならねえからな」

 

 轟監督は半ばは彼らに対して、半ばは自分に言い聞かせるように言葉にしてみせた。

 

 実際には轟監督も薬師の選手たちも分かっていたことではあるが、ポテンヒットは必ずしも運だけではない。前園のパワーがあればこそ、ツーシームでバットの芯を外されても内野の頭を越えられたのである。

 

 ただ、もっと当たりが弱ければ内野フライ、強ければ外野フライで打ち取れていた。内野と外野の中間の良い場所に打球が落ちたのは、確かに運の要素もある。

 

 六番バッターを金丸を迎えて、三島は投球練習に入った。

 

──やはり、真田先輩だけでなく、俺の活躍が必要だと言うことだ。監督、監督もそう願っているはずですね!

 

 意気揚々とマウンドに上がる。ノーアウトランナー一塁。次は下位打線から。そこまで大したピンチではない。そんな余裕もある。

 

「さあ、応援席の皆さん、この俺に声援を」

 

 薬師側の応援席に手を振ってみせる。

 

 秋葉は、

 

──データによると、ストレートにはめっぽう強い打者。だけど変化球を巧みに打ちこなすセンスはあまりない。ここは、変化球で攻めまくる。やってやろうぜ、ミッシーマ!

 

と、考えていた。

 

続く






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