青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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第5話 敵の意表を突く

 青道の一番打者、倉持がバッターボックスに向かう。本郷は投球練習を終えていた。

 

「何としても塁に出てやる」

 

 倉持はかなりの俊足である。塁に出る事さえできたなら、足を活かしてかき回す事もできる、と考えていた。

 

「とりあえず一塁へ。そしたら二塁までは進める。必ず盗んでやる。俺ならやれる」

 

 相手は全国優勝を果たしたチームのキャッチャーだ。決して舐めているわけではないが、冷静に実力を判断した上での倉持の狙いである。

 

「悪いが御幸の強肩とは比べられないな。とにかく塁に出さえすれば」

 

 だが、その出塁がなかなかできない。

 

 倉持も、良い当たりを出したこともあったが、内野手に止められてしまった。

 

──北海道の豪雪の中で鍛えられた守備力か。手強い相手だぜ。こりゃ稲実も勝てないわけだ。だが、俺達は、あきらめるわけにはいかないんだよ。

 

 バッターボックスに入る。不機嫌な顔の本郷とにらみ合う形になる。

 

 絶対に打たせるもんか。そんな顔をしていた。

 

──内野は、やや深めに守ってるな。

 

 倉持は、相手チームの守備を見て取る。

 

──俺なら、いや青道の上位打線なら当たればそれなりには飛ばせるが、逆に言えば深めに守っときゃ大丈夫って思ってんだろうな。

 

 実際その通りだった。これまでは。

 

 そして第一球。

 

「ストライク!」

 

 球審が声を上げた。相変わらず鋭い速球だ。見事なストレートである。

 

「だが、わずかに、球威が落ちている、か?」

 

 内心でこう言った。

 

──何とか付け入る隙を見つける…!

 

 倉持はバットをかまえ直した。

 

──とにかく点を取る。降谷は頑張ってくれているんだ。俺達がやらなければ。

 

 第二球。

 

「セーフティーです!」

 

 配信の実況は叫んでいた。

 

「なに!」

 

 巨摩大藤巻の捕手も、思わず声を上げる。完全に意表を突かれた。

 

 確かに、足の早い打者ならセーフティーバンドは定石だ。だが、倉持選手は、そんなタイプだったか?

 

 巨摩大藤巻のキャッチャー円城は、意表を突かれた事による衝撃を振り払った。今は考えている暇はない。

 

 ボールはホームベースの近くに転がる。球の勢いをよく殺せていた。

 

──深めに守っていた内野陣より、俺が今、取ったほうが早い。

 

 円城は、出来得る限りの速さで地面に転がる球を取った。

 

 すでにランナーは一塁ベースの近く。

 

「行け行け、チー様!」

 

 相手チームベンチから声援が聞こえる。

 

 そのチー様とは、倉持の足の速さから、沢村がチーターとあだ名を付けた事から来ている。巨摩大藤巻のナインは知らないし、知る由もない。

 

──させるか!

 

 一塁へ、投げる。

 

 判定は。

 

「セーフ!」

 

 一塁審判のコールが聞こえた。

 

「くそ、やられた。本郷、済まない」

 

 円城は思わず声に出してバッテリーを組んでいる自チームのエースに向かって謝った。ここからでは、大声を出さないと聴こえるはずもないのに。

 

 心底から「しまった」という表情を見せもした。その表情は本郷にも見えていた。

 

 一方、青道ベンチは盛り上がる。

 

「よくやったぞ、倉持!」

 

と、御幸。

 

──これでこの回、俺に回るか。せっかくのチャンスだ。何としても四番としての役割を果たしたい。

 

「やった、やった! チー様、出塁!」

 

 倉持をチーター、チー様呼びするのは沢村である。

 

「さすが先輩。俺と同じくらい、素晴らしいセーフティーバンドですよ!」

 

──やれやれ、沢村のやつ、また調子に乗りやがって。だが兎に角も塁に出た。

 

 倉持はより一層、表情を引き締めた。まだまだ、これからなのだ。

 

「なんと、セーフティーです! 青道から、一番、倉持選手の初ヒットが出ました!」

 

 実況の声は全国に配信される。

 

「巨摩大藤巻も驚いただろうな」

 

 御幸は皆に言った。

 

「ああ、俺達も後に続かなあかん」

 

と、三番の前園。皆からは、ゾノと呼ばれている、厳(いか)つい顔だが気の良い選手だ。

 

 ネクストバッターサークルから、小湊春市がバッターボックスに向かう。

 

「春っち、行け行け、後に続けー!」

 

 沢村の元気な声が、その背中に。

 

──盗塁、相手も警戒しているだろうけど、倉持先輩ならやってくれる。なら、僕がやるべきことは。

 

 片岡監督のサインを見る。

 

──やはり盗塁。

 

 倉持先輩のほうを見る。一塁ベースからの、リードは大きかった。

 

 本郷が牽制球を投げるかと思ったが、彼はそうしなかった。

 

──好きに走らせろ。後のバッターを仕留めりゃいいだけだ。

 

 本郷は、そう言っているかのように見えた。

 

 実際に、そうだった。

 

 巨摩大藤巻の捕手、円城は、

 

──よし、本郷。ランナーは気にするな。まずはこのバッターを。

 

と、思いながらサインを出す。

 

 第一球。

 

「ファウル!」

 

と、主審の声。

 

 打球はほぼ真後ろに飛んだ。

 

「いいぞ、タイミングは合っている」

 

 御幸は、そう言った。

 

 甲子園の巨大な電光掲示板は、147キロを表示した。

 

「本郷の投球としては遅いほうですね」

 

と、東条。元ピッチャーの中堅手(センター)で、投手出身だけに、的確なコントロールの良い返球ができる選手だった。投手として活躍するのはほぼあきらめたようなものだが、その代わり外野手としての才能を花開かせたのである。

 

「ああ。つけ込めるスキはあるかも知れないな」

 

と、御幸は答える。同時に、そう上手くいくだろうか、とも考えていた。

 

 脳裏に、ナベこと渡辺選手の教えてくれた事がよみがえる。ベンチ入りはしていないが、データ収集と分析に長けた選手だ。

 

「本郷は東北海道の地区予選でも何度も一試合を投げ抜いています」

 

 そう、ナベは言った。

 

「その上、控えの投手陣も手強い」

 

 と、御幸。弱気になっているわけではないが、まだ喜ぶのは早かった。

 

続く

 






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