青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー 作:片桐秋
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青道バッテリーが次に迎えた打者は、五番ピッチャーの真田である。エースで五番であり、まさに薬師の投打の中心と言えた。
──沢村、気を取り直していけ。ここで止めるんだ。真田も油断ならねえバッターだからな。
──よし、ここで止めるぜ、御幸。
真田はと言うと、
「ノーアウト、ランナー無し。ソロホームランで一点先取。はは、雷市、やってくれたぜ。俺も後に続かなきゃな。この流れを止めるわけにはいかないぜ。一気にたたみ掛けてやる」
と、バッターボックスに入る途中に、口に出して言った。その声は、御幸にも主審にも聞こえるような大きさではなかった。
御幸のほうは、
──ストレートに強いバッターだが、変化球にも上手く合わせてくる。長打力もある。隙のないバッターなんだよな。とは言え。
と、思案しつつサインを出す。
──インハイにストレート。きれいな真っ直ぐだ。ここは大胆に行くぜ。そして相手の意表を突く!
沢村は、
──やはり、ここでもクロスファイアーか? 轟相手には失敗した。俺の球が甘かったからだ。もっとストライクゾーンぎりぎりに入っていれば…。だけど御幸は俺を信じてくれている! 俺はその信頼に応える。もう、甘い球は投げねえ!
サインに力強くうなずく。
「ストライク!」
球審の声が大きく聞こえてきた。真田は見送りである。ストライクゾーンぎりぎり。ボールかと思える投球であった。
──けっこう伸びてくるんだよな、この球。実際より早く感じるぜ。
真田の目には、甲子園の電光掲示板の数値が見える。138キロ。決して速い方ではないが、打席で見ると140キロを越えているように感じられた。
──クロスファイアーか? 秋季大会でも苦労させられたよな。だとすると、次はアウトコース低めに来るはずだ。
真田はかまえ直す。
──甘く来なくても打つぜ。アウトコース低め。狙い打ちだ。
沢村は、御幸の次のサインにうなずく。
二球目は。
「ボール!」
確かにアウトコースだった。だが低めではなく高めだ。わずかに外れた。これはわざとである。今回はストレートではなく、沢村本来のムービングだった。
──よし、良い感じに打ち気を外したぜ。
と、御幸。思わずニヤリとする。キャッチャーマスクの中で、その表情は見えないが。
──クロスファイアー、次はアウトコース低めに来ると思っていただろうからな。
青道側プルペンからは、降谷の投球が轟音を立てて小野のミットに収まる音が聞こえてくる。
──青道は降谷をいつ出す? いや、そんな事は今はいい。目の前のピッチャーに集中だ。きっとあれも、俺たちにプレッシャーを掛けようという青道の作戦だろうからな。
真田は頭を切り替えて、三球目を待つ。
三球目。カットボールである。
打球は二遊間に飛んだ。
外野へ抜けるかという鋭い当たりだが。
「止めた! 止めました、セカンド小湊君。見事なファインプレイです!」
実況の声を通して試合を見ている人々だけでなく、球場中が湧いた。大きな歓声が上がる。
「へえ、やるじゃないか。ヒット性の当たりを、セカンドゴロに仕留めた。大したものだ」
と、これは観客席で観ている、巨摩大藤巻の正捕手、円城である。
「あいつが打たれるからだろ」
本郷の物言いは素っ気ない。俺なら抑える、と言外の言葉が円城にも聞こえた気がした。
「まあそうだけどさ。信頼できるバックの守りは、バッテリーにとって大事だからね」
本郷は、それには答えなかった。本郷が黙る時は、了承の印である。円城には分かっていた。
一方、薬師ベンチ。
五番打者の真田は、
「ち、惜しかったな。あれを止められるとは思わなかった。雷市のホームランの後、一気にたたみ掛けて切り崩そうと思ったのにな」
と、他のナインに向けて言った。それを聞いていた轟監督は、
「しょうがねえ。ありゃ向こうが上手だった。やってくれたぜ。だがまだワンアウトだ。うちと一番相性の悪い降谷が出てくる前に、せいぜい揺さぶりを掛けておくぜ」
こう答えた。真田にだけではなく、ナイン全員への言葉だ。
一方、沢村は、
「春っち〜! あ、ありがとう! よくぞ止めてくれたあ! バックの守りに感謝だあ」
と、叫んでいた。
『春っち』は、グローブをはめたほうの手を上げて応える。
「いいよ! 栄純君、ワンアウトだよ!」
「おお、春っち〜!」
マウンドで踏ん張る投手に、他の内野手も声を掛ける。
「ワンアウトだ、沢村!」
と、サードの金丸。
「やってやれ、沢村!」
と、ショートの倉持。
「後は下位打線や! 乗り切れ、沢村!」
と、ファーストから前園が。
「分かりました! 皆さん、ありがとうございます!」
と、外野にまで聞こえる声で沢村が。
外野手も声を掛けてくれているのだろうが、その声は、沢村の立つマウンド上には聞こえてこなかった。
御幸は、
──沢村、お前は良いムードメーカーだ。これもまた、投手としての才能かもな。
と、キャッチャーマスクの奥で微笑んでいた。
プルペンからは、降谷の投球がプルペンキャッチャーの小野のミットに収まる音が、轟くような大きな音が聞こえる。
「だが、この試合のマウンドは譲らねえ! 譲らねえぞ、降谷!」
沢村は決意を新たにした。秋季大会決勝戦では、良い調子に投げてはいたが、最後は降谷に交代させられた。
「この甲子園では、最後まで投げたい!」
沢村は御幸のサインを見た。
続く
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