青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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どうぞご覧ください。




第34話 それだけの価値があれば

──ようし、ランナーは出たが後続を断てば問題ない! ここできっちり抑えてやる。

 

 三島は、秋葉のサインを見た。青道の六番バッターの金丸は送りバンドのかまえである。

 

──フォークボールで。最初はボールになってもいい。

 

 三島は投げる。

 

「ボール!」

 

 金丸は、無理にバンドせずに見送った。

 

──単に送りバンドとは限らない。バスターエンドランを仕掛けてくるかも知れない。下位打線でも、青道は油断ならないからな。

 

 と、秋葉は思案する。金丸が変化球に弱いと分かってはいても、全部フォークボールというわけにもいかない。

 

──いいや、二球目もフォークだ。頼んだぞ、ミッシーマ、優太。

 

 三島選手の下の名前は優太である。

 

 二球目、フォークボール。

 

「送りバンドです! 六番金丸君の送りバンド!」

 

 実況は、青道の手堅い攻め方をそのまま伝えていた。

 

「よし! 上手く当てたぞ!」

 

 青道ベンチから快哉(かいさい)の声。送りバンドでもフォークボールなどの変化球には、やはり当てづらいものだが、そこは普段の訓練が物を言う。

 

 薬師バッテリーとしては、意表を突かれたというほどではないが、やや拍子抜けである。秋葉も轟監督も、内野陣をバンドシフトにはさせていなかった。

 

 バスターエンドランを仕掛けてくる可能性もあったからだ。エース真田相手ならともかく、三島相手には積極策を取る可能性も高いと見ていた。

 

 結果、二塁にランナーは進塁。得点圏にランナーが出たのである。

 

「いやいや、青道と言えどこの俺を甘く見てはいなかったと言うこと。激ポジティブ。前向きに。下位打線からとは言え、もうワンアウトを取れた。そう考えればいい」

 

 三島は、たちまち頭を切り替えた。

 

──次は七番か。青道打線はどこも油断はならないけど。とにかく、あとツーアウト。きっちり抑えよう!

 

 秋葉も、改めてキャッチャーマスクをかぶり直す。

 

「七番センター東条君」

 

 ウグイス嬢の声が球場中に広がる。

 

 元投手で、今はセンターを守る二年生である。

 

「東条、行けー!」

 

「頑張れ! 打てよー!」

 

 応援席からもベンチからも声援が飛ぶ。

 

──どう出るだろう? まだワンアウト。エンドランでも何でも考えられるけど。まさかまた送りバンドは、さすがにない、よな?

 

 秋葉はベンチを見る。監督からは、特にサインは無い。

 

──よし。初球は様子見で、ボールでいい。思い切ってインコースにストレートだ。ぶつけるんじゃないぞ。

 

 まあ大丈夫だとは思うけど、と心の内で付け加える。

 

 三島の一球目は。

 

「ストライク!」

 

 と、球審のコール。

 

──入った…。ストライクゾーンギリギリじゃん。まあいいや、とりあえずワンストライク稼げた。

 

 東条のほうは、

 

──フォークボールを狙う。得意の変化球を打ち崩す。秋季大会決勝戦でも、そうやって三島投手を攻略し、エースを引きずり出せたっけ。今回も、フォークボールを打つ。

 

と、作戦を立てていた。

 

 とは言え、一球目はボールかも知れないと思っていたゆえに見逃したのだ。必ずしも見極められていたわけではない。

 

 フォークボール狙いは特に誰の指示でもなく、東条が自ら考えたことである。特に試合が始まってからは、選手の自主性に極力任せるのが、青道のやり方なのである。

 

 しかし結局、東条は内野フライに倒れ、次の八番麻生も凡打に終わった。せっかくポテンヒットで出塁した前園だが、三塁にたどり着く前に、麻生が一塁でアウトになった。

 

「青道、この回は得点ならず。次は二回の裏、薬師の攻撃は、注目の四番バッター轟君からです」

 

 と、実況。現地甲子園の観客席も大いに盛り上がる。ざわめきが走り、打席に入る轟を注視した。

 

──こいつは一発があるから油断ならねえぜ。甲子園でも当たってるしな。

 

 と、御幸。むろん、それは沢村も分かっている。

 

──正直、俺はこいつをまだ恐れている。だけど、勝負してみたいとも思っていた。

 

 沢村は、心の内で告げる。誰に対してか、御幸に、自分自身に、あるいは轟雷市本人にか。

 

 一方、ここは観客席。惜しくも青道に敗れた、昨年夏と神宮大会の優勝校であった巨摩大藤巻のエースと正捕手が、青道と薬師との準決勝を見つめていた。

 

「沢村ってピッチャー、俺たちの時には出番がないままだったけど、なかなかやるじゃないか。轟にはどうなるかな? 秋季大会では、シングルヒットには抑えられていたようだけど」

 

 と、観客席で見守る円城が口にした。青道との試合で、何も言わずにインタビューコーナーを去ろうとする本郷に声を掛けてきたのが、今でも印象に残っていた。

 

「薬師も、ようやくまともなピッチャーと言える奴が出てきた」

 

 言葉少なに本郷。

 

「そうだね。あのあたりが潮時だった」

 

 本郷はじっと目の前の試合を見つめながら、円城のほうは向かずに、しかし円城に語り掛けた。

 

「俺には野球しかない。だが世の中には野球に関心のない奴や、はっきりとは勝負の決まらない世界で生きるのを望む奴もいる。俺はそんな奴らと話をしてみたっていい。もしそいつらに、それだけの価値のある話をする事ができるならな」

 

「うん、例えば音楽とかか?」

 

 試合前に本郷が、相手チームのビデオ録画を見ずに、あるミュージシャンの自伝を読んでいたのを円城は思い出す。

 

「音楽でも何でもいい。そいつが真剣に取り組んでいることなら何でも」

 

 浜風が本郷たちの髪を揺らす。微かに塩を含んでいるような、この時期には肌寒さすら感じさせる浜風だ。

 

「俺はもうじき甲子園から去る。勝てよ、青道。最後まで勝ち続けろ」

 

 青道を苦しめた巨摩大藤巻のエースの言葉は、甲子園の浜風に乗って、となりに座る円城以外の耳には入らずに、流れて消えた。

 

 

続く

 






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